若隠居と怪奇事件(3)
どうも最近、エルゼの周囲が物騒である。
これは「盗賊が」という話ではなく、例の正体不明の動物の話だ。
あの食事会の翌日、予想通りに調査依頼が出されて、それを明けの星が受けて調査を開始した。
するとエルゼの周囲に同じような死体が見つかっていることが聞き取り調査からわかった。どれも、大型の動物だったらしい。
「ライオンとかの肉食動物は獲物の内臓から先に食べるけど、クマは手足を先に食べて、残りを自分のテリトリーに持ち帰って土に埋めて少しずつ食べる習性があったよね。確か、この保存庫を土饅頭って呼ぶとか聞いたな」
「嫌な習性だな」
幹彦は顔をしかめた。
テレビで住宅街にクマが出没したとか山菜採りに来た人が襲われて腕と顔を噛まれたなどというニュースを見るが、クマに襲われた登山客が土饅頭の中から発見されたとか、土饅頭を見張って戻って来たクマを狙うというのは、現地では知られることらしい。
「じゃあ、エルゼ周辺にライオンのような動物がいるんでやんすか?」
今日は別の群れの飛びラクダを狙おうと前回とは違う場所に来ていた僕たちだったが、思わず周囲を見回した。振り向いたらライオンがいた、なんて恐ろしすぎるが、幸いにその様子はなかった。
「そもそも、この大陸でああいう動物の話は聞いたことがないと思うぞ」
チビが首を傾げて考え込みながら言う。
「じゃあ、新種ー?」
「持ち帰るのが嫌になったクマかもしれんのう」
なるほど、と僕たちは納得した。
「まあそれなら、明けの星の敵じゃねえな」
「心配はいらないみたいだね」
「うむ。だから安心して飛びラクダ狩りに集中するぞ」
そうして僕たちは、飛びラクダの影を求めて空の彼方に目をこらすのだった。
別の大きな群れを発見し、十五頭飛びラクダを追加で狩った僕たちは、足取りも軽くエルゼへと戻った。
「蹄と皮、使う分以外は売るってことでいいか?」
「そうだね。飾りにいくらかあれば十分だし」
「肉は売るなよ、肉は」
チビがそう念を押し、ピーコたちがコクコクと頷いて僕と幹彦を見る。
「はいはい、了解」
チビたちはその答えに安堵したらしく、機嫌良く歩く。
そうしてエルゼに戻り、冒険者ギルドへ入ろうとすると、明けの星の三人がカウンターを離れるところだった。
「よう──って、何だ。難しい顔だな」
幹彦が、難しい顔つきのエインを見て言った。
「ああ。例の依頼だけどな。何か牧場のウサギとか小型のやつが数を減らしているのがわかって。逃げたわけではなく、どうも襲われたらしいんだよな」
それに、エスタが付け加える。
「鳥の羽が大量に散らばっててよ。どうも何かに襲われて、連れて行かれたらしい」
「こっちは別件という可能性もあるけどな」
そうグレイが言って、三人で揃って嘆息した。
「やっぱりクマー?」
「ライオンが出たのかもしれないでやんすよ。恐ろしいでやんす」
「百獣の王というからのう」
「ふん。ヤツなど、ただ大きいネコではないか。どうということはない」
チビが対抗するように言う。
「まあ、気を付けて」
「そうだぜ。鳥泥棒にしろ獣にしろ、な」
それで、僕たちはカウンターへ、明けの星の彼らは隣の食堂兼酒場へと足を向けた。




