第八十九話【ナゾが解けて…新たなナゾが…?】
陰潜は偽者の美鈴に連れ去られるところを本物の美鈴と多彩蜂らの活躍で難を逃れます。
そして学院長室で彼女は事情を聞かれる事に。
紅茶に混ぜた薬を飲まされた陰潜。
彼女は目を閉じ眠ってしまった。
そして。
「さて、このコは少しこちらを知り過ぎてしまってるからねえ…記憶を消してやろうか?」
美鈴の姿をしたその女は冷たい目で陰潜を見ていた。
(何を知り過ぎましたの?)
「なあに、カウンター魔法を授ける時に勧誘ついでで色々無断話しもしたからさ。」
(では、カウンター魔法は貴女が陰潜に?)
「ああ、代表戦で勝ちたそうにしてたから新血脈同盟に入る事を条件に近付いたら見事に誘いにノッてねえ…………て、、え…?」
「では陰潜さんはもう新血脈同盟とやらに?」
「いや、優勝した見返りに、と…。」
美鈴の偽者はドアを向いて警戒した。
いつの間にか誰かと会話してる事にやっと気が付いたのだ。
そして彼女が声のした方を目で辿ると、ドアを魔法鉱石が貫いていた。
その魔法鉱石の先端が開き、スピーカーのようになっている。
「な、誰だ?何時の間に?」
(あら、もう気が付かれましたの?)
(もう少し色々聞き出したかったのですけれど残念ですわ。)
そのスピーカーから聞こえてくる涼しげな声が偽者の美鈴に話しかけていた。
コロコロなる鈴の音のようなその声。
「…ま、まさか、オマエは…!」
美鈴の偽者の顔が歪む。
そしてドアを覆っていたボンヤリとした魔力の輝きが消える。
ドカアッ!
そのドアが思い切り蹴破られた。
その入口から眩しい陽射しが入ってきた。
「お帰りなさいませ、誘拐犯さん?」
そこに立っていたのは言わずと知れた本物の美鈴だった。
「め、美鈴だと?」
「あら、私ソックリなお方が一人…?」
美鈴同士がドア一枚分の入口を挟んで対峙するシュールな光景。
しかし双方から溢れ出す魔力はクッキリと陰陽が分かていた。
禍々しい黒いオーラを纏う美鈴の偽者が室内に、そしてまばゆい白光を放つ部屋の外にいる美鈴。
誰の目にもどっちが本物かは一目瞭然だった。
「、陰潜?!」
美鈴(本物)の背後からソファーに横たわる陰潜を目ざとく見つけたのはもちろん多彩蜂だった。
「さて…もう一人の私、その背後で寝てる子をコチラに帰していただけるかしら?」
「…帰してもいいが、その前に少し記憶を消すくらいはさせてもらうがね?」
チャキ…。
背後から剣を出して構える偽者。
もはや美鈴の喋り方を真似て取り繕うつもりもないようだ。
「それは困りますわ、せっかくそちらの情報をその子が知ってるのなら是非こちらにも聞かせていただきたいですもの。」
「ところで貴女のその剣は私に向けている…つまりこの私と一戦交えたい、そう解釈して間違いございませんわね?」
対抗して美鈴もネクタイを剣にして構える。
シャキーン!
「貴女にも向けてるけど…そうだね…。」
偽者は美鈴に向けていたその剣の切っ先を陰潜の方に向け直した。
「私としては、こっちのコに向けても別に構わないんだけどね?」
「それは…なりませんわ。」
「どうしようとこっちの勝手!アーハッハッハ。」
「いえ、勝ち誇られるのは構いませんけど…」
「そんな手をお使いになられると私としてはとても心配ですの。」
「そうかい、そんなにこのコの事が心配かい?」
「それも確かにありますが、それより心配なのは…。」
美鈴が咄嗟に身を翻す。
すると。
「アンタがどうなるかがね!」
美鈴の陰に隠れていた多彩蜂が両手をニセ美鈴に向けていた。
「キラー・ビームーッ!」
多彩蜂の手からレーザー光線が放たれた。
「しまっ…」
驚愕するニセ美鈴。
しかし多彩蜂怒りの一撃を防ぐ事は出来なかった。
ジュウウウッ!
