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お天気彼女  作者: ひだまりのねこ


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第十二話 常春の掌


「よし、これで最後だな」


 地下貯蔵庫に最後の酒瓶を運び込んでひと息つく青画。梅シロップと各種梅酒合わせて百を超える瓶が所狭しとひしめいている。作り過ぎでは、と思うけれど、皆が楽しそうだったし各種イベントで振舞う場面もあるだろう。


「さて、朔夜さまが言っていた加護の検証をしておくか」


 木花朔夜姫から加護を授かった時、脳内に加護に関する情報も同時に入ってきた。にわかには信じられなかったが、本当であれば使い方次第でとんでもない能力だ。


 常春の掌(とこはるのたなごころ)――――触れたものに対して木花朔夜姫の権能の一部を行使できる。 


 青画は地下貯蔵庫の隅でしなびている大根に触れて意識を集中する。


 ほわああ――――爽やかな風が吹いてみるみる大根の水気が回復し、まるで採れたてのような瑞々しい状態になる。


「え……? これ……凄くないか?」


 思っている以上に神の御業だった。


「よし、それなら――――」


 今度は捨てようと思っていた卵の殻や野菜のヘタを手のひらで転がす。すると生ゴミが最高級の黒土に変わり、掌からさらさらと溢れる。


「ははは……これ使い方間違えると危険かも」


 こうなるとアレも出来るかもしれない。女神さまが一瞬で発酵を促進させて梅酒を作ったあの奇跡だ。


 青画は酒瓶に両手を添えて意識を集中させる。


 瓶の中で シュワシュワッ! と気泡が激しく立ち上がり、琥珀色へと変わってゆく。


「くはあっ!!」


 十分ほどで青画は手を放す。


「はぁっ……はぁっ……これ結構疲れる」


 女神のように一瞬で梅酒に、というわけにはいかなかったが、ある程度短縮出来た。ただし――――


「うわあ……これめちゃめちゃ腹が減る」


 どうやら加護を使うと空腹に襲われるらしい。とはいえ、この力があればこれまで以上に美味しい料理が手早く作れるようになるかもしれない。


「ありがとうございます、朔夜さま」


 検証を続けて使いこなせるように頑張ろうと誓う青画であった。




「なるほどねえ……木花朔夜姫さまの加護、あれは夢ではなかったのね」


 実は神がかりの時にも少しだけ記憶は残っている。ぼんやりと夢をみていたようなものだし、酔っていたのでさらに曖昧なものではあるのだが。


 春夏は唇に指を当ててニンマリと微笑む。


「すごいですよ兄さま!! さすがです!!」

「ふふん、お兄さまなのですから当然ですよね!!」


 手放しで褒めてくれる日和と真白。


「ふむ、これは家族だけの秘密にしておくべきだろうな。力目当てでよからぬ連中が利用しようとするかもしれない」

「そうだね……皆他言無用でお願いします」


 黒乃と綾は賞賛しつつも、その意識はすでにリスク管理へと向いている。


「ありがとう、基本料理以外には使わないから大丈夫だ」


 加護といっても意識しなければ他人からはわかりにくい力だ。そうそうバレることも無いだろう。


「ところで……その力って人間に使うとどうなるのか気になるわね」


 春夏の一言に、皆の視線が一斉に集まる。


「た、たしかに気になるね……」

「う、うむ……」

「わくわく」


「え? いや、さすがに危険だ。人体実験するわけにはいかないだろ」

 

