表情が気になる
13
ア~…… 眠い。
昨夜は、女子にイタズラ掛けられたせいで寝不足だよ。
最後の伽耶ちゃんへの説明が一番疲れた。
……女子も色々考えてて大変そうだぞ、伸。
一時限目が終わって、また伽耶ちゃんが何処かへ走っていく。
……もう期末試験まで時間がないが、大丈夫かな。
まあ何か考えがあるのだろうから止めないけど。
それぞれの思惑が掠めたり平行線のまま、時間だけが過ぎていく。
でも、大人は忙しかった様だ。
「……あ、ケーマ」
「なんだ?」
「ちょいいいか」
「なんじゃし」
連れションでトイレに向かいながら、伸から話された内容は中々に刺激的だった。
「隣のクラスの初穂狙いのヤツらが、入院したらしい」
「……怪我でもしたんかよ」
「らしいなぁ…… 部活出来ない位だとか」
「へー…… へぇ……」
フラストレーション、だったね。
と、すると、うちの担任も忙しかったんだろう。
バイオレンスは知らないうちに終わっているモノで。
完全に知らない事なら、良かったのに。
クラスに戻ると、副担任の青木先生が来ていた。
「HEY、石崎、谷崎、山崎くん、内藤くん! COME ON」
素晴らしい発音で、内藤達が呼ばれていた
咄嗟に動けない4人に、更に声が掛かる。
「STAND UP!」
「はっ! はいぃ! なんのご用でしょうか?」
「ええ、進路指導室で、少しお話しましょうね」
進路指導室は職員室の隣だ、説教部屋とも呼ばれてる。
「いや、あの、ちょっ……」
「私達もですかぁ?」
「ひぇえ、晴人くぅん」
「内藤、まずくね?」
呼び出しの内容は、言わずもがな。
伽耶ちゃん、上手く内容をボカして先生に伝えたね。
クラスの皆に見送られながら、奴らは教室のドアをくぐって行った。
途中で、僕と内藤の目が合う。
「(覚えてろよこのやろう)」
言いたいのはこんなセリフかな。
まあでも睨むな、自業自得なんだから。
もう、手を出してこないでくれよ。
僕はお前を睨みたくはない。
四人は、次の世界史の授業に10分遅れて戻ってきた。
女子二人(石崎、谷崎)と男子二人(内藤、山崎)に物理的な距離があったので、少なくともあいつらの中では話がついたんだろうな、と思う。
マイナスから始める好感度生活。
後はそちらだけで、ヨロシク頼むよ。
☆
「桂馬君、ゴメンね。話し中だった?」
「いや、大丈夫ですよ。あと、学校では大幡でお願いします」
「そっか。彼女も居るし、ヤキモチされちゃうか」
次の授業が終わると、青木先生が僕だけを生徒指導室に呼び出した。
何故か平さんが睨んでたんだが…… 何の話なんだろう。
深い瞳の黒色が、愁いを帯びている様な……?
ウチで焼き肉やってたのに間に合わなかった時と、同じ顔だ。
「今、何か失礼なコト考えてたでしょ」
「何のコトデスカ」
さすがささら姉さん、美人なだけじゃない。
「……今度はテキトーなコト考えてたでしょう」
な、なぜ分かる。
真面目で大人っぽくて、いつもは毅然としている憧れの女性だと、見抜かれていたのかっ。
年齢不相応な幼さと優秀な職能、加えて思いやりのある人柄。
そんなささら姉さんはクラスだけでなく、教師陣からも信頼が厚いし、素敵超人なスーパーティーチャー。
ま、まさか伝説のサトリ、なのかっ。
「……小声で、何を語っているのよ……」
あ、聞こえてた。
冗談はホドホドにしないといけない。
「ゴメン姉さん、ちょっとからかいすぎたかな」
「生意気になったわねー、何かヤなことあったのかな?」
「ん、いや、ヘーキだよ」
「そ? いつでも相談してよ。今回は私が手伝いをして欲しいのだけど、頼めるかな」
「手伝って欲しいことって?」
「……ね、あらかじめ聞きたいんだけど、平さん、先生達の事を嫌いなのかな」
え、どうだろう。
彼女は普段から、一人でいるか伽耶ちゃんといるかの二択で僕らと話すのも少ない。
けれど、昨日のあれを考えると、色々思う所はあるんだろう。
「特に誰かをってのは聞きませんが、何かあったんですか」
「あったのよ…… 言えないけど」
「やっぱりあの二人ですか」
「言わないからね」
「え、平さんがやったんです?」
「言わないって」
「本人から聞いてました」
「……生意気ー……」
ささら姉さんの発音だと、『なマイキー』に聞こえる。
