第89話:巣立ちの鐘と、永遠に続く家族の物語(エピローグ)
ついに最終話となりました。お楽しみください。
【大聖堂 ~受け継がれる誓い~】
かつて、ライルが十五人の妻たちと永遠の愛を誓った王立大聖堂。
今日、その荘厳な祭壇の前に立っているのは、立派な青年に成長した長男(フィリアの子)と、美しい純白のドレスを纏った長女(サクヤの子)だった。
「……健やかなる時も、病める時も。生涯、この者を愛し抜くことを誓います」
長男が隣の辺境伯令嬢エレナと、長女が騎士カイルと、それぞれ確かな声で誓いの言葉を紡ぐ。
ステンドグラスから差し込む光の中、若い二組の夫婦が誓いの口づけを交わすと、大聖堂の鐘が祝福の音を天高く響かせた。
「……うぅっ、立派になって……っ」
最前列の席で、サクヤとフィリアが目元をハンカチで押さえ、涙をこぼしている。
「泣かないで、サクヤ、フィリア。……今日は最高にめでたい日だろ?」
ライルは、二人の肩を優しく抱き寄せながら、自身も視界を滲ませていた。
彼らの後ろの席では、長身に圧縮進化して以来、さらに艶やかな大人の色香を増した十柱の女神たちが、色とりどりのストレートロングの髪を揺らしながら、我が子の晴れ舞台のように歓喜の拍手を送っている。
彼女たちの首元や手首で輝く『愛の証』は、十六人の魂が永遠に一つであることを証明するように、温かな光を帯びていた。
そして参列席には、かつて十人の女神たちと共に卒業試験(大迷宮)に挑み、過酷な試練を乗り越えたレオやマリーたちの姿もあった。
彼らはすっかり年を重ね、立派な騎士団長や高位魔導師として国を支える存在になっていたが、今日ばかりは昔のように無邪気な笑顔で、ライルの子供たちへ惜しみないフラワーシャワーを浴びせていた。
「ライル様! ベイラ様たちも! 本当におめでとうございます!」
すれ違いざまに、マリーが満面の笑みで声をかける。
彼女の目には、いつまでも若く美しい十柱の女神たちの姿が、あの迷宮の底で背中を預け合った**「最高の戦友」**のままに映っていた。そして、そんな戦友たちを誰よりも深く愛し、世界を救ってくれた神王ライルに対しては、絶対の忠誠と心からの尊敬の眼差しを向けている。
「マリー、レオ! ありがとう! 二人とも、すっかり立派な顔つきになって……っ!」
長女のベイラやヘスティアーたちが、かつての戦友たちの姿に懐かしさと喜びを爆発させ、ドレス姿のまま彼らとハイタッチを交わした。
◇
【パーティーの喧騒と、テラスの静寂】
王城の大広間を貸し切って行われた盛大な結婚パーティーは、夜が更けても熱気を帯びていた。
ライルは、次々と注がれる祝杯を何とか躱し、少しだけ夜風に当たろうと、広間から続く広いバルコニーへ抜け出した。
見下ろせば、王都の街並みが美しい光の海となって広がっている。
かつて、レヴィアタンの虚無に飲み込まれそうになった世界。それを命懸けで守り抜いたからこそ、今こうして子供たちが新しい未来(領地)へと旅立っていくことができるのだ。
「……パパ。抜け駆けはずるいですわよ?」
ふと、背後から甘い香りが漂い、ライルの背中に柔らかな感触が押し付けられた。
振り返らなくとも、その黄金の髪の香りと、魂の繋がりで分かる。長女のベイラだ。
「ベイラ。……いや、あまりにもみんながお酒を勧めてくるから、少し避難してきたんだ」
「ふふっ。今日はパパが一番泣いていましたものね。みんな、パパを労いたかったのよ」
ベイラが隣に並び、手すりに寄りかかる。170センチの完璧なプロポーションを包むイブニングドレスの隙間から、すらりとした長い脚が月光に照らされて白く輝いた。
「あら、パパを独り占めなんてさせませんわ」
「私たちもいますよ、主さま」
バルコニーの扉が開き、リーフェやヘスティアー、そしてフィリアたち先輩妻も含め、十五人の妻たち全員が、クスクスと笑いながらライルの元へ集まってきた。
