↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カゴノトリ  作者: 灯夜 雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/371

第23話 堕天使の魔人(事件ファイル01)

沢山のキャラ(主にカゴノトリ陣営)が出てくるようになる話になります。

カゴノトリに正式復帰してから、早三カ月。

私は日々の業務を続けながらも、瑠璃や風真の役に立つための情報を探し求めていた。


正直言って、成果はほぼない。


「はあ……」


私は教授室で、生徒のレポートを見ながら溜息をついていた。


悪魔に関する情報は、それなりに手に入る。

闇にまつわる不可解な現象や事例にも目を通してはいる。


だが、瑠璃や麗に通じるような具体的な手がかりはなく、闇についても直結する情報は見当たらない。


魂に関する書物も読み漁ってはいるが、増えていくのは“別分野の知識”ばかりで、肝心の「魂を安定化させる術」には出会えていない。

そもそも、“魂が分裂する”こと自体が、前代未聞だ。


大天使様たちに相談してみたものの、「未知の領域だ」とか、

「そもそも魂は神からの贈り物。おいそれと触る領域ではない!」と、怒られる始末。


再び溜息が漏れてしまう。


「おや、聖明先生。元気がありませんね」


そう言って声をかけてきたのは、いつぞやのロウマン・アモール。

カゴノトリに送った後、一時期は龍の下に匿っていたが、私が復帰したのもあり、正式にカゴノトリへ所属してもらっている。


彼の首元には、私と交わした“血の誓約”の証である赤い薔薇の紋章が刻まれている。

堕天使により証の形は違い、マーキングのような認識もあるため、さすがに他部隊へ預けるわけにもいかず、今では私直属の軍事部隊に配属させている。


「んー少し疲れてるだけだ」


ロウマンは軍事関連の書類を届けに来たのだった。

私の部隊は、基本的に堕天使の中でも“火力特化の変わり者”が多く、端的に言えば──医療にはまるで向いていない。

そのため、私やセレスが医療業務に従事している間、彼らは軍事方面の任務を担っている。


「はい! ベレド卿がとっても優しくしてくださるので、毎日楽しく任務に励んでおります!」


ベレド卿は、面倒見がいい。

私の部隊にいる変わり者たちをも、自然と受け入れてくれる懐の深さには、感謝してもしきれない。


──と、思いながらも、どうにも気になる点があって、私は手を止める。


「ロウマン……一つだけ訴えさせてくれ」

「はい!」

「ここは一応、職場なんだが……?」


書類と一緒に、なぜか大量に運び込まれた可愛いぬいぐるみ達。

机の上にはギリギリレポートを置けるスペースが残されていたものの、それ以外の空間には所狭しとウサギ、ペンギン、クマなど、サイズも種類もバラバラなぬいぐるみが並べられている。


「聖明先生、可愛いものお好きでしょう?癒しですよ!」


悪怯れる素振りもなくシレッと言い張るロウマン。


……正直、否定はできない。

可愛いものは、好きだ。

ただ、自制はしている。持ち過ぎるのもどうかと思って。


唯一持っているのは、瑠璃と一緒に作ったテディベアの“パニョくん”。

それと……最近つい出来心で買ってしまった“クマ耳フード付きモコモコパジャマ”。


……風真や父さんには見せてもなんとも思わないんだけど、あまり外では知られたくない。

モフモフして着てるなんて……知られたら何かが終わる気がする!


「……ていうか、ロウマン。何で知ってるんだ?

私は、誰にも言ってないぞ?」


「あ、あれですよ!初めてご飯いただいた時!

