さあデートだ
15
快晴だ。
昨日の土砂降りがウソのよう。
……ついに…… デートか……。
昨夜、あんまり寝れなそうだったので、いつもより長風呂したりストレッチを多めにしたり。
しかし眠れなかった……。
だが時間は進むぞ、準備万端整えた…… ハズだ。
服、伽耶ちゃんセレクションだからヨシ。
金、デートだと言ったらスゲー嬉しそうに母が出してくれたのでヨシ。
……報告書が条件だったけれど、背に腹はかえられぬ。
スマホのバッテリー、ヨシ。
ハンカチ、ティッシュ、その他小物はバッグの中、ヨシ。
「さあデートだ。二人をくっつけに行くか」
今日の目標を口にする。
正確には、既に近付いてきた二人の距離を縮めるってコトになるのだけれど、僕側の現状は打破の仕様がないので、ふたりを煽る以外には頑張る事もない。
今日は自分も楽しもうと思ってる。
「あにぃ~、起きた~?」
「桂、おはよう?」
母と妹の声が掛かり、そのままドアが開く。
ドアといっても引き戸だ、鍵もついていない。
だからと言って、開けて良いとは言ってない。
「おはよう、だがすぐ開けんなっていってるだろいつも」
「違うのよ? デート前の張り切る姿が見たかったとかじゃないのよ? 彼女へのラヴコールの邪魔しちゃった?」
「あにい、おはよう! お土産と彼女とのスナップ忘れないでよね」
朝から賑やかだと思われるかも知れないが、これがウチの日常だ。
デートの支度を終えて、後は着替えるだけなのでそのままスマホだけ持ってリビングに。
メッセージは…… 予想通り、伽耶ちゃんだ。
伽「おはよーございまーす(°▽°)」
伽「晴れたよ行こうかデートだね☆(*ゝω・)ノ」
伽「デート…… ドゥルゅフフフ…… ( *´艸`)」
うん、楽しそうでヨシ。
桂「僕も楽しみだ」
桂「時間までは、プランクとかジョギングするよ」
伽「むぅぅう…… ( -_・)?」
桂「トレーニング的な」
伽「プラクティス!?(°▽°)」
桂「稽古とか練習ではないよ」
伽「じゃあ海の微生物の名前だ( ノ^ω^)ノ」
ガクッと力が抜けた…… 朝からツッコミを待たないで。
やり直し。
両手を握り、肘で腕立て伏せの体勢を支えてキープ。
自重にふるえるが耐える。
もう、やり直しはない。
決まった時間を耐えて、次の姿勢。
いつものサイクルを終わらせる。
いくらか体が熱くなって、汗ばむ。
「ふーっ、朝飯前、終わり」
「桂? ご飯、装っていい?」
「ありがとう、直ぐ戻るからチョイ待って」
「お風呂ね、どうぞ。私は、もう出なきゃだから…… 香里、任せていい?」
「はいはーい、アタシにおまかせ」
「助かるわ…… でも、お兄ちゃんについていっちゃダメよ?」
「デートの邪魔はしたくないもん」
そんな殊勝なことを言うが妹よ、お前には前科があるからな……。
仕事に向かう母に、先に挨拶をした。
「いってらっしゃい母さん。車に気を付けてね」
「行ってきます、桂は楽しんできてね?」
モチロンさ。
母を玄関まで見送ったあと、シャワーで汗を流しきる。
☆
「では、いただきます」
今朝はご飯に油揚げの味噌汁、卵焼き、白身魚のフライ、コールスローサラダ、キュウリの浅漬け。
「うん、うまい」
「卵焼きと浅漬けはアタシだからね」
「うん、美味しい。ありがとう」
「にっひひひ」
「礼にはならないが、このタルタルソース付きフライを進呈しよう」
妹に感謝しつつ、カロリーを押し付ける。
フライ、好きだけど朝から5つは多い。
「あにいのガタイで足りなくない?」
「きょうは少し控えてくつもりだから3つで充分さ」
「おお、身だしなみに気を使うあにぃを見る日がきたか」
何だかヒドイ扱いだな。
今日の費用を母に無心したので予定はバレているのだが…… それを喜んだ母と妹は『祝勝会』を開く準備をしていた。
何に勝利したのかは分からないが、僕の初デートというコトでしているのは明らかで。
心苦しさから叫びそうだったコトはナイショだ。
止めてはもらったけど、ケーキを焼く程の事だろうか……。
「もう、デートなんて…… リッパになりおったぜ」
「はい、ご馳走さま。僕はもう出かけるけど、留守番はちゃんと一人で出来るか?」
「あにぃはアタシをミクビリ過ぎだね! これから友達が二人来るから出かけないし」
「そうか…… ちゃんと友達が…… 立派になりおったな」
「NAPPAH☆はそんな言い方じゃないもん!」
真似すると怒り出した。
『ナッパ』って誰だ、動画配信者か何かだろうか。
「じゃ、行ってきます」
「いってらい! オミヤゲ! オマチ!」
片言になってる妹、保護欲が高まる。
「高いものは買わないぞ」
買ってしまうかもしれないけどさ。
☆
足に軽い疲れが残るのを無理やり動かす。
軽い疲労感は、屈伸と腕を上げての『伸び』で流してしまうのが心地いい。
肩周りの凝りを引き剥がしつつ、駅前に向かって戻る途中。
歩道橋の上に、ふらつく老人…… 顔色の悪い、杖を突いたお婆さんが見えて、息が詰まる。
嫌な予感がした。
飛び上がるように階段を駆け上がる。
「あぶなっ……」
手摺をつかみそこねたお婆さんに、誰かが手を伸ばすのが見えた。
が、足りない。
「やっ、止ま……」
その場まであと、一歩……!
「……間に合った」
お婆さんを支えてくれた女の子ごと、受け止める事が出来た。
杖だけは、階段の下まで落ちていってしまったが。
「うわぁ~!」
「…… あー、ダイジョブ?」
「は? はい、いえ、いいえダイジョブです!」
この優しい女の子は元気そうだから問題ないとして……。
お婆さんはグッタリしたままだ。
呼吸はあるが弱くて浅い、顔色が良くない、階段を上がり切ってからの貧血かな…… 詳しい人に診てもらわないとだ。
ま、でも病院まで目と鼻の先だ。
「どこか痛みますか?」
「……ごめんなさいねぇ…… 腕と、足かね……」
「分かりました。これからそこの小森医院に診てもらいに行きましょう。僕がお連れしますが、よろしいですか」
「ありがとうねぇ……」
お婆さんは、お姫様抱っこで病院に。
優しい女の子に後を任せてきた。
☆
「どうして時間に余裕を持たせていたのに…… ギリギリになるかなぁ……」
「あっ、きたきた」
「……まだ時間前ですから」
「何かあったか?」
なんだか理不尽な気分だが仕方ない。
さっき歩道橋で起きた事を話して、最後に到着した件をはぐらかそうかと思い喋ったら驚かれた。
「大幡君…… 救命活動、お疲れ様です」
「え、当然でしょ」
「やだ……! 行動がイケメン」
「だが、ゴリラ」
「てめえ」
「ふふっ、女性とは言え二人を段下から支えられるのは、ゴリラ扱いされてもしようがないのでは」
「だめよもぉ! なんで、通りすがりのお婆ちゃんにしちゃうのよぉ~……!」
しかし、お姫様抱っこをお婆さんにしたのが伽耶ちゃんのお気に召さなかったらしい。
「状況的に無理だって、ああするしか」
「ぽりすめん呼べばじゃあないのー!」
……あっ、そうだね。
忘れてた。
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