↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界空中活劇!  作者: 八針来夏
序幕:天空の彼方の目覚め
9/119

第八話『軽くて硬い』

 さて。

 なんだかえらそうなこと言ったけど、僕は一つ忘れていたことがあった。

 前世では戦闘機、航空機の開発分野における第一人者であったがその知識は機体設計やエンジン、センサーなどに関することが多かった。

 はっきり言うと、僕は通信機関係の専門家というほどではない。かつては超一流のエンジニアを自認していたけど、任せるところは人に任せるのも開発者の仕事だから仕方ない、うん。

 自室で一人考えてみる。手元には定規やコンパス、専用の設計台など何かものを作る為の詳細な図面を引ける道具があった。

 設計図を書く上で機能的なものを求めれば、やはりこういう形に行きつくのだろう。傍の戸棚にはもう山ほど書き上げた図面がファイルされている。


「要するに送受信の設備が欲しい」


 この航空母艦ムーンボウは成層圏の高度を旋回している。


 ならば風船はどうだろう? 

 実は前世でも風船を使って成層圏からカメラで撮影するという事は普通に行われている。

 元の世界ではノータム飛行通知書という各所申請が必要だったが、流石にこの世界ではそういう機関はないだろうし。


 船の位置やタイミングなど細かな調整は必要だろう。風船で打ち上げるならそこに手紙と魔術的な目印(ビーコン)を用意すれば見つけることは可能だ。

 モモから僕へと連絡する際は、成層圏から気流などの確認をしてから荷物をパラシュートで降下させる。もちろん完全な予測など不可能だろうし、僕が飛翔甲冑(メイル)を着て直接受け取る必要があるだろう。


 高度四万越しのお手紙のやりとりという訳だ。

 

「……よし」


 最低限の連絡の取り合いはできる。上手くいけば、モモにこのムーンボウで製作した物資をパラシュートで投下して貰えるかもしれない。


 とはいえ、だ。


 電話や無線機による連絡の速度になれた僕としては、そういう悠長な手段はあまり使いたくはない。

 風船お手紙作戦(仮)と並行して、何らかの手段で電信を確立したかった。



 

 さて、と。

 地上に降りた際にモモと通信する手段を確立する事が第一。

 そして地上もどのような危険があるか分からないので、とりあえず自衛の為に色々と武術や魔術を納めておく事が第二。

 そして、第三は趣味と実益の時間だ。


「ふーんむむむむ」


 僕は台座に安置された飛翔甲冑(メイル)の脊椎パーツと、横に設計図を前にして頭をこねくり回していた。

 新しい僕だけの翼。ワンオフの特注品。シオン=クーカイ専用機。

 専用機。そう、赤く塗って角付けてもいいアレだ。ならば僕がその設計に心魂を傾けるのは当然の事じゃないか。

 頭を悩ませて手を休ませている僕だけど、こっちの世界に来て何一つ新しいものを作り上げなかった訳じゃない。


 一つは 魔術機関で再現した釘打ち機(ネイルガン)。

 大気属性の魔術で圧縮空気を生み出し、その圧力で釘をものすごい速度で射出して釘を打つ。

 元の世界でも、ガンシューティングやスパイ映画のアクションシーン、ロボットゲームの支援機などで使われることもある『どう考えても立派に武器』とさえ思えるキケンな代物だ。日本でも取り扱いはあったはずなのだが……何か木の板などに密着させないと発射できないように改造されているあたり、やっぱり武器としても十分使えると思われているのだろう。


 もう一つは電気ノコギリである『メタルセイバー』。円盤状のノコギリを回転させて鉄も木もお構いなしに伐採する。


 そして三つ目は、マーカードローン。

 球体型の骨組みの内部に、プロペラとカメラを設置し、至近距離の母機へと情報を送信する。

 カメラと情報送信系はこのムーンボウの機材を流用し、基本設計は僕がやった。今では手すきな無人工作機械が制作している。

 

