第6話 『雨の宿場町と壊れた馬車』
冷たい雨が、三日三晩、容赦なく降り続いていた。
どんよりと重く垂れ込めた鉛色の雲が空を覆い隠し、昼間だというのに周囲は薄暗い。西へ向かう主要な街道は、連日の雨によって完全に泥濘と化し、一歩足を踏み出すたびにズブズブと嫌な音を立てて靴を飲み込んだ。
「……最悪だ。俺の、なけなしの革靴が……」
大粒の雨を弾くための油紙の傘の下で、テオが恨みがましい声を上げた。
彼のくたびれたコートはすでに雨水を吸ってずっしりと重くなり、肩口から染み込んだ冷気が彼の小さな身体から体温を奪い続けている。時折、寒さと疲労から「くしゅんっ!」と情けないくしゃみが漏れた。
そのテオの数歩後ろを、ノエルは一定のペースで歩いていた。
彼女は傘を差していない。テオが「相合い傘にするか?」と聞いた時、ノエルは「私の外装は特殊合金と防水処理された人工皮膚で構成されています。傘の面積を人間一人に集中させた方が、熱損失の観点から合理的です」と淡々と断ったからだ。
雨粒が、ノエルの透き通るような銀色の髪を濡らし、白い頬を伝って流れ落ちていく。
どれだけ冷たい雨に打たれようとも、泥に足を取られようとも、彼女の表情は鏡のように平坦なままで、呼吸が乱れることもない。ただ静かに、機械的な正確さで距離を消化していくだけだ。
(……分かっちゃいたが、本当に化物じみた体力だな)
テオは後ろをチラリと振り返り、心の中でため息をついた。
あの「星降る湖畔」での凄惨な戦いから、数日が経過していた。
ノエルは歩きながら自身の魔力を使って少しずつ自己修復を行っており、ズタズタに引き裂かれていた左肩の人工皮膚や、焼け焦げていた右腕の関節は、すでに滑らかな純白の輝きを取り戻しつつある。
人間の常識を遥かに超えた回復力。彼女が単なる美しい少女ではなく、大戦が生み出した最高峰の自動人形であることを、テオは嫌でも実感させられていた。
「ノエル、お前の現在地解析だと、次の宿場町まではあとどれくらいだ?」
「現在の私たちの歩行速度から算出すると、約四十分後です。ただし、テオの歩行速度がこの三十分で一二パーセント低下しているため、さらに遅延する可能性があります」
「うるさいな! 生身の人間が泥道歩いてりゃペースも落ちるんだよ! ……あぁ、早く火の側で熱いスープが飲みたいぜ……」
テオがぶつぶつと文句を言いながら顔を上げた時、雨のベールの向こうに、くすんだ茶色い屋根の連なりがうっすらと見えてきた。
「……見えたぞ! 『雨宿りの街』、ポルタだ」
ポルタは、深い森と山脈に挟まれた谷合にある小さな宿場町だった。
その名の通り、雨宿りをする旅人や行商人が足を休めるための中継地点として栄えているが、連日の豪雨のせいか、街の入り口にある石畳の通りには人っ子一人歩いていない。
立ち並ぶ木造の宿屋や酒場からは、暖炉のオレンジ色の光が窓越しに漏れ出しており、それがひどく温かく、魅力的に見えた。
「よし、俺が交渉してくるから、ノエルは俺の後ろで大人しく俯いてろ。銀髪があんまり目立たないようにな」
テオはノエルに指示を出すと、通りの中ほどにある、比較的安上がりそうな宿屋の重い木扉を押し開けた。
「すいません、大人二人! 一晩頼みたいんだが」
カラン、と寂れたベルの音が鳴る。
帳場から出てきた初老の女将は、ずぶ濡れのテオと、その後ろに立つノエルの姿を上から下までジロジロと舐め回すように見た。
「……泥だらけじゃないか。うちの床が汚れちまうよ。それに、そっちの娘さんは……」
女将の視線が、ノエルの銀色の髪と、美しすぎる造作の顔でピタリと止まり、わずかに警戒の色を帯びた。
大戦の傷跡が残るこの時代、銀髪の自動人形は疫病神と同じだ。トラブルを避けるため、宿の宿泊を断られることは日常茶飯事だった。
「あぁ、俺の妹です! 生まれつき色素が薄くて、病気で声も出せなくてね」
テオが即座に間に割って入り、人懐っこい、しかしどこか計算高い作り笑いを浮かべた。
「妹の治療のために、遠くの街まで医者を訪ねる旅の途中なんです。こんな土砂降りじゃ、身体の弱い妹が死んじまう。どうか、部屋の隅でもいいんで休ませてもらえませんか。床の泥は、後で俺が全部綺麗に拭き上げますから!」
テオはそう言いながら、懐から銀貨を三枚取り出し、帳場のカウンターにチャリンと置いた。本来の相場よりも一枚多い額だ。
女将は銀貨と、テオの必死な作り顔を交互に見比べ、やがて小さくため息をついた。
「……二階の一番奥の部屋だよ。お湯は後で運ばせるから、勝手に使ってちょうだい。ただし、他のお客の迷惑になるようなことはしないでよ」
「助かります! ほら、行くぞノエル」
