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百合はいいもの。土曜日にデートの約束。

いつもありがとうございます。

 昨夜はあの後親父と珍しく会話が続いて、眠った頃には既に深夜の一時くらいだったと思う。

 そして、今現在の時刻が午前八時。飯も食ってないし身だしなみも整えてなんかいない。


「はははっ……はぁ……」


 まだ学院に通い始めて一週間も経ってないうちに俺はやらかしたのだ。

 急激に行きたくなくなる心を何とか止めて、ゆっくりと家を後にした。

 時間的にも近所の学生や、社会人なんかとすれ違うことはない。淡々と上り坂を登っていると、星間学院は見えてくる。

 入りづらい……。絶対一番最初にリリィーナから何か言われそうで、気分がこのうえなく沈んだ。

 下駄箱で靴を履き替え、そう長くはない廊下と、一階だけ上に上がることによってたどり着く教室。


「お、遅いですわよっ!」

「すまん……」


 やはりリリィーナが一番最初に突っかかってきた。が、彼女の言葉は正論でしかないので、素直に謝っておくことにする。


「おはよ~」

「うん、おはよ」

「……今日はどうしたの?」

「いや、別に何事もなかったんだ。ただ寝坊しただけ」


 教室の後方の席に座ってる麻衣と亜夢も話しかけてくれたので、そう返事しておく。

 見たところ学院長がいるわけではなく、特に何をしていたということでもなさそうだった。

 ただ、一つ気になったことがあって、まいまいに聞いてみる。


「椎菜さんは?」

「少し学園長さんとお話してくるって言ってたよ。どうせ潤一君が来ないと意味ないから~って言って、さっき出ていった~」

「そっか」


 確かに俺が実験生なのだから遅れたら意味ないのか。

 そう少しだけ申し訳なかったが、皆も思い思いに過ごしていたのできっと大丈夫だと思いたい。


「リリィーナ、おはよう」

「遅いですわ! 遅れるならせめて連絡くらいいれるのが大人なのではなくてっ!?」

「そ、そうだな。でも起きた時には八時でさ。昨日親父が珍しく帰ってきてたから」


 色々聞いたり馬鹿な話をしているうちにすっかり時間を忘れてしまっていたのだ。


「ま、まぁ……これ以上言ってもどうしようもありませんし、やめておきますわ。……さて、当然ですが、私と付き合ってる~などと言うつもりはありませんわよね?」

「ないない。あれはあの時の嘘だよ」

「……よかったですわ。勘違されていたらどうしようかと思いましたもの」


 リリィーナが求めれば応えるつもりとは言ったが、きっとリリィーナが俺を求めることは二十%くらいの確率しかないと思う。

 コイツもコイツで縁談を断ってきているらしいけど、いつまでも親が自由にさせてくれるとは思いにくい。

 ふと仮の話で、例えば俺がコイツを好きになった場合、目の前の金髪娘は何と答えるだろうと気になった 

 そんな今度、未来のことを考えても無駄だということは分かっている。でも、気になってしまったなら仕方ない。ここはいつもの癖で聞かせてもらうことにしよう。


「リリィーナ、もし俺が好きだとお前を求めたらどうする?」

「……私があなたのことを良く思ってるならきっと応えますわ。嫌いならわざわざ言うまでもないですわね」

「そうか。まぁそれがリリィーナらしいよ」


 金髪娘にしてはわりと甘めな発言に聞こえた。もっと「ありえないですわ!」とか言われるかと思ったが、そうではないようだ。


「なになに~? 潤一君はアインツベルンさんのことが好きなの?」

「ああ。まぁな」

「へ~正直に答えちゃうんだね」

「隠すような意味もないからな」


 と言ってもまだ特別な関係になりたいとは思ってもいないが。リリィーナも勘違いすることなく、ただ静かに目を瞑っている。

 ここでリリィーナが慌てたら俺が冷静に答えた意味はないからな。そういう意味では黙ってくれていることがありがたい。

 まいまいを信じていないことはないが、俺の中学時代ではそういう問いに慌てて答えてしまい、卒業までからかわれてた奴もいた。

 正直そっとしておいてやれよとは思う。でも、まるで水を得た魚のように、調子に乗り始めるのだ。

 もっとも、それを見ているだけで止めなかった俺にも非はある。結局どこまでいっても偽善なことには変わらない。

 だからせめて、そういう風にからかわれないよう振る舞うようにするしかない。俺も、中学の時に対象にされてた男も、同じだ。少なくてもそんなことをしてくる自称友達野郎なんてぶっ飛ばしていいはずだった。

