↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カゴノトリ  作者: 灯夜 雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/371

番外編 カゴノトリという闇

カゴノトリの仕事の内、暗部にあたる話です。

短編でサクッと読めるように書いた小説でもあります。

「お前ら、一体何を考えている!」


教授室に怒号が響いた。

声を上げたのは、黒髪に赤い瞳を持つ男──闇魔法医療科の教授、紅聖明だった。

普段は温厚で知られる彼が、机に座りながら脚を組み、珍しく声を荒げていたため、室内の全員が彼に注目していた。


「で、でも、教授……!」


叱られている男子生徒の一人が、食い下がるように口を開く。


「“でも”も“しかし”もあるか!お前たち、何度言った!?

闇魔法は、耐性がない者には禁忌だと、散々教えてきただろうが!」


生徒の言葉をかき消すように、聖明はさらに声を荒らげた。

その迫力に、他のカゴノトリのメンバーたちも顔を見合わせ、小声で囁き合い始める。


「紅教授が怒鳴るなんて……本当に珍しいですね。あの生徒、何したんでしょう?」

「どうやら、闇魔法を使おうとしたらしいわ。しかも、それを止めたのが聖明ちゃんだったとか」

「まさか……ただの天使が?それ、自殺行為じゃない……」


──そう、闇魔法は誰にでも使えるわけではない。

使用が許されているのは、基本的に堕天使や魔族など、闇に耐性を持つ者のみ。

それ以外の者が使用すれば、最悪の場合、肉体が崩壊し死に至るか、精神を蝕まれて魔物に転化する危険性がある。

そのため、天使や人間が使うことは法律で禁じられている「禁術」だ。


「でも、もしかしたら、僕にも使えるかもしれないじゃないですか!!」


その一言が引き金だった。


──ドゴッ!


