第52話 「開戦」
学校から帰る度にルシファーと魔法の勉強をする日々が続いてもう数日経つ。
「あーもう無理……」
「この……大馬鹿者が!」
「痛ててててて!! 噛むなって!!」
ルシファーが俺の腕に噛み付く。
鋭い八重歯が刺さって超痛い。
「途中で投げ出すなど許さんぞ!」
「分かったから……」
ったく……いくら何でも噛み付くこたぁねえだろ。
「少なくとも転送魔法くらいは使えるようにしたいな」
「上級魔法ってどのくらいで使えるようになるんだ?」
「人次第じゃな」
随分適当な答えだな……。
「お前の場合、学校を辞めて魔法の特訓に集中すれば既に使えていてもおかしくはないんじゃがの」
「おいおい……」
そりゃさすがにできないぜ。叔母さんに何と説明すればいいのやら。
「まあ今のは冗談じゃ。とはいえレヴィアタンの契約者のあやつ、あれは恐らくそのくらいしているぞ」
「ジョシュか?」
バロールとの一件以来、奴とは会ってない。できるならもう会いたくもないけどな。
「レヴィアタンは1年近く前に急に気配が現れた時があってな。恐らく奴とサバトをしたのじゃろう」
「それまで気配を消して隠れてたってことか」
「まあ、お前はお前のペースで良い。その為にこうして座学を施しておるのじゃからの」
ここで俺の携帯が鳴った。
何だろう?
「もしもし?」
◇
韓国、ソウル。
夜でも街は賑わい、人で溢れている。
それは、突然の出来事だった。
「ん?」
「雪……?」
人々は急激に寒くなってきたのを感じ、ふと上を見ると雪が降ってきていた。
例年より早い降雪だが、特に不思議に思う者はいなかった。
しかし雪はすぐさま激しさを増し、途端に人々は混乱の渦に巻き込まれる。
「な、何だこれ!?」
「早く、建物の中へ!」
「うわああ!」
人々の叫び声がソウルに響き渡った。
「人間達が怯える姿は美しいな」
吹雪の中、平然と歩いてくる2人組。
ヴリトラとアンダカである。
「やはり人間共などこの程度か」
「骨のある奴はいないのか?」
「レ・テン・テレイル!!」
その呪文が唱えられた直後、ヴリトラとアンダカは転送され、吹雪が止んだ。
ソウルの人々は全く状況が掴めないままであった。
◇
「ここは?」
「オーストラリアのウルル、別名エアーズロックだ」
2人を囲むのは数十人のエージェント達。
そして目の前にはレオンとアイラがいた。
「ほう……お前ら、魔法を使えるのか」
「大人しく捕まってくんねえか? インド神話の悪ガキさん達よ」
レオンの言葉に2人が耳を傾けることはなかった。
ヴリトラは手を高く上げる。
それを見て全員が構えた。
「テン・ウェズ・テーキ」
刹那、上空に黒い雲が出現した。
その雲が凄まじい光を発し轟音を響かせると、エージェント達に雷が落ちた。
「うぐあああ!!」
「あ……!」
眩しさで閉じた瞳を開けると、そこには雷に打たれ死亡したエージェント達の姿があった。
「何だと!」
「天候を操作する魔法ってこと……!?」
ヴリトラは不敵な笑みを浮かべている。
「所詮貴様ら人間など敵にすらならん」
「なら神ならどうだ?」
突如、2人を炎が襲う。その炎を出しているのはアイラではない。
「貴様は……」
「アグニ!」
2人を囲むように炎を出し続けながら姿を現す。
その男は赤いモヒカンヘアの男性だった。
オレンジ色の衣を身に纏っており、手には斧が握られている。
インド神話の火の神、アグニである。
「今だ!」
「レ・テン・テレイル!」
転送魔法の呪文が唱えられると、アンダカが姿を消した。
「何!?」
「悪いが1人にさせてもらうぜ!」
「レオン、本当にあの子達だけで大丈夫かしら?」
アイラがレオンに問う。その表情はどこか不安気であった。
「まあ、心配なのは分かるけどよ。向こうにも神様が応援に来るんだろう? なら信じてこっちを何とかしようぜ」
「そうね……」
◇
心臓が今にも爆発しそうだ。
多分みんなも同じ気持ちなんだろうな。俺達も、周囲のエージェント達も、誰1人として言葉を発しない。
今、俺達が何をしようとしているのか、それは数十分前のことだった。
突然魔法省から電話がきて、作戦を聞かされた。
その内容はヴリトラとアンダカを分断するというものらしい。
その内の一方、アンダカの確保を俺達が命じられたというわけだ。
俺達が集まるように指示された場所、それはかの有名な鳥取砂丘だ。
見渡す限り、一面の砂。
確かにこれなら人的被害は少ないだろう。
夜だから見辛いけど、やむを得ない。
「来るぞ!」
ルシファーの声に反応し、一切に戦闘態勢に入る。
各々が魔法陣に集中し静かにその時を待つ。
そのわずか数秒後、魔法陣から1人の男が現れた。
この男、間違いない! シヴァ様に見せてもらった映像に映っていた奴だ!
「考えたな、人間共め」
「おいお前! お前がアンダカか!?」
そっと視線を俺に向ける。
「よく知っているな」
「まあな」
あれだけ勉強させられたらな。
インド神話側の情報を全てもらえたわけではなかったが、それでも情報が皆無というよりはマシだ。
「アンダカ、あなたは私達が確保します!」
「面白い……」
薄気味悪い笑みで答えるアンダカにゾッとした。
この一瞬で俺は恐ろしい力を感じ取ったんだ。
何とも言えないけど、悪い予感がする。
その予感が当たらないように祈りながら、俺は剣を強く握る。
閲覧ありがとうございます。
いよいよインド神話の悪魔達との対決が始まります。
次回はヴリトラ戦です。
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次回もよろしくお願いしますm(__)m




