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アマリアの用事。慎ましやかでも確かに存在する二つのもの。

いつもありがとうございます!

「結構時間残ったな。まだ三時だけど、後はどうする?」


 この百貨店の殆ど全てを周った、そう言っても過言ではない程、この場所に俺達は滞在していた。

 が、それでもたった二時間程しか経っていない。だから、どうしようかとリリィーナに聞くと、


「お姉様がもう一度会いたいと言っていましたし、これから私の家に行きませんこと?」

「アマリアさんか。分かった、行こう」


 どうせ自分の家に帰ったところで誰もいないしすることもない。だったらアマリアさんの相手をしていた方が実に有意義な時間を過ごせそうだ。

 流石に百貨店からアインツベルンていまでは距離があるため、今回は車に乗せてもらう。

 ……座席のクッションが柔らかすぎて、一般車が駄目に思えてくるくらいの格差がそこにはあった。


「やっぱりいつ見ても、この大きさは驚きだ」


 目の前で鎮座する門から始まり、広大な庭と大きい建物が俺を圧倒する。

 それが横にいるコイツの所有物ということや、そこに俺が入っているという事実が、少しだけ信じられない。

 そして、中に入っても同じような印象だ。

 だが、中は比較的落ち着いている感じで、一般家庭宅とは確かに違うものの、嫌味を感じることはない。


「お姉様、彼を連れてきましたわ」

『どうぞ』


 前回とは違い彼女がしっかり確認をとってから部屋へと入る。

 そこには以前と同じく気品のある佇まいのアマリアがいた。


「こんにちは。潤一様」

「……やはり慣れませんね。アマリアさんに様付けされるってのは……」


 どこの喫茶店だよとツッコみたくなる。が、彼女はメイド服を着ているわけでもないし、使用人でも何でもない。隣にいるコイツと同じく、彼女はお嬢様だった。


「ふふ、あまり気にしなくていいんですよ?」

「そうですわ。どうせ何を言ったところで、お姉様は変えませんもの」


 ただ、リリィーナの口調を考えると、アマリアよりもお嬢様っぽい。アマリアはどちらかと言うと、近所のお姉さんみたいな存在だ。

 決して波風立てることなく、こちらの言葉を優しく微笑みながら聞いてくれる年上の女性――――そんな印象の彼女だからこそ、こちらも警戒心を抱くことなく接することができるというものだ。

 ま、本来ならもう少し態度を改めるべきなんだろうけど、アマリア本人から「やめろ」と言われたわけではないしね。


「そうだ。以前潤一様のお姉様がいたでしょう? あの方に似合うお洋服を見繕みつくろっておきました。これを、あの方に渡しておいてもらえますか?」

「分かりました。でも、どの服も高そうなんですが?」

「大丈夫です。どうせ私はもう着ませんから。リリィーナにあげることも考えましたが、リリィーナはひらひらしたお洋服が好きなので趣味が合わないんです」

「お前、わがままなやつだな」


 こんな綺麗なお姉さんから服が貰えるんだぞ? 滅茶苦茶嬉しいことじゃないか。


「私は既に沢山の物を持ってるので大丈夫なのですわ!」

「おい。まさか持ってる全てがそんなド派手なひらひらした服とか、そんなことはないよな?」

「……疑ってますの?」

「いんや? だがな、一度気になったら俺がどうなるか、付き合いの短いお前でも――――」

「分かりましたわ! そこまで言うのなら私の部屋に連れて行って――――」

「サンキュー」


 作戦通り。その流れでイヤラシイ物がないかチェックするのだ。

 金髪娘の部屋はアマリアの部屋よりももっと先に進んだところにあった。

 律儀に扉に鍵までかかっていて、金髪娘は胸元から鍵を出し鍵穴に差し込む。


「さぁ、入っていいですわよ」

「お邪魔しまーす……」


 アマリアの落ち着いた部屋から一転、実に子供らしい部屋だった。

 まずベットの上に鎮座している兎のぬいぐるみの群れ。同じやつ何個買ってんだ? と、思うほど似ている物ばかりだが、近づいてみるとしっかり各個体でデザインが違うことに気づく。

