4-13 体育祭団別対抗リレーの部!!
ついに最後の競技、団別対抗リレーが始まった。
各団から選ばれた四人がバトンを繋ぎ、一位の座をかけて争う競技だということは、言わずとも知れているだろう。
カナタたち黄団からは、一年生の桑野サトル、三年生で団長の紀ヨシキ、三年生にして唯一の女子メンバーの山川レイア、そしてアンカーは二年生の藤木エイタの四人が走る。
「よーい」の声は、他の競技の時より力が込められていた。
始まりを告げる大きな破裂音の合図で、最初の六人は走り出す。
黄団の走り出しは完璧だった。先頭こそ赤団に譲ってしまったものの、三位とは差がそれなりにある。それを維持したままコーナーを二度曲がり、次の二組目にバトンを渡した。
「よし!」
バトンをしっかり握った紀は、最初からトップスピードで走り出した。少し開いてしまった先頭との差もすぐに縮まり、最初のコーナーに差し掛かるところではついに一位に躍り出た。
「やった! 追い抜いた!」
「このまま……このまま……」
喜ぶカナタとは対照的に、ビスケは冷静に場を見て、勝ちを願っていた。
しかし、予期せぬハプニングは発生してしまう。
「うぐっ……!」
紀がバランスを崩し、転倒した。
「ウソ……」
カナタだけでなく、その場にいた全員の体に、絶望感がじわりと湧いた。
――――クソッ、クッソぉ……
立ち上がるまでの間に、二位の赤団はもちろん、後ろにいた青団に、緑団に、白団に、紫団に、どんどん抜かされてゆく。
「もうダメか」そんな諦めを多くの生徒が覚えたその時。
「頑張れーっ! 頑張れきのーっ!」
黄団副団長の小野が、腹の奥から叫んだ。
「頑張れ紀先輩!」
「頑張れー!」
「頑張れー!」
続々と応援の声がわき上がる。
――――走れ、走れ! 紀ヨシキぃ!!!
彼女の声は、確実に黄団全体の絶望を吹き飛ばしただろう。その証拠に、紀も着々とスピードを取り戻している。
だが、依然としてトップとの差は開いたまま。それどころか現状一位の赤団は、三組目にバトンが渡っていた。
負けじと全速力で二つ目のコーナーを曲がり、黄団も三組目の山川レイアにバトンを渡した。
「任せて!」
お団子ヘアの彼女の足の速さは、七王子西中学校の女子の中では、カエデに次いで二番目に速い。学校の中では二番手とはいえ、夏休みに行われた都の記録会では、女子中学生の部で一位に輝くほどの足の速さの持ち主だ。
そんなレイアは、大きく開いた差をいとも簡単に縮めていく。
「よし、三位まで来た」
「ああ。だけどやっぱり・・・」
――――男子には勝てない。分かってるよ、そんなの私が一番。だけど「だから何?」。諦めるわけ、ないじゃない!!
レイアは持てる力を全て振り絞って腕を振り、足を上げて前に出す。
しかし、そんな努力もむなしく散り、三位より前に出ることはできなかった。そのまま、アンカーのエイタにバトンを繋いだ。
「後、頼むね」
「おう!」
桑野サトル、紀ヨシキ、そして山川レイアから脈々と繋がれたバトンを受け取ったエイタは、全速力で走り出す。
「エイタはっや!!」
「これがエイタの本気……!」
――――見てろよお前ら! 俺は、勝つぜ!!
