若隠居と怪奇事件(2)
周囲を焼いて中心をほどよく赤いままにしてスライスしたラクダ肉にソースをかけたもの、あっさりと塩とこしょうと香草をまぶして蒸し焼きにしたもの、骨付きのあばら肉は柔らかく煮込んでいる。
「鉄板で焼いているのは味噌焼きだよ。ぜひ野菜も一緒にね」
ちゃんちゃん焼きの、サケを飛びラクダに変えたものだが、うろ覚えな為、ちゃんちゃんの意味を説明できないのでただの味噌焼きである。
「ワインもビールもあるぜ。モルスさんの持ってきてくれたお菓子はデザートにいただこうぜ」
「あ。パンとチーズもあるから適当にとってね。持ってきてくれたウサギも捌いたから照り焼きにしよう」
言いながら、僕と幹彦はチビたちの分を皿に取ってやる。
「いやあ悪いねえ。美味そうな飛びラクダ──ってなるか! はあ……」
エインがそう言って空を見た。
うん。今夜は晴れていて星がよく見えるな。
「飛びラクダを食える日が来るとは思ってもみなかったぜ」
グレイはボソボソと言って、なんとなく置いていた飛びラクダの頭を見た。
「どこでこんなに!? もしかして休息地を発見したのか!?」
セブンが驚いたように言うのに、幹彦が事もなげに答えた。
「飛んで近付いていって、討伐したんだぜ。な」
それを聞いて、エスタはヒョイと肩を竦めた。
「俺は驚かねえよ。こいつらの非常識さは今更だろ」
ジラールもそれに肩を竦めて、カップに手を伸ばした。
「違いねえ」
割れていたので買い取りにだせないだろうし、割って飾りに使うくらいしかないだろうとチビたちのおもちゃにと放り出していた蹄を、モルスさんは震える手で掴み上げた。
「これを遊び道具にするとは、確かに非常識だな」
オルゼとロイドの護衛コンビは、嘆息して頷いた。
「飛びラクダをホイホイ捕まえられるなんて、知られたらえらい騒ぎになるな」
「貴族が指名依頼をだしそうだな。山ほど」
そういうもんかあ。
エルゼの手前で明けの星の三人に会い、明日の夕食を一緒にどうかと誘っておいたのだ。その後門で番をしていたセブン兵長も誘い、ギルドでジラールも誘い、モルスさんの店に行ってモルスさんとオルゼとロイドも誘っておいたのだ。
それで今日、各々菓子やら飲み物やら獲ってきた動物やらを手土産に集まってきた皆と、朝から準備しておいた飛びラクダを使った料理で夕食を摂ろうとしているところだった。
それが飛びラクダだと知って、皆、固まった。そして、この通りである。
「まあまあ。気楽にいこうぜ」
「そうそう。乾杯しよう」
僕たちは無理矢理話を終わらせ、雑談と食事を始めた。
「やっぱり美味いな」
「うむ。ローストビーフ、じゃないか。ローストラクダか。このソースが肉に合うぞ」
「味噌焼きも好きー」
「ワインの味もいいのう。そうじゃ、シェリーも合いそうじゃ。出してくれんかの」
「照り焼きも美味しいでやんす。この歯ごたえが最高でやんすね」
チビたちも食事を楽しみ、いつしか皆も、ただ楽しみ始めた。
「そう言えば、今日、妙な事件が起こったそうだぜ」
言い出したのはセブンだ。
「町の外の牧場なんだが、大型の家畜が何かに襲われるって事件が起きてな。何でも、内臓が食われて、肉はほとんど残されていたらしい」
それに、皆が少し真剣な顔をした。
「魔物が町の近くに潜んでいやがるのか?」
「明日あたり、ギルドに調査か討伐の依頼が出そうだな」
エスタとエインが言う。
「そう言えば、森の向こう側でも見たぜ。内臓を食われた大イノシシの死体」
「じゃあ、頻発してるってことかな」
僕が言うと、皆、重々しく考え込んだ。
「魔物か、危険な動物か」
「ヒトの味を覚える前に討伐しないと危ないぞ」
オルゼとロイドが言い、グレイが頷く。
「緊急依頼が出るだろうから、明日はそれを受けるか」
「ああ。そうだな。どうせあと何件か依頼をこなさないといけないしな」
ジラールとエインがそう言い、エスタ、グレイが力強く頷く。
「そいつを仕留めたら、またこうして食ってやろうぜ」
エスタが明るく言って、それで元の明るい雰囲気に戻った。




