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『黒猫』と『ランドセル』と『(異)世界一のパン屋さん』  作者: SHIRA
第1部 感情を取り戻したお姫様
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12/12

質疑応答ドッジボールプロポーズ

 見たことのない虫が這いまわる森を抜け、壮観な山々の麓にその集落はありました。丸太で作られた大きな家が並んでいて、道行く人達は皆が茶髪か緑髪で、耳がとがっていて・・・? よく見えませんね。


 子猫()を抱えているピンク髪の少女・・・私よりも5つくらいは歳上に見えるお姉さんが、何故か草むらや木陰に隠れながら移動してるせいで、周囲がよく見えません。・・・というか、このお姉さんはエルフじゃなくて、普通の人間っぽいですね。髪色はだいぶ奇抜ですけど・・・地毛ですかね?


 お姉さんは「はっはっ」と息を切らしながら、大きな家と大きな家の間にある、中くらいの家に入っていきました。中には壁に吊るされた木製の小物入れがいくつもあって、奥の部屋には綺麗に整えられたベッドが見えます。

 お姉さんは私を家の大きさに対してデカすぎる机の上に置いて、じーっと見下ろしてきます。


「はぁ・・・かわいい」


 お姉さんはウットリとそう言って私の顔に頬擦りしてきます。ふわりと懐かしい香りが私の鼻に入ってきました。


「にゃ~」


 これは、バターと小麦粉の香りです。・・・私の唯一の家族、ママを思い出します。ママ、今頃どこで何をしてるんでしょうか・・・会いた・・・ダメです。願っても叶わないと分かっている希望は捨てましょう。


「今からボク達は家族だよ」


 お姉さんの口からそんな優しい声が出てきました。


 か、ぞく・・・?何だか分からないうちに、私はこのお姉さんと家族になりました。


「ちょっと待っててね。今ごはんを用意するから」

「あ、お気遣いありがとうございます。そしたらパンがいいです。ありますか?」

「パンだね。無いけど、うん。すぐに作るから・・・」


 お姉さんは私に背を向けて壁に吊るされた木箱へと手を伸ばそうとして・・・ピタリと静止して、ギギギッと振り返ってまん丸になった灰色の瞳で私を凝視します。


「か、変わった鳴き声・・・だね?」

「それはお姉さんも同じじゃないですか。そんなことより、今パンを作るっていいましたか? やっぱり作れるんですか?」


 パンを作ってそうな香りがするわけです。


「え、お姉さん!? ボクが? えへへ・・・じゃなくて! あ、うん、作れるっていうか・・・いやいやいや! お、おかしいよ! え、何? どこかに録音機でも付いてる!?もしかして、またサラセニア様が何か・・・でもこんな声が高くないし・・・」

「裸の女の子をそんなにジロジロと見ないでください」

「え、いや裸って・・・猫じゃん。・・・あ、本当にメスだ」


 うーん、なかなか話が進みません。


「まずはとにかくパンを作ってください。さぁ、早く!!」

「え、え? ちょ、ちょっと待ってて!」


 肉球でぷにぷにとテーブルを叩いて急かします。お姉さんは壁掛けの箱の中から、小麦粉、塩、砂糖、バター、イースト、そして透明な瓶に入ったミルクと水を出して机に並べていきます。


「それは強力粉ですか? そのお砂糖は上白糖ですか? 塩はどんな種類のものを? それは天然酵母ですか?自分で作ったんですか?」

「え、えっと・・・とりあえず、作るね」


 お姉さんは私の質問には一切答えずに、材料を天秤で計って木材で出来たボウルの中に入れていきます。


「全部一気に入れるんですか?」

 

 お姉さんが材料の入ったそのボウルに手を添えると、材料がボウルごと黒く光り始めました。


「うにゃ! 何ですかこれ! 何してるんですか!?」


 これ本当にパン作りですか!? 何か・・・こんな黒く光るパンの材料は見たことがありません。体の中に入れて大丈夫なものでしょうか? それても、この世界では食材が光るのは当たり前なんでしょうか?それとも・・・


