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異世界空中活劇!  作者: 八針来夏
第二章『連合編』
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第七話『多少、あこぎでも』

 フェズン=バルアミー公爵は、釣りが趣味である。

 首都ガランシューに隣接する農業用の貯水湖、水産物の生簀や養殖場、そして飛翔船(バードシップ)の発着場を兼ねた湖面に釣竿を垂らして獲物を待つのは彼の楽しみの一つであった。

 もちろん、仮にも『連合』の盟主である人物が単身で動くわけもなく、あちこちには同様に釣竿を垂らす人間や有り余った釣果を売りつける売人、湖面に着陸する飛翔船(バードシップ)のあげる水しぶきの美しさを堪能する客人などが……それぞれ彼の周囲を警戒していた。

 

「や。こんばんわ。そういえば『竈を新調したのでしたか?』」

「こんばんわ。『おかげでいい仕上がりです』」


 そういう秘密の符号と共に、糸目の女性……スヴェルナ商会を統べるカルサ女史が一介の釣り客風の気楽な格好をしたフェズン公爵に話しかける。

 よっこいしょ、と隣に腰掛ける彼女は隣の青年のほうを見ずにいう。


「で、どうだい? 数ヶ月前に君のところにやった少年の仕事は。第一号の試作エンジンは完成したんだろう?」

「ん。んー」


 カルサ女史は連合の指導者に対し、どうやったら……自分と夫が味わったあの衝撃を正確に相手に伝えられるか吟味し……言った。


「エンジンの推進力が280パーセント向上しましたんよ」


 フェズン公爵は……その言葉の意味をたっぷり十秒ほど反芻すると、喉から枯れたような呻き声を挙げた。


「……え?」

「まぁ何が言いたいかはウチも分かります。たっぷり驚き?」

「……え。えー? ……すまない。飛翔船(バードシップ)のみならず、魔術機関などの設計の効率化や、魔術式の改造によって得られる性能向上は、110パーセントで優秀、120パーセントで傑作。わたしは専門家じゃないが、その理解でよかったかな?」

「ええ。大体そんなモンですわ」


 とりあえず二の句が告げない様子のフェズン公爵は……沈思黙考の後で言う。


「彼に護衛をつけよう」

「ええ。ウチも公爵にソレが必要やと提言しにきましたんや」


 カルサ女史はこくりと頷く。


「もちろん、設計図に関してはウチの職員に秘密を守らせています。せやけど情報というモンは基本的にどこかからか、いつのまにか漏れるもんや。となったら……あの少年を誘拐しようと考える勢力もそのうちに出てくると思いますわ」

「分かった。手配しよう。……ところで、あの少年が教えてくれた技術はそのエンジン設計図だけかい?」

「あー。実は先日、あの子が使ってた飛翔甲冑(メイル)を見せてもろたんですわ」

「いや、待て。待て待て待て。……確かに類稀な美少女でも通用する美貌の少年だったが……男と聞いているぞ?」


 公爵は額に手を当てて首を振る。


「タイショー……もうあの子は驚きのバーゲンセールやで? 考えるのやめよ? ウチはそうしたで」

「……んん。ああ、分かった。この事を教えたらノザルスがひっくり返るだろうな。で、その飛翔甲冑(メイル)はどのような代物だったんだ?」

「一言で言えば欠陥品や」

「おや。先ほどの評価とは打って変わったな」


 少し意外そうな公爵の言葉に、カルサ女史は言葉を続ける。


「……アホみたいな推力器のサイズ、やたら分厚い装甲と刻まれた魔術式の量。恐らくは……魔力の要求量はエクエス様でもろくに動かせないほどやろうな」

「なるほど」


 いかに優秀で強力な飛翔甲冑(メイル)であろうとも、使用さえ出来ない代物であるなら意味はない。

 だが、カルサ女史は首を横に振った。


「……せやけどな。メーコは……『シオンくんはあの飛翔甲冑(メイル)でウチらを助けてくれたんよぉ』といつもの可愛いぽわぽわ笑顔で言うたんや……」

「…………」


 フェズン公爵は少し沈黙をまもった。

 それはつまり、神君の血をより濃く受け継ぐ義理の娘よりも強力な魔力を保有しているという事になる。

 彼は少し考え込んだ。

 魔力の過多が勝敗を決するという考え方はしていないが、魔力は多ければ多いほどに有利ではある。

 これはもう……本格的に自分の縁故の女性を宛がっておき、実利でも、情でも彼を絡め取っておくほうがいいかもしれないな、と考え始めていた。

 

「……ふむ」


 エクエス=バルアミーは現在17歳。シオン=クーカイは先日13歳になったばかりという。

 連合屈指の魔女(ヘクセ)であるエクエスは飛翔甲冑(メイル)を纏わずとも一流の戦士。彼女をタダの護衛役として使うにはもったいないと思っていたが……婚姻の相手として一族に迎え入れる、そんな打算も加えるならむしろエクエス以外に選択肢はなくなる。


「我ながら、ろくでもない事を考えているものよな」


 一族のため、国家のため、そのためにうら若い乙女の将来も駒として扱う――フェズン公爵は自分のこれからやる事に嘆息を漏らした。

 あのシオン少年とエクエスがそれほど仲が悪くなさそうであることが、せめてもの救いだった。

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