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DFrontier-夢遊辺境  作者: V-CO
第二夢章:共夢

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30/46

プロローグ:『同居の申し出』

 朝。


 昨日の早朝の経験が、まだ真夢の肌に張り付いていた。あの暗い廊下の感触、夢喰いが迫る時の空気の震え、夢映が目の前で消えたあの光景。そのすべてが、真夢の脳裏に潮のように押し寄せてくる。


 だが、最終的には二人とも無事に夢から脱出できた。過程はやや波乱だったが、結果は良かった。


 朝、互いに別れを告げた後、それぞれの場所へと戻った。夢映は自宅へ、真夢は仕事を続けるために。昼には、いつものカフェで顔を合わせ、夢に関する話を交わした。夜になれば、スマホでやり取りをし、真夢は夢映が安全かどうかを確認した。夢喰いの突然の襲撃に備えて。


 そして、また新たな一日が始まる————


「……はぁ」


 ベッドに横たわる真夢が、突然目を見開いた。瞳孔が光に刺激され、わずかに収縮する。胸が激しく上下し、呼吸の一つ一つが深く重い。汗が額を伝い、枕の端を濡らした。


 どうやら昨夜の夢でも、また死を体験したようだ。


「くそっ……またか……」


 真夢は手で顔を覆い、つぶやくように言った。


 首を落とされる感覚とは違う。今回は身体が引き裂かれる感触だった。胸の中央から、両側へとゆっくりと抗えない力が加わり、肋骨が一本ずつ折れる音が聞こえるまで続いた。


 そして、真夢は目を覚ました。


 今週に入ってから、真夢は数々の奇怪な夢を見ていた。クローリアから聞いた情報に関連する三つの夢を除いても、既に四回も死の夢を見ている。首を落とされるか、身体を裂かれるか。とにかく、どの死に方も悲惨で、その度に痛みと共に飛び起きる。


 夢の中で死に慣れるのかどうか——そんなことを考える気力すら湧かなかった。


 顔を横に向け、電子時計の時刻を確認する。

 ——6:16

 出勤まで、あと一時間余り。


「……まあいいや」


 真夢はベッドの上で深呼吸を一つし、体を起こして洗面所へ向かった。


 歯ブラシとチューブを取り出し、コップに水を注いで、朝の身支度を始める。水が陶器の洗面台に当たる音が、規則正しく続く。その音に、真夢はほんの少しだけ安らぎを覚えた。少なくとも、今は現実にいるのだと分かるから。


 トントン、トントン————


 ふと、ドアを叩く音が聞こえた。


「……?」


 歯を磨きながら、手を止めて顔を上げ、入口の方へ視線を向ける。


 トントン、トントン————


 再びドアを叩く音。大きくはないが、少し急ぎ気味だった。


 真夢はドアを見つめ、眉をひそめる。外にいるのが誰なのか見当がつかない。この時間に訪ねてくる相手といえば、まず栞は違う。彼女はまだ寝ているはずだ。他の友人? 可能性は低い。病院からの緊急連絡か? それとも——


「……誰だ?」


 真夢がドアに向かって声をかけた。


 トントン、トントン————


 返事の代わりに、またノックの音だけが響く。


 真夢は知っている。自分のドアにはインターホンが設置されている。誰かが来るなら、普通はそちらを押すはずだ。


 しかし、聞こえてくるのはノックの音だけ。


 つまり、外にいる人物は、手が塞がっていてインターホンを押せないか、あるいはインターホンの使い方が分からないかのどちらかだ。


 そして、インターホンの使い方が分からない者といえば……


「……夢喰い、か?」


 かすかに、誰かが唸るような低い声が聞こえたような気がした。喉の奥から息を絞り出すような音だった。


 真夢は歯ブラシを置き、口元を拭ってから、一歩一歩ドアへと近づく。そしてゆっくりと手を伸ばし、ドアノブを握り、そっと隙間を開ける。


 その隙間から見えたのは——


「……夢映?」


 扉の外に立っていたのは、紛れもなく夢映だった。白いパーカーに、グレーブルーのスラックス。キャップのつばは深くかぶられていて、その縁は汗で少し湿っていた。それに、彼女は両手に大きな包みを二つずつ提げていて、細い腕がかすかに震えている。さらに意外なことに、口にはもう一つ包みをくわえていて、歯で取っ手を噛みしめ、全身をわずかに前傾させてバランスを取っていた。