ニセ美鈴の腹部に光線が当たる。
「ぐあああっ…な、何いい〜っ?!」
ニセ美鈴の顔は苦痛に歪む。
「さあ、焼け死にたく無ければ早く陰潜をこっちに渡せ!」
多彩蜂の顔から殺気が溢れてる。
普段のチャランポランな彼女からは想像がつかないくらい必死過ぎだ。
(あの…多彩蜂さん?)
(わかってるって、ちゃんと死なない程度に抑えてるよ。)
(それに大怪我させてもここにいるアンタの自慢の彼女が治してくれるんだろ?)
多彩蜂からそう言われてチラッと明花の方を見る美鈴だった。
(べべ…べ、別に彼女とか?そんな関係では…。)
美鈴は照れてしまった。
そんな美鈴を見てにこやかな顔で「?」を浮かべる明花だった。
「コホン。」
何が面白くないのか范先生が咳払いをした。
それを「相手に大怪我させる前にいい加減にしとけ?」と言われたように捉えた多彩蜂はようやく光線を止めた。
実のところ威力を抑えてたとは言え少し長めに光線を照射したので多彩蜂は魔力を結構消耗していたので丁度頃合いだった。
「さあ少し待ってやる、もう一度言うぞ。」
「陰潜をこっちに返せ!」
「…くっ…。」
腹を押さえながらジリジリ後ずさるニセ美鈴。
ここで美鈴が更にダメ押しする。
「貴女にはこちらの要求に応えなければ貴女には二つの選択肢がありますわ。」
「一つ目は、この獰猛な多彩蜂さんの光線で焼き尽くされる、又は貫かれまくる事。」
「そしてもう一つ、それは…。」
スラリと本物の美鈴の剣が白銀の軌跡を描く。
「この私の剣でいたぶられるか、ですわ。」
ニヤリと笑う本物の美鈴。
殺気までは出してないものの、サディスティックな笑みではある。
美鈴の事だし刃を丸めるなりして切傷は負わせないだろうけど。
まあ手足や肋骨が無事では済まないだろう事は予想がつく。
そんな多彩蜂の殺気と本物の美鈴の狂気に押されたのか、ニセ美鈴は狼狽えた。
「まま、待て待て?…わかった、わ…私は去るから…」
ニセ美鈴が横に身体を移動し、パチンと指を鳴らす。
すると陰潜を乗せたソファーが真っ直ぐ多彩蜂に向かって突っ込んで来た。
「危ないですわ!」
ドシイッ!
本物の美鈴は、すかさずソファーを受け止めた。
そのため勢いで陰潜の身体だけが多彩蜂に飛んでいった。
「潜!」
ガシッ。
力強く抱き締める多彩蜂の身体もまた後ろへ倒れ込む。
「いかん!」
「多彩蜂さん?」
ガツッ。
そしてその二人分の身体を范先生と明花の二人がかりでどうにか受け止めるのだった。
「ふう…皆さんご無事でして?」
「あ、ああ、問題無い。」
「でも、あの偽者の美鈴さんとあのお部屋が…。」
そう、明花の声で気が付くと敵は部屋ごと綺麗さっぱり消えていたのだ。
「手がかりはその陰潜さんの記憶でしょうか。」
「果たしてその子がどこまで犯人の組織について知っている事か…。」
「利用されてたっぽいみたいなので期待出来ないかも知れませんね。」
「…ですわよねー。」
残念がる三人とは対照的にただ再会を喜ぶように陰潜の身体を抱き締め続ける多彩蜂だった。
「潜…良かった、本当に…。」
……少しは周りの目をはばかれっつーの…。
………………。
その後日。
陰潜は多彩蜂と共に学院長室に居た。
勿論何時もの面々もいた。
