守る人の、弱さ
「ちゃんと着きました」
家に入ってすぐ、龍にメッセージを送った。
少しだけ考えて、
「今日はありがとうございました」も付け足す。
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数秒後。
すぐに返信が来た。
『無事でよかった。戸締りしっかりな』
短い。
でも、それだけで少し安心する。
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ベッドに座って、スマホを見る。
名前の表示。
“龍”
それだけなのに、少しだけ特別に見える。
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「……変なの」
小さく笑って、画面を閉じた。
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次の日。
昨日のことが嘘みたいに、普通の朝だった。
でも——
「……また来たらどうしよう」
ふと、不安がよぎる。
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その時。
スマホが震えた。
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『今日、迎えに行く』
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え。
思わず画面を二度見する。
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『時間、何時に終わる?』
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一瞬、どう返せばいいか迷う。
でも——
『18時です』
すぐに返信した。
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『分かった。行く』
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たったそれだけのやり取り。
なのに、胸が少しだけ高鳴る。
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——そして、18時。
保育園の前に、龍が立っていた。
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「お疲れ様」
「龍さん……」
制服じゃない、私服姿。
それだけで少し新鮮だった。
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「ほんとに来てくれたんですね」
「約束したからな」
当たり前みたいに言う。
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「忙しいんじゃ……」
「今日はオフ」
短く答える。
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並んで歩き出す。
昨日と同じ道。
でも、今日は全然怖くない。
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「すみません……なんか」
「だから謝るなって」
すぐに返される。
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少しだけ沈黙。
でも、嫌じゃない。
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「……昨日のやつ」
龍がぽつりと話し出す。
「多分、同一人物だと思う」
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「やっぱり……」
少しだけ、手が震える。
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「しばらくは警戒しとけ」
「はい……」
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また沈黙。
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「……怖いか」
不意に聞かれる。
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「怖いです」
正直に答えた。
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龍は少しだけ視線を落とす。
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「……ごめん」
ぽつりと、言った。
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「え?」
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「もっと早く気づけたかもしれない」
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予想してなかった言葉に、少し驚く。
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「仕事柄、こういうの見てきたのに」
拳を少しだけ握る。
「近くにいたのに、気づくの遅れた」
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その顔は——
昨日の“かっこいい警察官”じゃなかった。
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ただの、
少しだけ悔しそうな人だった。
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「龍さん」
思わず名前を呼ぶ。
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「それ、龍さんのせいじゃないです」
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「でも——」
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「助けてくれました」
はっきり言う。
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龍が少しだけ目を見開く。
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「昨日、来てくれなかったら」
言葉が少し詰まる。
「どうなってたか分からないです」
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一歩、少しだけ近づく。
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「だから」
顔を上げる。
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「ありがとうございます」
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しばらく沈黙。
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龍は、少しだけ困ったように笑った。
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「……そういうの、ずるいな」
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「え?」
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「それ言われると、何も言えなくなる」
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少しだけ、空気が軽くなる。
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「じゃあ、もっと言います」
少しだけ意地悪に言ってみる。
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龍が、ほんの少し驚いた顔をする。
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「龍さんが来てくれて、すごく安心しました」
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一瞬、間。
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「……そっか」
小さく、でも確かに笑った。
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その笑顔は、
昨日よりずっと柔らかかった。
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気づけば、距離が少しだけ近い。
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「……あの」
思わず声をかける。
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「ん?」
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「今日も、その……送ってくれますか」
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自分で言って、少し恥ずかしくなる。
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でも——
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「当たり前だろ」
即答だった。
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その言葉が、やけに嬉しくて。
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「ありがとうございます」
また言ってしまう。
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「だから謝るなって」
少しだけ呆れた声。
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でもその声は、どこか優しかった。
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家の前に着く。
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「ここでいいか」
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「はい」
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少しだけ、沈黙。
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「……明日も来る」
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「え?」
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「仕事終わり」
さらっと言う。
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心臓が、また跳ねる。
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「いいんですか?」
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「守るって言っただろ」
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その一言。
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昨日より、ずっと重くて——
でも、ずっと温かかった。
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「……はい」
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龍が背を向ける。
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その背中を見ながら、思う。
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この人は、強い。
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でも同時に——
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少しだけ、不器用で。
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だからこそ、
もっと知りたいと思ってしまう。