 ……もちろん、このムーンボウの中にはもっと高度で複雑な魔術式の工具が沢山あった。

『王国』の人間が、冬の衣(ウィンターコート)を掃う時に必要な道具を作るための資材や設備が満載されていたのだろう。

 とはいえ、いずれ僕は地上に降りる。その際に工作をする際の道具が必要となるだろうからこれらを用意したのだ。

 

「……身を引く大地の手を緩め、今少しの間空と地の隙間を漂え。軽量化(ウェイトセーブ)」

 

 魔術を行使する。使用するのは物理属性の魔術の基本の一つ。物質を浮かび上がらせて重量物の運搬を簡単にする魔術だ。

 そうすると青白い光が地面から伸び、大きな資材の一つに絡み付いてうっすらと包み込んだ。それを片手でちょいと持ち上げてみる。


「飛翔甲冑(メイル)の装甲もこれぐらい軽いといいのに」


 重量。

 航空機、宇宙ロケット、その双方に付きまとう永遠の呪いが僕を悩ませる。

 僕が専用機を作るうえで頭を悩ませるもの。それは飛翔甲冑(メイル)の重量に関すること。どうにかして機体を構成するパーツを、全体的に軽量化できないか。それが自分に課した課題だった。

 

 推力重量比という言葉がある。

 戦闘機の性能を示す目安の一つであり、機動性能がこれで把握できる。

 すなわち、ジェットエンジンの推力とエンジンを含めた重量をややこしい数式で割り出したものが機動性能だ。


 わかりやすく言うと『軽い戦闘機』と『高速を出す推進力』を組み合わせれば『軽快な機動性能』になる。

 つまり、機動性能を上げたいなら軽量化、もしくは大推力を備えたエンジン、その二つの改良が必要。

 これは異世界であっても変わらない法則だった。

 

 しかし単純に『軽い』ことを突き詰めると装甲が脆くなり、相手の攻撃で簡単にやられてしまう。

 かつて僕の祖国にあった傑作戦闘機は火力と軽快な運動性を、防御力の犠牲の上に成り立たせていた。あれはあれで優れた機体設計とは思うが、乗りたいとは思わない。

 つまり防御能力を落とさずに機体を軽くする。そんな技術的ブレイクスルーのアイデアが訪れることを僕はじっと待っていた。




 ……とはいえ、スイッチを押せばアイデアが沸くようなそんな素敵な頭を僕は持っていない。

 そんな素敵な頭だったらラノベ作家になっているところだ。


「やめだ、やめ」


 ……ある程度頭の中で考えをこねくりまわしていた僕は、考えることに飽きて運動のメニューをこなそうと思った。

 けれど、そこで僕は大変な失敗をしていることに気づいたのである。


「って……うわぁ?!」


 先ほどの軽量化(ウェイトセーブ)……その魔術をいまだに維持したまま、常人より遥か上らしい膨大な魔力を無意識のうちにぶち込んでしまっていた!

 おかげであらゆるものが風に吹かれて空を飛ぶ綿毛のように、工作室の中を大量の機材がふわふわと漂ってしまっている!


 ただの空気のそよぎによって、鉄の資材が壁にぶつかってへこみを作っていたりする。

 僕は深呼吸を繰り返して部屋を満たす、ふわふわ状態の維持に努めた。

 ……おちつけ、おちつけ。このまま慌てて魔術の維持をやめたら、鉄の塊が重量を取り戻し、文字通り鉄の雨が降って大変な事になる。僕はかつて蚕を犠牲にして会得した繊細な魔力コントロールで、ゆっくりと重量低下の魔術を弱めていく。宙を漂っていた資材がゆっくりと落ちて床に触れる。

