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ア・ムリタへようこそ  作者: たたら
雪の国
2/6

生姜湯のお婆ちゃん

喫茶店という舞台の作品は初めて書きます。

喫茶店にもあまり行ったことがないので、こんなのかなって感じで書いています。物語に出てくる食べ物の効能や効果が間違っている場合があります。その時は活動報告へ一言よろしくお願いします。

「この生姜湯はいつも暖まって美味しいねぇ」


常連客の一人であるお婆ちゃんが私にそうやって語りかけてくる。


人である彼女を見ていると私は、変わり行く姿に同情してしまう。今の姿を保つことこそが永遠の美である。


そう思うのは変わらないが、常連客のお婆ちゃんと話しているとそれとは違う価値観も感じられて新鮮である。


「ふふ、セリスお婆ちゃんはいつも生姜湯を頼むんだから。私の店は紅茶やケーキを食べるような洒落た所なのよ、もう」


「アムリダちゃんが私に生姜湯を出してくれた日から、もうこの生姜湯のファンになってしまったのよ。それにこれを飲むようになってから、色々と痛みが緩和されてる気がするのよね」


「お婆ちゃんには長生きしてほしくてね」


「こら、からかわないの。でもありがとう、嬉しいわ」


違う価値観を感じられる人というものは、長く生きてきた中でとても貴重な人材だ。その繋がりは少しでも長くと思うのは、美しい。


セリスお婆ちゃんは、雪の街で一人暮らしをしている年寄りだ。年齢は72歳。私と出会ったときのことを思い出す。


「なんかセリスお婆ちゃんが初めて来店してきた日を思い出すわね」


ーーーー。


からんころん。


喫茶店の扉が開くと設置されたベルが鳴る仕組みになっている。


「いらっしゃいませ。当店ア・ムリタへようこそ」


「なんか場違いねぇ、私でも入って良いのかしら」


私の店の内装はキッチンとカウンターは別に、お客さまの座る席はなるべく綺麗にしておきたかったので、机の上に一輪の花を花瓶にいれて置いた。そこに少量の角砂糖を好みに合わせて使えるように置いていた。それでも質素なのは嫌だったので壁に華やかな造花を飾ったりしている。


窓はガラス細工でこの世界の神様をモチーフにしている。喫茶店を開く場所に馴染むような家の造りになるようになっている、雪の街ではレンガ造りの建物である。


「良いのよ、メニューはこちらになります」


お婆ちゃんを席に案内してメニュー表を手渡した。そしたら何を頼めば良いのか分からないと言うから、どんなものが欲しいのか聞いてみた。


普段ならそこまで親切にしないけど、雪の街で喫茶店を開いて初めてのお客様だったからか、その時に価値観の違いを見抜いていたのか。それは未だにわからないもの、でも年を幾月も重ねてきた人は大切に扱うようにしてる。


「そうねぇ・・・体がポカポカするものがほしいわね」


「分かったわ。少し待っておいてね」


五分後、私が持ってきたのは一つの湯呑み。


湯呑みから湯気が立ち込め、少し癖のあるつーんとした匂いを放つ飲み物が運ばれてきた。


「これは生姜湯といって、体を暖めてくれるし、体の節々から来る痛みを緩和させてくれるの」


「あらま、素敵ねぇ。いただくわ」


お婆ちゃんは生姜湯を一口飲み込むとほっこりしたような顔で言った。


「本当に体がポカポカするわね。とても美味しいわ」


「そうでしょう、生姜湯は女性の味方をしてくれる飲み物なのだから」


「でも少し味が合わないわね。もう少し甘くならないかしら」


この時、私は「良薬口に苦し」という言葉を思い浮かべた。それくらい我慢すれば良いのにと思ったのだけれども、意地悪したくなってお婆ちゃんに聞き返してみた。店員としては最低の対応かもしれないが、私はこの店での自分にそこまでの丁寧さは求めていない。


「お婆ちゃんならどうするの?」


お婆ちゃんは目を細めて、もう一口。


そしてもう一口飲み込むと机の上にあるシュガーに手を伸ばした。


「これお砂糖なのでしょう?使ってもよろしいかしら」


一つ、聞いてきた。この世界では砂糖や塩はそれなりに高価である。麦の栽培はよくされているが、砂糖や塩は生成方法を各企業が秘匿にして利益を得ているから普及率が悪い。私にはそんなもの関係ないけど、欲しいものを念じると取り出せる私特製の冷蔵庫があるからね。


「ええ、よろしいわ」


「それじゃおひとつ」


ぽちゃん。


まだまだ温かく四角形に整えられたシュガーを入れると、少しずつ溶けていった。


「そうね、これも美味しいわ」


お婆ちゃんの方法を別の湯呑みで試してみたら、苦さが緩和されてほのかな甘みが感じられるようになっていた。悪くない、そんな感想だった。


「私の負けね、お婆ちゃん今日のお代は戴かないことにするわ」


「勝ち負けをしてるつもりは無かったのよ、払うわ」


「それじゃこれはレシピに加えるから、アイデア料ってことで」


「もう、譲る気は無いのね。なら私から勝負を仕掛けても良いかしら」


「勝負?」


「といっても、お客さんの希望のようなものよ。私、この生姜湯のファンになっちゃったの、だからもっと色んな種類の生姜湯が飲んでみたいわ」


「初めての来店でそこまで行ってくるなんてお婆ちゃん何者なのよ」


「ふふ、伊達に年を重ねてないということよ」


「受けてたつわ、若さの力を見せてあげる」


「ええ、楽しみにしてる」


この後、私は生姜湯の種類を増やすことに奮闘したが、若さの力を手にいれるために犠牲にした物を考えると食材をどうするという柔軟性が無かったことに気づき、これは美とは関係ない生まれ持ったセンスの問題と嘆いてしまう。


しかしそれは美しくないと思い、知識を蓄え必死で取り組むこと三日間。私は、美しいと思える出来の一品を手にした。


ーーーー。



「思えばそれがあったから、セリスお婆ちゃんと仲良くなれたのよね」


「ええ、そう。とても充実した日々を過ごせてるわ」


「ありがとうね」


「こちらこそよ、それじゃあまた明日も来るわね、お代はここに」


「待ってるわ。いつもありがとう」


セリスお婆ちゃんはそう言って帰っていった。


明日はセリスお婆ちゃんが美味しいと言ってくれた『柑橘風味の生姜湯』を出してあげようかな。見た感じ、先が長くなさそうだから。少し、寂しいかな。


この私に、頑張ることをさせた上に寂しいなんて思いをさせるお客には今後なかなか会えないと思う。やっぱり、価値観の違いというか、発想が豊かなセリスお婆ちゃんは素敵だな。





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