美鈴、明花、闘姫、愛麗、芽友、安月夜と依然…そして范先生と学院長代理だ。
学院長代理は学院長席、その隣りに范先生。
その他の面々は学院長席に向かって用意されたテーブルと椅子に着いていた。
「…では陰潜さん?貴女は新血脈同盟とやらについては然程知識は無いという事ですね?」
「はい…私としては代表戦で勝てる術さえ得られれば本気で相手にするつもりは無かったので適当に返事しただけなので。」
「そうですか、それが本当なら貴女への新血脈同盟入りという疑いは晴れます。」
「しかし相手を利用してその気持ちを踏みにじるのは人としてどうかと思いますよ?」
「そして幾ら成績を残したかったからとはいえ怪しい相手の甘い誘いに乗った事が今回の一番の原因です、そこは反省して下さいね?」
「…わ、わかってます、私が軽はずみでした…。」
かしこまる陰潜。
見かねた多彩蜂が助け舟を出す。
コイツは少し陰潜に甘い。
「潜は天涯孤独の身で生活が苦しいんです、だから優勝して学費免除と生活支援が欲しかったんです。」
「あら、では入学はどうされましたのかしら?」
「そうですね、私も実家が裕福で下位とはいえ貴族入り出来たので入学を許可されたのですが。」
美鈴と明花が不思議そうに顔を見合わせる。
本来平民であるはずの愛麗と芽友もまた入学資格は無いのだが、それぞれの仕える家から身柄が保証されており、ついでに主人達の側仕えという事で入学が許可されているのだ。
「天涯孤独というのは本当だね、お家が取り潰されているから。」
范先生が資料をめくる。
「詳しくは伏せるが彼女の実家が取り潰され一家離散、そのため商家に奉公しながら学問や武術を習っていたという話しだ。」
「まあそれまでにかなり学んでいたようだ、武術も学力も入学試験では問題無かった。」
「しかし入学資金と入寮後の費用はどうされてましたの?」
「………休日に冒険者でバイトしてた…。」
ボソッと陰潜が言い放った。
「…どういう関係カはわかりませんが、先代というか私の父である学院長が特別許可しておりました。」
学院長代理がヤレヤレという素振りを見せた。
「まあ、それなら問題ありませんですわ♪」
「良かったですね!」
美鈴と明花の顔が綻ぶ。
確かに問題は無いかも知れないが…。
「…さて、それより私達は陰潜さんに聞きたい事があるんですけどよろしいかしら?」
突然、安月夜が会話に入って来た。
「X…いえ、陰潜さん、貴女が私に使ったあのカウンター魔法…アレは「一種の」呪術で間違いありませんね?」
依然は前置きも無くストレートに質問した。
【呪術?】
皆の口から発した言葉に異様なモノという認識が漂う。
「…バレてましたか。」
「では、認めるのでわね?」
美鈴の眼差しが痛かったのか、陰潜は目を伏せた。
「では先に私からの推察をお話し致しますわ、よろしいかしら皆さん?」
美鈴は自分からカウンター魔法について思った事を話すようだ。
陰潜が自分から話しにくいと思ったからだろうか、それとも嬉々として自身の推理を並べ立てようとしてるのか。
………何か嬉しそうというか楽しそうなので勿論後者の方だろうな。
「では、今からこの女子高生名探偵・美鈴がカウンター魔法の推理を述べますわ!」
…………いや、今更その設定を蒸し返すのか?