テオはノエルの背中を押すようにして、逃げるように二階へと上がっていった。
案内された部屋は、屋根裏に近い狭く薄暗い部屋だった。
壁紙は剥がれかけ、隅には埃が溜まっているが、それでも冷たい雨風を凌げる屋根と、小さな暖炉があるだけで、今のテオにとっては天国のような場所だった。
「ふう……。とりあえず、野宿は避けられたな」
テオは濡れたコートを脱ぎ捨てると、暖炉に薪をくべ、火を起こし始めた。
パチパチと薪が爆ぜる音が部屋に響き、次第に温かい空気が広がっていく。テオは暖炉の前に座り込み、ガタガタと震える身体を擦りながら火に当たった。
「あー……生き返る……」
一方のノエルは、部屋の隅に立ったまま、静かに自身の外套から滴り落ちる雨水を見つめていた。
彼女は寒さを感じないため、火に当たる必要がない。ただ、自分が濡れていることで床の木材を腐食させる確率を計算し、水滴を落とさないよう機械的な動作で外套を絞っている。
テオは、火の温もりを味わいながら、そんなノエルの姿をじっと見つめていた。
「……おい、ノエル。お前、本当に寒くないのか?」
「はい。私の内部温度センサーは、現在最適な数値を保っています。冷たい雨は、私の稼働に影響を及ぼす物理的要因ではありません」
ノエルは顔を上げず、淡々と答えた。
「……そうかよ」
テオの声には、明らかな苛立ちが混じっていた。
自分はこんなにも寒くて、惨めで、体力の限界だというのに。目の前の少女は、雨に濡れても一切の苦痛を感じず、ただ平然としている。
頭では分かっているのだ。彼女が機械であり、人間とは違う生き物だということは。
しかし、テオの心の中には、あの「星降る湖畔」での光景が、未だに黒い澱のように沈んでいた。
死んだマスターの命令を守り続け、狂い果てた姉妹機。それを身を呈して止め、優しく「おやすみ」と告げたノエル。
あんなにも悲しく、美しく、人間以上に人間らしい行動をとっておきながら、なぜ彼女は時折、これほどまでに『ただの冷たい機械』として振る舞うのか。
「お前さ……」
テオは、鼻をすすりながら、刺々しい言葉を投げつけた。
「俺が必死に宿屋のババアに嘘ついて、頭下げて、自分の金払って部屋を取ったのに。お前はただ突っ立って『物理的要因ではありません』かよ。……少しは、人間の感情ってもんをラーニングしろよ。ありがたいとか、申し訳ないとか、そういうのないのかよ」
「……テオの交渉術は、極めて効率的でした。感謝の言葉が必要であれば、出力します。ありがとうございます、テオ」
「そういうことじゃねえよ!!」
テオは思わず声を荒らげ、暖炉の前の床をドンと叩いた。
「プログラムされた言葉を聞きたいんじゃない! 俺は……俺はただ……」
テオ自身も、自分が何に対してこれほど苛立っているのか、うまく言語化できなかった。
疲労と、迫り来る風邪の兆候。そして何より、ノエルの持つ圧倒的な『非人間性』への恐怖だった。彼女がただの機械であるという事実を突きつけられるたびに、いつか彼女が自分を人間としてではなく、ただの「記録対象」として切り捨てる日が来るのではないかという、漠然とした不安が彼を苛んでいた。
ノエルは、怒鳴るテオを見つめ、少しだけ首を傾げた。
「テオ。あなたの生体データに異常が見られます。心拍数が上昇し、体表面の温度が不規則に変化しています。ストレス値も規定値を大きく上回っています。……休息を推奨します」
「……あぁ、そうだな。俺は疲れてる。お前みたいなバケモノと一緒に歩いてりゃ、神経もすり減るわな」
テオは吐き捨てるように言うと、ベッドに乱暴に横たわり、背を向けた。
自分が八つ当たりをしていることは百も承知だったが、冷え切った身体と心は、素直な言葉を紡ぐことを拒絶していた。
部屋の中に、重く冷たい沈黙が落ちた。
外では、相変わらず激しい雨が窓ガラスを叩き続けている。
ノエルは、ベッドで背を丸めるテオの背中を、無表情のまま見つめていた。
(バケモノ)。
その言葉は、リヴィエールの街の人々から投げつけられたものと同じだ。しかし、テオの口から発せられたその音声データは、他の人々のものよりも、なぜかノエルの胸の奥――魔力炉心の周辺に、ちくりとした痛みを走らせた。
(……人間の感情は、複雑です。私の解析能力では、彼の怒りの根本原因を特定できません)
ノエルは静かに目を伏せた。
おじいさんがくれた「心」は、人間の悲しみに寄り添うことはできても、人間の複雑な苛立ちや矛盾を完全に理解するには、まだデータが足りなすぎた。
――その時だった。
「……おい、なんだありゃ」
不意に、ベッドで横になっていたテオが身体を起こし、窓の外を見た。
