13.
「来てくれて助かったよ。私一人ではとても村まで運べなかったからね」
「……気にするな。だが、ジンを追いかけて行ったはずなのにどうしてこんな事になってる」
軍隊兎達が去っていった後、気絶したバートンをどうしようかと悩んでいると、ゴーラが藪を掻き分け現れた。
とても一人では担いでいけないし、置いていくのも可哀想で困っていたから助かった。
ゴーラはジンの後を追い、飛んで行ったバートンの後をさらに追いかけて来たそうだ。
「バートンが飛んでいった方に真っ直ぐ進んできたが誰とも合わなかった。時間もそこまで空いていないはずだ。……まさかイルがやったのか?」
「いやいや、違うよ。いろいろあったんだけど、野生の力を知ったって所かな」
「……なんだそれは」
バートンをゴーラと一緒に運ぼうとしたら、一人で大丈夫だと断られた。
村に引き返す道すがらでここまでの経緯を説明した。
「……なるほど。ジンでもイルでもなく軍隊兎にやられたのか」
「そうなんだよ!あの子達の事は図鑑で読んで知っていたんだけどね、やっぱり本物を直に見ると全然違うんだ。文字で書いてある事だけでは想像もつかないような事ばかりだったよ!この感動を自分の中だけで抑えておくなんて到底無理!だって、」
「……ちょっと待て。その話相手は俺には務まらん。ジンかノマ先生にでも話してやるんだな」
「あ、ああ…ごめんよ。ちょっと熱くなり過ぎてしまった」
先程までの軍隊兎の連携ぶりを思い出すと興奮し過ぎてしまい、ジンやノマさんに話す様に話し出してしまった。
ゴーラはあまり興味は無かったようで申し訳ない。
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ゴーラがやって来たという道を辿って村に戻っていると、どうやら本当にゴーラは一直線に向かって来たという事がよく分かった。
来る時はあんなにも茂みや木々を縫って走って来たのに、獣道ではあるが見事な一本道が出来上がっていた。
覚醒によって並外れた怪力を持っているゴーラなら、邪魔な草木を避けて来るより、全て薙ぎ払って一直線に進んでくる方が早かったのだろう。
私には出来ない覚醒者ならではの力技ではあるが、お陰で帰り道はとても楽だ。
それに、最後に軍隊兎と別れたあの大木までこれから来やすくもなった。
あれだけの事があったあそこで、また会える可能性は低いと思うけど何か手がかりは掴めるかもしれないし。
そろそろ村が見えてくる頃に、不意にゴーラから話しかけてきた。
「……イル。またジンと一緒に何かやっているのか」
「えっ?ジンは関係無いよ?私一人だ。ノマ先生に探索者になりたいと話したら課題を出されてね。私の力でどうにかしなくちゃいけないんだ。バートンから聞かされてない?」
いつも一緒にいるし、バートンを追ってきたなら知っているものだと思っていたけど違ったのか。
「……そういう事か。さっきジンとバートンが軍隊兎がどうのと話していたのを聞いただけだ。……捕まえるのが課題なのか?」
さっきも追いかけてたみたいなことを言っていたし、話してた時にジンと何かあったのかな?
「そうなんだ。まあそれだけじゃ無いんだけど、うちの1つが畑の被害を解決することなんだ」
「……そうか。それは一人でやらなきゃいけないのか」
「そうだね?私の課題だし、一人でやり遂げてノマさんを認めてもらわなくちゃね」
バートンを担いでいても歩調の変わらないゴーラは、ずっと前を見て歩き続けている。
少し間が空きながらもぽつぽつと話を続けている。
「……そうか。怪我しないように気をつけろ」
「…ありがとう。あんまりゴーラと二人で話した事無かったけど優しいんだね。バートンだけじゃ無くてもっと他の人とも一緒に話したり遊んだりすればいいのに」
ゴーラが家族やバートン以外の人と話しているのを見たのはノマさんとジンくらいだろうか?