 ま、彼女はそもそも野郎ではなく女の子だし、わずか二日程の印象でそんなことはしないと勝手に印象づけているため、それ以上疑ることはしない。


「……私はまいまいが好き」

「私も好きだよっ! うりうり~っとね」


 微笑ましいなぁ……。可愛い女の子がお互いのほっぺたをつつき合う姿、心の中に保存しました。

 百合はいいものだ。可愛い女の子同士が手を繋いでいるだけでも格別ものだし、構ってくれなくて嫉妬している相方をなだめる女の子を見ても、こちらの頬が緩む。

 いっそそういう関係にならないかと勧めようとした時、リリィーナが口を開いた。


「少し」

「はいよ」


 リリィーナに手を掴まれたまま連れていかれた先は、教室から少し離れた廊下だ。


「あなた、私をからかっていますの?」

「はい?」


 が、急にそんな訳のわからぬことを言われ、俺は聞き返してみた。


「「俺が好きだったら」とか、先程も麻衣さんの言葉に「まぁな」とか……」

「あぁ。ああいうのは変に構える方が揚げ足を取られるっていうかさ……逆に相手に餌を与えちまうわけよ。だから、普通に答えた」


「まいまいはそんな子じゃないけどな」と、付け加えてリリィーナを見る。

 これまでに関しても、椎菜の前で必死に弁明しようとしたから理不尽な怒りに触れることになったのだ。なんて無駄なことばかりしてきたのだろうと、俺は改めて実感する。

 別に後ろめたいことはないのだから正直に答えればいいだけの話だ。だというのに、女の子という条件だけで俺は斜に構えてしまっていた。


「友達としてはもうお前のことが好きだよ、そう言いたかっただけだ」

「そうですの?」

「おう。お前はどうなんだ? 相変わらず名前では呼んでくれないが」


 そこまで俺の名前が嫌いなのだろうか。なら母か親父の元へ直接どうぞ。

 冗談はともかく、リリィーナのこだわりが俺には理解できない。そんなに名前って呼びづらいものなのか? なんなら許可されてなくても呼び始めるまであるぞ俺は。


「私の気持ちなんて今はどうでもいいですわ。少なくても初日よりは、好印象にはなっていますわね」

「そうじゃなかったら悲しいよ。初日よりは増えているなら何よりだ」


 下がっていないならそれでいい。それだけで満足できる。しかし、


「ならそろそろデートでもするか」

「で、デート……ですの?」

「おう。明日はこの学院に入って初めての土曜日。どうだ?」

「……そう……ですわね。たまにはいいのかもしませんわ」

「よし、決まりな。椎菜さんも誘うか?」

「苹果さんとは今度一緒にどこかへ行くので大丈夫ですわ。なのであなたと二人――――ですわね」


 珍しい。椎菜好き好きー金髪娘が「椎菜は呼ばなくていい」と言ったのだ。俺の希望に応えてくれたのもそうだが、色々と変化があって面白い。


「でも、しっかりとプランは考えてきてほしいですわ。私を誘う以上」

「おいおい……俺に任せてどうなるか、それは付き合いの浅いリリィーナでも分かることだろう?」

「……やはり私が考えてきますわ」

「その方が絶対いいよ」


 自分で言うのも情けないことだが、俺は女の子と二人きりで出かけたことはない。

 だから女の子の好みの場所や好みの物なんて何一つ分からなかった。


「明日ですわね。分かりましたわ」

「おう、楽しみにしてるな」


 そうやって、土曜日の予定は決まったのだ。

 どんな展開になるのか、俺にも多分コイツにも分かっていない。

自分も金髪の可愛い女の子とデートしたいです←

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