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『体育祭』の後二日間は休日で、三日後の今日からはもう平常通りの授業が始まる。

 セレイガはこの二日、保健室で治療を受けていた。


 実際は最新の治療技術によって、セレイガの怪我などはすぐに治った。しかし怪我を負った一種のペナルティとして、ある程度の重さの怪我を負った生徒は、数日間保健室に閉じ込められる。決められた時間の見舞い人と会う他は、真っ白い狭い個室に閉じ込められて、じっと横になっている。生徒達が怪我をすることに拒否感を持ち続けるようにするための、学園の工夫だと言う。


 今回は、『体育祭』に参加して大怪我を負った数十人の生徒達が、保健室に閉じ込められていた。

 高度な空間魔法を展開しているのだろう、外側から見た保健室と比べて、保健室の内側は明らかに広い。


 セレイガは許可された一番早い時間に朝食を予約しておいて、質素なそれを食べ終えると、入院着から制服に着替えた。運動することも魔法の修行をすることも一切許されず、ほぼ丸二日間寝ているしかなかった彼は、一秒でも早くこの保健室から出たかったのだ。こんな目に遭うくらいならば、今後はもう少し怪我をしないように気を付けよう、という気持ちにもなる。



『宝探し』で立川・セレイガのペアは、参加賞として食堂のデザート一品を手に入れた。

 手に入れた『宝』を囮にしながら、戦闘許可区域を逃げ出した頃には、二人の『宝』は残り一つだけになっていた。それからは気分を切り替えて、『宝』を三つ見付けたが、結果は残念ながら、参加賞。

 セレイガとしては、一日立川と過ごすことができて、実り多い行事だった。彼女には迷惑ばかり掛けたけれど。



 セレイガは保健室から出ると、早朝の空気に大きく息を吸った。

 これから一度寮の自室に戻って、今日の授業の教材を準備して、再び登校して来なければならない。それでもまだ時間に余裕があるから、練習室で軽く魔法を撃って汗でもかくか、食堂でもう一度朝食をとってもいいかもしれない。この二日間は全く運動していなかったとは言え、保健室で出された食事はあまりに量が少なく、また味気なかった。


 荷物を担ぎなおしたセレイガは、こめかみが温かくなったのでふと顔を上げた。

「立川君」


 廊下を曲がってこちらにやって来た立川は、軽く手を上げて微笑む。セレイガは足早に彼女に近付いた。二日ぶりに目にした彼女は、なんとなくキラキラして見える。髪は短くなっていたけれど、茶色い髪の毛先がわずかに黒く染まって、彼女が歩くと共にゆらゆら揺れる。


「おはようございます、セレイガさん。朝、早いですねー。

 お見舞いには来られなかったから、今朝は迎えに来ようと思いまして。気分はどうですかー? どこか痛い所はありませんかー?」


 朝日の下で輝く彼女は、天使か朝日の妖精のように美しい。ちりっとこめかみが揺れて、セレイガは荷物をばさりと落とした。


 彼女の足元に、反射的に跪いた。白い靴先に、唇を近付ける。



「ちょっと、セレイガさん! いきなり何ですか」

 立川は素早く数歩下がると、笑顔を引きつらせた。

 セレイガはぎょっとして、素早く立ち上がった。スカート姿の彼女の足元に不用意に跪くとは、不注意にも程がある。


「すまない、少し誓約に乗っ取られた」

 セレイガは、こめかみを右手で押さえた。

 以前よりも聖痕の反応が激しい。今後は学園生活の中でも、聖痕を布か何かで隠した方が良いかもしれない。

「先日の件で誓約がいくらか強まったようだ。心配しないでくれ、すぐに慣れて押さえ込めるようになる」


「大丈夫ですか、セレイガさん。本当に怖いですね、その誓約って」

 本当に、怖い。


 立川は心配そうな顔をして見せて、セレイガはおや、と思う。なんとなく今日は、セレイガへの対応が優しいような気がする。また朝日に反射しているせいかと思ったら、それだけでなく今日の立川は、いつもよりもキラキラして見える。


「立川君、何か良いことでもあったのか?」

 立川は言われて、ぱっと顔を手で押さえた。


「え、分かりますかー? ああもう、私、本当に現金なんですぅ」

 立川は照れたように言った。


 ああ、輝いている。



 セレイガは荷物を担ぎ直すと、二人はまず寮に向かって歩き出した。

「サルシュさんと、パテリュク王朝の人達、謝罪しに来てくれましたよー」

 立川はにこにこ微笑みながら言う。


 サルシュも保健室に軟禁組だったと思うが、この件の加害者だったから、軟禁よりも処罰が優先されたのだろうか。

「反省していたのか?」

「いえ、全く」

 立川はうふふ、と笑った。


 サルシュが反省しているとも思っていなかったが、それでは一体何が彼女をご機嫌にしているのか。

「まあ、いいんです、反省なんてしてくれなくっても。するべきことをしてくれてさえいれば、いいんですー」

 彼女は美しく微笑んだ。


「あ、そういえば、私は詳しい話は聞けていないんですけど、タイラン先生とサルシュさんって、どうなってるんですか? セレイガさん、何か聞いてますか?」


 聞いている。全く迷惑なことだが、この二日間の保健室でのセレイガが許された見舞い時間は、全てパテリュク王朝の重臣達によって占められていた。そしてセレイガには何の責任も無いというのに、今回生じた大きな問題について、ぐずぐず文句を言ってきたのだ。