「……いい、俺はこれくらいでちょうど良い。……話は得意じゃないし無愛想だからな。新しい繋がりは難しい」
「繋がり?」
「……いつも親父が言っている。……一人前の鍛冶屋になりたいなら“繋がり”を大事にしろってな。……道具の具合や……炉の火加減……その日の天気や気温、いろんなものが繋がり関係して仕事になる。……そしてそれを使う人のことまで考えてこその一人前だってな」
「流石、村の頼りの鍛治職人だね」
ゴーラの親父さんはこの村で唯一の鍛治職人だ。
畑の農機具や柵、獣を捕える為の簡単な罠、調理用の器具までなんでも作ってくれている。
確かにこの村こそみんなが繋がり、その道具を使い、作物を育て、それを売ったお金で更に村の役に立たせてみんなを豊かにしている。
一人では出来ないことも、繋がることで可能にしている。
それを常に見ているからこその言葉だな。
「俺は人との繋がりは苦手だからな。今ある繋がりをまずは大事にしてる。こいつとは腐れ縁だがな」
ゴーラとバートンは、ズミ村生まれのズミ村育ち。 同い年の幼馴染というやつだ。
一緒に走り回り、一緒に悪さをし、一緒に怒られてきた。
これまで培ってきたお互いの繋がりはきっと二人にとって大事なものだろう。
その繋がりも、いつかこの村や、もしかしたら村の外に向けて力を発揮することがあるかもしれない。
「……とても俺には出来ないが……どんなモノにも興味を持って繋がろうとできるのは立派なお前の力だと俺は思うがな。一人に固執しなくても、“繋がり”に足りないところを補ってもらえるのも自分の力の内なんじゃないか?」
「……そうか。ありがとう、ゴーラ。自分の試験ということで一人に固執していたかもしれない。参考にしてみるよ!」
「……ならいい」
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村のはずれの辺りで別れた後、ゴーラが言っていた繋がりについて考えていて、試験課題に対する今後の取り組み方針が少し定まってきた。
本当に私一人だけの力や技術、知識だけで今回の課題を解決させようと思っていた。
だけどこの先、村を出て本当に探究者になれるなら、私は一体どんな探究者になりたいのかを考えた時、それは目指すべきところなのか。
ゴーラの言う“繋がり”を大事にする事はとても大切なことだと思う。
きっとそれは、自分の周りに対する接し方や関係性といった事だけでなく、私の目指す探究者のあり方としてとても重要なことだと思った。
何か未知の発見をしたい時に好き勝手に荒らしまわって何としてでも探し出したいのか。
何か問題が起きた時に、その物事を解決する表面的な事だけを考えて、その後に繋がり起こることを考えなくていいのだろうか。
私が昔から知りたいと思ってきたことは、人や物や動物だけでなくそれによって繋がっていく世界のあり方まで知りたいのだ。
目の前のことだけでなくそれらの繋がりまでを理解して自らもそこに繋がれるような探究者になりたいと、そう思った。
だからこそ、今回の課題も全ての関係性をもう一度確認して、これからの村や私自身の在り方をどうしていくのが良いのか考え直すことにした。
バートンが言うような、相手を圧倒させる力は私にはまだない。
だけど、世界は力だけで成り立っているわけじゃない。
人も、動物も、環境もそれぞれが繋がり合い、影響し合って、この世界を形作っている。
軍隊兎達も、そのうちの一つだった。
ただの獣なんかじゃなく、互いを理解し、役割を持ち、繋がりの中で生きている存在だ。
そして、その繋がりが圧倒的な力を覆すことも目の前で証明してくれた。
なら私は、その繋がりを読み解き、関わり、繋いでいく事で課題を解決したい。
そしてそれが――
私の目指す探究者の在り方だ。
「まずは準備を整えて、もう一度あの森を調べ直さないとね」




