第九十一話【眠れる竜、覚醒の時?】
新年明けましておめでとうございます、昨年中はご愛読いただきありがとうございます。
本年もご愛読を願います。
そして三が日早々から被害に合われた方々へのお見舞い申し上げます。
本作品が読者である皆様の気持ちを上向かせる為に、その一助にでもなれれば幸いです。
…さて、今度のお話しですが。
馬車に不法侵入?していたナゾの学院生の正体が判明。
西の貴族学院と言えば…。
そして終盤、まさかの対戦要求が?!
馬車の中で対面座りに月夜と依然がナゾの女学院生と相対していた。
彼女はオレンジ色でツインテールの髪型をしたロリ美少女の容姿をしていた。
「…先ずは貴女のお名前と在籍する学院をお教え願えませんかしら?」
月夜は努めて冷静に振る舞った。
内心は自分の馬車に見知らぬ他人が潜り込んでいたのだから冷静でいられるハズは無かったが。
「私は…西…の…………グウ〜。」
言ってる側からまた眠りこける女学院生。
「コラコラ、起きなさい!」
依然が女学院生の身体を揺さぶって起こす。
これが美鈴なら「寝るんかーい!」とか叫んでハリセンでぶっ叩いてるに違いない。
…いや、さすがに初対面の相手に対していきなりそんな事はしないだろう………うん、多分。
「…んあ?」
「ん、んん~っ…。」
女学院生は大きく伸びをした。
「堪忍なあ…。昨夜は王都へのお出掛けが楽しみで寝られへんかったのやわぁ。」
「その喋り口調…貴女は西の貴族学院の方なのですか?」
依然が質問しながら女学院生から離れる。
「そうやわ、確かお腹が減って炎龍に買いに行かせたタコ焼き頬張ってたらお腹膨れて眠うなったんやわ。」
「宿を探しに行ったお付きの従者とは二人してはぐれてしもうたし…。」
「炎龍が宿を探しに行ってる間にフラフラしてたら…なんや寝心地の良さそうな馬車に惹かれてしもうて…つい…。」
また瞼が閉じそうになる女学院生。
(炎龍て、どこかで…。)
月夜は聞き覚えを感じて思考を巡らせる。
「ね、眠る前にお名前だけでもお聞かせ願えませんか?」
「Zzzz………。」
しかし依然の訴えも虚しくまたもや彼女は眠ってしまうのだった。
「もしもし、起きて下さい?」
依然が身体を揺するも、完全に寝落ちしてしまったようで全く起きない。
「いいわ依然、このまま寝かせてあげましょう。」
「しかしお嬢様…。」
「幸い寮には空きが有ります、今晩は彼女には寮で一泊していただきましょう。」
「それに彼女は貴女が言ったようにおそらく西の学院生…ならば学院長代理を通じてあちらに連絡を取り引き取っていただきましょう。」
「そうですね。」
二人は呑気に眠りコケる西の女学院生を諦め顔で眺めるのだった。
…………………。
そんな頃、美鈴は。
「あら?」
いつの間にか本気で走ってるうちに仲間達の乗る馬車を追い越してしまっていたようで既に寮の庭まで辿り着いていた。
「変ですわね、いつ皆さんを追い越してしまいましたのかしら?少しランニングハイになり過ぎましたかしら?」
その割には衣服や髪は乱れてないし汗すらほとんどかいていないのだが…。
ポン、と手を叩く美鈴。
「あ、そうでしたわ。」
今理由を思い出したらしい。
「皆さんとは別のルートを通って来てましたっけ。」
そうなのだ、コイツはサッサと皆に追いついてしまっては結局馬車に乗ることになり、それだと自走トレーニングを満喫出来なくなるからと敢えて遠回りルートを選らんだのだった。
「まあ玄関で待ってれば皆さんもすぐに帰られる事でしょう!」
そしてその間、トレーニング量が物足りない筋肉の疼きに応える為に裏庭で巨岩を持ち上げウェイトトレーニングを兼ねたヒンズースクワットを繰り返すのだった。