「で、出来たよ」


 驚きです。ボウルの中にクロワッサンが現れました。


「もしかして、魔法ですか?」

「え、あ、うん。特殊魔法の【錬成】。ボクの褒美(ギフト)の一つなの」


 私は出来立てホヤホヤのクロワッサンを小さな猫の手でぷにっと触れます。


「あれ?」


 熱くないです。まぁ、窯で焼成したわけじゃないので当たり前と言えば当たり前なんですけど、何だか腑に落ちないというか、納得いきません。出来立てのパンは熱々であるべきです。


サクッ


 間違いないです。これは塔で最初に食べたあのクロワッサンです。冷めているのにサクサクです。・・・いや、出来立てなんですからサクサクなのは当たり前・・・当たり前?


「【錬成】って言ってましたね。どういう魔法なんですか?」

「えっと・・・説明すると難しいんだけど・・・」

「難しくても構いません。必ず理解します」

「あ、いや・・・説明を理解するのが難しいんじゃなくて、ボクが説明をするのが難しいって意味なの」


 仕組みさえ分かれば、もしかしたら私でも同じようなことが出来る可能性もあるかもと思ったんですけど、そう上手くはいきませんね。


「この技術・・・いや魔法が私に使えればパン作りの幅がぐんっと広がると思ったんですけど」

「え、クロちゃんがパンを作るの? その手で?猫なのに?」

「私が作りますよ。あと勝手に名前を付けないでください。私の名前はノエルです」


 私は自己紹介をしました。「次はあなたの番です」と視線をお姉さんに向けますが、お姉さんは気にせずに質問を続けます。


「え、その猫の手でどうやって作るの? 作ったことはあるの? あの、というか・・・何者!? ど、どうして喋れるの?」

「私はママの娘のノエルです。猫の手じゃなくて、ヒトの手で作るんです」

「えっと・・・何一つ疑問が解決しないんだけど・・・人間になることが夢ってこと?」

「違います。私の夢は・・・じゃなくて、私は質問に答えたんですから、そっちも答えてください」

「え・・・答えたの?」


 私は答えました。疑問が解決しないのはお姉さんの理解力が乏しいからです。


「その【錬成】という褒美(ギフト)はどうやって獲得したんですか? 褒美(ギフト)は自身の努力や何かの行動がキッカケで得られると聞いてます」

「それは・・・試さない方がいいと思う。ボクは、飢えて死にそうになったからこの【錬成】を得られたの」

「なるほど・・・」


 神様も似たようなことを言ってました。


「ちょ、ちょっと待って! ダメだよ!? 死にそうになったからって、得られるわけじゃないからね! 色々な条件が揃って・・・かつ運が良ければ奇跡的に得られる可能性があるかもしれないってくらいで・・・ボクも自分の夢が無ければきっと・・・褒美(ギフト)を得られずに、サラセニア様に見つけてもらえずに死んでたんだから!」

「夢ですか?何ですか?」


 もしかしたら、そこにヒントがあるかもしれません。


 お姉さんは灰色の瞳を震わせて一瞬の迷いを見せたあと、「まぁ、猫だし・・・」と一息ついてから口を開きました。


「ボクの夢は・・・大切な人と一緒に飲食店を営むこと・・・だよ」

「大切な人・・・恋人とかですか?」

「こ、恋人!? そ、そうなの・・・かな? ボクが想像してるのは家族だけど・・・ま、まぁ、間違ってはいないかな?」


 お姉さんは真っ赤になった頬を両手で覆いながら照れくさそうに言います。

 ・・・そうですか。家族と飲食店をですか。


「一緒です」


 胸が高鳴ります。私、このお姉さんと一緒に夢を叶えたいです!だって、私にはないパン作りの技術を持っていて、似た夢も持っていて・・・それになにより、私を家族だと言ってくれました。それが一番嬉しいです!