十六人の魂のネットワークは、今も静かに、しかし絶対的な安心感を持って互いの命を循環させている。
「みんな……。本当に、ありがとう。君たちのおかげで、あの子たちを立派に送り出すことができた」
ライルが深く息を吐き、妻たちを見渡して心からの感謝を伝えた。
親としての大きな役目を一つ終え、少しだけ肩の荷が下りたような、心地よい疲労感があった。
しかし。
◇
【終わらない物語 ~陽だまりの連鎖~】
「……パパ。息をつくのは、まだ少し早いですわよ?」
ふと、背後から甘い香りが漂い、ライルの背中に柔らかな感触が押し付けられた。
振り返らなくとも分かる。長女のベイラだ。
彼女は意味深な微笑みを浮かべながら、そっと自身の『下腹部』に両手を当てた。
「え?」
ライルが目を瞬かせると、隣にいた銀髪のリーフェも、顔を真っ赤にして自身の頬を押さえながら、お腹に手を当てた。
「あのね、パパ。……私の中に、パパの新しい命が、灯っているの」
「なっ……!?」
ライルの思考が、一瞬完全に停止した。
「私だけじゃないんですのよ!」
琥珀色の髪のヘスティアーが、えへへと満面の笑みでピースサインを作る。
「この半年間、パパが毎晩毎晩、私たちが不安にならないようにって、いーっぱい愛してくれたじゃないですか! だから……当然の結果ですわ!」
「ええっ!? ヘスティアーも!? じゃ、じゃあベイラも!?」
「ええ。……それに、セレナさんやアナスタシアさんもですわ」
ベイラがクスクスと笑いながら、後ろに立つ妻たちを振り返る。
なんと、十五人の妻のうち半分以上の者たちが、恥じらいと至上の喜びに満ちた表情でコクリと頷いたのだ。
魔法の奇跡でも、システムのバグでもない。
あの暗闇から生還し、二度と離れないと誓い合った半年間。毎夜、互いの温もりを確かめ合うように深く、熱く愛し合った、ごく自然で、そして最高に尊い「夫婦の愛の結晶」だった。
「うそ、だろ……」
ライルは、バルコニーの手すりに手をつき、腰を抜かしそうになった。
「主さま? もしかして、嬉しくないんですか?」
サクヤが、少しだけ意地悪く小首を傾げる。
「う、嬉しいに決まってるだろ!! 決まってるけど……っ! そ、そんな一気に……!?」
パニックになりながらも、ライルの目からは、先ほどの結婚式とは全く違う、歓喜と驚きがないまぜになった新しい涙がドバーッと溢れ出した。
「あはははっ! パパが泣いた!」
「パパ、これからもっともっと忙しくなりますわよ! 覚悟してくださいね!」
「もちろん、夜の愛のネットワークも、今まで通り繋いでもらいますからね?」
「お、お手柔らかにお願いします……ッ!」
十五人の絶世の妻たちが、涙目になって笑うライルを囲み、最高に幸せそうな笑い声を夜空に響かせる。
巣立っていく命があれば、またこうして新たに生まれてくる命がある。
神王と女神たちが手に入れた「永遠の命」とは、決して退屈で静かなものではなかった。
それは、愛する者を見送り、そしてまた新たな命を育み続けるという、果てしなく騒がしく、底抜けに明るい『終わらない物語』そのものなのだ。
「……ああ、爺さん。どうやら僕の人生は、永遠に休む暇がないみたいだ!」
ライルは、涙を拭って天を仰ぎ、世界で一番幸せな愚痴をこぼした。
繋いだ手と魂。首元で輝く愛の枷。
ローレンツ邸のバルコニーから見下ろす世界は、今日も温かく、そして彼らの家族の笑い声と共に、果てしなく眩しい未来へと続いていくのだった。
【 神への階と十五柱の花嫁 ~ 完 ~ 】
いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけあしたでしょうか?
長い間見に来ていただけて感謝いあします、ありがとうございました。




