2-1 文化祭準備①
文化祭は準備の段階から既に始まっている
らしい。
セルアたちがこの世界にやってきて、もうすぐ一ヶ月。
ゴールデンウィークが明けてすぐのある日の午後、チャイムが鳴り号令を終えたカナタのクラスでは、担任の教師があいさつをしていた。
「皆さん、2ヶ月と少し後には文化祭がありますよね。なので今日は文化祭のクラスでの出し物を決めてもらいます。じゃあ、ここから先はクラス委員の2人にお願いします。あ、ちなみに1組はSDGsの研究発表らしいですよ」
クラスのあちらこちらから「それは嫌だな」「つまらなさそう」などといった不満の声が聞こえる中、クラス委員の男女が前に出てきた。
「これから10分間、班で案を出し合ってください」
クラス委員の男子生徒がそういった直後、「ちょっといいですか?」と担任が手を上げる。
「今年から飲食模擬店の許可が保健所から降りたから、それでもOKですよ」
その発言にクラスの興奮は抑えきれないほど高まった。
**********
電子音と共にタイマーが始動し、それと同時に生徒たちもそれぞれ動き出した。中には席を立って遠く離れた班の所まで行く生徒もいた。
「班の中だけでやってくださいねー」
上記の事で先生が注意を促す。
「でさ!カナタは文化祭何がいいと思う?」
前の席から体を曲げて話しかけてきたのはカナタがいつもクラスで仲良くしている藤木エイタ。彼の隣にいるのは、同じくカナタと仲が良い神島ビスケ。
「えー、折角だから飲食店やりたいよなぁ」
「それな!じゃあ何やる何やる?」
「たこ焼きとかどーよ」
ビスケが提案した。
「お! いいじゃん!」
エイタが反応する。
「俺はアイス屋がいいと思うな。七月下旬ともなると暑くなってるだろうし。」
カナタも提案した。
「カナタにしちゃ意外だな。てっきりポップコーンとかホットドッグ出してくるのかと」
エイタが言った。
「流石に文化祭で映画館メシをするつもりは無いよ」
「でも体育館前で売れば文化部の発表とかクラス発表の前には結構売れるんじゃね?」
「あー! 確かに! ビスケもたまにはいいこと思いつくな!」
カナタが感心した。
「たまにはって…」
ちょっと微笑んだビスケだったが、「あっ」と何かを思い出した。
「よく考えれば体育館は飲食物持ち込み禁止だったわ」
「そういやそうだったな…」
「というか俺たちだけで決めていいのか?」
「いいだろ、佐藤さんクラス委員で前いるし」
「一応聞いとこう。佐藤さーん! 出し物何がいいと思う?」
エイタが少し離れた所にいる佐藤さんに聞いた。
「なんでもいいよー!」
「だってさ」
「あのー…」
後ろの席から蚊の鳴くような、弱々しい声が聞こえてきた。
「僕も話に入れて貰えないでしょうか…」
声の主はメガネをかけた、いかにも真面目そうな男子生徒だった。
「あ、ごめん。班長のこと忘れてた。」
「忘れないでくださいよ…」
**********
10分が経つ頃、話し合い時間終了を知らせるタイマーの音が鳴った。
「それでは1班から発表をお願いします。」
発表は1班から2班、2班から3班、3班から4班、と続いて行き、カナタ達6班の番になった。
「次は6班お願いします」
呼ばれるとカナタが立った。
「6班からは『海底カフェ』を提案します」
「…それはどんなお店ですか?」
「飲食店、所謂コンセプトカフェで、たこ焼きとかたい焼きとかカメパンとかの水生生物っぽい食べ物を売るんです」
「なるほど、分かりました」
こうして1クラス6班分の意見が出揃った。
お化け屋敷、クレープ屋、大きくバツを付けられたメイドカフェ等々、メジャーなものがほとんどだ。
「よし。じゃあこの紙にいいと思ったやつ書いて前に提出してください。相談も立ち歩きも自分のとこに投票するのもナシでお願いします」
そう言って配られた白紙の紙に各々が自分の意思を書く。5分後には前に全員分の紙が集まった。
「34、35よし全員分。じゃあ結果は明日の朝黒板に貼り出しておきます。もし他クラスと被ったら変わるかもしれないから、そうなったら我慢してください」
話が終わると同時にチャイムが鳴り、30余人は礼をした。
**********
放課後……
「こんにちはー」
終礼と掃除を終えたカナタとチハヤは演劇部の部室に入った。中にはカーペットが敷かれており、部屋の色んなところで10人ほどの生徒がくつろいでいる。
「おっ、来たか。みんなー発声やるよ」
10分ほどで発声練習と呼吸のトレーニングは終わった。
「これからミーティングを始めます」
全員、軽く礼をした。
「まず、これが今年の文化祭の台本。1人1部取って隣に回して」
全員に台本が行き渡った。休みもいるせいか少し余っている。
表紙には「FIVE・HEROS 作:宮崎要」と書かれている。
「それを各自読み込んで来て。来週の木曜にオーディションやるからそれまでしっかり」
「来週!?」
カナタは、あまりの準備期間の短さに驚いて、つい声を出してしまった。
ページを開くと「レッド ブルー イエロー グリーン ピンク 怪人各1名 戦闘員4名」と役者の配役表がまずあり、その次のページから話は始まった。内容はというと、街を襲う怪人とヒーロー5人組が戦い、怪人の能力に翻弄されつつも最後には力を合わせて怪人を倒す…という戦隊モノの王道ストーリーだ。
全員がパラパラと読み進めていく。
「めっちゃ先輩の趣味全開...」
チハヤはカナメの通学カバンを見ると、ファスナーのところにヒーローのラバーマスコットが着けられていた。彼の持つボールペンにも同じキャラクターが描かれている。
「すみません、質問いいですか?」
2年の男子生徒が次に手を挙げた。
「なに?」
「ヒーローや怪人のスーツを手作りするとなると、相当な時間と労力、技術が必要ですが、そこはどうお考えでしょうか。」
「アキバのコスプレショップとかで売ってるものに、簡単な装飾を足してそのまま使おうと思う。それなら時間も労力も技術も必要最小限で済むはず。あ、怪人の方は顔出しにしようか」
「そうですか。ありがとうございます」
男子生徒は礼を伝えた。
続いて、カナタが手を挙げた。
「先輩、この脚本だと単なるヒーローショーになりませんか? 僕たち『演劇』部だし...なんかこう、ドラマ的な部分を入れた方がいいんじゃないですかね」
「やっぱそう言われるよな... ん〜...今年はこれでいかせてもらえない?」
「はい。承知しました」
この後、スケジュール共有やちょっとした練習をしてこの日は終わった。
**********
次の日……
カナタは、朝のホームルームが始まる30分ほど前に登校し、教室に入ると黒板の前に多くの人がいるのが見えた。何があったのだろう、と思ってそこに近づいてみると
『2年3組の出し物は 『海底カフェ』 に決定しました』
と、昨日の結果が張り出されていたのだ。
「よぉカナタ。やったな!」
エイタが肩に腕を乗せて挨拶をした。
「おう!でも一番うれしそうなのは、発案者の班長だな」
自分の席に座っている班長は満足そうな顔をしていた。
「そうだな」




