第6話 血の誓約(前編)
引続きシルロ先生の診療所での日々
私の専門は闇魔法医療。
人の心から発される闇を緩和し、心を守る手助けをしている。
……それだけではない。
闇は時として、肉体や魂までも貪る。
それを放置すると、闇にすべて飲み込まれ、死んでしまう。
──死ぬだけなら、まだいい。
強い思いに呼応すると、闇が変化し、死んだ後に“転化”し新たな生命が誕生する。
それは悪魔や魔人、魔物といった、闇を操る存在だ。
そうなると彼らは、生あるものに牙を剥き、闇をばら撒き、人々を殺す。
だからこそ、そうなる前に治療できるのが、我々《カゴノトリ》。
そして、それができるのは──堕天使である私たちだけでもある。
私はその責務を全うするため、診療所を借り、依頼があった患者たちを診察していた。
「はい、これでよく眠れると思いますよ」
「聖明先生、ありがとうございます!」
「うん、念のため、三日後にまた来てね」
「はーい♡」
彼女は元気に挨拶をすると、手を振りながら去っていく。
……彼女の場合は症状が軽めで良かった。
少し心を病み、闇が身体に出始めていたけど、あの程度なら私が闇を引き受けてしまえば問題ない。
カルテに記載していると、不意に強い視線を感じる。
「……シルロ先生。なんですか? そんなに睨んで……?」
壁際から、白い髭と眉、ぴかぴかに光った頭を揺らしてこちらを見つめる診療所の主──シルロ先生。
「気に入らん! 女性にキャッキャされよって!」
「……ええ、何言ってるんですか……」
確かに今日は女性患者が多かったけど……
キャッキャとはいったい。
「おぬし、案外自覚がないやつじゃの!!
その無駄にいい顔で優しく微笑み、甘い言葉で惑わす……破廉恥じゃ!」
「いや、何言ってるか全然わからないです」
顔のことを言われても……
まあ、母さんに似て目元は綺麗とは思うけど、それ以上に自覚はない。
「ちょっと、何騒いでるのさ! 次の患者さん、呼んでもいいの!?」
待合から顔を覗かせる風真。
今日も手伝ってくれている、いい子だ。
「うん、次お願いね」
「はーい」
しばらくして、一人の男性が診察室に入ってくる。
一礼したあと、綺麗な動作で椅子に腰掛ける。
カルテを見ると……ちょっと珍しい名前だ。
「ロウマン・アモールさん、で合っていますか?」
「はい、間違いありません」
ニッコリと笑う彼は、物腰が柔らかく上品な印象だ。
「では、症状について教えていただけますか?」
「はい。私は長い間、人には言いにくい趣味を持っておりまして……。
あまり人に話せず悩んでいたところ、腕に闇の刻印が出てきてしまいまして……」
彼はそう言うと、左腕の袖を捲る。
そこには、確かに黒い茨のような模様が浮かんでいた。しかも、色が濃い。
「失礼、触ってもよろしいですか?」
「はい」
私は彼の腕を取り、刻印をなぞるように触れる。
……闇が、確実に身体を蝕んでいる。
このレベルになると、吸収すれば少なからず私も発作が起きるかもしれない。
「症状はいつ頃から出ていますか?」
「半年ほど前からです……」
……長いな。あまり放置できない。
「ちなみに差し支えなければ、趣味についてお伺いしても……?」
「……はい。私は可愛いものが好きで……ぬいぐるみやお人形、可愛らしい服を集め埋めるのが趣味なのです。
しかし、私は男。そのような趣味は良くないと、ずっと言われ続けてきて、我慢しているんです」
……可哀想に。
好きなものを好きと言えないのは、どれだけ辛かっただろう。
長年抑え込んだ末に、身体を蝕むほどの闇を抱えてしまったのだろう。
「大丈夫ですよ。好きという気持ちは、尊いものです。
それは誰かに否定されるようなものでもなければ、他人の言いなりになるようなものでもありません。
今日は応急処置として、あなたの身体に浮き出た刻印を消します。
でも、根本はあなたの心にあります。
少しずつで構いません。
弱音を吐いて、自分を肯定していきましょう」
彼は、涙を浮かべるような笑顔で、私を見つめる。
「なんと……あなたのように優しい声をかけてくださった方は初めてです!
