第39章:【秘術の物質】
この世界の終わりが始まる。
「くそっ! マジか!? なんで全部爆破しなきゃいけないんだ!?」
陽一の声が暗闇に響き渡り、彼は死体の間を駆け抜けていた。彼の手は止まることを知らなかった。ベルトを調べ、包みを剥ぎ取り、手に入れるために何に触れなければならないかなど、一切気にしなかった。
C4。
次から次へと。
ジェレナは彼の横を、同じくらい素早く、同じくらい冷徹に走っていた。顔など見ない。役に立たないものは何一つ見ない。
「もう『呪われた手』を手に入れているはずだったのに」彼女はペースを落とすことなく言った。「でも、これだけの死体がある中で……今さらそれを探すなんて正気の沙汰じゃないわ」
彼女は血まみれの壁に爆薬を押し当てた。
カチッ。
「それに、軍が追いついてきている」
もう一つの爆薬。
カチッ。
「俺たちが手に入れられないなら……奴らも手に入れられない」
ヨイチは兵士の死体から別の爆薬を剥ぎ取りながら、乾いた笑いを漏らした。
「安っぽい慰めには聞こえるけど……その言葉、受け取るよ」
彼は柱の方へ移動し、震え始めた手でC4を固定した。
「『呪われた手』を破壊したらどうなるか、俺たちにはさっぱり見当もつかない。」
間。
彼は周囲を見回した。
死体が山積みになっている。
乾いた血……そして、まだ乾ききっていない血。
「それに……」――彼は呟いた――「なんでここにはこんなに死体があるんだ?」
彼の声は少し小さくなった。
より真剣な口調で。
「まるで……互いに殺し合ったみたいだ。」
イェレナは黙り込んだ。
疲れのせいではない。
……認識のせいだ。
彼は再び死体たちを見つめた。以前のように、障害物としてではなく……証拠として。
「これに一番近いのは……」――彼は呟いた――「『狂気の部屋』だ」
ヨイチは片方の眉を上げた。
「それって、良いことなのか?」
「いいえ」――彼女は率直に答えた――。「でも、これは厳密にはそれとは違うわ」
彼女は死体のそばにしゃがみ込み、傷跡を観察した。
「もっと……制御されている。まるで『手』を守るために特別に作られた領域のように」
沈黙。
重苦しい沈黙。
「つまり……」――彼女は続けた――「誰かが『手』を奪ったということよ」
ヨイチは固まった。
「……そして、制御を失ったの」
ジェレナは軽く頷いた。
「不安定になった。そして、結局、全員を殺してしまった……自分が死ぬまで」
ヨイチは息を吐いた。
「なるほど……」――彼は辺りを見回した――。「かなりひねくれた話だけど、納得できる」
間。
「じゃあ……もし俺たちがそれを手に入れようとしていたら……」
彼は言葉を続けなかった。
だが、その問いは宙に浮いたままだった。
「そう単純な話じゃないわ」――ジェレナが答えた――。「自動的に手に入るわけじゃないの。」
彼女は立ち上がった。
「でも……確かに……すごく注意が必要ね。」
彼らが何かを言い終わる前に――
ドーン。
本部の正面玄関が、上から激しく開かれた。
声。
大勢の。
「入って、入って!」
「逃がすな!」
ヨイチは顔を上げた。
「……友好的な訪問客だ。」
彼は再び遺体を見渡し、最後にもう一度確認した。
苛立ち。
「悪い知らせだ……起爆装置は見つからなかった。」
イェレナは答えなかった。
彼女の視線は台座に釘付けになっていた。
あの青みがかったガラス。
宙に浮いている。
無傷のまま……あの大混乱の真っ只中に。
「……いい考えがある。」
ヨイチが反応する間もなく――
彼女は走り出した。
彼は台座へと飛びつき、左手でそれを掴んだ。ガラスの冷たさが、電撃のように腕を駆け抜けた。
彼はナイフを掲げた。
「この領域を破壊する方法を思いついた!」
そして、それを突き刺した。
—
上階。
兵士たちはエレベーターで降りてきて、武器を構え、隅々まで点検していた。