先生、たっぷり闇をくださったじゃないですか!あの時、闇を通じて趣味とか好みとか、ちらっと見えちゃいまして!」


「あー……納得……」


思わず天を仰ぐ。

確かに闇を媒介にすれば、記憶や感情は見えやすい。

私も、他人に対してはよくやる技術だ。


……が、やられる側の気持ちって、こうも複雑なんだな。


私は気を紛らわせるように、近くにいた小さな青い目のテディベアを手に取って撫でた。


……モフモフで可愛い。

目の色が、セレスと同じ。


そんなことを考えながら、ふとロウマンに視線を向けた。


「……そういえば。そろそろ“欲しい時期”じゃないか?」


ロウマンは魔人だ。

本来であれば討滅対象だが、カゴノトリには彼のように“堕天使と血の誓約を交わすことで保護されている魔人や悪魔”が何人かいる。


誓約を交わした堕天使は、自身の“闇”を吸わせることで魔人の食事を提供する。

これは、堕天使自身が闇を制御する意味でも、非常に重要な役割を担っている。


私の場合は特にそうだ。

基本的に私は、他者の闇を吸収することに長けている堕天使だ。

あまりに多くを吸収しすぎると、発作が起きてしまう。

今まで血の誓約は交わしてこなかったが、流石に危機感もあり、ロウマンとは誓約を結んだ。


闇は増えてもある程度は順応して落ち着くが、たまに吸い出されたほうが回復も早く、安定することに気づいた。


「あ、はい!少しお腹空いてきましたね!」

「……流石に食べ方は、もう分かるよな?」

「はい!最初のようには噛みつきません!痛そうですし!」


初めての時は、とりあえず首を差し出した。

魔人としても初めての食事だった彼に、細かく説明してもピンとこないと思い、本能で理解させるために思いっきり噛みつかせた。

結果、一度でコツを掴んでくれたようで、私がいない間に他の堕天使から食事をもらう時も、“お利口さん”だったらしい。


私は、彼の前に左手を差し出す。

すると、ロウマンは私の人差し指をパクッと咥えた。


「ん……」


闇がロウマンへと流れ出す感覚に、思わず小さく声が漏れる。


基本的に、闇の譲渡は口で行うのが効率的だ。

そのため、過去に悪魔に吸われたときは、唇を奪われた。だが、普段からそれはしたくない。


口からというのは──つまりキスを意味する。

そんなこと、セレスに申し訳ない……。


だから、指一本でしっかり吸えるなら、それで勘弁してほしい。

唯一の難点があるとすれば、口同士なら一瞬で済むが、指のような末端では少し時間がかかること。


その分、自分の意思とは関係なく、わずかな時間だけ闇が体内を動くせいで、変に動悸がして辛い。

発作と違って痛みがないぶんマシだけど、あまり変な声を出さないように気をつけたい。


意識を逸らすように、持っていたテディベアを手元に置き、代わりにレポートを持ち直して内容を頭に入れようとした──その時、教授室のドアが開いた。


「聖明、こっちも講義終わった……ぞ……」

「……おかえり……」


大量の可愛いぬいぐるみに囲まれ、幸せそうな顔でロウマンが食事中。

そんなカオスなタイミングで帰ってくるとは思っていなかった。

時計を見れば、いつもより少し早い。私はため息を漏らす。


「おい、聖明、どこからツッコめばいい?」


……まあ、ですよね。


でも、セレスのことだ。

一番気になるのはロウマンのことだろう。


……実は、セレスに知られたくなくて、ロウマンと血の誓約を交わしていることをずっと隠していた。

普段からロウマンは軍服姿で首元が見えないため、黙っていればバレないと踏んでいた。

だが──指を咥えられている構図は、流石に言い訳しにくい。


しかも、闇が動いているため、私にもロウマンにも、闇の刻印が浮かび上がっている。

苦しんでいる様子もない。発作ではないのが一目瞭然。


要は、この時点で──バレた、ということだ。


「……彼が私の部隊に所属してるのは、知ってるよね?」

「そりゃ、俺の部隊でもあるからな」


「……血の誓約を、交わしている」


セレスの眉間の皺が一気に寄る。

うん、怒るって分かってた。


付き合い始めてから気づいたけど、セレスって……嫉妬深いんだよね。多分、付き合う前からもそう。

だから、都市に戻る前からも、本能的に“隠さなきゃ”って思ってた。

もちろん、戻ることを悟られたくなかったのもある。


……でも、流石にもう、付き合ってるわけだし。

何より私はセレスを道連れにしたんだから、ちゃんと話すべきだろう。


「……旅の途中で、発作が抑えきれなくなって……そのタイミングで生まれたての魔人に出会った。それが彼、ロウマン」


ロウマンは、ちょうど食べ終えたのか、私の指から口を離す。


「あ……ッ」


その瞬間、最後に闇を強く引かれた感覚に襲われ、変な声が出る。

自分でも驚いて、慌てて口を押さえた。


そして恐る恐るセレスを見上げると──彼の顔には凄まじい影が落ちていた。

正直、ブルッと震えた。


「聖明先生、ご馳走様です!」

「あ、うん……書類には目を通したら、直接ベレド卿と話すから。業務に戻っていいよ……」

「はい!セレス先生もお疲れ様です!」


ロウマンは、食事中は周囲の声が聞こえていなかったようで、今も呑気に挨拶しながら教授室を出ていった。


私は更に深いため息をついた。


「……おい、聖明」


低く絞られた声に顔を上げると、セレスの表情が強張っているのが見えた。


「せ、セレス、怖いよ……?」

「……悪いな、顔が怖いのは元からだ」


無茶苦茶、怒ってる……!