ノエルの聴覚センサーも、外の雨音に混じる「異常音」を捉えていた。
馬のいななき。車輪が泥に深く嵌まり込み、激しく軋む音。そして、人間の怒号と悲鳴。
テオが窓を開けて身を乗り出すと、宿屋の前の泥濘んだ通りで、大きな騒動が起きていた。
一台の大きな幌馬車が、通りのど真ん中で完全に立ち往生している。
後輪の車軸が耐えきれずにへし折れ、馬車は斜めに大きく傾いていた。幌が破れ、荷台に積まれていたであろう木箱や麻袋が、泥水の中に無惨に転げ落ちている。
「あーあ。運の悪い行商人がいたもんだ」
テオは窓から顔を出したまま、冷めた声で呟いた。
「あの馬車、完全に車軸がイカれてるな。こんな土砂降りの中じゃ、修理工を呼ぶのも一苦労だ。荷物も泥だらけで売り物にならねえだろうし……ご愁傷様だな」
テオはそう言って、窓を閉めようとした。
自分たちは濡れ鼠からようやく解放されたのだ。他人の不運に首を突っ込んで、わざわざ泥まみれになる義理はない。社会は公平ではないのだから。
しかし。
「……ノエル?」
振り返ったテオの視線の先で、ノエルは静かに、先ほど脱いだばかりの濡れた外套を再び羽織っていた。
「おい、どこ行く気だ。雨はまだ酷いぞ」
「……車軸の破断。荷物の散乱。対象者の強いストレス反応を確認」
ノエルは透き通るような青い瞳で、窓の外をじっと見つめながら言った。
「壊れてしまったものが、あります。私は、それを直さなければなりません」
「はぁ!? お前、馬鹿か!」
テオが慌ててノエルの腕を掴もうとしたが、彼女の動きはそれよりも早かった。
「待っていてください、テオ。すぐに済みますから」
ノエルはそう言い残し、テオが止める間もなく、軽やかな身のこなしで部屋の扉を開け、階段を駆け下りていってしまった。
「あー、くそっ! あいつ、俺の説教を少しは聞けってんだ!!」
テオは自身のくしゃくしゃの茶髪を乱暴に掻きむしり、忌々しそうに舌打ちをした。
そして、まだ乾ききっていない自分のコートをひったくるように掴むと、ノエルの後を追って、再び冷たい雨の降る外へと飛び出していった。
叩きつけるような豪雨の中、宿屋の前の泥濘には、絶望の色が濃く立ち込めていた。
「ああ……なんてことだ。私の全財産が……っ!」
へし折れた車軸によって無惨に傾いた幌馬車の傍らで、恰幅の良い中年の行商人が、泥水に膝をついて泣き叫んでいた。
破れた幌から転げ落ちた木箱は割れ、中から溢れ出した色鮮やかな絹織物や、精巧な陶器の数々が、容赦ない雨と泥にまみれていく。どれも彼が遠方の街から仕入れ、この宿場町を越えて王都で高く売るはずだった大切な商品たちだ。
周囲の宿屋からは、雨音に混じって騒ぎを聞きつけた客や街の住人たちが顔を出していたが、誰一人として助けに出ようとする者はいなかった。
この土砂降りの中、泥まみれになって重い荷馬車を引き上げるような骨折り損を、わざわざ買って出るようなお人好しはいない。彼らはただ、暖かい部屋の窓辺から、同情と少しの好奇心が混じった目で、行商人の不幸を見物しているだけだった。
行商人は半狂乱になりながら、泥水に沈みゆく陶器を両手で拾い集めようとしていた。しかし、焦りと雨の冷たさで手は滑り、拾い上げたはずの美しい壺が、無情にも再び泥の中へと落ちて粉々に砕け散る。
「ああっ……! 終わりだ、これで借金が返せなくなる。家族が路頭に迷っちまう……!」
行商人が天を仰いで慟哭した、その時だった。
「……危険です。そのままでは、馬車の残った車軸も連鎖的に破断し、車体が完全に横転してあなたが下敷きになる確率が高いです。下がってください」
雨の音を切り裂くように、透き通るような静かな声が降ってきた。
行商人が涙と雨水に濡れた顔を上げると、そこには、ずぶ濡れの外套を羽織った一人の少女が立っていた。
灰色の雨景色の中で、彼女の真っ白な肌と、フードの隙間から覗く月明かりのような銀色の髪だけが、異様なほどの存在感を放っている。
「き、君は……?」
行商人が戸惑う間もなく、ノエルは泥濘の中にためらいなく足を踏み入れ、傾いた馬車の車体へと歩み寄った。
そして、泥に沈み込んだ分厚い木製の車軸へと、細く白い手を伸ばす。
「……修復、開始」
ノエルの指先から、眩いほどの銀色の光が溢れ出した。
雨粒を弾き飛ばし、幾万もの極細の『魔力糸』が空間に展開される。それは生き物のようにうねり、折れ曲がった車軸と、泥に沈んだ車輪に幾重にも巻き付いていった。
「な、なんだこれは……!?」
行商人が尻餅をついたまま悲鳴を上げる。
宿屋の窓から見下ろしていた野次馬たちも、突如として泥の通りで輝き始めた銀色の光に、息を呑んで釘付けになった。
ギギ、ギギギィィッ……!!