前は愛麗がその巨岩代わりのウェイトに使用されてたっけ。
結局トレーニングの途中から愛麗の体重では期待するほどの負荷にはならないからと、庭の飾りとして置いてあったこの巨岩をウェイト代わりにしていた。
もしかして大事なモノかも知れないから壊さなきゃいいがな、その岩。
だがその岩のおかげで命拾いしたな、愛麗。
まあ今まで美鈴の攻撃で死んだり重傷を負ったりはしなかったからそんな心配など無用かも…知らんけど。
「………百八!百九!百十………!」
ほとんどの寮生達がまだ日曜日の外出中だったのでこのバケモノじみたトレーニングが目撃されなかった事は幸いだった。
この時の美鈴のトレーニングを見たらお嬢様な生徒達は引くこと間違いないだろうからな。
「あらやだ、汗が出て来ましたわ。」
「制服の洗濯が必要になると嫌だからこのくらいにしときましょうかしら?」
美鈴はソッと巨岩を元あった場所へと戻した。
ちょっとだけ指のめり込んだ後が見えるような、見えないような………、多分気のせいだろう、ウン。
しかしあれだけ散々身体使ってやっとの汗か?
一体コイツの身体はどうなっとるんじゃ…?
…等と美鈴がトレーニングをやってる間に寮の門から馬車が入って来た。
「あら、月夜先輩の実家の家紋が入った馬車ですわ。」
美鈴はハンカチで額にうっすら滲んだ汗を拭いた。
…………。
停車した馬車の中から依然が一人の学院生をおぶって現れた。
「おや…そちらのお方は?」
美鈴が依然に聞くと、依然は困ったように月夜の方を見た。
「私達も知らないのよ。」
「途中で面識の無い方を乗せられたのですか?」
「いえ、それが私達が乗る前に既に馬車に乗ってらしてたようでして…。」
依然が苦笑する。
「何何?何ですか?」
他の馬車から降りた明花達も美鈴の下に集まって来た。
「とにかく、この学院生の方についてはこれからお話しを伺うつもりです。」
「それでこの方はどうされるのですか?」
「…連れて来てしまった以上、今晩は私達が責任を持って面倒を見る事に致します。」
「こんなにグッスリと眠られては仕方ありませんもの。」
幸せそうな寝顔で「スピー、スピー…。」と寝続けるナゾの学院生。
(はっ…。)
そして美鈴は依然を見ている月夜の背後で炎が燃え盛っているのにようやく気が付いた。
(もしや月夜先輩は依然さんを嫉妬してらっしゃるのでわ?)
依然の顔が少し照れている。
多分学院生をおぶってるせいでその身体の感触を感じて恥ずかしいんだろうな。
不穏な空気を感じたのか、美鈴は慌ててこの場を去る事にした。
前に修羅場を体験してるだけに同じような光景は見たくないらしい。
「で、でわ皆さん?」
「月夜先輩もこうおっしゃられてるので私達は退散…もとい、解散する事と致しますわ!」
「え?」
「ど、どういう事ですか?」
集まったばかりで事情を飲み込めていない明花と闘姫から疑問の声が挙がったが、それを無視して美鈴は彼女らを強引に押し下がらせた。
「お嬢様、お待ち下さ〜い!」
「美鈴様〜?」
側仕え達も慌ててその後を追う。
「ふ〜っ…。」
月夜は息を吐いて心を落ち着かせた。
「では、参りましょう依然?」
「あ、でも学院長にはどう説明するのですか?」
「そ、それもそうですね…。」
月夜は美鈴達の背中に呼びかけた。
「皆さーん!1時間後私の部屋までおいで下さいなー?」
結局その後、月夜は事を荒立てるような言動は慎んだので美鈴の心配は杞憂で終わるのだった。
………………。
「で、呼ばれた通りにお邪魔しましたが?」
「お呼び立てしてすみませんわ、皆さんはそこのソファーに腰掛けていただけるかしら?」