鈍い音とともに、教授の机が真っ二つに割れる。

聖明が拳を叩きつけたのだ。おそらく魔力も込められていたのだろう。


「一度、死ななきゃ分からんのか……!?」

「「ひっ……!」」


教授の鬼気迫る剣幕に、生徒たちは縮こまる。

聖明は、吐き捨てるように言い放った。


「闇魔法の単位は、取り消しだ。今後の受講も許さん!」

「そ、そんな横暴……!」

「エクソシストになるためには、闇魔法は必修なのに!」


二人の生徒は必死に食い下がるが、聖明の瞳は氷のように冷たかった。


「──なら、エクソシストは諦めろ。

そもそも、闇魔法を発動しようとした時点で、本来なら即座にエクソシスト隊へ引き渡されている。

罪に問われなかっただけでも、有り難く思え。

……わかったら、出ていけ。二度と俺の前に顔を出すな」


「くっ……!堕天使ごときが偉そうに……!」

「闇魔法の何がそんなに凄いんだよ、クソッ!」


捨て台詞を残し、二人の生徒はドアを乱暴に開けて飛び出していく。

足音が廊下の向こうへと遠ざかる頃──


「……聖明、大丈夫か?」


「はぁ...都市は平和過ぎる。闇の耐性がある私でさえ侵されるというのに...あいつらは闇の怖さも悪魔の怖さも知らな過ぎる」


まあ、実際にそうだ。

今この瞬間もエクソシストはどこかで闇の使者とも言える悪魔達と戦い続けている。

この都市は結界に守られ平和なせいか、外のことを知らない奴も多い。


エクソシスト候補生は必修科目として闇魔法を学ぶが、耐性がないため講義とレポートによる単位取得が一般的だ。

そのせいもあって実際に闇魔法に触れることがなく、想像力に欠ける。

定期的にあの様な馬鹿な生徒が出現しては、俺たち闇魔法に携わる『カゴノトリ』を困らせる。

……これも仕事の一環とはいえ、面倒だ。


「闇魔法に魅了された奴は厄介だぞ」


「はぁあああ……半殺しにできる実技を必修科目にしてくんないかな。ちゃんと治すからさ」


「一応、肩書は医者なんだから駄目だろ。半殺しは」


聖明は再び深いため息を吐き、壊れた机に再生魔法をかける。

綺麗に直してしまうのは、流石としか言いようがない。

繊細な魔法なだけあって、ここまで綺麗に直せるのは難しい。


「その『一応、医者』にさせる仕事じゃないと思うんだけどね、ここの仕事って」

「仕方ないだろ。適材適所だ」


意味深な会話を交わした後、俺たちはまた日々の業務へと戻っていった。



ーーー



「クソッ、あの堕天使……いい気になりやがって!」


人気のない廊下に、苛立ち混じりの怒声が響く。

声の主は一人の男子生徒。その隣にいたもう一人も同じく、険しい顔でうめいた。


「どうするよ。アイツのせいで、俺たちの出世コースが潰れちまうぜ?」


エクソシストは、この国における誇り高き国家公務員だ。

前線は危険だが、管理職にでもなれば安定と名誉が約束される。

それなのに、よりにもよって"堕天使"から闇魔法を学べだと?


悪魔と同じ力を使う異端者の講義など、冗談じゃない。

穢れた存在から教えを乞うなど、天使である俺たちにとって屈辱だ。


「強い魔法を使わせたくないだけだろ、あいつらは!

どうせ、俺たち天使に負けるのが怖くて、“禁忌”とか言って脅してるんだ。

だったらさ──闇魔法、使ってやろうぜ。アイツにぶちかませば、俺たちの方が上って証明できる!」


「……でもよぉ、どうやって?一応、教授で、カゴノトリの指揮官だろ?学生時代に学校を半壊させたって話も……」


「そんなのハッタリに決まってんだろ。

ていうか、あんなひょろくて気の弱そうな見た目の奴が、指揮官や医者とか……笑わせんなよ。お飾りに決まってるだろ?」


「ははっ、確かにな!じゃあ、手っ取り早く── 一人のとこを襲うか?」


「いいね、それ。抑えつけちまえば、どうせ黙るって。

ついでに闇魔法、一発くれてやろうぜ!」


二人は不敵な笑みを浮かべながら、声を潜めて廊下を歩き去っていく。


その背後──

薄暗い廊下の天井梁の上、一体の黒猫が静かに尾を揺らしていた。

紫紺の瞳が妖しく細められ、どこか人間を嘲るような光を宿す。


二人は気づかない。

自分たちの会話がすべて、誰かの使い魔に筒抜けであることに。


ーーー



空がオレンジ色に染まり始めた頃、二人の男子生徒が、人気のない病棟で一人歩く男の後をつけていた。

狙いは、散々罵ってきた相手──堕天使の教授、紅 聖明だった。


「いたいた、ちょうど良い場所にいやがる」

「俺が闇魔法を発動する。離れそうになったら止めてくれよ」

「任せろ。見張っておくから、上手くやれよな」


一人が空き部屋の中央へ進み、禍々しい魔法陣の中心に立つと、低い声で詠唱を始めた。

黒い光が魔法陣からじわじわと広がっていく。


もう一人の生徒は、廊下から様子を伺っていた。

教授は変わらず、外を見ながら立ち尽くしている。動く気配はない。


(よし、今だ──)


そう思って、詠唱している仲間に視線で合図を送ろうとした時、異常に気づいた。


彼の口からは、重なり合うように幾重にも詠唱の声が漏れ、

白目を剥いたまま、手足があり得ない方向に曲がりピクピクと痙攣している。

足元には血が広がり、魔法陣から伸びた黒い蔦のようなものが、まるで生きているかのように彼の血管を這っていた。


「な……っ!?」


あまりの異様さに悲鳴をあげて尻餅をつく。

恐怖で後ずさると、背後に何かにぶつかった。


本来なら、そこは誰もいない廊下のはず──

だが、そこにはいつの間にか、無表情で佇む教授の姿があった。


「せ、紅教授……っ」


声が震える。彼は何も言わず目を細め、変わり果てた詠唱者に目を移した。


「……はぁ、面倒だな」


その一言のあと、目の前の教授は容赦なく俺を蹴り飛ばした。


「うわっ──!」


飛ばされた体は、もがく仲間の上に叩きつけられ、

背骨が嫌な音を立てて折れた。血の感触が生々しく肌にまとわりつく。


「ひ、ひぃいっ!!」


這って逃げようとしたその足を、黒い蔦が絡め取った。

叫び声が喉を突く。


「だから言っただろ? 闇魔法は禁忌だって」


不敵に笑い、しゃがみ込む彼の赤い瞳が、ぞくりとするほど冷たい光を帯びていた。


「な、何する気だ!! こんな……!」


「“カゴノトリ”の仕事、知ってる?