「見逃しは許さないぞ!」
彼らは進んだ。
一室ずつ。
黒い部屋まで。
足を止めた。
「…一体何だ…?」
何もない。
死体だけだ。
「くそ…逃げたな。」
一人が後ずさり始めた。
「捜索を続けろ!」
だが、もう一人は動かなかった。
「おい…」
彼は指差した。
「あれは何だ?」
台座。
まだ宙に浮いている。
だが今――
何かが突き刺さっている。
ナイフだ。
「それは秘術の品だ……」――彼は呟いた――「だが……そこに何があるんだ……?」
彼らは一歩近づいた。
ガラスがきしんだ。
ひびが入った。
そしてもう一つ。
やがて無数に。
青い光がひび割れの間から漏れ出し始め、ますます強くなり、鮮やかになっていった。
空気が震えた。
音がした。
ガスが漏れ出すような音。
甲高い。
不快な。
兵士たちは周囲を見回した。
死体。
C4。
壁。
すべて。
彼らの目が大きく見開かれた。
「……逃げろ。」
「逃げろ! 罠だ!」
彼らは振り返った――
だが、もう手遅れだった。
――
下へ。
世界が砕け散った。
爆発は、この領域のまさに中心で始まった。
青。
炎ではない。
煙でもない。
何か別のもの。
爆風は地下から地表まで全てを貫き、建物をまるで紙のように引き裂いた。
柱が崩れ落ちた。
壁が崩れ去った。
空気そのものが裂けるようだった。
ただ聞こえるだけの轟音ではなかった――
体で感じるほどの轟音だった。
まるで地震のようだった。
まるで何かが……現実から引き剥がされたかのようだった。
本部は巨大な青いエネルギーの柱となって爆発し、空へと舞い上がり、周囲をすべて照らし出した。
そして一瞬――
すべてが静寂に包まれた。
瓦礫が降り注ぎ始める前に。
その衝撃は物理的なものだけではなかった。
まるで……世界が足元をすくわれたかのようだった。
フラッシュバック。ユズリハと緑のマントの男は衝撃波に巻き込まれた。空気そのものが二人を後ろへ押し返し、まるで重さなどないかのように地面から浮き上がらせた。
煙が後から押し寄せた。
濃密な。
激しい。
ユズリハは空中で回転し、屋根の上に落下した。何度も転がり、ようやく止まると、再び吹き飛ばされないよう片手を瓦に突き立てた。
視界は遮られていた。
ただ灰色。
ただ騒音。
(「あの秘宝を爆破したのか!?」)
彼女は立ち上がった。
苦しそうに。
煙が薄れ始めた……ほんの少しだけ。
そして、彼女はそれを見た。
目の前。
かつて本部があった場所――
そこにはもう何もなかった。
ただ虚無……そしてその虚無の上に――
一つの物体。
巨大な。
球体。
青みがかった……白が混じり、まるで生きているかのように。まるで呼吸しているかのように。空に浮かび、周囲の空気を歪ませていた。
ユズリハは固まった。
初めてのことだった……
即座に返答できなかった。
(「……あの……秘術の物質……」)
彼女の声は小さかった。
信じられないという様子で。
「宇宙の封印を破ったの!?」
彼女の頭の中で、点と点があまりにも速く繋がり始めた。
(「あの台座……」)
彼女の瞳がさらに見開かれた。
「あれは封印だった……」
彼女は喉を鳴らした。
「私たちの宇宙を……隔離し続けている封印。」
風が変わった。
また。
より強く。
より……方向性を持って。
遠くで――
世界のあちこちで――
手。
大地から突き出ているあの巨大な構造物……まるで誰かが空をつかもうとして、途中で手が届かなくなったかのようだった。
それらが動いた。
同時に。
四つすべてが。
その掌が掲げられた。
狙いを定めて。
球体へと。
そして――
光。
それぞれの掌から、一筋の光線が放たれた。
強烈な。
凝縮された。
まるで……意識を持っているかのような。
それらは空を切り裂き、雲を貫き、距離を……すべてを突き抜けていった。
そして、その物質へと向かった。
