第十二話『あの件の話』
新型飛行機械の製作は順調である。
僕は作業員たちが怪力の魔術を用いて部品を持ち上げ、指定の場所に装着し、エンジンを骨格に設置していくさまを満足そうに見つめていた。
頭の中にのみ存在していた理想の機械が、ゆっくりと、だが確実に形になっていく様。
この快感は創造者にしか味わえないだろう。
作業服に髪を結い上げた姿で船を見つめる僕にギュスターヴが声をかける。
「いい船になりそうだな」
「ああ。目指せ銀河最速のガラ○タだ」
「最速はともかくなんでガラ○タなんだよ?!」
「……そっかー。……もうあの映画の話で盛り上がれないんだなー……」
映画館であの宇宙の物語を見れないのは残念だ。
前世で最新作を見に行った時、後ろの席の客が僕の椅子を蹴ってきたし、斜め後ろの奴は僕の隣の空席の手すりに足乗せてくるし、隣にいた奴はスタッフロール中にスマホ見てるし、ああいうの見ると時折ぶっコロコロしたくなるよね。
「……で、シオン。お前、俺にこれを任せるつもりってのは本当か?」
「ご不満? 性能は相当なもののつもりだけど」
「……いや。俺は新しく飛翔船を買ってそれで普通の輸送業をやるつもりだったんだが……こんな良い船を使わせてもらって悪いっつぅかな」
「ご心配なく。選考基準は実力だよ」
これは本当の事だ。
カルサ女史に、新しく完成した船の操縦者にギュスターヴを推薦されている。親族の贔屓目抜きにフリーで一流の操縦者となると、この不良中年が一番だそうだ。
実際、僕も同意なのである。
そもそも……メーコちゃんと一緒に、あのくそ狭くて飛びにくい針穴回廊を幾度も飛んだという事がおかしい。
密輸業者であったため、姿をさらせないのでライトはつけられない。
月明かりの光を頼りにしてあの狭い谷を飛ぶ、それがどれほど困難な事か。
……前世では狭い渓谷などを飛ぶことを地形追随飛行、NOEと呼ぶ。そう、キモいデザインの異性人と戦うあのゲームで出ていた匍匐飛行の別名だ。
アメリカの攻撃機F-15Eでさえ地形追随飛行を各種センサーによってようやく可能にしている。
僕からすれば精密機器やセンサーの手も借りず、勘と経験で難事を成し遂げるギュスターヴという飛行の職人の存在に舌を巻く思いだ。いやはや、熟練の職人は、時々精密機械顔負けのことをやってのける。
「とはいえ、最初は訓練を積んでもらうぜ、ギュス」
「いいねぇ。操縦桿握ってなくてうずうずしていたところさ」
まぁ針穴回廊を飛びぬけるほどの難事は一つもないので、彼ならばそのうち新型機を乗りこなしてくれるだろう。
「シオンくん、シオンくんっ。大変やよぉ」
そんな風に話していると……なにやら泡を食った様子のメーコちゃんがやってくる。
隣のギュスやスヴェルナ商会の技師たちがなにやら微笑ましいものを見たような、からかう相手を見つけたような、にやにやとした笑顔を浮かべて僕を見る。
「呼ばれてるぜ、若旦那」
「その呼び方やめろマジで」
「……ダナンさんも、気づけばこんな感じだったなぁ」
「母娘二代に渡っての常套手段なのかよ!!」
「大変なんよぉ、シオンくんっ!」
メーコちゃんが慌てて驚いているのか、両手をぱたぱた、空でも飛ぼうとするような勢いで振り回して叫んだ。
「どうかしたの? メーコちゃん」
「お父はんとお母はんが商会の本館にはようシオンくんを呼んできてって! ……商人ギルドの総帥が来てるんよぉ!!」
僕は喉元から出そうになった『待たせとけよ』という台詞を飲み込んだ。
前世ではアポイントメントなしに押しかけてくる人もいたんで、この対応が染み付いているんだ。
「ギルドの総帥? そんな大物が何の御用……ああ」
あの件かな。
頷くと、僕は歩き出した。