ノエルの魔力糸が、強力な張力を発揮する。
数トンはあるであろう、荷物を積んだままの巨大な幌馬車が、細腕の少女の指先の動き一つで、まるで羽毛のように軽々と泥の中から持ち上げられたのだ。
「馬車が、浮いたぞ……!?」
「おい、あの銀髪……まさか、自動人形じゃないのか!?」
周囲の空気が、驚きから「恐怖」へと一変するのを、ノエルは知覚していた。
大戦の記憶。殺戮兵器への根強い憎悪。この力を見せれば、自分がどう扱われるか、ノエルはこれまでの旅で十分に学習している。
それでも、彼女は糸を緩めなかった。
(……破損箇所、特定。魔力による溶接と再結合を実行します)
宙に浮いた馬車の下で、銀色の糸が高熱を帯びて黄金色に輝く。
折れた太い鉄の車軸が、魔力糸の圧倒的な熱量によって瞬時に溶かされ、寸分違わぬ精度で噛み合わされ、そして雨水によって急速に冷却されていく。
ジュウゥゥゥッ!という激しい水蒸気が上がり、ノエルの姿を白く包み込んだ。
ものの十数秒の出来事だった。
ゴトン、という重い音を立てて、馬車が再び四つの車輪で大地にしっかりと着地する。
へし折れていた車軸は、繋ぎ目すら分からないほど完璧に修復されていた。
「……一次修復、完了しました」
ノエルは魔力糸を収束させ、静かに息を吐いた。
馬車は直った。これで、この行商人の命が脅かされることはない。
しかし、その圧倒的な「奇跡」を目の当たりにしてもなお、人々の目に浮かんだのは感謝や称賛ではなかった。
「化け物だ……!」
「銀髪の自動人形が、どうしてこんな街にいる! 軍の残党か!?」
「近づくな! 殺されるぞ!!」
宿屋の窓から、そして通りの向こうから、人々が口々に罵声を浴びせ始める。
目の前で命を救われたはずの行商人すらも、恐怖に顔を引きつらせ、ガタガタと震えながらノエルから後ずさっていた。
「ひぃっ……! こっちに来るな、人殺しの鉄屑め……っ!」
行商人の手が泥を掴み、防衛本能のままにノエルへと投げつけられた。
ベチャリと、冷たい泥がノエルの純白の頬に命中し、銀色の髪を汚す。
「……」
ノエルは、投げつけられた泥を拭おうともせず、ただ無表情のまま立ち尽くしていた。
(……やはり、こうなりますね。テオの言った通りです)
私はただの機械。彼らが恐れるのは当然のこと。
ノエルの情報処理回路は、この状況を「予測通り」と極めて冷静に処理している。
しかし、彼女の胸の奥の魔力炉心だけは、冷たい雨よりも深く、ちくり、ちくりと悲しいエラー音を鳴らし続けていた。
『――お前みたいなバケモノと一緒に歩いてりゃ、神経もすり減るわな』
先ほど、テオから投げつけられた言葉が、リフレインする。
人間は、直してほしいと泣くのに、直してあげると恐れて石を投げる。
どうすれば、彼らの心の底にある悲しみを、恐怖を、綺麗に繕うことができるのだろうか。
その解が見つからず、ノエルが静かに目を伏せようとした、その瞬間だった。
「――おいおいおい! あんたら、俺の大切な『商売道具』に何してくれてんだ!!」
通りの向こうから、激しい怒号が飛んできた。
振り返ると、ずぶ濡れのコートを着た小柄な青年――テオが、息を切らしながら泥の海を猛然と走ってくるのが見えた。
彼はノエルと行商人の間に割って入ると、両手を大きく広げ、周囲の野次馬たちを威嚇するように睨みつけた。
「テオ……」
「馬鹿野郎、お前は少し大人しくしてろ!」
テオはノエルを背中に庇うと、怯える行商人に向かってずいと一歩詰め寄った。
「あんた、命の恩人に向かって泥を投げるたぁ、随分と立派な身分だな! この子はな、ただの自動人形じゃねえ。俺が全財産叩いて王都の研究所から買い取った、超高価な『土木修復用の特注ドール』だ! 人を殺す機能なんか最初から付いちゃいねえよ!」
テオの口から、淀みない大嘘が滑らかに飛び出した。
その堂々としたハッタリに、行商人も、周囲の野次馬たちも一瞬あっけにとられる。
「ほら、よく見てみろ!」
テオはノエルの袖をまくり上げ、彼女の細い腕を見せつけた。
「こんな華奢な腕で、誰が殺せるってんだ! この子は壊れたものを直すためだけに造られた、平和の象徴だぞ! それを証拠に、今、あんたの馬車を一瞬で直しただろうが! 感謝されこそすれ、泥を投げられる筋合いはねえ!!」
