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294話 鎮守の森(66話のアレス側)

三年近く前に完結した屍国お姫様ですが

久しぶり更新となります。

読んでいただけたら嬉しいです。


白昼夢……

例えるならそんな感じだ。



薄いフィルターがかかったような視界。

一枚向こうにある世界を見ているようだ。


 必死に動こうとしている俺がいる。

何かが纏わりついて絡み合っているかのように動けない。

変な感覚だ。

苦しい。


 動かない脚を無理矢理動かして動かない腕で大事な何かを抱えていた。

大事な……?


 大事なモノとはなんだろう?

俺の大事な守るべき者は確かにあったように感じる。

何故守ろうとしているのか理由も分からないが、とにかく守らねばならない。

そんな命令を何処かから受けたんだ。


 思い通りにならない身体はそんな命令を受け動いている。

そうだ。

俺の意思では無い。


歩きにくい。

夢なのに苦しい。


 どこへ行こうとしている?

この大事なモノを安全な場所に戻そうとしている?

それが与えられた使命。


安全な場所?  それはどこだ?


 何も分からなかった。

何処かもわからないのに安全な場所なんて分かる筈もない。


 この夢から早く目覚めたい。

寒い。苦しい。


誰かに助けて欲しい。

そんな気分だ。


 だが誰も……

助けは来ない。

俺に今まで助けてくれる人間なんて来なかった。

人には利用されるだけの人生だったから……


 かつて自分の背に刃を向けた男の事を思い出した。

兄だと信じていた男。


 捨てられた俺が本当は必要な人間だったと思えた。

それがとても誇らしく思えた。

国の為、兄の為に自分を擦り減らして戦った。

 唯一と信じていた兄を助けに成る為に痛みも苦しみも全て自分の事は置いて頑張った。


全て無になった時に気がついた。


 本当はただ認められたいだけの自分だった事をーーー。

勇者と持て囃され良い気になり皆に必要とされる英雄になった気でいた。

もう二度と捨てられるのが嫌なだけだったのに。


 捨てられたくない!

 認めて欲しい!

 誰か、俺自身を見てくれ!


幼い時にこの森に捨てらた俺はずっとその気持ちに囚われていた。


かつての俺の行動原理はそれだけだったのかもしれない。

結果騙されて殺された愚か者。


そうだ。

転生時に会った神には騙され殺された愚かな勇者だとバカ笑いされてかなりムカついたんだ。

あんなのが神なのかと絶望した。


俺は殺され転生し、成瀬和也になった。


 だからもうそんな事はいいんだ。


そのおかげで俺はユズコに会えたから……

俺はやっと居場所を見つけた……


ユズコ、

ユズコとずっと一緒にいられれば……


ーーーーー?

ユズコは?

ユズコはどこだろう?


ユズコ、ユズコに会いたい。

探しに行かなければ

ユズコの元に帰りたい。


「アレス!」


 ふと自分が抱えているモノを見た。

狭い視界

俺の目はどうしたんだろう……


 どうやら俺は子供……小さな少女を抱えて歩いていた。

この子が俺を[アレス]と呼んだ。

アレス……これは以前の俺の名前だ。


「アレス! アレス!」


 泣きながら何度も俺の名を呼ぶ小さな少女を見つめ、靄がかかる頭で理解する。

今守らなければならないモノはこの小さな少女のようだ。


 ずぶ濡れの少女は小さく震え涙を溢す。

この少女を俺は知っているような気がした。


 ガクッ


膝が崩れて転びそうになる。

不味い。

今の俺は自分さえ支えられない!?

俺の体重でこの少女を潰してしまう。


 咄嗟に少女を前に放った。

ごめんよ。

動けない俺の下敷きになるよりマシだろう。


 ガシャん!!


金属がぶつかり崩れる音が響く。


盛大に俺はコケたようだ。

幸い痛みは無い。

痛みがないという事は……やはりこれは夢なのか?

でも妙に現実感もある。


しかし困った。

動けないのは困るな。

さっきの少女は無事だろうか……

確認も出来ない……


 必死に顔だけでも動かして落とした少女の無事を確認しようとするが自分の体じゃないように重く動くことが出来ない。

俺の身体はどうしてしまったのだろう?


 動こうとする事に疲れた。

本当は何もしたくない。

自分は何処にいるんだろう?


 倒れたまま、霞む視界で周りを確認した。

今まで自分が必死に歩いていたこの場所は自然豊かな森のようだった。

木々の隙間から差し込む光は狭く赤く夕暮れが近いのかもしれない。


 考えまとまらず、ぼうっと視界に入るその先を見詰める。

木の絡み具合や苔生した感じに何か懐かしさを感じた。

ふと木の根元の植物に目が行った。


 風で揺らめく星形の葉に七色の薄い光を放つ丸い蕾の花。


ーーーー時層花だ。


 時層の歪みや穴の近くに生息し、異空間と繋がる時に開花すると昔誰かから教えられた。


 誰か? 誰だったろう?

思い出せない。


 この花が咲く場所に俺は心当たりがあった。

かつてよく知っていた場所。


 『ああ、ここは日本じゃない【鎮守の森】かあ……』

ぼんやりそう思った後で自分で思った事なのに日本ってなんだっけ? と混乱した。


 混乱しながらもこれは夢の中の事で自分は本当にここにいる訳ではないと考える。

全部自分とは無関係の事のように……自分は別のところからこの世界を眺めている。


これは夢だ。

だから世界から自分が断たれていたとしても不思議な事はない。


 ああ、少し……思い出して来た。


ここは俺が昔捨てられた場所だ。

大昔捨てられていた場所。

ここから全てが始まった。


 俺の[始まりの場所]



 腕が引っ張られている。

忘れるところだったがさっきの少女? 

