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神林の視界に展開された半透明のホログラムモニター。そこに、逃走を続けるリーダーの背中がリアルタイムの光点となって映し出されている。



 距離にして約三百メートル。


 迷宮の入り口へと続く安全地帯のすぐ手前で、リーダーはついに足を止めた。振り返った彼の顔には、疲労と、自分が生き延びたことへの下劣な安堵が浮かんでいるのが透けて見えた。



『対象が立ち止まりました。魔力の急激な収束を検知』



 シオンのアナウンスとともに、モニター上の光点が赤く明滅し始めた。



 リーダーが腰から抜き放ったのは、高価な魔触媒の組み込まれた短杖だった。彼はそれを通路の奥——神林が置き去りにされた方角へと向け、芝居がかった身振りで高らかに詠唱を始める。



「これで完全に蓋をしてやる! 神林、お前の命は無駄にはしねぇよ!」



 それは、追ってくるであろうモンスターの群れを足止めし、かつ自分自身への追撃を完全に断つための火炎魔法だった。



 しかし、神林の眼に映るのは、猛り狂う炎のビジョンではない。


 リーダーの杖の先端で構築されつつあるそれは、ひどく旧式で無駄の多い『ソースコードの羅列』に過ぎなかった。



『マナの変換プロセス開始』


『熱量指定:中位』


『効果範囲:前方5メートル、障壁型に展開』



 一行ずつ、のろのろとコンパイルされていく魔法の術式。


 神林は、そのあまりにも隙だらけの構造に、小さく鼻で笑った。



「シオン。対象の構築プロセスに介入しろ」



『了解しました。管理者権限(Root)にて、実行コードの書き換えエディタを開きます』



 神林は、空中に展開されたキーボードへ再び指を走らせた。



 魔法を無効化して不発に終わらせるだけでは、デバッグとしては不完全だ。


 それでは彼らは再び、どこかで同じように他人を囮にするエラーを繰り返す。



 ならば、システムに組み込まれた欠陥そのものは、根本から取り除かなくてはならない。



 神林のタイピング速度が跳ね上がる。


 彼は、リーダーが組み上げていた火炎魔法の『変数』を、直接いじり始めた。



『効果範囲:前方5メートル』の指定をデリート。


 代わりに『対象座標:術者の右腕内部』と打ち込む。



 さらに『熱量リミッター』の項目を『安全停止セーフ』から『限界突破オーバーフロー』へと書き換えた。



「……パッチの適用完了だ」



 冷たい呟きとともに、神林はエンターキーを叩き込んだ。

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