「うんんんんん————」


 真夢がドアを開けると、夢映は慌てて何度もうなずいた。まるでドアを閉められてしまうのを恐れるかのように。うなずくたびに、汗が二、三滴、ぽたりと落ちた。


「どうして俺の家に? それに……どうして荷物まで持ってきてるんだ?」


 真夢は問いかけながら、彼女の手から包みを二つ受け取った。両手が空いた夢映は、急いで口にくわえていた包みを下ろし、大きく息を吸い込んだ。


「はぁ……だって……だって、家賃が払えなくて、追い出されちゃって……」


 夢映はうつむきながら言い、声は次第に小さくなっていく。


「家族はすごく遠くに住んでいて……もう本当に、行く当てもなくて……それで……」


 言い終えると、夢映の表情はさらに気まずそうになり、視線は壁の隅へと逃げていった。


「…………」


 真夢はしばらく彼女の顔を見つめた。その表情は確かに苦しそうに見える。多少話に疑問はあったが、はっきりとした矛盾点は見つけられなかった。


 しかし考え直してみれば、夢映が以前住んでいた場所は確かに安全ではなかった。夢喰いがその空間を既に捕捉しているなら、住み続けることは彼女をより頻繁に危険に晒すだけだ。引っ越すのは悪い選択ではない。


「歩いてここまで来たのか?」


「……はい。」


 その答えを聞いて、真夢はタクシーを使わずに徒歩で来た理由を、おおよそ察した。


「それで、俺んちに住むつもりか?」


 真夢は体を少し横にずらし、入口のスペースを空けた。


「あ、ああ……ただの一時的な話だよ。迷惑なら、私も——」


「迷惑じゃない。中に入れ。玄関で話してると、隣近所に迷惑だ。」


 真夢は振り返り、夢映の包みを二つ持って室内へと向かい、リビングの床に置いた。夢映もそれを見て、残りの包みを持ち上げて、真夢の後を追った。


「ところで、この包みの中身は何だ? 結構重いぞ。」


「生活用品がいろいろ……ちょっと多いかもしれないけど……」


 夢映はそれ以上続けず、真夢もそれ以上問い詰めなかった。


 荷物を置くと、真夢はキッチンへ向かい、振り返って夢映を見た。


「朝飯はもう食ったか?」


「た、食べました————」


 ぐぅ……


 そう言い終えた直後、夢映の腹から唐突な音が鳴った。


 それを見て、真夢はため息をついた。


「……遠慮しなくていい。適当に座ってろ。何か作るから。」


 真夢はキッチンに入り、冷蔵庫を開けて食材を確認する。卵はまだ何個かある。ベーコンも一袋。食パンは残りわずかだが、二人分には足りる。食材を取り出すと、調理を始めた。


 リビングの方からは、布地の擦れる音とごく軽い足音が聞こえてくる。真夢が横目でちらりと見ると、夢映はソファのそばに立ったまま、視線をあちこちに泳がせていた。座らずに、何か迷っているようだった。


「そんなに堅苦しくしなくていい。初めて会うわけじゃないんだ。適当に座れ。」


「あ……はい。」


 そう言われて、夢映はおずおずとソファに腰を下ろした。


 慣れない環境に戸惑っているのか、座ると彼女の視線は部屋の中をゆっくりと動き始め、真夢の家の間取りを観察し始めた。リビングから寝室、トイレからキッチンまで、隅々まで目を配る。床は一人暮らしとは思えないほどきれいで、机の上には散らかった物はなく、窓辺にはほこりもなく、隅に段ボールが積まれていることもない。どのスペースも整然と片付けられている。全体の広さは特別広いわけではないが、少し手を加えれば、三、四人で住むのも問題ないだろう。


「きれいな間取りだな……」


 真夢の家の配置を見て、夢映は小さく感嘆の声を漏らした。


 数分ほどして、真夢が簡単な朝食を二皿、テーブルの上に運んできた。皿の上には焼き目のついたパン、ベーコン、そして目玉焼き。定番の洋風朝食だった。


 皿を置くと、真夢は向かいに座り、手で合図を送った。


「さあ、まずは朝飯を食べよう。食べながら話さないか?」


「い、いいんですか?」


「もちろん。堅苦しく考えなくていい。リラックスしろ。」


 そう言われて、夢映はそっとテーブルへと歩み寄った。


 皿の中の料理からは湯気が立ち上り、目玉焼きの縁は少し焦げていて、表面には油の照りがあった。


 だが、夢映はすぐには手を付けず、しばらく皿の上の料理を見つめていた。


「どうした?」


「なんか……現実じゃないみたい。昨日まで自分の家にいたのに、今日は真夢さんの家で朝ごはんを食べてるなんて。」


「現実も現実じゃないもないだろ。大事なのは、食いたいかどうかだ。」


「……確かに。」


 夢映はフォークを取り、慎重に目玉焼きを一切れ切り取った。湯気が彼女の顔に当たり、彼女は一度まばたきをしてから、フォークを口に運んだ。


「……美味しい。」


「それなら良かった。」


 真夢も自分のフォークを取り、朝食を食べ始めた。二人で静かに数口ほど食べたところで、真夢がフォークを置き、夢映を見た。


「じゃあ、話をしようか?」


「な、何をですか?」


「もちろん、俺のところに来た理由だ。それと、どうやって俺の住所を知ったんだ?」


「うぐぅ……本当にお金がなくて家賃が払えず、追い出されたんだよ。仕事も見つからなくて、一文無しってわけ。住所はね、カフェで店員さんに聞いたんだ。真夢さんがここに住んでるって教えてくれた。」