怪我がないようで良かった。


 もう俺の事は放って置いてくれ。

何も出来ないし、何も考えたく無い。


だが、少女は俺の腕を必死に引っ張っている。

どうやら俺を動かしたいらしい。


 だが動けないんだ。

君の力にはなれない。

どうか俺を置いて行ってくれ。

君のような小さな女の子が俺を運べないよ。


 顔を真っ赤にして引っ張るその愛くるしい姿を見ているうちに俺の視界がおかしく歪む。


先ほどから見えていた小さな少女の姿が変わっていく。

クリっとした大きな目の可愛らしい顔は少しだけ大人びてよく知る愛しい少女の面影と重なった。


ユズコ!!

良かった、近くにいてくれた。


 白黒で色褪せた世界に一気に色が付いたようだ。


 何故? とか、どうして? とかは全く浮かばず、すんなり俺の近くにいる少女が俺のユズコだと受け入れられる。もう理屈じゃない。

俺には分かった。彼女は俺のユズコだ!

魂に刻まれた記憶とでも言うのだろうか?

先程の小さな女の子の姿は無く俺の腕にくっ付いているのは間違い無く俺の愛しいユズコだ。


 ユズコ、会いたかった。


名前を呼ぼうとした。

ーーだが声は出ない。

ユズコの髪に触れたかった。

ーー頭を撫でようと思ったが手が動かない。


 彼女を抱きしめられない虚しさが悲しみになり胸がいっぱいになる。

こんなに近くにいるのに君を抱きしめる事が出来ない!


 彼女は何故かずぶ濡れで震え、此処は森の中で、もうすぐ夜が来る。

このままでは危険だ!


 ユズコをどうにか助けないと……


考えを巡らせると直ぐに1つの事が浮かんだ。


 フェンリル!


そうだ、ここが【鎮守の森】であるならば遠い昔に離れた友がいる。


彼ならばきっと来てくれる。

今もこの地を守っている筈。


 俺の最初の友であり家族……


『リル! 動けない、来てくれ!』


頭の中で念じる。


 俺が幼い頃から共にいてくれたフェンリルのリルは俺との間に念話が使える。

距離が離れれば離れるほど繋がらなくはなるが鎮守の森は大体35㎢位。時層花が咲いているのならこの場所はほぼ中央近く。余程隅にでも移動していない限り通じる筈。

何処にいる? リル?

此処が【鎮守の森】で間違い無いのならばこの地を守る為にお前は此処にいるだろう?


 頭の中で遠吠えが聞こえた。

歓喜の色が入ってる。

思わず心の中でニヤけた。

相変わらずのようで安心した。


 良かった。俺が来たことを喜んでくれている。

こんな状態じゃなければ久しぶりだと言ってお互いを労いたい。


 久しぶり……?  そうだったよな?

いったいいつから会えていない?

頭に霞みがかかったようで思い出せない。


意識がだんだん沈んでいくのが自分でも分かる。


ユズコ、ユズコを……守りたい。


 ガチャカチャ

ユズコは俺の着けている甲冑を脱がせようとしているようだ。

甲冑の重さを軽くしようとしているのか。


一生懸命手を回して脇にある金具を外す。


 彼女も動けない俺を助ける為に必死になっているのが伝わる。

俺の為に頑張るユズコを見られて嬉しいのに気が遠くなる。


ダメだ。眠りたくないのに気を失いそうだ。

俺もユズコを助けたい。

お荷物になるのはごめんだ。

どうして動けない? 俺の身体!


 甲冑の金具を外す事に成功したユズコは乱暴に甲冑を引っ張り脱がす。

脱がす際にあちこちぶつかり擦れているのがわかった。

重いだろうから贅沢は言えないが雑な扱いに彼女らしさを感じた。


こんな状況なのに何か可笑しくなった。


 フフフ……ユズコに服を脱がされるのは初めてかもしれない。

いつもは俺が脱がす側だから……たまにはこういうのもアリだな。


ユズコはいつも俺を笑わせてくれる。



『アレス!! そこか?』

頭に声が響く。


どうや彼が近く迄来てくれた。

『リル……来てくれてありがとう。今動けない。どうなってるのかわからない。説明も出来ないが何とかして欲しい』


『お前が動けない? 怪我でもしたか?』


『違う、だが動けない、連れがいるから驚かさないようにゆっくり現れてくれ。ユズコが怖がらないようにゆっくりだ』


『は? 誰と一緒だって?』


彼が来てくれた安心感からか急速に意識が落ちていく。

『ユズコ……俺の……大事な女の子』


『ああ? なんだって? 何言ってるんか分からん! もっとはっきり言え』

イラッとしたリルの声が頭に響く。


はは、こういうヤツだ。

ハッキリね。

『俺の彼女……この言い方だと分からないか……嫁、嫁が一緒だ。番だよ。凍えないように、あと夜森は危険だから守って……ほし……』


もう思考も回らず念話も出来なくなってきた。

いよいよ意識を失う。


最後にリルの大笑いが聞こえてきた。


『はっはっははは! なんだアレス! 女の子に興味が無いのかと心配していたが遂に番を見つけたか! 良かったな!! 我も会うのが楽しみだぞ』


 この後意識の途切れた俺は全く分からなくなってしまったが、ウキウキで到着したフェンリルのリルは目の前の小さな女の子を見て困惑する事になる。



ずっと続きを書こうとしてかけなかった

今回は66話のアレス側でした。

上のイラストはイメージでカズくんの制服を着たアレス。


これでまた完結にしておきますがまた機会があれば書きたいです。


皆様リリアを応援してくれてありがとうございました!


挿絵(By みてみん)


ホントいつか漫画に出来たらなあ…╰(*´︶`*)╯妄想だけ♡


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