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【顎(アギト)】  作者: しおてさぎそう
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幕間【影(ヒカリ)】

 眠りたい。早く眠ってしまいたい。

 明かりを失った暗闇の中。月を見上げる。

 横たわり、目を開けて閉じるを繰り返すだけの私。まばたきをする気力すらない私。

 生きているのか死んでいるのかも曖昧だ。

 暗雲の中で、ぼんやりと光る満月がとても遠い。


 あれ。今、月が隠れたような。雲よりも黒く濃い何かが過ぎったような。

 何だろう。霞んだ頭で疑問に思っていると、頬を冷めたいものが撫でた。風だった。

 変だ。消灯の前に看護師さんが閉めたのに。さっきまで、確かに閉まっていたのに。

 奇妙なことはもう一つ起きていた。掛け布団の下にあった右腕が、いつの間にか布団の上に出ていて――手が温かい。 

 一体、何が起きているのだろう。私の身に何が起きているのだろう。

 でも、不思議だ。恐くもないし、嫌でもない。

 ただ、気になることがある。温もりに包まれている手の指先に、何か挟まっている感じがする。

 これは何だろう。薄くて、少しざらついている。厚めの紙のようだ。目で見ればハッキリするはずだけど、それは無理。だって、私の身体はあの日から動かない――

 そこまで考えた時、私は頭に爆ぜるような稲妻を覚えた。

 そう、動かないはず、動かせなかったはず。だけど今、私は指を使って確かめた。触れているこれの表面を、指先でなぞった。

 刹那、両目が強烈に痛んだ。空っぽだった私の内に、抜け落ちていた感覚が帰ってきている。まばたきを忘れていたツケが涙腺を刺激する。

 目の縁から雫が流れて落ちるのが判る。そのとき、風とは別のものが頬を撫でて、粒を攫った。

 目を向ける。一瞬だけ影のようなものが見えた気がした。

再び大きな風が吹いて、部屋は静寂を取り度す。手を包む温もりは、ほとんど冷めて――それでも指先には残っている。

 これが何か、確かめたい。日が昇れば、看護師さんが来る。私が何を手にしているのか、判るだろう。

 だけど、それは違う気がした。これは自力で確かめたい。大体、待つのって苦手だ。

 私は腕を意識する。動けと命ずる。

 肘の辺りが、ノミの半分ほど動いた気がした。

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