デート。違う、後は俺に任せてくれ。
いつもありがとうございます。
午前十一時――――
俺は欠伸をしながらリリィーナを待っていた。
だが、リリィーナが遅いわけではない。集合時間は十一時三十分、それは俺とアイツが了承して決めたことである。
だというのにこうして俺が早く来ているのは、遅れるとリリィーナがうるさそうだったからという理由。それ以外は、ゆっくり来る予定だったのにも関わらず体がそれに従わなかった、みたいな感じ。
集合時間の十一時半、俺の前に大きい黒い車が止められる。
「遅くなりましたわ」
そんな高級そうな車から出てきたのは勿論リリィーナで、その高級感のある車と似合うような私服姿の金髪娘に思わず息を呑む。
それはある意味、驚愕の意味合いが強かったと思う。だって目の前のコイツは……、
「ひらひらしすぎだろ!?」
過剰なくらいフリルがついてる派手な私服だった。メイド服でももう少し少ないぞと言いたくらいだ。
「そうですの? 私、いつも家ではこれを着ていますのよ?」
「そ、そうか……でも可愛いとは思うけどさ」
そう、可愛さはしっかりと保てている。基本黒色で構成されたそのドレスっぽい私服は、彼女の金色の髪を目立たせる役割を果たしていた。
「そう言ってもらえて嬉しいですわ。さてと、それじゃあ」
「ああ。行こうか」
今日はリリィーナがプランを考えてきてくれることになっているため、俺はただそれに付き添えばいい。
可愛い女の子が考えたプランを、可愛い女の子と周れる俺は幸せ者だろう。
まず最初に向かったのが近所の百貨店だった。その百貨店に行けばあらかた揃う、という謳い文句で宣伝している大きな店だ。
リリィーナは迷わず三階に行き、映画館のチケットを二枚購入。流れでそのまま暗いホールに入っていき、その行程に一切の躊躇がない。
しかも彼女の運がなせる技なのか、席もど真ん中のうえに、席順も後ろすぎないところなので非常に見やすいところだった。
映画は比較的満足なうちに終了。それでも彼女は止まらず、どんどん次へ次へと移動していく。
やっと落ち着いて話ができたのは昼ご飯を食べる時だった。
「お前……デートってつもり全くないだろ」
確かに多く周るという理由としては完璧なプランだ。
一番最初に行った映画のチケット購入、雑貨屋の物色、現在の店での注文、その全てが澄んだ川の如く淀みなく美しい。
けれど、相手のことが考えられているのか、それが少しだけ伝わってこなかった。
「……私のプランに文句ありますの?」
「ある。いや、これは俺も悪いんだが、デートってこういうもんじゃないと思うんだ。午後は俺に任せてくれ」
「仕方ないですわね……」
「おう」
俺のプランだってどこかは問題があるのかもしれない。けど、リリィーナが作ってくれたプランはまともに会話する時間さえ含まれていないのだ。
それだと一緒に仲良くという印象よりも、作業的について行ってるだけ、になってしまう。
どうせ来たならお互い楽しめるような時間にしたいのだ。
午前中はそれでも頑張ってくれた彼女を労るために、せめてもと昼飯のゴミ捨ては俺がやり、フードコートを後にする。
リリィーナの歩幅に合わせつつ、それでも端の方へと歩いていく。
……一回もデートなんてしたことはないが、やはりデートと言えばゲームセンターだろう。ただ、一人で来ている時に目にしたカップルに対してのマイナス感情は異常なものだ。
でも今なら気にする必要はない。形だけとはいえ、しっかり『デート』をしに来ているのだから。
だが、ゲームセンターに足を踏み入れると、まずその騒音に彼女が根をあげた。
「……うるさい……ですわ……」
「まぁ……慣れてくれ」
「はいっ!?」
「慣れてくれって言ってるんだ!」
ごくごく近い距離にも関わらず、ここまで声をでかくしないと双方に聞こえない空間だ。俺は彼女との隙間を埋めるべく、静かに近づいた。
