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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
15章

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赦し×旅立ち(2)

 悪魔の襲来から数か月が経った。天使の羽が生えた小瓶を失ったアルマスは旅に出ると言って出て行った。ローズはルイーズの暇さえあれば剣の稽古をつけてもらい、みるみるうちに腕を上げていった。


 ルイーズとローズは汗を拭いながら、横並びになって椅子に座った。


 ローズはゴクゴクと音を立てながら冷やしていた水を一気に飲み干した。水が喉を通って全身に行き渡る感覚がして、背筋がピンとして目が冴えた。


「お父様、私、ここを出て行く」


「え?」


「大切な人の力になりたいの」


 ローズはアフララに授けられた勾玉の形をした笛を握りしめた。


「分かった。気を付けて行ってくるんだよ」


「止めないの?」


「止めることで君のためになるんなら止めるけど、君のためになるかどうなるかなんて僕にはわからない。だから止めない」


「……」


「生まれてきたその日から、君の人生は誰にも邪魔されるべきではないし、何かに制限されるべきではない。それなのに僕は君を屋敷に括りつけて、おもちゃだけを与えて、寂しい思いをさせた。本当に申し訳なかった」


 ルイーズは膝に置いた手を握りしめて、頭を下げた。


 幼少期、自分があれほど苦労をして辛い思いもしてきたというのに、気付けば自分もローズからかけがえのない時間を奪い、純真な心に隙間を作り、表情を陰らせてしまった。


「いいの。私は"ローズ"だから。薔薇の花言葉と同じ想いが込められて名付けられたの。それだけで十分なの」


「……?」


「あとは好きにしていいんでしょう?」


 ルイーズはローズの手を握り、深海を映したような瞳に光を宿してローズを見た。


「誰がなんて言ったって、信じられるのは自分だけなんだ。つまりね」


 ルイーズはローズの手を強く握りしめた。


「君の未来は君のものだ」


 ローズは目を輝かせて頷いた。


「ただ、一つ条件がある」


「なに?」


「ヨハンと一緒に行くんだ」


「それだけ?」


「彼は必ず君を守ってくれる」


「本当にそれだけでいいの?」


「うん」


「分かった! じゃあ、もう行くね!」


「もう? 今?」


「お父様もお元気で!」


 ローズは稽古で使っていた木刀を握りしめて、勢いよく稽古場を出て行った。



 ローズは木刀を握りしめたまま、長い石段を駆け上がり、赤い鳥居をくぐり、アフララ邸へやって来た。戸は叩かずに、玄関脇の道を抜けて広い庭へ出た。


「アフララ様!」


 豪邸の縁側にはアフララが腰かけていた。所々怪我を負っている。


「どうしたんですか」


「ああ、いや、大したことではない」


「どうしてまだお金を投げてないのに外にいるんですか」


 アフララはズコーーーーッとずっこけた。


「ただの日光浴だが、お前には余がそこまで現金な奴に見えておったのか……」


「そのケガ、どうしたんですか」


「天界の様子を見に行った時に色々あってな」


 アフララの嫌な予感は的中していた。天界は混乱をきたしており、牢に閉じ込められていたはずの悪魔の遣いは見事に逃げ出していた。


「倒さなきゃいけない敵がいるんですね!?」


「倒すというより、神の印で封じると言った方が正しいな」


 ローズは目を輝かせてアフララの手を取った。


「私も一緒にやります! 敵を封印するための神の印も習得してみせます!」


「ダメだ。お前は余が居ない間ここの留守番でもしていろ」


「嫌です」


「余だけで十分だ」


「アフララ様一人でやっつけられるんですか」


「……」


「なら二人で強くなればいいじゃないですか」


「簡単に言うな」


「簡単だなんて思ってません。でも、アフララ様が一人で戦うのも納得できません」


「困った奴だな……」


 アフララは眉を下げて、駄々を捏ねるローズを見た。


「師匠、見てください」


 ローズは木刀で一本打ちをして見せた。風を切るように素早く木刀を振り下ろした。以前アフララと手合わせをした時とは比べ物にならないほど格段に上達している。


「私たちならできます!」


 いつもと変わらないローズの真っ直ぐな眼差しに、アフララは思わず微笑んだ。


「アフララ様、来週出発しましょう」


「出発? 何の話だ?」


「修行の旅です。護衛のヨハンも連れて行きます」


「全く話が見えぬ」


「アフララ様があと何千年、何万年生きるか知らないですけど、ずっとこんなところに引き籠ってるつもりですか?」


「余はここで、余に救いを求めに来た人間を救うことが役目だ」


「今度は迎えに行きましょう! 修行をしながら困っている人を助けるんです! こんな不便なところにある神社に来る人なんて限られてますから」


「お前はつくづく失礼な奴だな」


「来週の朝、迎えに来ますから!」


「余はまだ返事をしていないだろう」


「そうでしたね! でも来週必ず来ます! それまでに考えておいてください」


「待て小娘、ひとつだけ答えろ」


「はい?」


「何故そこまでして、余と共に居ようとするのだ」


「私の時間を誰と過ごすか、どう過ごすかって、私が決めていいんだって思ったときに、私が決めなくちゃいけないんだって思ったときに、真っ先に浮かんだのがアフララ様でした。ただそれだけです」


「……」


「さあ、行きましょ!」


 ローズは満面の笑みを浮かべて、アフララの手を引いた。


最後までお読みいただき感謝申し上げます。

回収しきれていない伏線もありますので、シリーズ2を執筆中です。

今後ともよろしくお願いいたします。

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