四本の光線が命中した。
同時に。
その衝撃は静かではなかった。
それは爆発だった。
球体は振動し、放電を放ち、それは空気そのものにひび割れのように広がっていった。
しかし、それは壊れなかった。
完全には。
光線は一つになり始めた。
つながり始めた。
まるで……それを封じ込めようとしているかのように。
あるいは書き換えようとしているかのように。
空はもはや空ではなかった。
今は別のものになっていた。
通信機が鳴った。
強烈だ。
切迫している。
「一体何が起きてるんだ!?」
声ははっきりしなかった。
誰の声か分からなかった。
皆の声かもしれない。
ユズリハはすぐには答えなかった。
なぜなら、初めてのことだったから……
計画がなかったのだ。
ただ見つめていた。
空に浮かぶあのものを。
そして、あることに気づいた――
今、自分たちが成し遂げたこと……
それは勝利ではなかった。
それは……決して触れてはならない何かを開いてしまったことだった。
アメリアは足を止めた。
迷いではなかった。
それは……反応だった。
彼女の視線は空の球体に釘付けになった。まるでその中に何かが彼女を呼んでいるかのように。
そしてその時――
彼女の皮膚が裂けた。
何の予兆もなく。
外部からの暴力もなく。
まるで内側から何かが外へ押し出そうとしているかのように。
一秒ごとに……
新たな裂け目が。
黒く。
彼女の血が噴き出した。濃厚で、暗く……ほとんど不自然だった。普通の血のように流れ落ちるのではなく、まるで体から離れるのを躊躇っているかのように、ゆっくりと滑り落ちた。
しかしアメリアは叫ばなかった。
後ずさりもしなかった。
何もしなかった。
ただ……見つめていた。
—
その少し上の方で、マークは建物の残骸の中を走っていたが、彼女を見て足を止めた。
彼の表情が一瞬で変わった。
(「秘儀の物質?一体何が起きたんだ…!?」)
彼の視線はアメリアへと向かった。
分析するように。
計算している。
(「『呪われた手』と繋がっている…」)
彼は歯を食いしばった。
(「もし『呪われた手』が消え去れば…追うべきものは何もなくなる…だろう?」)
だが、何かが腑に落ちない。
何もかもが腑に落ちない。
アメリアは衰弱していなかった。
制御を失ってもいなかった。
(「……苦しんではいない。」)
彼の瞳孔が収縮した。
(「……進化している。」)
その考えは、爆発よりも強く彼を打ちのめした。
(「もし、あの手が欲しかったわけじゃなかったとしたら……?」)
彼の眼差しは冷たくなった。
鋭い。
(「もし、それを破壊させたかったとしたら?」)
彼は思い出した。
その遅さ。
その間。
その「過ち」。
(「……すべては意図的なものだったのか?」)
彼の呼吸は荒くなった。
「……この獣は……」
間。
「賢い。」
—
別の場所——
フラッシュバックが窓を突き破った。
廃墟となった建物の中に落下する彼を取り囲むように、ガラスが炸裂した。
彼は転がった。
止まった。
立ち上がった。
皮膚の切り傷が焼けるように痛んだが、彼は気にも留めなかった。
彼の意識は別の場所にあった。
(「秘術の物質…?」)
彼は横へ少し血を吐き出した。
(「まだ、そんなものが存在するのか?」)
彼は壁に片手を付き、体を安定させた。
(「あれはただの遺物じゃなかった…封印だったんだ。」)
外を見渡した。すべてを染め上げる青い光の方へ。
(「我々の宇宙を守り得る封印……」)
眉をひそめた。
さらに深く。
(「それなら……」)
空を見上げた。
球体。
稲妻。
空気に走る亀裂。
(「他のマテリアたちは……どうなった?」)
沈黙。
不快な思いが頭をよぎった。
(「……破壊されたのか?」)
顎に力がこもった。
(「これが最後の封印なのか?」)
その時、彼は思い出した。
空を。