ズラリと月夜の部屋に集まった面々。
ソファーはあらかじめ5人全員分を月夜の学習机と対面に並べられていた。
「では、お言葉に甘えまして。」
美鈴が振り返りメンバー全員に向かって頷くと、美鈴を中心にその両脇を明花と闘姫が座る。
芽友は明花の、愛麗は主の美鈴の横に陣取る闘姫を挟んで座る事に。
そしてナゾの学院生が月夜の学習机用の椅子に、そして彼女を挟むように置かれたキッチンの椅子の片方へ月夜が座っていた。
「まずはお茶をどうぞ。」
依然がテーブルに人数分のお茶をそれぞれの手前の位置へと置くと、彼女自身も月夜と対面になる椅子へと座る。
「どうぞ、遠慮為さらないで。」
月夜に促されて美鈴がお茶を一口飲むと、全員がそれに習うのだった。
「…ふう…。」
落ち着きを取り戻した皆から口々に安堵の息が洩れた。
「…では、早速お聞きしてよろしいかしら?」
月夜がナゾの女学院生に尋ねる。
「貴女はどちらの貴族学院生でいらして?」
グビッとお茶を飲んでからその女学院生は語った。
「私はぁ、西の方から来たんですぅ。」
「西の貴族学院、という事ですか?」
依然がナゾの女学院生の答えに反応した。
「そうですぅ、西の貴族学院高等部の二年生ですわぁ。」
「ああ、そう言えばどことなく西の方の口調のようですわね。」
「そうなんですね?私の実家は元々東寄りでしたから初めて聴く口調です。」
明花の実家は今では魔法医療所の資格を得た治療院となっているが元々は商家だった。
が、然程大きな商家でも無かったようで、あまり西の交易商人と直接の関わりは無かったようだ。
明花の祖父母の代で医薬品も取り扱うようになり、その縁から両親が医学を学んで魔法医学の研究に取り組み、現在の魔法医学研究所も兼ねた治療院に至ると言う経緯がある。
治癒魔法や回復魔法には魔法の才が必要となるが魔法を使用しない医学ならその才が無くても学びや訓練技術や道具、薬品などで人々の治療を行えるため汎用性が高い。
その上で治癒魔法や回復魔法をそれに織り交ぜ融合すればその効果はもっと高まるし広められる。
魔法と医学、互いに足りないものを補い合う事も可能になる。
救命や重傷者の手当てから重病治療に至るまで…魔法医学は可能性に満ちていた。
その功績が認められ明花の実家「文家」は貴族へと取り立てられた。
そして研究の為の経済力は未だ継続されている祖父母の商いによって少額の資金援助をされ、国からも幾らか援助を受けられるようにもなった。
そして治療院の運営資金の元は魔法医学による器具や治療、並びに魔法医学の薬品販売で等で得られる利益。
これらを総合しても研究費用や人件費もあるので周りが思うほどの利益は中々出ないのも実情ではある。
明花はそんな実家の台所事情について多少は知っているせいもあり実家の地位を謙遜するが、文家は庶民の出とは思えぬほどに影響力や発言力を身に着けつつあった。
………まあ、それはともかく。
「それで、その西の貴族学院から来た貴女のお名前は?」
「ほぁ?」
「ほぁ?じゃなくてお名前を教えて下さいな?」
月夜が焦れったそうに西の貴族学院生に聞いた。
「私の名前…」
「…土門竜ですわぁ。」
なんだか漢字だけ読むとエラく強そうに聞こえる名前だなあ。
見た目に反して凄く強い実力者だったりして?
「土門さん、ですか。」
(あら、何処かで聞いたような…?)
月夜は記憶を辿る。
だが直ぐには思い出せない。
「ええと…それでは土門さん、貴女は何用で王都まで来られたのでしょう?」
「勿論、王都へは観光に寄っただけに決まってますわぁ。」
「はあ、観光…。」
(ん?)