「あぁ・・・恥ずかしい。やっぱり喋るんじゃなかった。可愛い子猫とはいえ普通に人間の言葉を理解して喋るんだし・・・」

「お姉さん。私と・・・」


 食べかけのクロワッサンを一旦横に避けて、お姉さんに向かって手を差し出そうとして気付きました。猫の手です。これじゃあ恰好付きません。第一印象は大事です。ちゃんと自分の誇れる姿で向かい合いたいです。


 ・・・かと言って、今人の姿になったら全裸です。ある意味では誇れる姿と言えなくもないですが、普通に恥ずかしいです。


コンコン


 ドアがノックされました。私とお姉さん、同じタイミングでドアに視線を向けます。


「サラセニアよ。ここにえっと・・・子猫がいるでしょう? とても重要な・・・えぇ・・・大切な猫なのだけれど・・・」


 お姉さんはわたしを見ます。


「クロちゃ・・・じゃなくてノエルちゃん、重要な大切な猫なの?」

「重要で大切じゃない人なんてこの世にいないですよ。それよりどうして私がここに居ると?」

「サラセニア様の褒美(ギフト)は【魔力感知】なの。きっとそれで・・・っと、開けてもいい?」


 コクリと頷くと、お姉さんは急いでドアに向かい、鍵を開けます。


「ありがとう。あ、やっぱりここに居たわね。ノエルちゃん。気付いたらいないんだもの。ビックリしたわ」


 私の赤いランドセルを持ったサラセニアが長い緑色の髪を靡かせながら素早く入ってきました。

 ・・・あのランドセルには私のドレスが入っています。


「ナイスタイミングです!」

「え?」


 目を丸くして首を傾げるサラセニアに「こっちこっち」と猫の手で手招きします。「あら可愛らしい」と頬を緩ませたサラセニアがこっちに近付いてきます。


 私はピョンっと飛んで、サラセニアが肩にかけているランドセルの隙間から中に入り込みます。前の世界で猫は液体と聞いたことがありますが、本当に液体のようににゅるっと入っていきました。


「ありましたっ」


 ランドセルの中で私が着ていた黒いゴスロリドレスへと身を潜らせます。そして獣化を解いて獣人の姿へと変身します。変身しながら、スカートに足を通し、袖に腕を通します。そして・・・


「きゃあ!・・・うぶっ」


 そんなサラセニアの悲鳴と共に、私は獣人の姿に変身してお姉さんへと手を差し伸べます。


「一緒に夢を叶えましょう!私と結婚してください!」

「え、あ、うん・・・」


 生まれ変わって体感1週間程、私は少し年上のお姉さんと結婚しました。


――――――――。



 差し伸べられた小さな手を、思わずとっちゃた。


 ボクの大恩人でエルフの集落の長老のお孫さんのサラセニア様の後頭部を裸足で踏みつけて、ぴょこぴょこと動く猫耳にキャミソールを乗っけて、ゆらゆらと揺れる尻尾にショーツを引っ掛けた、とても可愛らしい顔立ちの黒髪の女の子。第一印象は控えめに言って超失礼な人・・・獣人?


 ボクよりも3つか、もしかしたら5つくらい歳下に見える女の子。でも、その青い瞳はボクなんかよりもずっと逞しく輝いているように見えた。


 その瞳に見惚れていたからか、衝撃的な第一印象に呆けていたからか、色々すっ飛ばした急なプロポーズに驚きすぎたからか、それともその全てが理由か分からないけど、考えるよりも先に口が先に動いちゃった。


 ・・・これってボクの本心なの?


 でも、この子となら諦めかけてた夢を本当に叶えられると一瞬だけ思いはした。それだけの説得力が、この子の瞳には宿ってたから。

読んでくださりありがとうございます。サラセニアは鼻血を出すだけの軽傷です。

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