私は、趣味を諦めなくてもいいのですね!」
「はい。それでは……少し、目を瞑ってください。刻印を消させていただきます」
彼が目を閉じたのを確認して、私は深呼吸をする。
手を刻印に当て、闇を自身に取り込む──
「……っ!」
──ひどい動悸と激痛が走る。
……なんだ、この闇は……?
発作が起きるには早すぎる……!
震える手をどうにか気力で抑え、刻印を消す。
落ち着け……患者の前では、絶対に狼狽えるな……。
「……はい、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」
「っ!?」
──まさかの勢いで抱きついてきて、さすがに困惑する。
「ちょ、ロウマンさん!?」
「……ああ、なんて素敵な人なんだ……」
ゾクリとする低い声が耳を撫でる。
彼はふっと離れると、また満面の笑みで言う。
「すみません、つい感極まってしまって!」
「い、いえ……では三日後にまたいらしてください。再発するようでしたら、薬や別の治療法も試しましょう」
「はい!」
元気よく返事をして、軽快な足取りで出ていくロウマン。
私は椅子に座ったまま脱力する。
一部始終を見ていたシルロ先生が慌てて近寄ってくる。
手には一本の注射器。
「聖明先生、発作が出ておる。顔に刻印が浮き出始めておる。抑制剤を打つぞ、いいな?」
「……すみません」
左腕に消毒の感触、そして針が刺さる。
「……っ」
──何度打っても、注射の感覚は苦手だ。
私は深呼吸をして、なんとか気を落ち着ける。
「ほれ、もう大丈夫じゃろ。今ので今日の患者も最後じゃ。ゆっくり休みなされ」
「……本当にすみません。退院したばかりなのに……」
「仕方あるまい。おぬしの場合は闇を取り扱うのが仕事じゃからな。こういうことも多いじゃろうて」
先生はドアを開け、風真を呼ぶ。
……それにしても、あの患者さん……何か異質だった。
闇の濃さが、尋常じゃなかった。
まるで──魔人の闇に触れたような……。
「……聖明」
風真の声にハッとする。
「大丈夫? 発作が起きたって聞いたけど……」
「あ、ああ……大丈夫だよ。すぐにシルロ先生が処置してくれたおかげで、完全に起きる前に止められた」
「ならいいけど……病み上がりなんだから、無理しないでよね」
「うん、気をつけるね」
私は立ち上がり、風真の頭を撫でる。
すると彼は、少し嬉しそうに目を細めた。
その反応だけで、今日の疲れが少し吹き飛ぶ気がした。
「……それにしても、聖明先生」
不意にシルロ先生が、妙に意味深な声で口を開く。
「おぬし……男にもモテるんじゃな?」
「は?」
一瞬、何を言われたのか分からず固まる。
「儂は見ておったぞ! 今の患者に、抱きつかれとったじゃろう!」
「へ!?」
今度は風真まで反応し始める。
「聖明、セクハラされたの!?」
「うん!? セクハラ!?」
「だって、抱きつかれたんでしょ!?」
「そうじゃよ! 熱い抱擁をされておったぞ!」
「ちょっと、シルロ先生、黙って!」
思わず深い溜息が漏れる。
「……ちょっとテンション上がっちゃっただけだよ、多分」
すると、風真とシルロ先生が二人して集まり、ヒソヒソと話し出す。
「のう、風真。あやつ、自覚がない気がするのう」
「あ、わかります? 聖明って、何か恋愛とか無茶苦茶疎いんだよね」
「ほう、通りで! 距離感もバグっとるしのう」
「そうなんだよね、この前も──」
……なんだろうこの不愉快な団結力。
妙に気が合ってる感じもまた、腹立たしい。
「……私は少し休む!」
そのまま診療室内のソファーに転がり込む。
発作が起きかけたせいもあり、身体が怠い。
「そうじゃの、少し休んだほうがええ。