何かが引っ掛かる美鈴。
「あの、私からもお聞きしてよろしいでしょうか?」
美鈴が月夜と土門に質問の許可を尋ねた。
「全然構いませんよ、ですよね土門さん?」
月夜からにこやかに話しかけられた土門だが、何故かその瞳の奥から威圧的な視線を感じてギョッとする土門であった。
「もも、もっ、勿論、ですわぁ…。」
「そうですか、では遠慮無く。」
美鈴は一拍置いてから土門へと話しかけた。
「失礼ながら…土門さん、貴女はお一人て王都に来られたのですか?」
「ん?…はて…。」
「私は観光とはいえお供に誰も付けなかったのか、そう聞いているのでございますわ。」
「ああ、確かにそれが普通ですよね。」
明花はこの美鈴の質問に同意した。
「えと…そう言えば下級生と従者を連れて来てたような…(汗)。」
(このハッキリとしない土門さんの様子から察するに、お付きの生徒と従者の付き添いを嫌がってるのかも知れませんわね…。)
「なるほど…ではまだ王都に誰か土門さんを探している方がおられるのかも知れませんね?」
闘姫はこの情報からより具体的な解決案を出した。
「そうね、なら話しは早いわ。」
「こうしましょう、これから王都に向かうワケには参りませんから明日早朝王都入りして人探しへ向かう事とします。」
「土門さんは今晩はこの学生寮に泊めてあげましょう。」
「では私は直ぐさま学院長代理に話しをしてきますので、皆さんは土門さんのお相手をお願い致します。」
「月夜お嬢様、どちらのお部屋にお泊りしていただくのでしょうか?」
「そうね…。」
ジロリと面々を見回す月夜。
「陰潜さん、貴女のお部屋は…」
その時、月夜の言葉を多彩蜂が遮った。
「ダメーっ、それはダメです!絶対に!!」
「?…なら彩蜂さん、貴女のお部屋でも…」
「だっ、ダメダメダメーッ!!」
今度は陰潜が猛反対した。
「な、なんでそんな猛反対されるの?」
月夜は困惑した。
「それなら…闘姫さん、貴女のお部屋も一人部屋でしたね?」
「え?私…でこざいますか?」
チラッと美鈴の方を見る闘姫だったが…。
「なるほど、確かに姫さんなら武や魔法の実力も高いし適任ですわね?」
美鈴は闘姫の気持ちを知ってか知らずか…まあ気付いてないんだろうけど月夜の提案に賛同した。
闘姫は美鈴の言葉にガックリと項垂れた。
もっとも美鈴の先ほどの言葉に反応を示したのは闘姫一人だけでは無かった。
「武の…魔法の…実力?」
土門竜の雰囲気が変わった。
「ええ、彼女は武と魔法、どちらも凄い実力と才能を持っていらっしゃるのですわ。」
美鈴が我が事のように自慢した。
すると。
「なるほど…ならこの人が中央貴族学院高等部の今年の…。」
ブツブツ呟き始めた土門竜。
「では皆さん、この場はお任せしましたわよ。」
そう言って月夜がこの場乎立ち去ろうとした時。
「お待ち下さいなぁ。」
土門が月夜を引き止めた。
「どうせなら、この闘姫さん?とか言うお方との手合わせを望みたいですわぁ。」
「は?」
「え?」
「いや、何で?」
口々に驚きの声が挙がる。
「ですのでぇ、学院長代理さんとやらにはこれから試合の許可も併せてお願い致しますわぁ。」
ニッコリ微笑む土門竜だが、その瞳は全く笑っていなかった。
土門竜。
名前からして強そうなのに見た目はロリ可愛い少女というこの相手、闘姫を中央貴族学院高等部の代表と勘違いしての対戦要求。
さて、彼女は西の学院の何なんでしょう…て、もうお分かりですよね(笑)?