彼のスピードは、より一層速まった。その勢いのまま、前方にいる青団を追い抜いた。
「やった! 二位だ!」
「ふっふっふ。気を緩めちゃだめだよ~」
カナタの背後から聞き慣れた声がした。「今度は何?」と呆れた様子で振り返ると、やっぱりチハヤがいた。
「何しに来たの?」
「こっちの方が見やすそうだったから、勝手に入らせてもらっちゃった。で、一つ忠告。うちのカエデは、最終兵器は誰にも負けないからね!!」
「それはこっちも一緒だよ!!」
二人の顔は、溢れんばかりの自信に満ちていた。
気づけばリレーも最終盤。先頭の二人は他を大きく引き離し、もはや一騎討ちと言っても過言ではない様子。
必死に食らいつくエイタと、普段の二〇〇パーセントの力を振り絞って走るカエデ。
息が切れかけながらも、彼の視線はカエデのその先、ゴールテープに釘付けだった。だがそれは彼女も一緒で、同時に二人とも勝つことしか考えていない。それを証明するかのように、また二人のスピードが上がる。
「いっけぇぇぇ!!」
「マジ勝てるって!!」
もう残り一〇メートルもない。だが、僅差でエイタは二位のまま。女子の中でとはいえ、やはり校内一位の足の速さを持つ彼女には勝てないのだろうか。そんな弱音は鮮明になる前に蓋をして、追い抜き、勝つことだけを思い受かべる。
また一層、頑張れの声が大きくなった気がした。別陣営のものかもしれない。けれど、それに彼の背中は確実に押された。
――――届く……!!
刹那、カエデの顔が真隣に見えた。「まさか」と言っているような表情に変わったのを認識した時には、ぴんと張られた白いゴールテープを、通り抜けていた。
「これ……」
「ああ」
「――――! っしゃあああああああああああああああああ!!!!!」
エイタの喜びの雄叫びに呼応するように、黄団からも歓喜の声が、天高く上がった。
天も勝利を祝福しているかのように、分厚い雲で暗く染まっていた空は、晴れ空を覗かせた。
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二〇二五年度、七王子西中学校体育祭、これにて全競技が終了である。
さあ、その後は運命の閉会式、もとい結果発表。
再び暗く染まった空の下、生徒全員が、団、学年、クラス、男女ごとに分かれて整列している。
『それではまず、総合順位を発表します』
そう言って壇上の校長は、懐からたとう折りにした紙を取り出した。それを開いて、口も開く。
『三位…………紫団』
発表された紫団の列からは、万歳三唱が聞こえた。
『二位…………赤団』
赤団の列の方からも、万歳三唱が聞こえてきた。だが、チハヤに関してはそうではなく「ちぇ~」とふくれていた。
「これ優勝いけるんじゃない?! ね、タカト」
そう言って後ろを振り向いたが、タカトの顔は明るいとも言えないし、普通とも少し離れた固い顔をしていた。
「……どしたの? そんな暗めな顔して」
「別に。特段事情は、無い」
「そ」
カナタは前を向き直した。いよいよ一位の発表だ。
『そして総合一位、優勝は……』
その場の全員が、固唾を飲んで聞く。心臓の高鳴る鼓動も、その時を待っている。
――――さあ来い……!
『……黄団』
一瞬、ほんの一瞬、グラウンドは静まり返った。
直後、優勝したことを脳で理解した黄団の面々から、ワーッと歓声が上がった。抱き合って喜び合う者もいれば、ジャンプしたりと全身で喜びを表現する者もいた。
「マジで!? 俺ら、勝っちゃった!?」
「ああ。勝った、勝ったぞー!!」
「しゃおらぁぁぁぁぁぁ!!!」
カナタ、エイタ、ビスケも大喜びしていた。
そんな彼らを『静粛に』と、校長は静めて、続きを読む。
『続いて、応援演技の部の・・・』
その時、校長のグレーの頭髪が、一瞬冷たさを感じ取った。
「ん?」
空を見上げる。次の瞬間には、暗く染まった天から雨粒がたくさん降ってきた。
「雨……」
『雨が降って参りました。みなさん、一度テントに避難しましょう』
一同は一斉にテントに入ろうと動き出した。
しかしその時、何人かの生徒が転倒した。
「いったたた……」
転んだ彼は、何か、足首に感触を覚えた。恐る恐る目を向けた。そこには、地面から伸びた赤黒い手が自分の足首を掴んでいる光景が、あった。




