到着!? ブルーメ島!
「いい天気ですね」
「それはまぁ、雲の上にいるからね」
「コケコッコー」
拝啓、ママ。今の状況を説明します。空飛ぶ鶏さんの足に捕まって、雲の上をお散歩中です。
「この世界の鶏は空を飛ぶとは聞いてましたが、まさかこんな状況になるとは思いませんでした」
海中から勢い良く空高くへと飛び上がった私達は、たまたま真上で空を遊覧していた鶏の足にガシッ・・・と掴まったわけです。私達は無重力状態なので鶏さんはまったく負荷なく気持ち良さそうに「コケコッコー」と鳴いています。
「ね、ねぇ、ノエルちゃん。このあとってどうする予定なの?」
鶏さんの足に掴まってる私の足にガシッとしがみついてるルテンが心配そうに見上げてきます。
「とりあえず靴下がほしいですね。ずっと裸足に靴を履いてる状態で気持ち悪いんです。そのあとは世界一のパン屋さんになります」
「なるほど、靴下のあとに世界一の・・・って色々とおかしいよ!? もっと直近の問題があるよね!? 靴下以外で!」
靴下以外で・・・あぁ、ブルーメ島に行く手段のことですね。
「このままイイ感じにブルーメ島の真上まで運んでもらって、イイ感じに着地する予定ですよ。安心してください」
「安心出来る要素が1つもないよ・・・そもそも雲で島がどこにあるか分かんないし」
「位置は覚えてます。最初に島を見た位置と現在地の関係もしっかり把握してます」
「お、おぉ。さすがだね・・・頭がいいんだね」
(思考回路はちょっとズレてるけど)
「・・・でも、ただ一つだけ問題が・・・」
「え、なに? どうしたの?」
「とんでもなく眠いです」
お昼寝の時間が過ぎてることもありますが、それにしても異様な眠気です。それに空腹感も凄いです。
「え・・・えぇ!? もしかしてだけど魔力枯渇しかけてる?」
「魔力枯渇? なんですかそれ?」
「文字通り、体内の魔力が無くなることだよ。個人差はあるけど、だいたいは急激な眠気や空腹感、そして・・・アホになるの」
「にゃにゃ~~~~・・・お日様が気持ちいいです」
「終わった・・・」
あれ? なんだか足が重くなってきたような?
「コッ!? コケッ!?」
「え、ちょ・・・うそうそ!? ノエルちゃん!? 頑張って! というか鶏が頑張って!」
「コケーーッ!!」
なんだかバサバサと頭上が五月蠅いですね。それに、雲が近く・・・というより雲の中に・・・あれ? どんどん島が近くに・・・??
私の長い黒髪が頭上の鶏さんに覆いかぶさりますが、頭がぼんやりとしてきた私は目下に広がる綺麗な砂浜が近付いてることにワクワクが隠し切れません。
「綺麗なビーチですね~」
「わわわっ、このままじゃ島に・・・砂浜に落ちる!! どんどん落ちるスピードが上がってるよ! ノエルちゃんしっかりして! 鶏! 頑張ってえぇぇぇぇ!!」
「コッケェェェェ!!」
バサバサバサバサッ!!
「ああ! もう地面がぁぁぁ!! ノエルちゃん! このままじゃあ2人とも死んじゃうよ!」
・・・・ッ。
『このままだと2人とも死ぬわよ!』
この記憶は・・・!?
「んうぅにゃぁああああ!!」
頭上の鶏さんをガシッと両手で鷲掴みにします。そして・・・ぐるんっ!
「コケッ!?」
「うわぁ!?」
鶏さんを下へ、そして私の足を掴むルテンを上へ、上下反転させます。
・・・この落下スピードなら、上手く着地さえ出来れば死にはしないハズ。
ボスゥン!
