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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
13章

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輪廻×真実(1)

 ローズはアルマスが発狂する声を聞いて飛び起きた。


「お母様!?」


 ローズは辺りを見渡して惨劇を目の当たりにした。


 血溜まりに横たわっているのは父親である。


「……」


 ローズは虚無感を引きずりながらルイーズの元まで歩いた。


「……おとう、さま」


 返事はない。ルイーズは血溜まりに顔を浸して死んでいる。


「どうして、死んじゃやだよ……起きて、お父様……起きて……」


 ローズは泣きながらルイーズの亡骸を揺すった。


「うわあああああああああああああああああああああああ」


 ローズはルイーズに覆いかぶさるようにして大泣きした。


「お嬢さん、顔を上げて」


 ローズが顔を上げると、隣にはアーリィが居た。


「泣いてる場合じゃない」


「……」


「君はどっちを選択する?」


 ローズは嗚咽が込み上げてきて、言葉にできないでいる。


「まーだ諦めちゃいけないだろ? 君がやれば、君のお父さんだって救える」


「……」


「君は弱虫じゃないんだろー?」


 ローズは頷いた。


「お母様と約束したから。お母様との約束を果たせばお父様もきっと喜んでくれたはずだから。本当は、三人一緒に……三人で暮らしたかったけど……」


 三人で過ごすはずだった日々を思い描いた瞬間、ローズの胸に悲しみが再び込み上げた。


「その計画が失敗したら、俺の計画を実行するっていうのはどー?」


「……」


「まー、俺みたいなヤツに手を貸したくないか」


「別に」


 ローズは洋服の袖で涙を拭い、真っ直ぐな目でアーリィを見た。


「私が信じたいと思うものを、信じるだけだから」


「……」


 ローズは印を結んだ。


「招き巫女の印」


 気を失ったローズの身体をアーリィが支えた。


「ローズ様、行ってはいけません!」


 幼体化したままのヨハンが声を上げたが、アルマスに憑依したローズの意志は固い。


「私やる! 救世主だから!」


 アルマスに憑依したローズはポケットから天使の羽が生えた小瓶を取り出して両手で包んだ。



 《シナリオ再構成(リグレッションテスト)》(テイク1)


 溶けてしまいそうなほどの真夏日。アルマスは鞄の中を覗いた。鞄の中にはハンカチに包まれた包丁が一丁ある。


「キョロキョロしてどうしたんだい?」


「……!」


 若かりし頃の父親と会話をしたい気持ちもあったが、ぐっと口を噤んだ。


「アルマス?」


 何も言い返せずにルイーズと見つめ合っていると、背後からやってきた誰かに思いきりぶつかられた。軍服を着たイザナミがルイーズの腕を掴んでいる。


「ルイ、アイス食べて帰ろー」


「しまった! 掃除当番だった!」


 ルイーズは「ごめん」とジェスチャーしながら申し訳なさそうに走って行った。


 イザナミと二人。鞄には包丁。


「ちぇっ、釣れないなあ。ジュースでも買って帰るか」


 イザナミは自動販売機でジュースを買おうとしてポケットから出した小銭を落としてしまった。落ちた小銭は自販機の下に転がっていく。


 イザナミは自動販売機の下を覗き込んでいる。


 アルマスはハンカチに包んだまま包丁を取り出した。


 (今なら背中を思いきり刺せる……)


 アルマスの手は震えていた。


 (でも、できない……人を殺すなんて……できない……)


 アルマスは冷や汗を掻き、パニックになりかけていた。


「ねえ」


「!」


 目の前にはイザナミが居る。


「ボクに何か用?」


「……」


 びいどろのような透き通った紫色の瞳に吸い込まれそうになった。


「い、いえ、なんでもないです」


 アルマスは再構成失敗(テストエラー)と唱えて、白い光に包まれて消えた。



 《シナリオ再構成(リグレッションテスト)》(テイク2)


「ルイ、アイス食べて帰ろー」


 イザナミは満面の笑みを浮かべてルイーズの軍服を思いきり引っ張った。


 アルマスは肩に手を置かれ、思わず息を止めた。


「あのちっさいの赤目やった? 服引っ張っとるやつ。こっからよう見えんくて。あの二人どんな関係なん? 友達っちゅうやつ?」


「え?」


「変なこと聞いてもうてごめんな。人間なんかに(うつつ)抜かしとるようやったら、しばいたろ思てて」


 (誰……? 軍服も着てない……)


「知らんの? ほなええわ」


 見知らぬ男はそう言って去っていった。


 アルマスは自販機の下を覗き込むイザナミの背後に立ち、ハンカチに包んだまま包丁を取り出した。


 (考えろ、考えろ……。そうだ! 別に包丁で刺さなくても、この人の身体を乗っ取って事故に遭えば……)


 アルマスは印を結んだ。


「招き巫女の印」


 何度試しても招き巫女の印が発動されない。


 (もしかして能力の制約……?)


 イザナミは自動販売機の下に手を突っ込んだりして悪戦苦闘している。


 アルマスは包丁を取り出して刃先をイザナミの背中に向けた。


 (私がやらなきゃ……。私は、救世主だから!)


 アルマスは手の震えを止めるように包丁を握りしめて、イザナミの背中に思いきり包丁を突き刺した。


 しかし、その手はイザナミに掴まれて阻まれていた。これほど暑い日にもかかわらず、イザナミの手はひんやりと冷たかった。笑っていない目のせいか、異様なオーラを感じる。


「キミ、どこから来たの?」


 ふと、先程話しかけてきた男の言葉が頭をよぎり、注意深くイザナミの目を見た。


 綺麗な紫色だが、一瞬赤く光ったように見えた。


「ボクに何をしようとしてるの?」


 (この人……やっぱり、何だか変な感じがする……)


「ルシファーに言われてボクを連れ戻しに来たの?」


「えっ、いや、違います」


「じゃあこれ何?」


 手に持っていたはずの包丁はイザナミの手に握られていた。


「本当にルシファーに言われて来たんじゃないの?」


 イザナミはアルマスの顔をぐっと覗き込んだ。


「キミ、いつもルイといるコか。もしかしてキミもルイのこと好きなの?」


「……」


「だからボクのことを殺そうとしたのか!」


 イザナミは笑っていた。


「じゃあボクも殺そ☆」


 ローズはダメ元で招き巫女の印を発動させたが、やはり何も起こらなかった。


 (ダメだ、殺される……!)


 イザナミは包丁を持った手を大きく振りかぶった。


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