「し、仕方ないだろ……あの時は……これが最善って思ったんだ……!

闇も上手く抑えられなかったし……抑制剤も乱用してた。

黙ってたのは、ごめん……でも、セレスに知られたくなくて……」


すると、セレスも低く、重たい吐息を吐いた。

次の瞬間──手を掴まれ、仮眠室へと引っ張られる。


「なっ!?セレス!?」


そのまま部屋の鍵が閉められ、私はベッドに押し倒された。


「セレス、待って……!」

「……聖明」


真剣な眼差しで、まっすぐに私を見つめてくる。 その眼差しに、ビクッと身体が震えた。


「血の誓約は、百歩譲って仕方ない。 今まで悪魔や魔人を抱えてなかったのも奇跡だと思う。でも──もっと早く言ってくれ。

……俺以外の男に触れられてるだけで、気が狂いそうだ」


熱を宿した眼差し。 微かに震える声音に、私は言葉を失う。

……なんて、辛そうな顔をするんだろう。


「ごめん……君に、そんな顔をさせるつもりはなかったんだ……」


言い訳のようにしか聞こえないその言葉に、自分でも嫌気が差す。 そう思った瞬間──唇を塞がれていた。


触れるだけの口付けではない。

強引で、でも……どこか必死で。

彼の熱が、私の奥底まで流れ込んでくるようだった。


「……っ、やめ……セレス……!」

「……"餌"をやる時は一人でしないでくれ……何かあったらどうする……」


離れ際、掠れた声で、彼がぽつりと呟いた。

セレスは、少し情けないような、拗ねたような顔で懇願してくる。

……こんな顔するなんて、ずるい。


「……ごめ……気をつける、から……」


思わず言葉が詰まる。

どうしてだろう……胸が締めつけられる。前よりも、ずっと。


長い付き合いだと思っていたけど、こんな表情、知らない。

それだけじゃない……最近は、彼の綺麗な青い瞳が心の奥まで覗き込んでくるようで──怖い。


「……すまない、嫉妬だ。お前のことになると、余裕がなくなる」


セレスは困ったように笑い、立ち上がろうとする。 思わず、私は彼の服の裾を掴んでいた。


「あ……」


自分でもよくわからない行動に、戸惑ってしまう。

けれど、セレスはクスッと笑い、しゃがんで目線を合わせてくれる。


「いつの間に甘え上手になったんだ?」

「へ!?違っ」

「聖明、最近のお前は隙が大き過ぎる。だから、心配なんだ」


そう言って、彼は私の頬に触れる。

そのまま耳に指が触れて──思わず、身体がビクッと大きく震えた。


「ぁ…ッ」

「ほんと、耳弱いよな」

「やめ……気にしてるんだから、言うな、よ!」


セレスはぷはっと笑みを零す。


「そんな顔で睨んでも、可愛いだけだ。

……俺以外に見せんなよ?俺は嫉妬深いんだ」


「可愛いって……こんな背がデカいおっさん捕まえておいて、変なこと言うな……!」

「おっさんねえ……俺からしたら小さいし、お姫様だ」

「はあ?」


顔が熱を帯びるのがわかる。

意味がわからない。


確かにセレスよりは身長は小さいけど男としては大きい方。

顔は……母さんに似てるとは、思うけど……やっぱり可愛いなんて理解できない。

その上、お姫様って、目が腐ってるとしか!?