テオの言葉は、ただの嘘八百のハッタリだったが、その声には、彼自身の本気の怒りと熱がこもっていた。
(俺は……なんて馬鹿なんだ)
テオは心の中で、自分自身を強く殴り飛ばしていた。
先ほど部屋で、ノエルの善意を「機械だから」と冷たく突き放し、「バケモノ」と罵った自分。
それなのに彼女は、自分を罵った人間たちを助けるために、またこうして雨の中に飛び出していったのだ。
自分の保身ばかりを考え、社会を斜めから見ていた自分の方が、よっぽど心が冷え切った醜い『機械』ではないか。
「……テオ。あなたの心拍数が、再び異常な数値を――」
「だから、お前は黙ってろっての! これは俺の仕事だ!」
テオはノエルの言葉を遮り、再び行商人に向き直った。
「あんた、馬車が直ったからって安心するのはまだ早いぜ。荷台を見てみな」
テオが顎でしゃくった先。
そこには、馬車から転げ落ち、泥水にまみれた大量の絹織物や陶器の破片が散乱していた。
「あっ……! あぁ……」
行商人が、再び絶望の現実に引き戻され、へなへなとその場に崩れ落ちた。
「馬車が直っても、商品がこれじゃあ結局借金取りに首をくくられる……。終わりだ、俺の人生は……」
大の男が、泥の地面に額を擦り付けて号泣し始める。
その姿を見て、周囲の野次馬たちからも、先ほどの恐怖とは違う、重い同情の空気が流れ始めた。どれだけノエルが不気味であろうと、一人の男の人生が終わろうとしている現実は、同じ人間として無視できないほどに痛々しかった。
「……テオ」
ノエルが、背後からテオのコートの裾をそっと引っ張った。
「馬車の車軸は、私の糸で溶接できました。ですが、あの散乱した陶器の破片や、泥水を吸ってしまった絹織物は、私の力では元通りにできません」
ノエルの魔力糸は、金属や木材を繋ぎ合わせ、形を修復することはできる。しかし、陶器の失われた釉薬の輝きを完全に再現したり、泥水に染まった布を真っ白に漂白するような『概念的な無効化』はできない。
物理的な修復には、限界があるのだ。
「……私は、彼の絶望を直すことができません」
ノエルの青い瞳が、雨に濡れながら、ひどく悲しそうに伏せられた。
それは、機械の計算による結論ではなく、おじいさんから教わった「直したい」という心を持つ彼女自身の、純粋な無力感だった。
テオは、そんなノエルの姿を見て、フッと自嘲気味に笑った。
「……お前さ。何でもかんでも、自分のその魔法の糸で直せると思うなよ。お前はただの不器用な人形なんだからな」
テオはそう言うと、ノエルの前に進み出て、泥にまみれて泣き崩れる行商人の胸ぐらをガシッと掴んで引き起こした。
「おい、おっさん! いい年して泥水すすって泣いてんじゃねえよ! 商人の端くれなら、最後まで商売を諦めるな!」
「な、なんだと……!? これを見て言えるのか! 売り物は全滅だぞ!」
「全滅じゃねえ! 頭を使え!」
テオは行商人の胸ぐらを突き飛ばすと、泥の中に散乱した荷物の中から、比較的汚れの少ない絹織物の束と、割れていない陶器をいくつか拾い上げた。
「おい、そこの窓から見てる連中! 宿屋の女将!」
テオは、周囲を取り囲む街の住人たちに向かって、声を張り上げた。
「この布地は、東の国から仕入れた最高級の絹だ! 泥水は吸っちまってるが、すぐに井戸水で洗い流して乾かせば、まだ十分使える! 王都じゃ金貨二枚は下らない品だが、今なら特別に、泥汚れの訳あり価格……銀貨三枚で叩き売ってやるよ!」
「なっ……!?」
行商人が目を剥く。
「陶器もそうだ! 泥を被ってるだけで、中は無傷の極上品だ! これも普段の半額でどうだ! おい、宿屋のババア、あんたの宿の客室に飾るのにちょうどいい花瓶じゃないか!?」
テオの言葉に、周囲の空気が一変した。
「銀貨三枚で、東の絹が……?」
「半額なら、うちでも買えるかもしれない……」
人間とは、恐怖や偏見よりも、「得をする」という打算に最も弱く、そして素直に動く生き物だ。
テオはその人間の現金な性質を、地方記者として誰よりも熟知していた。
「買います!」
宿屋から、一人の若い女性が声を上げて駆け出してきた。
