1-8 ゴールデンウィークは自転車に乗って
「みんなー! 準備いい?」
今日は5月5日、ゴールデンウィーク真っ只中である月曜日の朝9時。七王子駅前にある、レンタサイクルの店の前で、カナタたちは自転車にまたがっていた。
「ああ。準備オッケーだ」
「他のみんなもいいね? じゃあ出発!」
ヘルメット姿の彼らは、自転車を漕ぎ始めた。
駅前大通りを、歩く人に気をつけながら走り、時々押しつつ、国道沿いの郵便局に差し掛かった頃、マキナが一つあくびをしてから口を開いた。
「ねぇ、そもそもなんで私達は自転車を漕いでるわけ…?」
マキナの目は、まだ眠たそうだ。それもそのはず、昨日は夕飯前に昼寝をしてしまったせいで午前3時に起き、7時から二度寝をし、出発直前の8時30分に叩き起こされたのだ。
「山の中にある、七王子ファミリーパークって公園にピクニックに行くんだ。着いたら、父さんと母さんとお弁当が待ってるよ」
「でもなんで駅から自転車なわけ? 車でよかったじゃない!」
「自転車で走りながら日の光と自然の風を浴びたら、すっきりするんだよ。それに、うちには自転車が一台しかないし」
「ふーん… ま、いいもんが見れると信じて、行ってやろうじゃない!」
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駅を出発してから約30分、一向は川沿いの土手の下を走っていた。
「あ~ 確かに風が気持ちいい~」
「そうだろう、そうであろう」
その時、ゴルダンが、「あ、あそこ」と言って、ある場所を指さした。
「野球してるぜ」
「野球…初めて実際に見ました」
4人が揃って思い浮かべたのは、先日やっていたジャイアンツvsカープの試合だ。
「といっても、これは少年野球だけどね」
ピッチャーの少年がボールを投げ、バッターボックスに立っていた少年がそれを打つ。いい当たり。だが、打球は想像以上に飛んでしまった。ホームランは確実だろうが、ボールは川に落ちてしまう。
そのことを察知したセルアは、自転車のシートの上に足を乗せ、そのまま思いっきりシートを蹴り、高く飛び上がった。それは明らかに常人が飛べる高さのそれを凌駕していた。両腕を伸ばしてボールをキャッチすると、上手に受け身をとって着地、ボールを子供たちのもとへ返しに行くのだった。
「ナイスセルア」
子供たちのところから帰ってきたセルアと、カナタはハイタッチをして、再び目的地へ向けて走り出した。
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一向は、橋を渡って川を越え、ファミリーパークへ行くことのできる唯一の道である、七王子MDの入り口へとやってきた。
「おー。ここが入口か」
先頭を走っていたゴルダンが自転車を道路脇に止めると、後続の四人も同じように一時停止した。
「結構山ね」
「確かに」
「山ですね」
「あ、そうそう。これ見て」
ふと何かを思い出したように、カナタはスマホを横向きにして画面を見せた。そこに映っていたのは、地図アプリだった。ちょうど、この近辺が映っている。
「見ての通り、ここの道は結構くねくねしてるし、意外と狭いし、木で前がよく見えない所がちょこちょこあるから、くれぐれも車には気をつけて」
四人が頷いた事を確認すると、今度はカナタが先頭を行くのだった。
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山道を一生懸命に登っているカナタたち。登り始めてから20分は経った頃だろうか、彼らの様子は明らかにしんどそうだった。
前から2番目を走っていたセルアは、「ちょっと、待ってくれ」と言って、先頭のカナタと後続の三人を引き留めた。
「なぁ、少し休憩していかないか? いくら体が強い僕たちといっても、流石にキツイ…」
セルアは、息も絶え絶えに、他の四人に訴えかけた。
「そうですね。この辺りで一度休むのも、ありでしょう」
「そ゛う゛し゛よ゛う゛か゛…」
先頭を走っていたカナタは他の四人と比にならないほど、口から出る一文字一文字に濁点がついてしまうほど、疲弊していたらしい。
「そういえば」と、カナタは一度止まってスマホを確認し始めた。山の中だからか、操作がカクついている。
「やっぱあった。ねぇねぇ、ここから何十メートルか行ったら、屋根のある休憩所があるらしいんだけど、どうする?」
四人は少しの間迷った。今すぐこの場で休むか、それとも、休憩所でゆっくりと休むか。
その後、マキナは口を開いた。
「折角だし、そこまで頑張らない? それにほら、絶景スポットでもあるみたいだし」
マキナの持っているスマホには、あるバイカーのブログに載っていた写真が映っていた。
「「「「お〜」」」」
「じゃあ…そうする?」
「僕は、呼吸を整えてから行くよ」
「私も、足がパンパンなので少し…」
セルアとラーシャは道の端に自転車を停める。
「ん、了解。じゃあ、先に行って待ってるね」
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カナタ、マキナ、ゴルダンの3人が休憩スポットに到着してから2分後、セルアとラーシャが追いついてきた。
「2人ともお疲れ〜」
「労いをどうもありがとう」
ヘルメットを片手に持ったセルアが、マキナと会話している裏で、ラーシャは東屋の机の上に置いてあるものに目をつけていた。
「あら、おにぎりを持ってきていたのですね」
「おうよ、サプラ〜イズ、ってやつ。食べな」
「それではお言葉に甘えて…ちなみに具のほうは何が…」
「えーと…今残ってるのは、梅と昆布」
「ありがとうございます。では…私はこちらをいただきます」
そう言ってラーシャが取ったのは、向かって右下にあったおにぎりだった。