話しを振られた皆はポカーンとしてるし、
一応?相棒役設定だった明花に至ってはプルプルと身体を震わせて笑いを堪えてるぞ。
「…お茶が美味しいですね、愛麗。」
ズズッと真顔で茶を啜る芽友。
そして
「あ、このお茶菓子もなかなかですよ芽友?」
美鈴の声が耳に届かなかったかのようにお茶菓子を頬張る愛麗だった。
「つまりあのカウンター魔法とは…」
美鈴が話した推理によれば。
「陰潜さんの空間魔法の応用ですわ。」
「彼女は異空間を用いてどんな攻撃も跳ね返せる…それを攻撃に転用すればそのまま放たれた魔法も相手に返せますわ。」
「ただそれだけだと相手に防がれてしまいますわ。」
「そこで新血脈同盟の使者から贈られたアドバイスはこうだったと思われますの。」
「相手の放った敵意…又は殺意かソレに近い憎しみ等の負の感情を利用するのだと。」
「負の感情?」
闘姫がこの言葉に反応した。
「確かに有り得ます、呪術は霊魂に関わるのでそういった感情の気も関わっていると考えれば納得出来ますね。」
「ええ、ですがそれは技の発動に繋がるトリガーに過ぎない…。」
「呪術を利用することで負の感情すらもカウンターとして返しそれで威力をカサ増しする、しかしそこまでではまだこの技は完成しないのですわ。」
「ここで陰潜さんの研鑽…というか対戦相手への対策…彼女の努力が必要となるのです。」
「相手とほぼ同等の技の威力、魔力量を込める事。」
「そしてその為に相手が繰り出すであろう決め技について詳しく知る事。」
「武器の部門同士でならカウンター魔法を用いずとも決勝まで上がれる実力はあった…そう、依然さんと対戦するまでは。」
「つまり彼女のカウンター魔法は基本魔法を用いる決め技への対抗策なのですわ。」
「純粋に物理的な力だけで攻撃されたら対応出来ない…更に反応出来ない速さで攻撃されたらこれも対応不可能。」
「だから私が最後に魔法で超高速滑走して放った剣の一撃に彼女も彼女の魔法も反応出来なかった…私の剣と剣の攻撃そのものには一切魔法をかけて無かったですからね。」
「で、結局カウンター魔法の使用について決め技に限定されるのは技と用いられる魔法が確定しているから…ですわよね?」
ここで美鈴が黙って聞いてる陰潜に確認した。
「…大体………合ってる…。」
その言葉に安堵したのか再び美鈴が説明を続ける。
「そこで彼女は相手を徴発したり決め技を使わせる雰囲気に試合の流れを持っていく…クレバーではありますが結構ギリギリの賭けみたいなモノですわね。」
ここで陰潜から口を開いた。
「待って…貴女は一度魔法の拳を放った時私のカウンター魔法を食らったはず…なのに無傷だったのは何故?」
「ああ…アレは風の魔法で貴女の空間魔法による異空間を破壊し、物理的な拳の力のみで攻撃したからですわ。」
「…は?………そ、そんな、理由………?」
「ええ。私は貴女のカウンター魔法は物理的攻撃のみには無効だととっくに気が付いてましたもの。」
その美鈴の言葉に愕然とする陰潜。
「おーい、生きてるかー?」
多彩蜂がふざけて陰潜の顔の前で手をブラブラさせているが、涙目でボーッとしている陰潜はショックのあまりか反応を示さなかった。
まあ後でいっぱい慰めてやるんだな、多彩蜂。
約得だな、オイ(笑)。
「…てなワケでカウンター魔法の謎解き終了、ですわ!」
「これにて、一件落着!」
と勝手にこの場を締める美鈴だった。
「まあ…そうですね、これ以上特に聞き出す事もありませんからね…。」
ドッと疲れた表情になる学院長代理だった。
と、ここで学院長代理からこんな言葉が。
「あ、ついでだから一応教えておきますね。」
「私こと学院長代理はこれまで出席日数の関係から高等部入学が叶いませんでした。」
「しかし来年からお父様が正式に学院長へ復活なされます、それに従って…」
「私も学院長代理の任を解かれて来年より一年生として高等部に通わせていただきます。」
「よろしくお願い致しますね、先輩方♪」
満面の笑みでこう述べた学院長代理だった。
(アレ…?もしかして…。)
【か、下級生ヒロイン…?】
最近ゲームシナリオ変わってたせいかすっかり忘れてた。
そうだよ、一年下の下級生ヒロインだよ、コレ。
何で今まで忘れてたんだ?
まさかオレにまでゲームの新シナリオ?の補正がかけられてるんだろうか?
代表戦のナゾは一つ解けたものの、根本的?なナゾが新たに残ってしまった…。
代表戦大会での謎は全部では無いものの、かなり解かれたようです。
しかし謎?というか新たな攻略ヒロインの参戦が決定していたようです。
果たして近い将来待ち受けるこの新ヒロインと美鈴はどう関わっていくのか、どう対処するのか?
そして他のヒロイン達との関係は?