「私、もうすぐ結婚するんだけど、ウェディングドレスの生地が買えなくて……! 泥汚れくらい、私が何日かかっても綺麗に洗い落とすから、その絹、譲ってちょうだい!」
「よし、一番乗りだ! ほら、他の連中もボヤボヤしてると売り切れるぞ! なんせ、あの『超特注の自動人形』が直した縁起のいい荷車に積んであった商品だからな!」
テオの煽りに乗せられ、次々と人々が宿屋から飛び出してくる。
「俺はその壺をもらおう!」
「私はその布を! 子供の服を仕立てるのにちょうどいい!」
あっという間に、泥の通りは臨時の青空市場へと早変わりした。
行商人は、次々と差し出される銀貨や銅貨を受け取りながら、信じられないものを見るようにテオとノエルを見つめていた。
「お、おい……あんた……」
「泣いてる暇があったら、さっさと泥を拭いて商品を並べろ! 大赤字かもしれないが、借金の利子分くらいはこれで稼げるだろ。命と馬車さえ無事なら、また仕入れて売ればいいじゃねえか」
テオがニヤリと笑うと、行商人の目から、今度は泥水ではなく、大粒の温かい涙が溢れ出した。
「ありがとう……。ありがとう、あんたたち……。私の馬車を、そして命を救ってくれて……!」
行商人は、テオに、そしてノエルに向かって、泥まみれの地面に深々と頭を下げた。
周囲で品物を吟味する人々も、もはやノエルを恐れるような目を向けてはいなかった。彼らにとって、ノエルは恐怖の対象から、「得な商売をもたらしてくれた奇妙な一行」へと、その認識が上書きされたのだ。
「……テオ。これは」
ノエルが、不思議そうに青い瞳を瞬かせた。
彼女の糸は使っていない。壊れた陶器は元に戻っていないし、泥水は消えていない。
それでも、行商人の絶望は、確かに直っていた。
「これが、俺の『仕事』だ。人間の心はな、魔法の糸じゃ直せねえ。言葉と、ほんの少しの打算で丸め込むんだよ」
テオは自慢げに鼻をこすり、それから、少しだけ気まずそうにノエルから視線を逸らした。
「……さっきは、部屋で酷いこと言って悪かった。バケモノなんて、俺の勝手な八つ当たりだ」
雨の音に消え入りそうなほどの、小さな声。
しかし、ノエルの優れた聴覚センサーは、その言葉の奥に込められた不器用な謝罪の熱を、しっかりと捉えていた。
「謝罪の必要はありません。テオは先ほど、私の不足していた『人間の心の修復』というタスクを、見事に代行してくれました。……あなたをナビゲーターとして雇用した私の判断は、最適解だったと証明されました」
ノエルは、泥に汚れた頬のまま、人間のように柔らかく、そして美しく微笑んだ。
それは、計算されたプログラムではなく、彼女の胸の奥で温かく脈打つ「心」が自然と形作った、本物の笑顔だった。
泥まみれの青空市場が落ち着きを見せ始めた頃、三日三晩この街を閉じ込めていた分厚い鉛色の雲が、嘘のようにゆっくりと割れ始めた。
雲の隙間から差し込んだ一筋の夕日が、ポルタの街の濡れた石畳と、水たまりだらけの通りを黄金色に照らし出す。
宿屋の前に散乱していた泥まみれの商品は、街の人々によってほとんどが買い取られていった。行商人の手元には、本来の利益には遠く及ばないものの、それでも当面の借金を返し、家族を養うには十分な重さの銀貨が残されていた。
「……テオさん、それにノエルさん。本当に、何と御礼を言っていいか」
泥を拭い、修復された馬車の御者台に座った行商人が、深く頭を下げた。
その顔には先ほどの絶望の影はなく、雨上がりの空のように晴れやかな疲労感と、明日へ向かう活力が戻っていた。
「気にすんな。こっちもいい商売の勉強になったからな。次は泥水に浸からないよう、幌の防水処理はケチるなよ」
テオが鼻をすすりながら笑って手を振ると、行商人は「ええ、肝に銘じます」と苦笑し、懐から一つの小さな包みを取り出してノエルへと差し出した。
「ノエルさん。あなたは私の馬車を直してくれた上に、恐ろしい思いまでさせてしまった。これは、せめてものお詫びと感謝の印です」
ノエルが受け取り、そっと布を開くと、中には手のひらに収まるほどの小さな陶器のティーカップが入っていた。
泥水を被った荷物の中にありながら、奇跡的に割れずに残っていた品だ。純白の磁器には、青い塗料で美しい小鳥の模様が描かれている。ただし、縁のあたりに、ほんのわずかな欠け(チップ)があった。