一口かじったが、塩と米の味。まだ具にはたどり着いていないようだ。二口目をかじっても、まだ米と塩。そして、ようやく三口目で具にたどり着いたのだが、これがとっても酸っぱかった。思わず、口元を手で覆ってしまうほど。
「酸っぱい…誰か、お水を…」
「その様子じゃ、梅干し引き当てたみてぇだな」
ゴルダンが水の入ったペットボトルを「ほらよ」と渡すと、ラーシャは水を一気に口に含んだ。
「…っ、はぁ……酸っぱすぎました…」
「ラーシャ、大丈夫だったか?」
「ああセルア、もう大丈夫です。ご心配をおかけしてしまってすみません」
「セルアもおにぎり食べなよ。昆布だよ」
カナタはセルアに向かって、おにぎりを放り、セルアもそれをキャッチした。
「ありがとう。――――……酸ッ‼」
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セルアがおにぎりを食べ終わった後、5人は休憩場所のある空き地から、道路を挟んで目の前にある絶景スポットに移動した。
「綺麗な景色~」
「『空気がおいしい』とは、まさにこのことだね」
「あ、あそこ」
セルアが指をさした場所へ、4人は目をやった。
「あそこ、不動台じゃないか?」
「えーっと…」
カナタはスマホの地図アプリで方向を確認し始めた。
「うん、不動台で合ってるみたい」
「へぇ~こんな位置関係なんだ」
その時、ラーシャが「あの、」と口を開いた。
「一応、今のうちに聞いておきますけど、ここから目的地まで、あとどのくらいでしょうか?」
「んーと……うわ、まだ3分の1のところだ」
「「「「…つまり?」」」」
「あと4キロメートル。入口からここまでの距離の、約2倍」
「え? それ本気で言ってる?」
マキナはカナタに聞いた。
「もちろん」
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5人はそれからまた漕ぎ、漕いで、漕いで、漕いで、漕いで、漕いで参り、30分ほど漕いだ頃、一つの長い下り坂を目の前にした。
「こいつは、スピード出しすぎたらヤバそうな坂だなァ」
「だね…あ、ここ事故多発地点だってよ」
「ふーん…」
その時、なんとマキナは坂道をブレーキをかけずに、勢いよく下り始めた。
「あ! マキナ! 待って、危ない!」
「平気平気! 私、こういう度胸試し的なの好きなの!」
マキナはカナタ達のいる方を振り向いたまま、返事をした。だが、前方不注意はあらゆる危険を招くものだ。「危険」にいち早く気づいたカナタは声を張り上げた。
「マキナ! 前! ガードレール!」
「へ?」
ここでやっと、マキナは自分の目の前に、ガードレールと森が近づいていることに気が付いた。
(うそでしょ!? このままじゃぶつかる…! いや、大丈夫。私には”これ”がある!)
「発動:volatus intermediarius/媒介飛行!」
自転車とガードレールが勢いよく衝突する寸前、なんと自転車とそれに乗っていたマキナが空高く浮いてしまった。
「飛んだ!? え!? 今飛んだよね? マキナ飛んでるよね!? まるで某宇宙人映画……」
カナタは何度も目をこすって見直したが、確かに、マキナは自転車で空を飛んでこちらに戻ってくる。
「ごめんね、みんなに心配かけちゃって」
「マキナが無事でよかったんだけど、どうやって、それ、飛んだの? やっぱ魔法?」
「ご名答! 今のは私の固有魔術『volatus intermediarius/媒介飛行』だよっ」
マキナに続き、セルアも説明のために口を開く。
「夏雲ゴロウ先生曰く『作中第10位くらいの謎』がここで回収された。なんかもったいない気が……」
「――? マキナの固有魔術は、『物体を浮かせて、それに乗って空を飛ぶ』というものなんだ」
「あ! 私が説明しようとしてたのに!」
「へぇ~ じゃあ、折れた柱っていける?」
「いけるよ。それよりどんな状況よそれ」
「ほうきは?」
「それもいける」
「車は?」
「多分…いけるかな?」
「おぉ~ すげぇぇ」
「まぁ、そんなに期待しないでね。大きすぎたり、重すぎたり、逆に小さすぎたり、軽すぎたりしてもダメだから」
「いろいろと難しい制限があるんだなぁ」
「おしゃべりはそこまでにして、そろそろ出発しませんか?」
ラーシャが二人の会話に割って入った。
「だな。そろそろ腹減ってきちまったよ」
「それじゃあ…再び目的地に向けて、しゅっぱーつ!」
目的地の方向を指さして、そう叫んだカナタは、地面を蹴って自転車を発進させた。勿論、坂はブレーキを軽くかけながら下っていく。
残りの4人もそれに続くのだった。
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視点は、ファミリーパークで待っているタイチとサユコのところへ移る。二人はピクニック用の小型テントを張り、その中で待機していた。
サユコはテントの中から、無邪気に遊具で遊ぶ子供たちの姿を、幼い頃のカナタと重ねていた。
「ねぇ、あなた」
「ん? どうした?」
「子供って、あっという間に大きくなるわよね」
「いきなりどうした? まぁ、確かにそうだよな。俺だって、つい一月前にカナタの、幼稚園の入園式に行った感覚だ」
「私もそんな感じ。あそこで遊んでいる子供たちも、いつかは大人になっていくのかしらねぇ」
「だな…それより覚えてるか? カナタが年長さんの時・・・」
二人が息子との思い出話に花を咲かせていると、遠くから、カナタの「おーい」という声が聞こえてきた。
「お、来たか!」
タイチもテントを立って、カナタ達のところへ駆け寄った。
「全員、怪我一つなくここにいるよ」
「おぉ~みんなよく頑張ったなぁ…さあ、昼飯にするぞ!」
春晴家の三人+アニメの中からやってきた四人の計七人は、テントの前に敷いたレジャーシートの上で手を合わせ、昼食のお弁当を食べ始めるのだった。