「サルシュは魔力を失った。わが国はまた、次期国王候補を失ったんだ。ユニコーンには、他者に力を与えるような能力は無いのだそうだ」

 パテリュク王朝は、内部で混乱し、学園に対しては激しく責任を追及しているらしい。いい加減、自分で問題を起こした上に、文句ばかり言ってくるパテリュク王朝に対して、学園も言いたいことがあるようだ。話を聞いていると、学園の対応が高圧的で少し愉快だった。


 だがパテリュク王朝としても、この事件は大問題だった。サルシュはセレイガが失脚した今、最大の次期王候補だったのだ。


「あはは、サルシュさん、へこんでましたよー」

 サルシュの後ろ盾の大貴族も、驚いて卒倒しそうになっていて、愉快だった。


「だが、どうも学園も思惑違いの部分があったようだ。本物のユニコーンであるタイランならば、誓約をどうにかできると考えていたんじゃないか」

「それはそうですよ。セレイガさんやサルシュさんの前に、わざとユニコーンを出して見せたんです。絶対誓約させようと思ってたんですよー」


 誓約はユニコーンであるタイランよりも、パテリュク王朝の血筋に関わる特殊能力らしく、タイランにも上手く解くことができず慌てているらしい。


「学園とタイランが誓約を調べたらしいが、誓約は非常に呪いに近い要素を持っている、という結果が出た。パテリュク王朝の人間は、侮辱だと怒り狂っていた。だが俺達は、馬の姿のタイランの前でそういう話をしていたよな?」

 何故今更タイランは慌てているのか。


 学園とパテリュク王朝が揉めているのは、セレイガにとっては予想通りの部分でもある。おそらく誓約について現在最も詳しいセレイガとしては、本物のユニコーンであるタイランが、誓約に上手く対処できるとは思っていなかった。


 本物のユニコーンと誓約したのならば、たとえそれが失敗の誓約であっても、パテリュク王朝人々は大いに注目する。立川への注目が逸れて、セレイガとしては大変結構なことだ。

 セレイガと立川の誓約は実際のところ失敗したわけではない。拒否という形で成立したのだ。立川は、パテリュク王朝の他の魔法使い達の、ユニコーンにも本当はなれる。それは、誰かがいつ試してみても可笑しくないことだったのだ。


 そんなことを、許すことは出来ない。


 そんなことは断じて許せない。


 立川を、ユニコーンを共有することだけはセレイガには出来ない。しかし、他の魔法使いとの誓約を成立させないことは、立川にもセレイガにも不可能だ。


 誓約は、誰とでも結ぶことが出来る。

 一生にただ一人、この人だと思った、ただ一人のユニコーンと。


 そのことに気付かれないために、気付いても誰も立川と誓約しようと思わないように、サルシュとタイランには誓約してもらえたのは、非常に良かった。あちらの方が本物のユニコーンなのだから、目立つし正しい。男同士だが。



「あ、それ、ちょっと笑っちゃうんですけど、タイラン先生って」

 立川が柔らかに笑った。


 どうも立川はタイランが気に入らないらしい。セレイガも立川が彼を好かないのならば、祖国が彼にどれ程迷惑をかけても心が痛まない。


「私、馬に化けてる先生に、散々話しかけてましたけど、ユニコーンって馬の姿に化けてる時、人間の言葉が理解できないんですってー」

 立川はクスクス笑った。


「喧嘩見られたのはすごく恥ずかしいですけど、身振りとかから想像は出来ても、何言ってるかは分からないらしいですよー。まあ、通信機か何かで別の先生が聞いてた可能性はありますけど、タイラン先生がそうなのは本当でしょうね。そんな意味の無い嘘は言わないでしょう」


 微笑んでにっこりと笑った彼女は、朝の風のように輝かしかった。ご機嫌だからか、軽やかに飛ぶように歩く。

 美しい彼のユニコーンに、翻弄されるだろう自分と聖痕の未来を予測しながら、セレイガは故郷の伝説について思い出していた。





 英雄王は、一つ角を持つ聖なる獣に跪いて、力を請い願った。馬の姿の時のユニコーンに向かって、誓約したのだ。


 ユニコーンは何を言われているのか分からないままに、誓約を果たしたのだ。断ったのか、承諾したのかは知らない。


 伝説のユニコーンは、初め、言われたことが分からなかったのだろうか。


 分からないままに、呪われたのだろうか。





 これにて、かけはし学園完結しました。

 最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

 感想、誤字脱字、良かった点、悪かった点など、指摘してもらえたら非常に嬉しいです。


 続編・番外編などの予定はありませんが、リクエストがあれば書くかもしれません。



 現在、別のお話を書いていまして、まったく完結するメドは立たないのですが、近々連載すると思います。そちらも読んで頂けるとありがたいです。

 

 それでは、ありがとうございました。

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