Phase5-7
車内は私が知っている電車と全く作りは同じで、車内には広告や何かの商品の宣伝ポスターまで丁寧に復元されている。
着席すると同時にドアが閉まり、動き出した。
『次は迷いしものの森― 次は迷いしものの森―』
(次の駅なんだ…)
何かの商品の広告やどこかのお店のセール情報がかかれたポスターは目につくのに、この電車の終着駅がどこなのか、どんな経路でむかうのかは書かれていない。
外の景色を見てもどこかのトンネルの中を走っているのか全くここがどこだからわからない。
(他の人はこれでちゃんと目的地がわかるのかな)
「あれ?」
車両を見渡すが私の他に乗っている人はいない。
(ホームには確かそこそこ人がいたはずなのに、乗った時は1人だったっけ?)
隣の車両の様子でも見てみようかなと腰を上げたところで到着のアナウンスが流れた。
『迷いしものの森― 迷いしものの森―』
慌てて電車からホームへ降りると、やはり他に降りる人はいなかった。
ドアが閉まり電車が動き出すと腕のあたりから電子音が聞こえてきた。
左腕の方を見てみると、ホログラフィーのような画面が映し出されている。
QUEST:迷いしものの森 START
PARTY:1/1 FULL
MISSION:森の奥にある社にたどり着き参拝すること NOT CLEARD
TIME:00:00:02/ 69:30:24 (0/1)
SPEED: ANDANTE
(あれ…今度は左側の数字が増えてきてる)
ここに入る前電車の中で確認したから間違いない。この駅についた時からなのか、今度は左側の時計がゆるやかに動き出している。
クエストとミッションは意味がわかる。
パーティーと書かれているところがFULL(満員)になっていることから、おそらくこれは1人でやらなくてはいけないという意味だろう。
(スピードが“アンダンテ”…歩くような速さ…)
(よくわからないけど、せかすようなものではない…ってことでいいのかな)
左腕のホログラフィーが映し出されている紫色の石に軽く触れると、映っていた画面が消える。もう1度触れるとみていた画面が再度映し出された。
「なるほど…」
(時間を気にするのは大事だけど、焦っちゃうかもしれないからちょっとしまっておこう)
ホームから少し歩くと改札の出口のような場所が見え、入り口のときと同じように手をかざすとと、ゲートは開いた。
「このまままっすぐ進めば森の入り口だよ。最近森が荒れちゃってなかなか参拝にいく人が減っちゃって悲しい限りだねえ。
あんたもせっかくここに降りたんだし、よかったら参拝してあげてもらえんか?森神様も喜ぶと思うんだよね」
「え?」
振り返ると清宿駅にいた駅員の人達とはデザインが異なる作業着のような制服を着た、人のよさそうなおじさんが箒で出口のあたりを掃除しながら声をかけてきた。
「森の途中では森神様の力が弱くなったのか、動物が凶暴になっているんだが・・・まあ深手を負わせるようなもんはいないから大丈夫。ただちいっと森が入り組んでいるから、しっかり『マップ』を確認して歩いた方がええ」
「あ…は…はい」
「途中で落っこちているものとか、あんたがこらしめた相手からもらえたもんは好きに拾ってかまわんよ。ワシも掃除する手間が省けた方がありがたいしな」
「はい…」
(これってゲームでいうところのチュートリアルクエスト?)
おじさんの言う通り、歩いて5分もしないうちに鬱蒼とした木々が生えている場所に出た。
入り口らしき大きな木のアーチの端には
― ここより迷いしものの森 -
と書かれているから間違いない。
(…ほんの少ししかここのことを見ていないと思うけど、このゲームはかなりデキがいい)
駅でみた大勢の人達が全員このゲームのユーザーだとすると、私と同じようにプレイしているプレイヤーは相当の人数いるのだろう。
ダウンロードも通信もタダ、3日以内に何かしらのクエストをクリアしてレベルをあげていけば特に問題もない。
グラフィックは文句なしにそこらのゲーム機よりもリアルで、何より自分自身がバーチャル世界に行けてそこのプレイヤーになれるのだから、そういうのを好きな人はたまらないだろう。
(クリアの報酬もなんでも願いを叶えるというとんでもない設定なのはゲームだからと言い切れるだろうし、最初のユーザーがつまずかないようにこんなクエストも作ってある)
だいたい駄作と言われているゲームは主にゲームの難易度が極端に高いことや、チュートリアル等のプレイヤーへの説明が不十分なもの等がある。
家にいてプレイしたゲームも1つや2つじゃなかった。その中で駄作と感じたゲームも1つや2つじゃなかった。
だから余計にこのゲームは今のゲーマーの心を掴んでいるのがわかる。
(さっきのおばさんみたいに中年の人もやってたのはきっとこれが携帯を通じてプレイするアプリ…だから?)
現代で携帯電話を持っていない人などほとんどいないに等しい。
「ぅわっ!」
考え事をしながら歩いていたせいなのか、いつの間にか進んでいた森の中にあった丸太に足を引っ掛けて前のめりに倒れこんでしまった。
「い…いった…」
倒れこんだと同時に聞こえた電子音を掻き消すように、どこからともなく何かがうなるような声が聞こえる。