「ゴゲェェ!?」
鶏さんを砂浜に押し付け緩衝材にしつつ、衝撃を受け流すようにルテンごとクルリンと一回転。
スチャッと無事に着地に成功です。ルテンも気絶はしてますが、特に外傷もなく呼吸も脈も安定してる様子です。
「よかったです。私達五体満足で生きて・・・ま・・・すぅ、すぅ」
――――。【ルテン】
「ゴケェ!ゴゲェェ!!」
・・・?
「ゴッゲェェェェ!」
・・・!?
「・・・うっ、うぅん」
瞼を上げて、体を起き上がらせる。薄いピンク色の髪が視界に入ってくる。何だか頬っぺたに違和感を感じて触ってみると、砂がついてた。
「あれ? ここは・・・」
目覚めたばかりの目に、眩しいオレンジ色の光が入ってきて、ボクは思わず上げたばかりの瞼を下げる。
「夕方?」
そうだ・・・確か潜水艦からダイナミックに脱出したあと、上空からこの砂浜に落下して・・・
「・・・って、ノエルちゃんは!?」
ボクよりも歳下で世間知らずのお姫様のハズなのに、家族だからって必死にボクを守ってくれた猫獣人の女の子。
「ゴゲェ!!」
「うわあ!? ビックリしたぁ」
ドスの利いた鳴き声の方へバッと顔を向けてみたら、ノエルちゃんが横たわってた。右手で鶏の羽を鷲掴みにしてて、鶏が必死に離れようとバサバサ暴れてる・・・ありがとう鶏。そしてごめんなさい。
「生きてるよね?」
・・・念のためノエルちゃんの胸に耳を当ててみる。
「良かった・・・生きてる」
本当・・・無茶するよ。ノエルちゃんの行動力というか、その勇気というか何というか、とにかく恐いもの知らずだよね。エルフの集落で助けに来てくれた時もそうだし、潜水艦であのオカマの船長に啖呵を切った時もそう。相手が大人だろうと裏社会っぽい人だろうと全く臆しない。・・・かと思えば、潜水艦が揺れた時は人一倍怯えて私と一緒に震えてたし、クラーケンを前にした時はノエルちゃんに抱きついてたから分かるけど、心拍数が凄かった。
「でも・・・相手が恐くてもそうじゃくても、私を一生懸命に守ろうとしてくれて、実際にその小さな体で守ってくれたよね」
私もめちゃくちゃ恐ろしくてしょうがなかったけど、今では不思議とノエルちゃんが一緒なら大丈夫って思える。何も不安はない。
――――。1時間後。
ど、どどどどどうしよう!?
「ノエルちゃん!? お、起きてよぉぉ・・・」
空は暗くなり始め、風も一層強く、そして冷たくなっていく。なのにノエルちゃんはまったく起きる気配がないし、鶏までも諦めて眠りについちゃった。
ザザァ
前方にはひたすらに広がる暗闇の海。後方には森と、その奥に火山と虹が見える。
巨大な火山と消えない虹・・・噂に聞くブルーメ島の姿と一致するけど、その中での現在地が分かんない。
「ぶぇっくしょん!」
さむっ・・・とりあえず暖をとらないとノエルちゃんが風邪を引いちゃう。
「ボクは火属性の魔法は杖が無いとまともに使えないし・・・【錬成】を使ってどうにか体を温められないかな?」
【錬成】は技術や道具が無くても何でも作れるとはいえ、結果・過程・原料を知ってないと使えない。今まで料理関連のことにしか使ってなかったから、こういう時に役に立たないんだよね・・・。
でも、何もしないわけにもいかないし、ダメもとで火を起こせないかやってみよう。
「・・・」
空中に手を翳して、体内の魔力を動かし・・・
「あれ?」
もういっかい体内の魔力器官に集中して・・・
「あれ?」
魔力を感じない・・・
「えい!えい!」
枯渇したわけじゃない・・・ただ、あるハズの魔力を感じない。
「え、え?どうして?」
もしかして・・・捕まった時に何かされたの? でも、だとしてもどうやって治せば・・・それよりも、今の状況を褒美も魔法も無しにどうすればいいの?