発作がどれほど辛いかは想像しかできんが、見る限り負担も大きそうじゃからのう」
シルロ先生はそう言いながら、椅子に座って新聞を広げる。
風真はカルテを丁寧に整理して、棚に戻し始める。
ちゃんと手伝ってくれるところ、本当に真面目だと思う。
「ほう……カゴノトリ、活躍があったようじゃの」
……その一言に、反応してしまう。
「ん……?」
「代理指揮官が一人で、ロックバードの群れを殲滅したらしいのう」
……何の嫌がらせだ。
私は黙って席を立つ。
「あれ、聖明?」
──今は、誰とも話したくない。
風真には悪いけど、私はそのまま診療所を出た。
外に出ると、空は夕焼け色に染まり始めていた。
「…………頭、冷やそ……」
宿に帰るのも、今はなぜか嫌で、私は静かに精霊の森へと足を向けた。
ーーー
「ジジイ、聖明に何かしたんじゃないのか?」
僕は、目の前のシルロ先生を問い詰めていた。
「ふぉっふぉっふぉっ! 何もしとらんわい!」
「でも、聖明出ていっちゃったじゃん! 無言でどこか行くなんて、見たことないよ!?」
本当に、珍しいことだった。
あんな苛立ったような表情で、それも無言で出ていくなんて、初めてのことだった。
「……からかいすぎたのかな」
思い返せば、出ていく直前。
僕は、思わずシルロ先生と聖明の距離感についてイジってしまっていた。
あれが原因だったのかもしれない。
……いや、でも実際、距離感が妙なのは前々から思っていたけど。
「それは違うと思いますよ」
リリーの声が聞こえ足元を見る。
すると黒猫姿の彼女は座りながら尻尾をゆっくり右から左に動かしつつ僕を見つめている。
「あれ、リリー?てっきり聖明と一緒に行ったのかと……」
「主が一人になりたそうでしたので、私は残りました」
「そっか……」
リリーも気を使うぐらい、様子が変だったのかな……。
「心配するでない!
あやつは、揶揄われたぐらいで怒るような男じゃあるまい」
「じゃあ、なんで!?」
そう言った瞬間、僕は不意に新聞を押しつけられた。
「読んでみろ」
「んー……
『闇魔法医療科にして、エクソシストとは別の指揮系統で独立して動く“カゴノトリ”……。
今回は代理指揮官であるセレスティーナ・ラファベル氏が単独でロックバードの群れを討滅。華麗なる光の剣技で屠る姿は圧巻の一言。
現在、指揮官である紅 聖明氏は特殊任務で不在中だが、代理を務めるセレスティーナ氏は着実に実績を重ねており、今後のさらなる活躍が期待されている』……。
ふーん、聖明が今いないから、代わりにこの人が指揮官してるんだ。
ん? それがどうかしたの?」
「……おぬしも、鈍感じゃったか……。
ふむ、その“代理指揮官”が、聖明先生のパートナーじゃよ」
「……え?」
「覚えておるかの? 入院前、儂が“セレスティーナ”とやらの名を出した途端、あやつは土下座して治療を承諾したじゃろう」
「あ……」
確かに、思い返せば――変なタイミングで折れていた。
「儂はな、心配なんじゃ。
あやつの発作は、普通の堕天使より進行が早すぎる。
早めにカゴノトリ本部で、本格的な治療を受けるべきじゃ。
……じゃが、あやつは“魔法都市に戻る”ことを極端に嫌がっておる節がある。
たぶん、その代理指揮官――セレスティーナとやらが原因じゃろう。
このまま逃げ続けても、あやつのためにはならん。
少し意地悪だったかもしれんが、考える時間を与えてやりたかったのじゃよ」
僕は新聞を広げ直し、写真に目をやった。
そこに映っていたのは、遠くを見つめるような鋭い眼差しをした人物。
風に靡く髪と、静かに立つその姿が印象的だった。
セレスティーナ・ラファベル――。
この人が“聖明のパートナー”。
聖明があんな態度を取るほどの相手。
……いったい、どんな人なんだろう?