「店長は何か言ってなかったか?」


「店長もそばで聞いてて、こう言ってたよ……『真夢の友達か? なら今度来るときに手作りクッキーを持ってくるように伝えてくれ』って。そのままの言葉だった。」


 真夢は一瞬固まり、口元がほんのわずかに上がった。笑顔というほどではなく、どちらかと言えば苦笑いに近いものだった。


「……あの奴、まだ覚えてたのか。」


「え? じゃあ本当にクッキーを作るんですか?」


「たまにな。昔一度持って行ったら、店長がずっと覚えてたんだ。ただ、症状がひどくなってからは、そういうものを作ることも少なくなったけどな。」


「じゃあ、今度作るときは——」


「まずはお前の話を片付けよう。」


「はい……」


 夢映はうつむき、また一切れの目玉焼きを口に運んだ。


 真夢はあごに手を当てて、しばらく考え込んだ。


 夢映の表情は嘘をついているようには見えない。目も落ち着いているし、声の調子も安定している。仕事を探しているかどうかは分からないが、確かに彼女は行き詰まっているように見えた。


「ところで、真夢さん。」


「どうした?」


「あの……私にできることって、何かありますか? 例えば、部屋の掃除とか……」


 夢映はうつむき、皿の上のトーストに視線を落としながら、少し照れくさそうに言った。


「どうしてそう聞くんだ?」


「だって……突然お世話になるって言ってるのに、ただの居候じゃいられないし……何かお手伝いしないとと思って。」


「手伝い、か……」


 真夢はゆっくりと目を閉じ、何かを考えるようにうなずいた。


「そうだな。一つだけ、お前に頼みたいことがある。やる気があるかどうかは分からないがな。」


「本当ですか? 何でも言ってください。メイドでも構いませんよ。」


「メイドというわけじゃないが……意味合いは似ているかもしれないな。」


「え……まさか本当に……メイドをやれって?」


 そう言われて、夢映の頬がほんのりと赤くなり、指が無意識にパーカーの裾をもじもじと弄り始めた。


「メイドじゃない。だが、本質的には俺の手伝いをして、細々としたことを処理してもらう。特に——俺の仕事において、だ。」


「……真夢さんの仕事、ですか?」


「そうだ。助手が必要なんだ。ハイリス病院で、俺の仕事を補佐する助手がな。」


 真夢は両手を机の上で組み、その視線を夢映の顔に据えて、返事を待った。


「で、でも、そういうのって資格が必要なんじゃ?」


「そこはお前が心配することじゃない。必要な知識を少し覚えればいい——あとは俺が何とかする。」


「そ、それは……厳しいんじゃないでしょうか?」


「収入はかなりいい。知識で金を稼ぐ。割に合うと思わないか?」


「——はい! 決まりました! 頑張って勉強します。」


 その言葉に、夢映の目が一瞬輝き、ぱっと元気を取り戻した。


「よし。じゃあ、朝飯を食べたら、簡単に準備をしよう。」


「……準備?」


「身だしなみを整えろってことだ。この季節に白衣を着るのは、涼しくないぞ。」


「ちょっと待って待って……まさか、今日からってことですか?」


「そうだ。」


 真夢は立ち上がり、空になった皿を手にキッチンへと向かった。


「今日からだ。」


「えええええええ————?!」


 夢映の声が食卓の方から追いかけてきて、明らかに慌てた様子が混じっていた。続いて椅子が後ろに押しのけられる音と、追いかけてくる足音が聞こえる。


「ちょっと待って待って———何も準備してないよ!」


「何を準備する必要がある?」


「せめて……せめて顔を洗わせてよ!」


「出てくる時に顔を洗ってなかったのか?」


「それは違う! さっきのは適当に洗っただけで、これから病院に行くんだよ!」


 真夢は立ち止まり、振り返って彼女を見た。


 夢映はテーブルのそばに立っていて、髪は少し乱れ、パーカーの襟も片方ずれていて、口元にパンくずが一粒ついている。彼女自身は気づいていないだろうが、その顔には慌てた表情と真剣な表情が混ざっていた。


「……五分で足りるか?」


「足、足りる!」


 そう言うと、夢映は振り返って洗面所の方へ走っていった。足音はさっきより少し力強くなっていた。数歩走ってから立ち止まり、振り返って彼を見た。


「あの……真夢さん……」


「ん?」


「ありがとう。」


「……どういたしまして。」


 夢映はうなずき、廊下の奥へ姿を消した。


 真夢は洗面所のドアが閉まる音を聞いてから、自分の右手首を見下ろした。一瞬、微かに赤みが差し、少し腫れているように見えたが、すぐに元の状態に戻った。


「……」


 彼は袖を下ろし、キッチンに戻って食器を片付け始めた。水の流れる音が再び響き始めたとき、彼の口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。本人は気づいていないかもしれないが。

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