セレスは心を見透かしたような目でジトーと見てくる。


「俺の目は正常だからな」

「う"っ!」


セレスはクスクスと笑う。


変な気分だ。

彼が笑うと私まで胸が温かくなる……。

もっと、見ていたい、側にいたいと思ってしまう。


「ほら、立てるか?」


セレスは立ち上がり、優しく手を差し伸べてくる。

私はその手を取ろうとした──その瞬間。


唐突に、“あの日”の記憶が脳裏を過る。

セレスを闇に引きずり込み、酷い抱き方をさせた──あの契約の時間。

気づけば、手がカタカタと震えていた。


「……あ……」


最近、幸せを感じると同時に、勝手に不安と恐怖が体を支配する。

まるで「お前は幸せになってはいけない」と、誰かに言われているみたいだ。

私は……セレスを巻き込み、闇に堕ちたのだから……。


それに気づいたセレスが、そっと私を抱きしめ、耳元で囁いた。


「大丈夫だ……大丈夫。もう、あんなことはしない。

落ち着け……すまない……お前は悪くない。

今も乱暴に押し倒してた、配慮が足りなかった。ごめん」


その謝罪が、かえって私の胸を締めつける。


──違うんだ。セレスは悪くない。

私が……付け入ったんだ。全部、私のせいなんだ。


そう言いたいのに、言葉にできない。

嫌になる……昔から、何も変われてない。


トラウマひとつで、同じ症状を繰り返して。

その度に迷惑をかけて、また心配をかけて──

今ではセレスに謝らせている始末。


……情けない。


「……ごめ……大丈夫だから……」


もう、これ以上、心配させたくない。

私はセレスの腕からそっと逃れようと、身を押し退ける。


「……無理だけは、するな」


その声はあまりにも優しくて、今の私には残酷なほどだった。

その優しさが、深く、突き刺さる。


「……うん」


変に笑ってごまかせば、逆にバレる。

セレスは、私の“嘘笑い”を簡単に見抜くから──

なら、もう飾らないでいた方がいい。


私はそっと頷き、そしてセレスと共に、再び仕事へと戻ることにした。



ーーー



魔法国家都市の外れで、カゴノトリの一団が何やら軍事作業中。

そんな中、ロウマンが声を掛けながら合流してくる。


「ベレド卿、報告書、お渡しして参りました!」


元気よく挨拶するロウマンに、ベレド卿は豪快に笑い返す。

大柄な体の筋肉が笑うたびに波打ち、なぜか変に光を放っていた。


「お疲れ様だな!」


「ちゃんと、ぬいぐるみも渡してきましたよ!」

「でかした!!!儂が直接持っていっても、聖明は受け取らんからな!」


ますます上機嫌で笑うベレド卿。その横で、そわそわしているパートナーのリトが声をかける。


「ベレド様、きっと教授、困ってますよ……?

あと、呼び方!一応、上司ですよ!」


「困るくらいがちょうどいいんだ!聖明はな、幼い頃からぬいぐるみが大好きでな。

でも、好きなものを好きって、素直に言えん不器用な子だ!

少しくらい強引なほうが丁度いいんだ!」


そう言いながら、リトの小さな肩をバシバシと叩いて笑い続ける。


「べ、ベレド様っ……痛いです〜!」

「おお、すまんすまん!また調子に乗ったわ!」


急に真顔に戻るベレド卿が、ロウマンに向き直る。


「ところでロウマンよ、聖明は報告書に目を通しておったか?」


「いえ、セレス先生と何やら話し込んでおられました。

読み終えたら、直接ベレド卿と話すと仰っていましたよ!」


ベレド卿の表情が引き締まり、声のトーンが一気に低くなる。


「うぬ……やはり、思ったより面倒なことが起きそうだな。

直接報告に行くべきだったか……」


視線を足元に落とし、血で描かれた魔法陣に目をやる。


「ロウマン、お前はこのまま現場で闇の痕跡を探せ。

最悪の場合、悪魔か魔人が都市内に侵入しているぞ」


「何ですか? これ?」


「恐らく、都市に張られた結界を一時的に無効化した魔法陣だ。

さっき見つけたばかりだがな。

お前のように闇が少ない魔人なら、結界など意味をなさんが──

悪魔になると、結界が侵入を阻む。

それを無効化してまで入ろうとするということは──」


ピンときたように、ロウマンが手を叩いて言う。


「なるほど!

つまり、悪魔か、かなり強い魔人が侵入した恐れがあるってことですね!」


「そういうことだ。儂は緊急性を鑑みて、カゴノトリとエクソシストの両方に通達してくる。

リト、行くぞ!」

「は、はいっ!」


ベレド卿は足早に歩き出し、リトが小走りでついていく。

ロウマンは呑気に手を振って見送っていた。


「いってらっしゃいませー!」


だがその足元に残された、血の魔法陣は──

どこか嫌な気配を、静かに放ち続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。