「傷物で申し訳ないのですが……。不思議なもので、泥を落としてみたら、その小さな傷すらも、この嵐を乗り越えた証のように愛おしく思えましてね。あなたの魔法の糸のように立派なものではありませんが、どうか受け取ってください」
「……ありがとうございます。私の記憶領域に、大切に保存します」
ノエルがティーカップを両手で包み込み、深く一礼する。
行商人は嬉しそうに頷き、馬の手綱を握った。
「さあ、出発だ! 王都まで、休まず飛ばすぞ!」
力強い掛け声と共に、修復された車軸がギシッ、と一度だけ鳴り、大きな幌馬車が黄金色の夕日の中へと走り出していった。
それを見送った街の人々も、それぞれに手に入れた「戦利品」を抱え、満足そうに家路や宿へと戻っていく。彼らがノエルに向ける視線は、もはや「化け物」を見るそれではなく、少しだけ不思議で、けれど確かに自分たちの生活に恩恵をもたらしてくれた「奇妙な隣人」を見るような、穏やかなものに変わっていた。
「……っくしゅん!!」
静まり返った通りで、テオが盛大なクシャミをした。
彼のコートは再び雨を吸ってずぶ濡れになり、唇は寒さで紫色に変色している。
「おい、ノエル。俺の仕事は終わったぞ……。早く、早く暖炉の前で死なせてくれ……」
「テオ。体表面温度が極端に低下しています。重度の風邪、あるいは肺炎に移行する確率が急上昇しています。急ぎましょう」
ノエルはティーカップを丁寧にポケットにしまうと、ガタガタと震えるテオの背中を支えるようにして、宿屋へと駆け込んだ。
「あらあら、あんたたち! 随分と派手にやったねえ!」
帳場に戻ると、初老の女将が先ほどまでの冷たい態度をひっくり返したような、満面の笑みで出迎えてくれた。どうやら彼女も、テオの叩き売りで上等な壺をちゃっかりと手に入れたらしい。
「ほら、これ熱いお湯と、綺麗なタオル! それから、特製の生姜スープも持って行ってやりな。あのままじゃ、お兄さんの方が死んじまうよ!」
「……女将の態度の変化率が、計算不可能です。人間の感情というものは、これほどまでに外部要因で容易に反転するものなのでしょうか」
「それが人間なんだよ……。いいから、タオル、寄こせ……」
テオは震える手でタオルを受け取り、ノエルと共に二階の薄暗い部屋へと戻った。
暖炉の火はまだパチパチと燃え続けていた。
テオは濡れた服をすべて剥ぎ取って毛布にくるまり、暖炉の火に齧り付くようにして女将の生姜スープをすすった。喉の奥から胃の腑へと落ちていく熱いスープが、凍りついていた彼の細胞を一つ一つ溶かしていく。
「あぁ……。生き返る……」
テオが安堵の息を吐き出して振り返ると、ノエルは部屋の隅で、自分の銀色の髪についた泥を、タオルで黙々と拭き取っていた。
痛覚や寒さを感じない彼女だが、精巧な関節部に泥が入り込めば駆動に支障をきたす。彼女は極めて機械的な動作で、自身のメンテナンスを行っていた。
テオは、スープの入った木杯を置き、毛布をかぶったままノエルに向き直った。
「……なぁ、ノエル」
「はい。何でしょうか、テオ」
ノエルが拭う手を止め、青い瞳をテオに向ける。
「お前、さっき……俺の八つ当たりを、わざわざ『タスクの代行』だなんて言って、肯定してくれただろ。……あれは、その、なんだ。……ありがとうな」
テオはバツが悪そうに視線を逸らし、赤くなった鼻の頭を擦った。
「俺は、お前が『機械』だからって、お前の中に心がないなんて思っちゃいないんだ。……ただ、自分の情けなさが嫌になっただけだ。お前はいつでも、誰かが困ってたら迷わず飛び出していく。自分が泥を投げられると分かってても、だ」
テオの脳裏に、行商人から泥を投げつけられ、それでも無表情のまま立ち尽くしていたノエルの姿が蘇る。
「……俺には、それができない。他人に裏切られるのが怖いし、社会ってやつに期待するのもやめた。だから、お前のその痛々しいほどの真っ直ぐさが、時々、ひどく怖くなるんだよ」
テオの吐露は、静かな部屋の中に、雨上がりの雫のようにぽつりと落ちた。
ノエルはタオルを置き、テオの傍らへと歩み寄った。
そして、少しだけ首を傾げて、静かに言った。
「テオが私を怖がる理由が、私にはまだ完全に理解できません。ですが……テオは、とても優れた『修復機能』を持っています」