「ジジイ! カゴノトリのこと、そんなに詳しいの!?」
「うむ? そうじゃな。儂も一応、エクソシスト付きの医師じゃからな。よく聞く噂程度なら知っておるぞ」
「じゃあ、聖明と、このセレスティーナって人のこと、わかる?」
「ほんの少しだけならの。
そもそもな、聖明先生の就任自体が、当時はかなり話題になったのじゃ。
“不老不死の堕天使”であるにもかかわらず、“転生して再び同じ役職に就く”――そんな稀有な例は滅多にない。
その上、同学年だったエクソシストが選抜試験に合格して、カゴノトリのトップのパートナーになった。
聖明先生と彼が揃って動けば、ほぼ確実に軍事任務は成功すると言われていたほどじゃ。
……まあ、それを良く思わん連中もいたがのう」
――知らなかった。
聖明が、そんなにすごい人だったことも。
“パートナー”と呼ばれるような存在がいたことも。
……僕は、今までに一度でも、聖明のことをちゃんと知ろうとしただろうか?
旅を始めて、もう半年以上が経っている。
隣にいたのに――僕は、聖明のことを何も知らなかったんじゃないか?
そんな当たり前の疑問に、足元がぐらつくような怖さを覚えた。
「……僕、聖明のこと……何も知らない」
するとシルロ先生は、髭を撫でながら静かに窓の外を見やった。
「人はのう、想像以上に他者を知らぬものじゃよ。
その人の人生は、その人だけのものじゃからな。
本人が語らぬ限り、知れぬのが当たり前なのじゃ。
風真、おぬしがそれでも“知りたい”と思うのなら、少しずつ聞いてみるといい。
もし答えてくれるなら、しっかりと聞くのじゃ。
……逆に答えてくれないなら、“今はその時ではない”というだけじゃ。
話すにも、勇気がいることは多いからのう」
――その言葉に、不思議と気持ちが楽になった。
「そうだね。……聖明のことだ。話したくなったら、きっと、勝手に話してくれる!」
僕は……そう信じている。
だから、無理に聞くのはやめようと思った。
気にならないわけじゃない。
でも、あの様子だと、きっと今はまだ答えてくれない。
“その時”が来るまで――待とう。
僕も窓の外を見上げる。
夜空には、瞬く星が静かに浮かんでいた。
ーーー
私は一人、精霊の森で過ごしていた。
魔石化した木々や草花。
風が吹けば脆くなった草花はお互いぶつかり合い、キンという音を立てながら割れて綺麗な粒子になり消える。
そんな様子を見ながら、大きな岩の上で足を抱えるように座っていた。
「何やってるんだろう…私」
大人気なくも風真の声を無視し、何も言わずこんな所まで来て…。
シルロ先生が開いていた新聞を思い出す。
ちらっと見えてしまった、彼の顔。
……見たく、なかった……。
「何で、こんなにも辛いんだ……」
考え始めたら止まらない思考。
彼は元気にしているだろうか?
私がいなくても仕事をしているのだろうか?