私たち堕天使は“闇に侵された者”を治療するのが本分。でもね、それだけじゃない」


「な、なんだよ……」


「君たちのように、自ら闇魔法に手を出して“自壊する愚か者”を──始末することも、我々の任務に含まれている」


「始末……?」


「放っておけば魔物に転化して、人を、街を、国家を呑む。

そんなのを見逃すほど、国家は甘くない。

君たちは“既に討滅対象”なんだよ、少年」


「ふざけんな! 治療するのが仕事だろうが!」


「君のような者を、“治療対象”と国が認めるとでも?

君は国にとって“始末すべき爆弾”だ。……あくまで静かに、跡形もなく処理する。それが“闇の後始末”だよ」


「ふ、ふざけ……! そ、そんなの……!」


「記憶操作。闇魔法の応用で出来ると、講義で教えたろ?」


「……う、嘘だ……ただのハッタリ……!」


「ならそう思えばいいさ。

私はこれから、君たちに関わるすべての人間の記憶を消す。

君たちが“最初から存在しなかったように”」


聖明は悪魔のように笑いながら、くるりと背を向けて扉へ向かう。


「ま、闇を覗いた罰だ。……せいぜい苦しむといい」


震える手を伸ばすが、その背に触れることは叶わなかった。

魔法陣の闇が、血と共に全身を飲み込んでいく。


──そして。


廊下に、断末魔の叫びだけが響き渡った。


「……セレス」


廊下には待ち構えていたように、セレスが壁に寄りかかり、腕を組んで立っていた。

名を呼ばれた彼は顔を上げ、何も言わずに教室へと入っていく。


響き続けていた叫びが、ピタリと止まる。

間もなく、ビチャッと何かが倒れる音がして、静寂が支配する。

やがて教室の隙間から、赤い血がじわじわと染み出し、廊下に広がっていった。


「始末ぐらい私がやるのに」


そう呟くと、すぐに中からセレスが出てくる。

返り血が、あの月のようなプラチナブロンドの髪に赤く散っていた。


「こんな奴らのために手を汚すな」

「セレスの手を汚したくないんだけどねぇ」

「今更だろ」


彼は無造作にその髪を指先でなぞるように拭うと、私の方へ視線を向けた。


「ごめん、汚れちゃったね」

「後で綺麗にするさ」


「じゃ、私は仕事してくるね。皆も先に動いてるし、待たせたら申し訳ない」


「──あぁ。ここを片付けたら後を追う」


私はニヤリと妖艶に笑い、赤い瞳を輝かせながら、軽やかな足取りでその場を後にした。

背後で、セレスが汚れた白衣を脱ぎ捨てる気配がする。

残された部屋の片付けを、彼に任せることにして、私は仲間のもとへ向かった。



ーーー



翌日。

いつものように業務をこなす闇魔法医師たちの集団。

その中でも、黒髪に赤い瞳を持つ彼──闇魔法医師の長は、コーヒーを片手にレポートへと目を通していた。


「……あぁ、このレポートは存在しないんだったね」


ぽつりと呟くと、手にしていた紙をゆっくりと破り捨てる。

その横顔には、確かにニヤリとした笑みが浮かんでいた。


ここは堕天使たちの巣窟。

闇魔法を統べる者たちの、密やかなる居場所。

その名も――闇魔法医療科《カゴノトリ》。


“籠の鳥”たちは、今日も何食わぬ顔で日常に溶け込み、癒しという名の力をふるう。

さて、次に触れる闇は……一体どんな顔をしているのだろうか。


記憶操作は闇魔法の領域内。

エクソシストも記憶操作魔法は存在するが、精度が低いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。