 実は青画も気になっていたのだが、それはさすがにマズいだろうと食材以外に使うつもりはなかった。しかし、女性陣の期待に満ちた視線に耐えきれず――――


「はあ……わかった、まずは自分の身体で試してみる」


 なんとなく危険はないというのはわかるのだが、万が一、億が一ということもある。


 ますは両手で顔を包み込んで軽く加護を発動してみる。


「何か変わりました?」


 青画を見た女性陣がピシリと固まる。


「え……? 何?」


 軽く整えただけのつもりだったのに、まさか……シワシワに!? 野菜くずが黒土になったことを思い出してさすがの青画も怖くなってくる。


「あ、兄さま……その顔……」

「う、うん……」


 ごくり、見たことも無いほど真剣な表情の日和の姿に思わず後ずさる青画。



「きゃああああ!! めちゃめちゃ素敵ですううう!!」

「……えっ!?」


 青画は困惑しながら、瞳をキラキラさせながら胸に飛び込んでくる日和を受け止める。


「青画くん、とっても素敵……もともと素敵なんだけどなんだか整ってる」

「せ、青画……その……破壊力が……だな」

「あああ……青画くんが輝いてる……」


 よくわからないが概ね好評なのは間違いなさそうだ。肌の状態を最適に整えたことが良かったのかもしれない。


「兄さま、私も触って欲しいです!!」

「日和は女神のように綺麗で可愛いんだから必要ないと思うが」

「ふえっ!? そ、そんなことないんですっ!! 髪だって枝毛結構あるし……」

「ふむ、髪か……」


 青画は日和の頭を優しく撫でる。


「ふわあ……兄さまの手……あたたかくて……気持ちが良い……」


 うっとりと目を閉じる日和。


「どうだ? 変化はあったか」


 十秒ほど加護を使って髪を整えた青画だったが――――日和の髪は信じられないほどサラサラつやつやに輝きを放っている。


「嘘……ナニコレ……美容院だってここまでならないよ……」


 自分の髪を触って愕然とする日和。


「ふふ、お兄さまっ!!」

「青画く~ん……わかってるわよね?」

「まて春夏さん、ここは姉である私が先だろう」

「青画くん、私は最後で良いからねっ!!」


 どうやら全員の頭を撫でるのは確定事項のようだ。


「ふふ、何を勘違いしているのかしら?」

「そうだぞ、最近肌が荒れていてな……」

「あのお……隈が取れなくて……」

「真白は後で全身お願いします」


 訂正、お肌も整えなければ帰れそうにない。 


「あはは……こんなつもりじゃなかったんだけど」


 歩くエステサロン青画が誕生した瞬間である。



「ねえ……最近日和ちゃん綺麗になったよね……?」

「わかる!! 肌も綺麗だし……髪も輝いて……もはや神々しいレベル」

「前から美少女だったけど……やっぱり青画くんの愛の力?」

「でも……春夏さんも綺麗になったよね?」

「……まさか凄い美容器具でも買ったんじゃ!?」


 巫女たちは密かに噂し、偶然目にした参拝客も思わずため息を零す。美しすぎる母娘目当ての参拝客が増えて神社は大忙しである。


 特に春夏の元には再婚相手としての名乗りが殺到したが、すべて一蹴されてしまった。


「ごめんなさい、すでに心に決めた殿方がいるので再婚する気はないのよ~」

「それって……既婚男性ってことですか?」

「んふふ……内緒」

  

 

「青~画くんっ!!」

「うわっ、いきなりどうしたんですか?」


 後ろから抱きついてきた春夏に驚く青画。まあ……いつも通りではあるのだが。


「んん~? なんでもないのよ」

「???」


 まあ……機嫌が良さそうなので良いか――――いや、良くない。


挿絵(By みてみん)


「春夏さん……外へ出る時はもう少し格好に気を付けてください」

「えへへ……だってえ……暑くてたまらないの」


 あまりにも無防備すぎる、というか薄着すぎる。夏を迎えるのが怖くなってくる青画であった。

 


「おはよう」


「お、おはようございます!!市長」


 ヒールを響かせて颯爽と歩く黒乃に市の職員たちが見惚れる。艶のある黒髪が揺れるたび光の束が輝く。


「最近の市長、ヤバくないか?」

「ああ、前から美人だったけど……なんていうか一段と――――」


「おい貴様ら、仕事中に雑談とはずいぶん余裕があるんだな?」

「「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!!」」


 ――――中身はまったく変わっていないけれど。


「ごめんね、気にしないでいいから」


挿絵(By みてみん)


「「竜ケ崎さんっ!!」」


 やわらかい笑顔、出来る女オーラを纏った気遣いの女神。お世辞にも優しいとは言えない黒乃に代わってフォローしてまわる綾の人気は凄まじく、お嫁さんにしたいランキングぶっちぎりのトップに君臨している。


「竜ケ崎さんもますます綺麗になったよな……」

「ああ、なんとか食事に誘えないかな……」


 何とかデートに誘いたい男性陣であったが、誰も成功した者はいないらしい。そのため実は既婚者なのでは? という噂すら立ち始めているが、本人は否定も肯定もしないで微笑んでいるのだった。



「ごくり……天河ヤバいな……」

「ああ、さすが高龗とのツートップ、オーラが違い過ぎる」


 卒業後、クラスで集まったのだが、注目の的は、学校一の美少女天河真白だった。常に日和と行動を共にしていたので、学校では双輪の華と呼ばれていた。しばらく会わない間に神々しいまでに美しくなっていて、男女問わず同級生たちは見惚れるしかない。ちなみに今日は曇りなので日和は欠席である。


 日和は許嫁がいると公言しており、近づこうとする男は真白が物理的に排除していた。一方の真白はといえば――――


「私はお兄さまと結婚するので」


「はあ……畜生」

「兄貴が羨ましい……」

「うちの妹と交換出来ないかな……」


 末期のブラコンっぷりを公言していたので、人気の割に挑戦する勇者は多くなかった。

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