押し付けてしまった仕事、沢山あるな…。
君との約束も違えてしまった。
きっと怒ってる、きっと許してもらえない。
だって私はーー
「君を、呪って……消えたんだから……」
静寂が心に響く。
じんわりと広がる罪悪感。
「はは……覚悟してただろ……」
恨まれることも、憎まれることも、全て理解して呪った。
そして、瑠璃を、風真を救うために戻ると決めたじゃないか。
「いい加減、逃げてもいられないか……」
私は足を伸ばし、空を見上げた。
輝く星々の中に浮かぶ月白の星。
私は思わず手を伸ばした。
彼の髪とよく似た色の月に。
「…………セレス……」
気づけば、頬を伝い一筋の涙が零れていた。
「え…なん、で………」
私には、涙が出る理由がわからない。
ただ、また一滴、また一滴と零れていく。
この胸の苦しみは、なんという感情なのだろうか。
君の名を口にしただけで、こんなに息苦しい。
私は手のひらに落ちた涙を握りしめ、目を拭い立ち上がる。
「精々、殺される覚悟はしておこ……」
ぴょん、と岩から飛び降りる。
すると急にマナが溢れ出し、粒子が一塊になり形を作る。
『おや、人の子ではないか。"狭間"におらぬと思ったら、このような場所におったか』
銀髪の長髪と瞳を持つ、人よりも姿が大きい存在が光を帯びてそこにいた。
「精霊王…あなたもこのような場所にいらっしゃるとは……。散歩ですか?」
ーー精霊王。
文字通り、精霊界の王にして世界のマナを司る存在。
様々な名はあるが、あくまで人間が呼ぶ俗物的な名前だ。
敬意を払うためにも、私は『精霊王』と呼んでいる。
彼は目の前で人の形を取ってくれているが、本当の姿ではない。
本来の姿は、人には認識できない。
認識しやすいよう、人に似せた姿をしてくださっているだけ。
『左様、今宵は良い月夜だからね。人の世に訪れてみたのですよ』
私は精霊王と共に月を見上げた。
『人の子よ。ソナタが狭間から外へ出るとは思わなんだ。あれだけ消え入りそうな様子だったのに、何故、人の世に戻った?』
「……こちらで、まだやるべきことがあったようです」
そう、家に引き篭って死を願う日々は、もうおしまいだ。
あそこは静かで、誰もおらず、死ぬには惜しいぐらい良い場所だった。
『……そうか。"同じ時の流れを生きる"ソナタのこと。
気紛れに付き合うのも一興。またいつでも帰ってくると良い。あの家は狭間にそのまま置いておこう。ソナタの気配があるだけで、闇は精霊界に侵入しにくいようだからね』
「はは……ありがとうございます」
私の家は、三年前に身を隠すため精霊王を頼り、精霊界との狭間に移させてもらっている。
今は家を出て、旅をしている最中だ。
その家をそのままにしてくださるとは、ありがたい。
瑠璃と母さんの墓も、そこにある。
『ソナタの側は、心地が良い』
次の瞬間、精霊王はゾクリとするような笑顔を見せる。
『やはり精霊界に連れて行こうかね』
私は咄嗟に膝まづき、顔を下げ、言葉を選ぶ。
このまま頷いてしまってはダメだ。
「お心遣い、感謝痛み入ります。恐れながら私は穢れた人の身。
御身の側にいるには相応しくない存在にございます。
また、私は人の世でやり残したことがあるのです。
同じ時を司る者として、今しばらく世界を旅する時間を頂きたく存じます」
恐る恐る顔を上げると、精霊王は笑顔を消し、少し考え込むような顔をする。
『まあ、よい。ソナタの話を聞くのも楽しい。
連れ帰るのは、またとしよう』
「ありがとうございます」
精霊王は微笑むと、続けて言葉を紡ぐ。
『では、我は散歩の続きをする。また会おう、人の子よ。
次は楽しい話を聞かせておくれ』
「はい、必ず」
精霊王は微笑むと、粒子になり消えていく。
「……危なかった」
気に入られ過ぎても、嫌われてもいけない。
気に入られれば精霊界に閉じ込められ、一生出られないだろう。
そして、逆もまた然り。
嫌われてしまえば、何をされたものか分かったものじゃない。
前世から交流があるけど、この距離感は保たなくては……。
流石は精霊王というべきか。人の理屈は通じない。
今、会話できていること自体がおかしな話。
「流石に頭が冷えたな……」
色々な感情がごちゃ混ぜだったはずなのに、今の出来事で抜け落ちてしまった感覚だ。
きっと風真が心配しているだろう。
「流石に帰ろう……」
私は、光り輝く精霊の森を静かに歩き始めた。
ーーー




