第11話:文化祭の密室と、放課後の過保護な試着
文化祭の準備期間が本格的に始まり、青藍高校の校内は祭りの前夜祭独特の熱気と喧騒に包まれていた。
放課後の廊下を行き交う生徒たちの声、作業中の段ボールを運ぶ音、あちこちから聞こえる談笑。だが、そんな賑やかな喧騒から完全に孤立した場所が、特別校舎の最奥に存在する旧準備室だった。
「アキくん……ほんとうに、ここで着替えるの……?」
鍵のかけられた旧準備室の中。埃っぽい空気と夕日のオレンジ色の光が差し込む静寂の密室で、さくらは膝の上に抱えた衣装の袋をギュッと握りしめ、上目遣いに俺を見つめていた。
「そうだ。あの男子生徒の一件以来、お前を無防備に教室で着替えさせるわけにはいかない」
「でも……教室には女子しかいなかったし、ちゃんとカーテンも閉めてたんだよ……?」
「甘い」
俺は冷酷に、そして一切の妥協を許さない口調で言い放ち、さくらの目の前まで足を進めた。
「カーテン一枚の向こうに男どもが蠢いている環境など、俺にとっては無防備と同義だ。お前が服を脱ぎ、肌を晒す瞬間を目撃していいのは、この世界で俺一人だけで十分だ」
「う……うぅ……アキくんのバカ……過保護すぎる……っ」
さくらは頬を真っ赤に染めながらも、抵抗が無駄であることを悟ったように小さな溜息をついた。
先日の文化祭実行委員会で起こった出来事――さくらに馴々しく触れようとした他クラスの男子生徒を俺が圧搾するように排除して以来、クラスの出し物は「図書委員風のクラシカルブックカフェ」へと無事に決定していた。過度な露出のある衣装は排除され、落ち着いたロングスカート仕立てのクラシカルなメイドドレス。
だが、いくら露出が少ないとはいえ、さくらが可憐な衣装に身を包む姿を他の男どもに見せること自体、俺の独占欲にとっては許容しがたい苦痛だった。
「サイズ確認と試着が必要なんだろ。……ここで脱げ」
「っっ!?!?! え、ここで!? アキくんが見てる前で!?!?」
「当たり前だ。背中のファスナーやリボンの調整は俺がやる。……それとも、他の女子生徒に頼んで、お前の無防備な下着姿を見せたいのか?」
「見せるわけないでしょ!? ……うぅ、でも、アキくんに見られるのもすっごく恥ずかしいよ……っ」
「俺に見られるのは当然の権利だ。お前の身体のすべては、最初から俺の所有物なのだからな」
俺が静かに腕を組み、仁王立ちでプレッシャーをかけると、さくらは観念したように涙目になりながら制服のボタンに指をかけた。
パチ、パチと静かな部屋にボタンが外れる小さな音が響く。
ブラウスが肌から滑り落ち、さくらの真っ白で滑らかな肩と、華奢な鎖骨が夕日に照らし出された。制服の下に隠されていた、細く柔らかな体のライン。うなじには、未だに薄っすらと残る俺の噛み痕の痕跡。
ゴクリ、と自分でも気づかないうちに喉が鳴った。
俺の中の凶暴な獣が、檻を破って暴れ出しそうになるほどの衝動に駆られる。
「……アキくん……あんまり、じろじろ見ないで……恥ずかしくて死んじゃう……っ」
両腕で胸元を隠すようにして小さく丸まるさくら。その可憐で無防備な姿は、俺の理性を容易く狂わせる。俺は静かに歩み寄り、さくらの華奢な両肩を後ろから包み込むように抱きすくめた。
「んっ……!? アキ、くん……!?」
「言ったはずだ。逃がさない、と」
耳元で低く囁きながら、俺はあいつの露出したうなじへ、吸い付くように深く熱いキスを落とした。
「んあぁ……っ!? ダメ……っ、そこ、まだ痕が残ってるのに……っ!」
「残っているからこそ、重ねるんだ。お前が誰のものか、その細胞一つ一つに叩き込んでやる」
うっとりと甘い吐息を漏らすさくらの首筋に、俺は再び優しく前歯を立て、熱い圧力を加えた。先日の激しい噛み痕の上に、さらに濃密な俺の所有権を上書きしていく。さくらの指先が俺の腕を強く掴み、背中を弓なりにしならせて俺の体温を全身で受け止めた。
「んっ……ふ……っ……アキ……くん……っ……あたたかい……っ」
「……試着を始めるぞ」
俺はあいつの体温に後ろ髪を引かれながらも、用意されていたロング丈のクラシカルドレスを手にとり、さくらの身体へと滑らせた。シックな黒の生地と、真っ白なレースのエプロン。丁寧に背中のファスナーを引き上げ、細い腰のラインに合わせてリボンをキュッと結び上げる。
「……できた」
鏡の前にさくらを立たせると、そこに映し出されていたのは、まるで中世の洋館から抜け出してきたかのように美しく、可憐な少女の姿だった。
ロングスカートから覗く華奢な足首、キュッと締まったウエスト、そして上気した赤い頬と、潤んだ瞳。
「ど、どうかな……? 変じゃない……?」
不安そうに上目遣いで尋ねてくるさくらに、俺は背後からそっと抱きしめ、あいつの首元に顎を乗せた。
「変なわけがない。……美しすぎる」
「え……?」
「美しすぎて、俺以外の人間が存在する場所にお前を立たせたくない。文化祭当日、この部屋に鍵をかけて、お前を終日閉じ込めておきたくなるほどにな」
「ふふっ……またそんな激重なこと言って……」
さくらは困ったように苦笑しながらも、鏡越しに俺の瞳をまっすぐに見つめ返してきた。
「でもね、アキくん。私、アキくんがそうやって私だけを見て、私だけに嫉妬してくれるの……本当はすごく嬉しいんだよ?」
「……お前は本当に、俺を狂わせるのが上手いな」
「狂わせてるつもりなんてないよ? ただ……アキくんの『一番』でいられることが、世界で一番幸せだなって思ってるだけ」
さくらはくるりと振り返り、ドレスの裾を揺らしながら、俺の胸元へと飛び込んできた。
「文化祭が終わったら……もっと、アキくんに甘えてもいい……?」
「当たり前だ。お前が甘えるのをやめようとしても、俺が死ぬまで甘やかし続ける」
夕闇が迫る旧準備室の密室で、俺たちは再び強く抱き合い、深く濃密なキスを交わした。他の誰にも見せることのない、二人だけの特別な世界。過保護で激重な愛の鎖は、二人をどこまでも深く結びつけていくのだった――。
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