「そこら辺知っているなら、やっぱり適任なのかな」
「何をすればいいんですか」
「Surveillance…… 監視ね」
「先生への中継もするんですか」
そういうのは、僕には向いてないと分かってそうだけど…… ささら姉さんは眉根を寄せて頼んできた。
「頼むよ、この月末考査期間だけでも」
どうにも気持ちは乗らない。
「ただ、一人ではなくてね」
「だろうね。羽月さんと、二人でいいですか」
「……ありがとう。ゴメンね、桂馬君」
だから大幡でって、まぁイイケド。
☆
午後の授業もあと一つ。
休みを挟んで、明後日から。
学生の仕事が、待ち構えている。
さっき先生からも言われたが、月末考査…… テスト期間。
「平さんは、もうノートのまとめに入ってるんだね。伸にも教えて貰おうかと思ってたけど…… スゲエきっちりだ」
「……こっちは後からまとめ直したノートです」
「そうなのか…… え、一教科に二冊!?」
「いいえ、伽耶ちゃん用のノートよ。大幡君だって、いつもメモとノートを使うじゃない」
テスト前って、やや追い詰められる感覚があって嫌だよな…… でも何かの準備みたいなザワツキは、何故か好きだ。
何度か試しているうちに、僕はノートを後から書き留めるスタイルになった。
授業で黒板を書き写しているだけだと、写しとる事に手一杯になって先生が話している事を覚えられなくなるからだ。
僕の理解力はたぶん低い。
だから、先生が書いていく黒板の文字はメモ(終わったら捨てる)に殴り書きして、大体の配置と表示を残す。
先生が言葉で伝えている事、人物名や単語をノートの半分にあらましから書き連ねる。
そうして、授業内容を覚えてからノートに書き留めると、板書で頑張っていた時より後々まで記憶に残るので、この形で続けている。
逆に平さんのノートは、板書と語りのパート分けが僕と一緒の半々スタイルなんだが、板書メイン、語りは板書の所々に色を替えて書き込み、単語は影響する、関係するモノに矢印が引かれている。
話は分かる程度、関連性をハッキリさせる書き方だ。
何にでも応用できるけど、その場で理解してるからこその処理方法だよコレ。
僕のやり方は一ヵ所を把握するのにはいいけれど、歴史や英文には向いていない。
「平さんに甘えても、良いかな…… 英語はなんとかなりそうなんだけど、世界史の範囲広いから、的が絞れなくて困ってるんだ」
「……そんな風に頼ってくれるとは思わなかったわ。私はいいけど」
「えっ? じゃあ俺も頼むぜケーマ、初穂。俺のノートは戦力外だけど」
椅子を音を立てて引き、伸が会話に便乗がする。
まあ助かる。
早いとこ、終わらせてこの更に後の問題に戻ろう。
「桂く~ん」
「ん、おかえり、伽耶ちゃん」
テスト前の騒音をすり抜けて、伽耶ちゃんの張りのある声が聞こえてきた。
「……あり、勉強会?」
「そうだよ。伽耶ちゃんのニガテの数学なら、ノートまとめてあるよ」
「助かるわぁ……」
「英語も使うと思って、コピーしてあるわよ」
「初穂ちゃん…… 好きっ」
お約束のがしっと抱き合い笑い合うと、改めてノートを見てビックリしている。
「ありゃ…… こんなに広い範囲だったっけ」
僕の印象だけど…… 勉強会をするべきなのは伽耶ちゃんじゃなかろうか。
でも、正直に言ってしまうと伽耶ちゃんを傷付けてしまうので控えめに言おう。
「伽耶ちゃん、また赤点になるとヤバいんでしょう?」
……oh…… 正直な平さんはストロングスタイル。
「あっはっは~、まあ、何とかなるわよ」
「そう、なのか。ならいいけど」
「う、うんモチロンヨ」
嘘だな。
完璧な棒読み回答だった。
「……勉強会、やろうか?」
「えっイイネ」
「図書館…… かファミレス?」
僕の投げ掛けに伸が乗って、表情を見せずに平さんが場所を検討していた。
しかし、伽耶ちゃんが黙っている。
「……伽耶ちゃん? どしたの」
「……なんっでもない……」
やっぱりおかしい。
「あ、私もオッケー、参加するし」
「おぉ……。じゃあ、伸、ファミレスだ」
「いよっし。じゃあ、放課後な」
「はい、分かりました」
伽耶ちゃんの、表情が気になる。
さっきの一瞬、とても悲しそうな。
辛そうな顔をしていたから。
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