リリィーナもそれを拒むことはなく、そのままでいてくれる。きっと、大声を出すことよりも恥ずかしいことはないと思ったのだろう。
個人的なゲームセンターの定番と言えばコインゲームだ。少し多めに千円分のコインを彼女に半分押し付けると、俺らは一緒に思い思いにコインを突っ込んでいった。
わざわざ教えないといけないかな? とか考えていたが、この金髪お嬢様は俺がやっているところを見てすぐに覚えていってくれたため、苦労することがない。
コインが尽きればすぐにUFOキャッチャー、百円が尽きかければレースゲームなどなど、俺的にはとても楽しめた時間である。
ただし、相方がどう感じているのかが少し不安だ。「任せてくれ」なんて大層なことを言った以上、彼女が楽しんでくれていなければ何も意味がない。
「どうだった?」と、少し不安になりながらも聞いてみると、リリィーナは笑顔で頷いてくれた。
「楽しいですわ! 特に楽しかったのは、レースゲームですわね! ギリギリな戦い、思わず白熱しました!」
「そうかいそうかい。そりゃよかった。俺もお前と周れて、楽しかったよ」
レースゲームでは彼女に負け、少し見えを張った千円の散財と、その負担に更に負荷をかけたUFOキャッチャー達だったが、その笑顔を見れば些細な事だと笑い飛ばすことができる。
そいういう部分が女の子の強みだ。男には決してない魅力が確かにある。そして、その魅力に男は弱いのだ。
あまりにも無邪気に笑う彼女の笑みが可憐すぎて、直視することができない。
俺が変だと気づいたリリィーナは「どうしましたの?」と言って近づいて来たため、至近距離で見つめ合う形になった俺達――――
まつげなげぇとか、目がでかいとか、そんなコイツの良いところが頭の中に駆け巡る。
「――――しても、いいですわよ?」
「は?」
間近で言ってても聞き取れない声量に、思わず普段の素の声が出た。
「キス……しても、いいですわよと言いましたの」
「ここでか? 周りに人がいるんだぞ?」
それに先程からわずか数センチの間しかない状態で喋ってるもんだから、周りの視線が痛い。
「……はぁ……嘘ですわ」
「だろうな。今後は冗談でもそういうことは言わないほうがいいぞ」
勘違いするから。嘘と言われて正直助かったのか、はたまた残念だったのか俺には断定できなかった。
俺が何とか踏みとどまれた要因は、リリィーナが固く目を瞑っていたから。
もし彼女の青色の瞳が見えていたら――――そのまましていた可能性がある。
そうすればこれまで通りとはいかないだろう。お互いが意識しあい、最良の結果になる可能性もあり、最悪の結果になる可能性もゼロではなかった。
だから現時点での選択は正解だと思う。俺と彼女の間にまだ築くべく条件が達成されてない以上、流されるのは危険だ。
「けど、案外悪いものじゃないのだと分かりましたわ」
「キスのことか?」
「違いますわ。ゲームセンターのことですの」
「ああ」
デートなのに時間潰しに最適なゲームセンターを選んだのは微妙かもしれないが、確かにあそこは魅力的な場所だ。
普段行くことがないだろうリリィーナみたいなお嬢様でも一瞬で虜にしてしまうそんな空間。
確実に搾取されているわけだが、そんな細かいことを忘れて楽しめるから、いつまでも存在しているのかもしれない。
「私は少し考えすぎましたわね……」
「いいや、あれもあれで良かったぞ。俺が言いたかったのは、どうせ二人で来てるんだし二人で楽しめるようにしたいと思ったんだよ。お前と会話する時間がもっと欲しかったんだ」
その割には騒がしいゲームセンターを選択した俺だが。
ま、そういう細かいことは気にしないでおこう。
閲覧ありがとうございます。
文章を書くのが最近は凄く好きになりましたね。




