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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
2章 『姉弟』
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【Scene03:夜風と覚悟】


任務の時間が近づき、空は夜の色をさらに深めていた。

**The Echo(記憶の残響)**の裏手、出撃口へ続く通路。人の気配のないベンチに、ウィステリアは腰を下ろしていた。

毒針を仕込んだ指輪を弄びながら、足元に落ちた影へ視線を落とす。風が吹き、髪が小さく揺れた。


その横に、ばたばたと足音が近づく。


「姉さん!準備できたよ!」


ヨルが息を切らせて駆けてきた。


「装備、確認した。爆薬も持った。あと、クロノに言われた注意事項も──」


「……うるさい。全部確認してから来い」


ぴしゃりと冷たく返すウィステリア。

それでもヨルは立ち止まらない。


「俺、ほんとに、今回ちゃんとやるから」


「……」


「この前、姉さんが言ったろ?“覚悟が足りない”って。……だから、ちゃんと持ってくる」


ウィステリアはようやく視線を上げ、彼の瞳を見つめた。


「殺す覚悟なんて、簡単にできるもんじゃない」


「でも……姉さんの隣、歩くには必要だろ?」


しばらくの沈黙。

ウィステリアは、ふっと鼻で笑った。


「──だったら、ちゃんと生き残れ」


「……うん!」


ウィステリアはゆっくりと立ち上がる。


「行くぞ。……“足を引っ張ったら、殺す”」


「…怖いこと言うなぁ。」


「言わなきゃ、お前が気ぃ抜くからだ」


ふたりの背は並び、夜へと溶けていく。

その背中にはまだ、不安と未熟が混ざっていた。けれど、それでもきっと。

ウィステリアは“弟”を信じたふりをし、ヨルは“姉”に追いつこうとしていた。



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