第二十一話『衝撃の発掘作業』
ところでー、と。クラウディアは話を切り替えるように口を開いた。
「で、其のほう。そなたを攻略する手始めとして、余の歓待を受けてくれるか?」
「堂々と下心を説明するなよ! ……そうじゃない、僕には歓待を受ける理由がない」
思わず突っ込みつつ、質問する僕に、彼女は真面目な顔で言う。
それは先ほどまでの、美しいものを愛でる喜悦の笑顔や男を惑わす笑顔と違う……心よりの感謝を告げる、暖かな眼差しであった。
「恐らくはそなたがいればこそ、余の部下は白旗を上げた船を破壊するという外道を実行せずに済み。そして矛を交えた仇敵であり旧友とも言えるエクエスを失わずに済んだ。これは感謝の意を表すに相応しかろう」
「……それか」
ここでお礼なんていいよ、と答えることは三人の命を軽んじる事になる。
僕は素直にお礼とやらを受けることにした。
「かといって、そんなに大層な品物とかも必要ないよ?」
「よし、では褒美として余の事をお姉ちゃんと呼ぶ権利を授けよう!!」
「なんでいきなりそこまでフランクになるんだよ! オマケに皇帝の血筋の人の弟になるとかどう考えても権力争いに巻き込まれる厄ネタのパターンじゃないか! いやだよ!」
「ふむ。そなたは権力欲が薄いようだな。……よし、では余の事を『おまえ』と呼び捨てにする権利をやろう!」
「……それはそれでいきなり失礼じゃないかな。ほら。ヴァレンさんが睨んでるじゃないか」
「心配するでない、そなたは余にとっての恩人、如何に我が右腕と頼むヴァレンであろうとも異議は唱えさせぬぞ。心おきなく親愛の気持ちを込めて余の事を『おまえ』と呼ぶがよい」
「……わかっていないようなのできちんと説明してあげると。睨まれてるのはクラウディア殿下なんだけど」
「もちろん余を『おまえ』と呼ぶ言葉にいやらしい気持ちを込めてもよいぞ? その時はもれなく我がハーレムに加わってもらうが」
「まだ諦めていなかったのか……」
困ったように言い直す僕に、クラウディア皇女はにっこりと、嬉しそうに微笑んで答えた。
「なお余もシオン、そなたの事を『あなた』と呼ぶぞ」
「へぇ。じゃあ試してみよう。『おまえ』」
「あ、『あなた』…………///」
「なんでそこで顔を赤らめて恥ずかしそうに目を背けるんだよ! まるで新婚みたいじゃないか!」
「うむ! 今度はシオン、そなたがメーコに睨まれておるな!」
「凄いプレッシャーだったから気づかないふりをしていたのに! よくも教えたな!」
「まったく。そなたはわがままだな! では『おまえ』以外のどんな呼び方ならよいというのだ!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃんでお願いします!!」
まだ『お姉ちゃん』呼びのほうが精神的なダメージが少なかったので、そうリクエストしてしまう。
だが僕の言葉と共にクラウディア殿下はヴァレン老のほうに振り向き、『やったぜ』と言わんばかりの満面の笑顔を見せた。
「ヴァレン! シオン=クーカイ攻略作戦、第一段階は見事成功である!」
「くそう、してやられた!」
僕は反射的に叫び。ヴァレン老は頭を抑えて。
僕はそろそろこのお姫様のテンションにくらくらしながら答えた。
「では……正式な感謝の証としてこれを授けよう」
そう言うとクラウディア皇女は自分の首から提げるネックレスのチェーンを掴んだ。
ネックレスを下賜してくださるおつもりなのだろうけど……僕はその凄い光景に思わず釘付けになってしまう。
ネックレスの本体部分が胸の谷間に埋もれて見えない! チェーンを引っ張っておっぱいの中からネックレスを発掘しようとしているよ!
スタイル抜群の溢れる乳肉がドレスに食い込み、むにゅんっと柔らかそうな果実が、柔餅みたいに形を変える。
いきなりナンなんだこの人! ヴァレン老が『うちの皇女殿下はただの好色ではない。かなりの好色なのだ』といって匙を投げるのも当然だよ! やばい、顔が赤くなるのを自覚する。今が夜中でよかった!
「な……何してるんだ」
「うむ、ちょっと待ちやれ。で。出てこぬのだっ! この……ふんっっっ! ……あっ」
次の瞬間、僕の視界に真っ白と桜色に彩られたマシュマロのようなものが豪快にまろびでたと思った瞬間、首をエクエスに掴まれ45度の回転を余儀なくされた。
一体僕が何をしたというのだ、と思ったが、横から聞こえてくる声で疑問は氷解する。
「うぬぬ、いかん。ネックレスを谷間から引っ張り出そうとしたら、余の乳が下着を弾き飛ばしてドレスから決壊してしまった……」
「ほら、クラウディア。早く隠しなさい。丸見えじゃないですか。シオンの首をへし曲げているうちに早く……」
「危うく頚椎を捻じ切られると思った僕に対する謝罪は無しか」
「し、しかしこう……こうしてあふれ出ると今までどうやってドレスの中に納めていたのか分からなくなってくるな!」
そうしてクラウディア皇女はオトコノコの妄想を掻き立てる衣擦れの音を立てていたが、ようやくドレスの中に胸を納める事に成功したのだろう。
エクエスの頚椎を捻じ切るかのような合掌捻りから解放された僕の手に、クラウディア皇女は自分の巨乳渓谷から発掘されたネックレスを、ころん、と落とした。
「褒美としてこれを授ける!」
「…………」
……どうしよう。人肌の温度だ。凄く生暖かい。つい先ほどまであの巨乳の下敷きにあったのだと思うとちょっとエッチな衝動に駆られる。もちろん口にしたら最後、周囲にいるメーコちゃんとエクエスの女の子チームから白い目を受けるであろう。
まぁそれはそれとして。
このネックレス、金銀細工には疎い僕でも相当な代物であることが分かる。おまけに中央に精緻に掘り込まれているのは何かの紋章だ。彼女が皇帝の血筋である事を考えるなら……恐らくは、帝国の紋章だろう。
「相応の場所にもって行けば高く買いとってもらえるだろうが、そのネックレスの真価はそこではない。
皇族が忠勤なる臣下に感謝の印として手渡す品物である。それを取次ぎのものに渡せば……面倒な手続きを飛ばして直接拝謁する権利を得られるのだ。何か手助けになれる事があれば遠慮なく頼るがよい」
「ああ……それは助かるな。ありがとう、お姉ちゃん」
なんか僕の言葉が心の宸襟にクリティカルヒットしたらしく、クラウディア皇女は顔を真っ赤にして膝をつき、顔を抑えていた。
自分からお姉ちゃん呼びをリクエストしたくせに……。
そんな風に考えつつ首にネックレスを巻くと、僕の頬がいきなりぎゅーっと抓られる。
「シオンくんのスケベ!」
メーコちゃんが僕の頬を引っ張り、むぅーと僕のほうを睨みつけてくる。
仕方ないのよ、男の子だし……と自己弁護したところで、性に潔癖であろう年頃の少女に分かってもらえるわけもない。僕はあきらめの笑顔でメーコちゃんに頬を抓られながら微笑んだ。
結果、もっと痛くされた。
ひどい。