 慎重に、慎重に。

 モモにばれないように。

 悪戯を隠そうとする子供みたいなことを考えながら僕はゆっくりと魔術を解除し、全ての資材を軟着陸間近までに近づける。

 ここまでくればもう大丈夫。 安心して床にへばりつき、安堵の溜息を漏らし。


「ふぃー……」

「お疲れ様です、シオン」

「うん。……午後の授業はちょっと待ってもらっていい……か、な?」


 いつものように話しかけてくる相手に返事をしながら……僕は、後ろから聞こえる彼女の台詞に、油を差していない機械人形さながらのぎこちなさで振り向いた。

 モモがいつものようにそこにいる。爪先から雷光を発しているのはきっと帯磁(マグネイト)の魔術で地面と足を電磁吸着させて無重力状態に抵抗していたのだろう。


 だが――しかし無重力状態でふわふわ浮くそのスカート……モモは、メイド服のスカートの下の下着を豪快にふわふわと浮かせていた。気が抜けて安心し、床にへたばった僕の視線の角度は、ふわふわ浮くスカートの下の下着の色を痛ぁっ?!


「不潔です」

「ごめんなさい!」


 顔を蹴られて痛いけども全面的に僕が悪いので謝罪の一手。そう、土下座だ。

 モモはいつもよりマイナス20度ほど冷たい無表情で僕を見下ろしながら言う。


「軽量化(ウエイトセーブ)を慌てて解除しなかったことは褒めてあげましょう。しかし魔術の行使をするならば、制御を正しく行ってください」

「……はい」


 うう。考え事に夢中になったせいでこんなヘマをしてしまうなんて……。

 僕は痛む顔を抑えながら呟いた。


「……それにしても、まるで無重力状態みたいだったなぁ」

「無重力ですか?」

「うん。木からリンゴが落ちる奴」


 まぁニュートンは知らずとも、これほどまでに技術の発展した世界だ。万有引力の法則は見つけているだろう。

 モモは僕の言葉を聞くと……何やら得心が言ったように、ぽん、と手を叩いた。


「ああ、なるほど。つまり、先程のふわふわと浮いていた状態が無重力なのですね」

「そうなるのかな?」


 僕は首を捻った。物理属性の魔術を用いて無重力状態を再現していたのだろうか。

 少し考え直す必要があるかもしれない。僕はモモから与えられた知識をうのみにしていたが、もしかすると物理属性は念動力的な力のみならず重力制御的なモノも内包していたのかもしれない。軽量化(ウエイトセーブ)の魔力の働きも、見えない力で物体を持ち上げるというよりも、重力を一時的に遮断しているような感じだし。


「それにしても……」

「どうかしましたか?」

「いやぁ、この魔術が前世で使えればなぁ……と」


 実は地上でも無重力を疑似体験する手段はある。例えばボールを空中に放り投げると、一瞬『ふわっ』と空中に静止する瞬間があるのが分かるだろう。

 それを飛行機で真似たのが放物線飛行(パラボリックフライト)と呼ばれる、20秒間のみ再現された無重力状態だ。


 宇宙を志す若者たちのための訓練としても用いられていたが、前世でこの魔術が使えれば、手軽にあの若者たちに無重力を体験させてやれたのに。

 それだけじゃないぞ。無重力空間でしかできない実験だってある。そう……たとえば……。


「…………無重力合金」


 僕は愕然と呟いた。

 そうだ……物理属性の魔術があれば地上であっても長時間の無重力状態を維持できる。つまり宇宙にスペースシャトルを打ち上げないとできない実験も、簡単に再現可能だ。

 前世の知識と今の生で得た魔術が組み合わさり、新しい技術が生まれる高揚のまま僕は笑った。


「シオン。どうしたのですか?」

「モモ、実験したい事がある」

「また何か作るので?」


 こっくりと僕は頷いた。


「もしかしたら、凄い合金が作れるかもしれない」

 現実には無重力合金については懐疑的な意見も聞きますが、この世界では従来金属よりはるかに優れたものが作れるという設定でゴリ押しします☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。