若隠居と合同合宿(4)
二日目の朝。当然のように師範達と生徒たちは朝練に励む。
「朝からがんばるなあ」
僕は炊事をする手を止めて思わず呟くと、隣で味噌汁を作っていた奥さんが笑った。
「そうよねえ。いつもはギリギリまで寝て出勤するのに、張り切っちゃって」
「合宿って、大人も張り切るのは一緒なのね」
「いやいや、あれって剣道好きな大きな子供でしょ」
笑いながら、せっせと朝ご飯の支度を進める。
朝はご飯、昼はパンというのが例年のやり方だそうで、今日の朝は、ご飯、味噌汁、温泉卵、のり、鮭の塩焼きだ。
そうしている間に設定していたアラームが鳴って、僕は急いで卵を鍋から引き上げ、氷水に入れた。そして、手分けして朝食の準備をテーブルにセットしていく。
幹彦たちは、ラジオ体操をしたりランニングをしたり短距離走をしたりというメニューをこなし、食堂へと入ってきた。
出て行くときには眠そうな顔付きの生徒もいたが、完全にシャキッと目覚めている。
そして、一斉に手を合わせて「いただきます」と唱和したあと、ガツガツとご飯をかき込んだ。
「運動のあとのご飯は一層美味しいでやんすね」
「うむ。朝ヨガもいいが、たまには朝練とやらも悪くないな」
チビたちも満足らしい。
「いやあ、一日中剣道ばっかりっていうの、久しぶりだぜ。おかわりおかわりっと」
幹彦は言って、もう空になったお茶碗を持ってご飯をよそいに立った。ほかにも数人、おかわりをしに立っている。
「この後はー?」
「午前中は基礎練習で、午後は打ち合いだって」
「じゃあ、参加は無理じゃのう」
「では、我らは我らで合体訓練をするか」
「新しい必殺技でやんすね」
「がんばるー」
チビたちはチビたちで、訓練するらしい。
「がんばってね。お昼には戻ってくるんだよ」
僕は言って、お茶を啜った。
昼はホットドッグで、昨日のうちに作っておいた牛カツとキャベツを挟んだもの、卵とチーズを挟んだもの、なすの照り焼きとチーズとレタスとトマトを挟んだものを作り、おかわりの自由分として、クルミパンとあんパンを用意することになっている。
準備は簡単ですぐに終わるので、雑用係の僕たちはゆっくりとさせてもらう。
それで、練習を見に行った。
生徒たちは激しく打ち合い、それに師範たちの檄やアドバイスが飛ぶ。
あんな時代もあったなあ、と思いながら見ているうちに休憩になり、僕たちは冷えた飲み物と糖分補給のお菓子を配る。
「熱が入ってるねえ」
幹彦に言うと、彼は汗を拭いながら楽しそうに答えた。
「ああ。この合宿に集まっているのは、各道場でも腕がよかったり伸びそうな生徒たちなんだって。だから、打ち合っても、こっちもいい練習になるんだぜ。史緒もやるか?」
「いや、遠慮しておくよ。剣道に薙刀が混ざっても困るだろうし、僕は剣道は高校の体育の授業くらいしかしたこともないし」
苦笑して僕はその誘いを辞退した。
「先生!」
冷たい飲み物を飲みお菓子を食べた生徒は、雑談を始める。その中でも幹彦は、年が近くて話しやすい実力のある探索者として人気なようだ。生徒が目を輝かせて群がってきた。
「魔物ってやっぱり強い?」
「一番やりにくかった魔物ってどんなやつ?」
やはりそういうところに興味があるらしい。
「一番? ううん。前剣聖の亡霊かなあ」
呟く幹彦に、わっと沸く。
「前剣聖!?」
「亡霊! いるんだ!」
「ああ、でも、俺一人なら一番やりにくいのは魔術師かな。その中の筆頭は史緒だな」
じろり、という感じで皆の目がこちらを向いて、僕はギョッとした。
その視線は、「この人が?」と疑うものもあれば、「へえそうか」というものもあるし、「嘘だろ」と納得してそうにないものもある。
まあ、探索者でもない子供のことだし、どうでもいい。
しかし幹彦は気付かないのか、続けた。
「史緒は魔術を使えば負ける未来が見えねえし、薙刀は恐ろしいひいおばあさんにしごかれて強いし、いやあ、相棒に恵まれたぜ」
それで不機嫌そうに鼻の穴を膨らませる子供もいたが、チビたちがそこに入っていってお菓子をねだる姿に皆笑顔になり、和やかなムードのまま、休憩は終わった。




