「ごめんなさい」が汚した春
春が来た。陽だまりの暖かさが心地よく、木々の葉が再び芽吹き始めている。
僕にとって、今日は素晴らしい日だ。今、この上ない幸せを感じている。なぜなら、今日、ずっと大切に想ってきた人にこの気持ちを伝えるつもりだから。
僕の名前は山内浩史。そして、彼女は山口有香。
僕たちは幼馴染だ。小学校から大学まで、ずっと一緒に過ごしてきた。
「今日は天気が僕を祝福してくれているのかな? こんなにも暖かいなんて」
胸の高鳴りが抑えきれない。
「よし、LINEを送ろう。返信が来ますように」
『街の中心にある公園に来てほしい』という短いメッセージを送る。すぐに『わかった』と返信が来た。
顔が綻ぶのを止められなかった。今日は人生で一番幸せな日になると、確信していたから。
一時間、二時間、三時間。時間が経つのが酷く遅く感じられる。何度も時計を確認しながら待ち続け、ようやく約束の午後三時になった。
僕は、贈り物として上品で美しい花束を買った。断られるなんて、微塵も思っていなかった。
僕たちは、文字通りずっと隣にいた。何年も、何年も。その月日が、僕に根拠のない自信を与えていた。
花束を抱え、急いで公園へと向かう。ベンチに座って、その時が来るのを待った。
*コツ、コツ、コツ……*
靴音が聞こえる。それはまるで、恋人になるまでのカウントダウンを刻む時計の音のようだった。
「ねぇ、浩史。急に呼び出してどうしたの?」
有香はいつも通り、穏やかに微笑んで尋ねてきた。
戸惑いながらも、僕は勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。
「あのさ……実は、ずっと前から君のことが好きだったんだ。だから、僕と付き合ってくれないかな?」
抱えていた花束を、彼女に差し出した。
「あ――」
有香の口から漏れ出そうになったその言葉を、僕は期待して待った。
『いいよ』という答えが返ってくると、信じて疑わなかった。
「……ごめん。ごめんね、浩史。実は私、他に好きな人がいるの……」
その言葉を聞いた瞬間、僕の周りの世界が、音を立てて砕け散ったような気がした。
「えっ……? でも、どうして? 僕たちずっと一緒にいただろ? 君が僕を好きじゃないなんて、そんなはず……」
「浩史……」
「ごめんなさい。でも私は……あなたをそういう対象としては見れないの」
「ごめんね……浩史」
有香はそのまま、本当に行ってしまった。僕を、山内浩史を、粉々になった希望と共に置き去りにして。
「何だよ……嘘だろ? これ、ドッキリかなんかだろ……?」
期待に胸を膨らませていた僕は、あまりにも無残に突き落とされた。有香は一度も振り返ることなく遠ざかっていき、やがてその姿は見えなくなった。
「あ……はは……あははは……。そうか……。僕はただの『友達』でしかなかったんだな……。はは……あはは……」
気力が底をつき、ふらふらと家に帰った。すぐに自分の部屋に閉じこもる。
*ひっ……ううっ……。*
そうだ。僕は物語の主人公なんかじゃない。ただの、分不相応な願いを持った平凡な人間に過ぎなかったんだ。
ああ、最悪な一日だ。明日、どんな顔をすればいいのか分からない。
というか、明日に希望なんてあるのだろうか?
生きる理由を与えてくれた存在を失った今、この日々を続ける意味なんて、どこにあるんだろう。