「寒いし・・・お腹も空いたし・・・ノエルちゃんは起きないし・・・」
頼りのノエルちゃんが起きないってことは、ボクが1人でどうにかしないといけないってこと・・・。自分一人じゃなくてノエルちゃんの命の背負ってると思うと手が震える。
波の音だけが聞こえる暗い世界がすごく心細く感じる。
「お願い・・・起きてよノエルちゃん」
少しでも温もりを感じたくって、気を失ってるノエルちゃんにギュッと抱き着く。
「んにゃ・・・ママ・・・」
ノエルちゃんがそう寝言を呟きながら抱き返してきた。
・・・ノエルちゃんだって・・・きっと本当はお母様と離れたくなかったのかもしれない。でも、それでも自分の道を歩くことをやめないんだ。その道が夢へ続いてるから・・・。
パチン!
ボクは起き上がって自分の頬を叩く。
勢いに負けて成り行きで結婚なんてことになっちゃったけど、この子と同じ道を行くことに後悔はない。だったら・・・この子が率先して前を歩いてくれるのなら、この子が転んだ時にはボクが助けてあげなくちゃ!
「よいっしょ」
ノエルちゃんが鷲掴みにしてる鶏ごと抱きかかえる。
こんな夜に知らない森に入るのは怖いけど、ノエルちゃんならきっと突っ込んで行くハズ! 不本意ながらも公爵令嬢時代に一通りの武術は体に染み付いてる! ボクだって守られてばかりじゃないんだから!
「ふしゅー! ふしゅー!」
鼻息を荒くして、目の前の森を睨む。そして・・・
「・・・やっぱ無理無理!」
だって今は剣も杖も無くなっちゃってるし、ノエルちゃんを守りながら何が出て来るかも分かんない暗闇の森を抜けるなんて無理だよ! そもそも抜けた先に街があるかも分かんないし、あったとしてもボクもノエルちゃんもすんなり入国出来るか怪しいもん。
「とりあえず。このまま砂浜を歩いてみよう。もしかしたら安全に迂回出来て、そこに街があるかもしれないし」
ノエルちゃんの猫耳に顔を埋めて深呼吸する。・・・なんか落ち着く。
「潮の香りがする・・・早くシャワーを浴びてブラッシングしてあげなきゃね」
―――。
ノエルちゃんと鶏を抱えて砂浜を歩くこと30分くらい。
「ぐすっ・・・ずびぃぃっ」
ボクの顔は涙と鼻水でボロボロになってた。かろうじてノエルちゃんには垂れてない。鶏には思いっ切り垂れてるけど。
「だれかぁ・・・」
ずーっと1人で暗い砂浜を歩いてる。森から何か出て来るかも、果ての無い海の広大さがこわい、歩き出す方向を間違えたかも、あそこでじっとしてた方がよかった?ノエルちゃんはいつになったら目を覚ますの? ボクの魔力はいったいどうなってるの? ずっとこのまま?
話し相手がいなくて、ずっと1人、景色も変わらない。色々な可能性を考えちゃって、涙が止まる気配がない。視界が歪んで前が見にくいし、嗚咽で周囲の音もよく聞こえなくなってきた。・・・だからか、背後に近付く足音にボクはまったく気がつかなかった。
「あのぅ・・・」
「ふげぇ!?」
ドサッ
鼻をすすってたせいで変な声が出た。おまけに尻餅も着いた。後退りながら後ろを振り返ると・・・。
「大丈夫ですか?」
スーツ姿のサラリーマンが立ってた。
・・・どうしてこんな砂浜にサラリーマンが!? 後ろをつけていた? 怪しい。誰? 男の人? 暗くてよく見えない。おじさん? カバンを持ってる。中に何が?
色々な可能性を考えて頭がグルグルとフル回転する。とにかく、ノエルちゃんを守らなきゃって思って、ボクはギュッとノエルちゃんを抱き直して、キッとサラリーマンを睨んで口を開く。
「だ・・・だずげでぐだざいぃぃぃ」
読んでくださりありがとうございます。第1部はここまでになります。次話からは交易都市ブルーメ編です。