さっきの。
太陽を。
赤く染まっていた。
(「……なるほど。」)
彼は一瞬、目を閉じた。
そして目を開けると――
そこには怒りが宿っていた。
「一体何をしたんだ……?」
間。
「バカな二人め……」
だが心の奥底では……
誰がやったかなど、もうどうでもよかった。
なぜなら今起きていることは……
そう簡単に元に戻せるものではなかったからだ。
フラッシュバック、ユズリハ、そしてマークの視線が、同時に外れた。
それは偶然ではなかった。
それは……本能だった。
地平線の向こうで、何かが変わっていた。
その瞬間にそぐわない何かが。
そして――
すべてが真っ暗になった。
――
静寂。
――
何もない空間の真ん中で……
そこにいたのは彼女だけだった。
サラ。
立ち尽くしていた。
一人きりで。
彼女の腕は、前に掲げたままわずかに震えていた。手には深い切り傷が走り、血がゆっくりと滴り落ちていた……あまりにも濃く、あまりにも暗い血が。
一滴一滴落ちる音……
それだけが、存在していた。
彼女の呼吸は乱れていた。
その瞳……
揺らいでいた。
そこには恐怖があった。
本物の恐怖。
隠そうとしても隠せない、そんな恐怖。
「特別な取引をしてほしいの……」
彼女の声はわずかに震えた。
だが、彼女は言葉を止めなかった。
「君が望むだけの血を、すべてあげる……」
間。
沈黙はさらに重くなった。
「その代わり……」
彼女の指が硬直した。
「……アメリアを殺すのは、君自身だ。」
囁き。
命令。
懇願。
「こっちへ来て……」
空気が震えた。
「金継ぎ。」
—
パキッ。
空から稲妻が落ちた。
普通の稲妻とは違う。
これは……降りてきた。
まるで導かれているかのように。
地面に激突した。
そして、周囲の世界が砕け散った。
地面が裂けた。
その黒い空間の見えない壁が、ガラスのようにひび割れた。
そして、その衝撃の中心で――
何かが動いていた。
生まれたわけではなかった。
現れたわけでもなかった。
再構築されたのだ。
ゆっくりと。
破片から。
ひび割れから。
……破砕から。
一つの姿。
巨大な。
まず、一本の腕が現れた。不規則な線に覆われ、まるで黄金の傷跡が皮膚を貫いているかのようだった。
次に、腕。
そして胴体。
その体のあらゆる部分は、砕かれたかのように見えた……そして不完全な形で修復されたかのようだった。
しかし、その「修復」は……
輝いていた。
まるで、それぞれの亀裂を封じる黄金の血管のように。
金継ぎ。
その体は、自身の裂け目を隠そうとはしなかった。
むしろ、それを誇示していた。
完全に身を起こした。
武器を掲げた。
巨大で歪んだ剣。まるで何度も再構築されたかのように。その刃は滑らかではなかった……だが、それゆえに、より危険な印象を与えた。
その周囲を包むオーラは黒かった。
濃密だった。
触れるものすべてを吸収するかのように。
そして――
彼女は顔を上げた。
その瞳が開いた。
そこには怒りなどなかった。
狂気などなかった。
ただ……目的だけがあった。
彼女は前を見つめた。
その空間を貫くように。
まるでその先を見通せるかのように。
まるで、すでに標的がどこにあるかを知っているかのように。
アメリア。
空気が再び震えた。
サラは思わず一歩後ずさった。
その瞬間、彼女は何かを悟ったのだ――
彼女は武器を呼び出したわけではなかった。
すでに存在していた何かを呼び出したのだ。
命令など必要としない何か……
その存在が果たすべき役割を、ただ果たすために。
(第39章 終わり)
第39章をお読みいただき、ありがとうございます。もし気に入っていただけましたら、ご自身の判断で評価をお願いします。
また、もしよろしければ、改善点についてコメントを残していただけると幸いです。大変参考になります。ありがとうございます。




