第三の魔女タンチ ノ マジョ
その魔女は不可能を可能にする。
話は、アレッシオ達とクロエが出会う前まで戻ります。
世界に八つある大陸の一つ、ディスカバリー大陸。
クロエはディスカバリー大陸を守る神から力を授かり、魔女となります。
クロエが授かったのは、探知の力。
形あるものなら、何でも探し出すことができます。
ディスカバリー大陸の神が魔女を必要としていた理由は、ただ一つ。自らの力を人間達に示し、信仰を得るためです。
信仰が無くなれば、神はその力を無くしてしまうからです。
クロエは魔女として人々から探し物の依頼を受け、それを見つけだしたりしていました。
人々から崇め、称えられ、神と同等の扱いを受けた彼女は、やがて大陸の支配者となります。
そんな彼女は今、動物達に囲まれていました。
護衛がクロエを守ろうと彼女を囲み、動物達の動きを伺います。
動物達は一斉に鳴いたり吠えたり、とても騒々しいです。
けれども、決して攻撃してきたりはしません。それがまた不気味でした。
クロエは焦りました。もうすぐそこまで、二人の魔女が来ていることを彼女は知っているからです。
やがて馬を走らせて、二人の魔女がやってきます。
クロエは死を覚悟しました。
ディスカバリー大陸の魔女の屋敷。
その応接間。クロエの向かいで、アレッシオ、イザベルの二人が座っていました。
「で、一体になんの用だ」
クロエは足を汲み、余裕の表情を見せ、震えを必死に隠します。
クロエは一度、他の魔女について調べたことがあります。
だから、よく理解しているのです。
二人がその気になれば、クロエを殺すことなど容易いということを。
ただ、二人が今それをしないということは、それなりの理由があるとクロエは踏んでいました。
イザベルが通訳として、二人の言葉を一字一句正確に翻訳していきます。
「オブリビオン大陸の魔女を探してほしいんだ」
クロエは、アレッシオがその魔女を殺そうとしているのだと思いました。
魔女が魔女に会う理由など、それぐらいだからです。
今のように何らかの頼みをしてくることは無いとは言えませんが、ごく稀なのです。
「嫌だな」
クロエは、はっきりと言い放ちます。
「オブリビオン大陸の魔女が死んだら、俺を殺せるのは貴様ら二人になる。
用済みになった俺を貴様らが殺さない保証があるか?」
この世界に居る魔女は、クロエを覗けば四人。
その内一人はクロエを殺すことができないので、クロエを殺せるのは残りの三人となります。
「こ、殺すつもりなら最初からそうしているはずでしょ!?」
イザベルが思わず立ち上がり、尽かさず反論します。
イザベルが動揺してクロエの言葉を訳さなかったので、アレッシオは何が起こったのかわかりません。
彼は困惑した様子で、クロエとイザベルの顔を交互に見ました。
「俺を殺したら他の魔女を探せない。殺せない理由としては十分だ」
「ぐっ……。アレッシオ! なんか言ってやってよ!」
クロエのその言葉に、イザベルは反論できずアレッシオに泣きつきました。
クロエはイザベルを言い負かしましたが、しかしだからと言ってクロエの安全が保障されるわけでもありません。
「そもそも、不審な点が多過ぎて信用ができない。
どうやって他の魔女の事を知った。どうして魔女を殺そうとしている」
通常は、大陸間の交流がない為、他の魔女の情報を得ることはできません。
イザベルは今までの経緯とクロエの言葉を訳し、アレッシオに反論するよう言いました。
「ある魔女から、聞いたんだ。オブリビオン大陸の魔女が、この世界の生き物を憎しみのまま殺していると。
俺は、それを止めるよう頼まれた」
イザベルは、再び通訳に戻ります。
どこか誇らしげにアレッシオの言葉を訳し、クロエに伝えました。
「ある魔女か」
クロエが小さく呟きます。
彼女には、その魔女について心当たりがありました。
夢を渡る力を持ち、時には夢を自在に操るという夢想の魔女。
その魔女は世界中の人間の夢を渡って、様々な情報を集めることができます。
もう死んでしまっている魔女なので、アレッシオが本当に会ったとしたらその前になります。
「それが本当だとして、なんでわざわざ止める必要があるんだ。放っておけばいいだろう」
イザベルがそれを訳すと、アレッシオは黙ってしまいました。
しばらくして、
「なんでだろうな」
真顔でそう言いました。
クロエは呆れて言葉も出ません。彼が本気で言っているだろう事が、わかったからです。
「まぁ、いい。ちょっと待ってろ。貴様の話が本当か確かめてやろう」
そう言って、クロエは目を閉じます。
彼女の瞼の裏に、オブリビオン大陸の魔女とその周囲の光景が映し出されます。
そこは、それなりの規模がある大きな町でした。
町には死体が溢れ、大量の血が石畳を濡らします。町の中で、包丁を持った魔女が一人佇んでいました。
クロエはこみ上げる吐き気を必死に我慢し、次の探知を行います。
瞼の裏に世界地図が映し出され、そこに赤い点が浮かび上がります。
赤い点は、オブリビオン大陸の魔女に殺された人間の死体がある場所です。
死体は、オブリビオン大陸、ラング大陸、その他二つの大陸を跨っていました。
クロエは、静かに瞼を開きます。
「オブリビオン大陸の魔女が、世界中で殺戮の限りを尽くしているのはわかった。
放っておけば、ディスカバリー大陸にまでやってきて、大陸中の人間を殺すだろうことも。
俺の大陸で、そんな好き勝手は許さない。奴を止める為に、貴様と手を組んでやってもいい」
ただし、と続けてクロエは条件を出します。
「オブリビオン大陸の魔女の死後、この大陸の土を踏むことは許さん。
次に、不可知の魔女と俺を契約をさせろ。
この二つが条件だ」
アレッシオは、二つ目の条件を飲みます。
一つ目の方は、飲めません。
「イザベルは、大陸同士交流を持たせるのが目的なんだ。
この大陸に上陸できなくなるのは、困る」
アレッシオの言葉をクロエは一蹴します。
「知るかそんなの。それが飲めないなら、俺は貴様に協力しない。
自力で、オブリビオン大陸の魔女も、貴様らも殺してやる」
クロエは強く二人を睨みつけます。
もし戦ったら、クロエに勝ち目はありません。
けれども、二人がなんらかの理由でクロエを殺せないのなら、クロエにも勝機があります。
クロエは、それに賭けました。無謀な賭けですが、クロエは戦わねばならないのです。
イザベルは少したじろいで、アレッシオに目配せしました。
アレッシオは、静かに息を吐いて、頷きます。
「分かった。俺達は、オブリビオン大陸の魔女の死後、この大陸には上陸しない」
「ふん。話の分かる奴だな」
クロエはそう言って、勝ち誇ります。
かくして、三人の魔女による同盟が誕生したのでした。