「は? 俺が? 馬鹿言え、俺はお前みたいに魔法の糸なんて出せないぞ。刃こぼれしたナイフ一本直せやしない」
「物理的な修復の話ではありません」
ノエルは、ポケットから先ほどもらった小さなティーカップを取り出し、暖炉の火にかざした。欠けた縁が、オレンジ色の光を受けて微かに輝く。
「私の糸は、車軸を直しました。ですが、あの行商人の『絶望』と、街の人々の私に対する『恐怖』を直したのは、テオの言葉です」
ノエルの青い瞳が、まっすぐにテオを捉える。
「テオの言葉には、人間の心の形を変え、繋ぎ合わせる力があります。それは、私には絶対に計算できない、人間だけの特別な魔法です。……私は今日、その魔法に救われました」
ノエルの言葉は、どこまでも平坦で、装飾のない事実の羅列だった。
しかし、だからこそ。その混じり気のない純粋な肯定は、テオのひねくれた心の奥底に、深く、温かく染み込んでいった。
「……お前ってやつは、本当に……」
テオは毛布に顔を埋め、言葉を詰まらせた。
社会に絶望し、ただの三流記者として燻っていた自分の「言葉」が、誰かの心を直し、誰かを救う力になると、目の前の少女は一切の疑いなく断言してくれたのだ。
「……悪かったよ。お前を不器用だなんて言って」
テオは毛布から顔を出し、照れ隠しのように笑った。
「お前のその物理的な『糸』と、俺のこのペテンみたいな『言葉』。……二つ合わされば、案外、この腐った世界でも、結構な数のガラクタを直していけるかもしれないな」
「はい。私たちの同行は、非常に合理的な相互補完関係にあります」
「だから、そういう機械みたいな言い回しをやめろっての! そこは『これからもよろしくね、相棒!』くらい言えないのかよ!」
「コレカラモヨロシクネ、アイボウ」
「棒読みすぎるだろ!!」
テオのツッコミが部屋に響き、二人の間に、ようやく温かな、人間らしい空気が流れ始めた。
その夜。
テオは暖炉の火のそばで、手帳を開き、ペンを走らせていた。
ノエルは部屋の隅で、静かにスリープモードに入っている。彼女の呼吸のない静かな寝顔は、まるで美しい彫刻のようだった。
テオは手帳のページに、今日起きた出来事を詳細に書き留めていく。
泥にまみれた馬車。光り輝く修復の糸。投げつけられた泥。そして、泥まみれのまま微笑んだ、彼女の顔。
(……この本のタイトルは、もう決まっている)
テオはペンを止め、ノエルの静かな寝顔を見つめた。
世間が彼女を「銀髪の悪魔」と呼ぶのなら、自分がその言葉の魔法で、彼女の本当の姿を世界に知らしめてやる。それが、彼女に命を救われ、心を救われた自分の、唯一の使命なのだと。
翌朝。
ポルタの街は、三日ぶりの快晴に包まれていた。
洗われたような青空の下、泥の通りには強い日差しが降り注ぎ、早くも地面を乾かし始めている。
「よし、風邪もなんとか引きずらずに済んだぞ。俺の頑丈さに感謝だな!」
すっかり乾いたコートを羽織ったテオが、元気に背伸びをした。
ノエルも外套を羽織り、革鞄の紐を締め直す。
「次はどこだ、ノエル。お絵かき帳の行き先を教えてくれ」
ノエルは鞄からスケッチブックを取り出し、ページをめくった。
六ページ目に描かれていたのは、無数の歯車と煙突が立ち並ぶ、複雑な機械仕掛けの街並みだった。
「……『からくり街の職人たち』。西の工業都市、ギアポートです」
「ギアポートか。あそこは職人気質の頑固親父ばっかりで、よそ者には厳しい街だぞ。お前のその魔法の糸を見せたら、職人連中が束になって文句を言いに来るかもしれないぜ」
「私に争う意思はありません。対人交渉は、相棒のタスクです」
「おっ、言うようになったな! 任せとけ、俺の口八丁で、職人どもの懐に潜り込んでやるよ!」
テオは得意げに笑い、先に立って宿屋の階段を降りていく。
ノエルは、スケッチブックを閉じる前に、昨日描いた「星降る湖畔」の青い花を見つめた。
そして、その隣のページ――これから出会う景色へと、思いを馳せる。
(おじいさん。私の旅は、少し騒がしくなりました。でも……とても、温かいです)
ノエルは青い瞳を細め、人間のように柔らかく微笑むと、テオの待つ、光あふれる泥の街道へと歩み出していった。




