『6章 邂逅』【Scene01:影、灰にまみれて】
油を含んだ雨が、瓦礫に滴を打つ。ぽたり、ぽたり。
剥き出しの配線が黒く濡れ、割れた蛍光灯は二度と点かない。
フードを目深に被った男がひとり。
足音を残さない歩き方で、崩れた梁の影を縫う。
──短く刈られた、暗いダークブラウンの髪。
──フードの隙間に灯るのは、銀煤色の瞳。
壁面のステンシルが、はげた白で告げている。
《ZK SECTOR-04|AUTHORIZED PERSONNEL ONLY》
零機動隊──ゼロキ。警機構の影が変質した“半公式”の掃討部隊。
男はその監視網の真ん中を、あたかも設計図を知っているかのように抜けた。
赤い監視ドームの死角、巡回の癖、破られた封鎖線の幅。
腰の通信傍受端末が、電波の谷間を静かに渡る。
掌には刃──無駄のない長さのナイフ。
動きには、長く生き延びてきた者の統計と勘が染みついている。
誰にも聞こえないほどの声で、男は呟いた。
「……やっと見つけた」
「これで、全部……終わらせられる」
割れた天井の裂け目から、低い雲が流れていく。
男は一瞬だけ空を見上げ、また影へ沈んだ。
名は、まだ語られない。
だが、その瞳の温度は──かつて《牙》にいた者たちと、同じだった。




