ゴーストがいる世界での死について
「なんかさー、俺死ぬの怖いなぁってずっとと思ってんだけどさ、そういえば死んだらゴーストになるひともいるんだよな」
一日の仕事も終わりお酒もいい感じに入っている夜のこと、田舎町に住む少年のノルが幼なじみのレムにぽつりと思い出したように言った。
レムはまた急だなぁと思ったが、彼はお酒を飲むとよく突飛な話をしだすのでいつものことではあった。そういえば少し前に町はずれの墓地にゴーストがでたと騒ぎになって、最近聖騎士のひとたちが対応に来たという話があったのでそのせいかもしれないとレムは考えた。
それでゴーストがどうかしたのとレムは怪訝な顔をする。
「いやさ、死んだらこうやって食べたりレムと話したりできなくなるじゃん。それってなんか怖いしいやだなーってずっと思ってたんだけどさ。ふと思ったんだよ、もし死んだとしてもゴーストになるかもなら、実は死ぬのって体が変わるだけで怖いことではないのかなぁって」
レムはこれはなんとなく教会の司祭様に聞かれたら叱られそうな話な気がしたが、うーんまあ確かにそういう考えかたもあるのかなとも思った。
レムやノルが幼少のころから集まりで行っている教会の話によると、墓地などに出てくるゴーストは生きている間に悪いことをした人が女神様に認められず、天界に行けないまま地上に縛られてしまった罰のようなものらしい。なので女神様に毎日祈りを捧げ天界へ行けるように正しく生きようとかそんな話を聞いていた。
しかし死ぬのが怖いのはわかるがはたしてそんな魔物のような存在になりたいだろうか、正しく生きていればそもそもならないらしいし、地上に縛られたゴーストは教会に浄化されるまでずっと苦しみが続くとか言われているのにとレムは思った。
それに対してノルはううんと腕を組み、複雑な表情をしながら言う。
「なんかさー、近所のおばちゃんたちから噂できいたんだけど、じつは墓地のゴーストの見た目がなんとなく靴屋のテオじいちゃんみたいだったらしくてさ」
えっ、とレムは驚いた。テオじいちゃんは最近確かに天に召されたが、最期まで家族からも町の皆からも好かれてる優しい人であった。それに女神様への礼拝も毎日欠かさないような人でもあったし、そんなテオじいちゃんがゴーストになるとはとても思えなかった。
「それでさ、思ったんだけどさ。あのテオじいちゃんですらゴーストになるならさ。もしかしてゴーストになるのって実は悪い人だけじゃないのかもって」
たしかにその方がレムも納得はできるなと思った。
「レムもきっとテオじいちゃんなら"いいゴースト"になってると思うだろ。てことは俺が死んでも"いいゴースト"になる可能性があるってことだし、それなら死んでもそのままレムといっしょにいられるかもだし、それなら怖くなくなるなって」
ノルはすごく嬉しそうに言うし、レムも彼が死んだあとですらも一緒にいたいと思ってくれているのは照れ臭い感じはあった。レムはなんともこっぱずかしくなり顔をもにょもにょさせて思わずお酒をぐいっとあおった。
しかし落ち着いた後にレムはあれっと、なんだかちょっと"嫌な予感"がした。
さっきの話だと、もしかして、この世には"いいゴースト"がいる可能性があるってことで、それだと先日の教会からきた聖騎士人たちがやってることってたぶんテオじいちゃんがきっとなってそうな"いいゴースト"も浄化してるわけで、それって――
とそこまで考えが進んだところで、むかし王都から来た冒険者の人たちが「噂だとな、王都の大聖堂地下には異端者を処罰するための秘密の組織の本部があるらしいぜ!」と酒場で騒いでいたのを思い出した。ちょっと嫌な想像をしてしまいぶるっとしたレムはノルがこれ以上に乗り気になる前に止めることにした。
とりあえずわたわたと「ちょっと、もしかしたら、まずいかも?」と伝えたら、ノルは基本的に物分かりがいいのではっとしたようになって、しおしおとそっかぁそうだよねと落ち込んだ。
まあわたしはノルがいいゴーストになっても悪いゴーストになってもきっと一緒にいてあげるけどね、とレムは思ったがそれは口には出さないままにした。