 壁紙まで幼稚な感じかと思えばそうではないが、本棚の中に収納されている本も童話とかが多い。

 よく見たら家具や小道具などを見てみても、兎さんのシールが貼られていた。

 コイツどんだけ兎が好きなんだよ。兎さんガチ厨かよ。


「あまりジロジロと見ないでほしいですわ。ここに来た目的は、私のお洋服目当てなのでしょう?」

「そういやそうだった。早速見せてくれ」


 あまりにも兎さんガチ厨な部屋だったから忘れていたぜ。

 服の在り処はこの部屋ではなく奥の部屋にあるらしい。そこもまた鍵で開閉して、リリィーナは見せてくれた。が、


「結局殆ど同じ服じゃねえか!」


 お前は芸人か! と、ツッコみたくなった。そこにかけられていた服は、今現在リリィーナが着ている服の色違いだったから。

 赤青黄緑灰橙――――端から実に多いカラーリングの服が存在している。


「失礼ですわねっ。好きなお洋服と言えども毎日同じ物を着るわけにはいかないのですわ!」

「え、じゃあ普通のないのかよ?」

「ありませんわねっ」


 ドヤァ。彼女のそのドヤ顔が全てを物語っていた。コイツはアホだ。アホに違いない。

 探せばいくらでも似合う洋服があるだろうに……。それがコイツには理解できないのか。

 例えば今日すれ違った女の子が着てたみたいな、ワンピースタイプだって似合うだろう。

 見てくれはいいのだ。逆に似合わない洋服を探す方が大変なくらいの物件で、一種類の洋服にこだわり続けるのは勿体ない。

 俺は真面目にどうしたらコイツに他の服を着せることができるのかを考えていた。

 少しもしないうちに出てきた答え。それは、夏恋を利用するという手だ。


「もしもし姉貴? 今からアインツベルン邸に来てくれないか?」


 リリィーナを説得するよりも先に夏恋を呼んでしまった方が早い。だから、それだけ言って電話を切ってしまう。


「夏恋さんを呼びましたの? なら今から車を向かわせますわ」

「その方が助かる。頼むよ」


 あいつ体力無いしな~今だけはコイツの存在が助かるぜ。

 きっとかなり優秀な運転手なんだろう。彼女が指示を出してから数分後に夏恋は俺達の目の前にいた。


「や~急に目の前に車がやってきてドアが開いたから、てっきり誘拐されるかと思ったよ~」

「誰も姉貴なんか誘拐しないだろ……」


 こいつも見てくれだけはいいから拾ってく可能性はあるが、その後の言動で実態を知り思わず下ろすかもしれない。そうなった場合犯人が気の毒だ。


「それで? 今日の用件は何かな?」

「あぁ。コイツこの服しか持ってなくて……だから姉貴にコイツの服選びを手伝ってもらいたいんだ」

「ほほう……って、凄いひらひらしてるね」


 唖然あぜんとするとか、言葉を失うという言葉を今まさに夏恋は体験している。驚くのは俺だけではないようで安心した。

 だってあの常識知らずの夏恋が驚いているのだ。なら他の者が驚かないはずがない。

 それくらい夏恋の常識知らずさは信用して大丈夫だ。


「あ。あとこれ。アマリアさんに渡してくれって言われたんだ」

「こ、これはっ!? 何とも高そうな服達……あ、後で請求されたりしないかな?」

「大丈夫だ。目の前のリリィーナならともかくとして、アマリアさんはそんな人じゃない」


 無言で殴ってくるリリィーナを無視し、俺が夏恋を見るとグッと頷いてくれる。


「じゃあまずはこの服を着てみようか!」

「わ、私の趣味じゃな――――ひゃうっ!?」


 夏恋は金髪娘の言葉を一切聞くことなく、お腹周辺の服の裾を掴み一気に上へと引っ張る。

 ……その下は直で下着かよ。普通の男なら咄嗟とっさに目を逸らすだろうが俺はそうじゃない。

 寧ろガン見していると、リリィーナから物を投げつけられた。だがね、お前は分かっていない。

 その投げつける動作で胸とか揺れてるんだぜ? まぁ多少慎ましやかではあるものの、女の子らしさをリリィーナを持っている。

 それに、俺はどちらでもいける派だ。アマリアさんのように包容力のありそうな巨乳でも、彼女のように少しだけ慎ましやかでも確かに主張する二つの丘でも。


「リリィーナ、今のお前は美しいよ」

「う、うるさいですわっ、ばかぁ!」


 段々凶器類に近づきつつある投げ道具から避け続け、一応これくらいでよしておくことにする。


「できた!」


 夏恋の一段と高い声が部屋に響いた。

作者(自分)の中でリリィーナ推しとなっていますね……。

まぁ彼女がメインですから、それは間違っていないわけですが

初日の衝突具合から一転です。チョロすぎます。

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