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4-2 二つの新学期

「おー。これは綺麗に建て変わってる」


 今日は二学期の初日。


 文化祭の戦いで破壊された校舎は、見事に復活していた。

 ちらとプレハブ校舎があった方を見ると、こちらは綺麗さっぱり無くなっていた。


「おはよー、エイタビスケ」


 生まれ変わった教室に入ったカナタは、前の席に座っていた友人二人に挨拶をした。


「おはよカナタ」

「久しぶり」


「二人とも夏休み何した?」


「俺は愛媛のばーちゃんちに」


 エイタが言った。


「俺デュズニー」


 続いてビスケが言った。


「班長は?」


 後ろを振り向いてカナタがマサルに聞く。


「ぼ……僕はオーストラリアに少し……」


「「「オーストラリア!?」」」


「班長って、家太い?」


「そう言われれば、太いかと……」


「「すげ~」」


 教室の中に、徐々に人が増えてきた。生徒の波に乗って担任の曽根崎が入ってくれば、朝のホームルームの時間。


「みなさん、お久しぶりです。夏休みはどうでしたか? 勉強したり、遊んだりで、みなさんなりに充実したものだったかと思います。早速ですが、来月末には体育祭がありますね。そこで今日の三時間目は、ちょっと話し合いをしてもらいます。ま詳しいことは後で。始業式に行きましょう」


 担任の挨拶がおわると、クラスの一同は廊下に整列し、並んで体育館を目指す。




 始業式が始まった。はじめの挨拶をして、校歌を聞いて、今は座って話を聞いている。

 そんな時に、カナタはマキナのことを想っていた。


 ――――ちゃんとやれてるかな? なんかやらかしてないかな……? ま、大丈夫かな。そう信じよ。



 **********



 魔術師:マキナ・アーロウは、今日から高校生である。


 車で近くまで送られた後、小高い山の上にある、巨大でモダン豪華な校舎に、軽い足取りで踏み入った。


「お待ちしておりました。春晴マキナさん」


「占部先生。お久しぶりです」


 昇降口でマキナを待っていたのは、彼女の入学試験の試験官を担当した、占部サナエだった。


「今日からあなたの担任も務めさせていただきますから、改めて、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


「では、行きましょう」


 二人は校舎の中に入り、エレベーターに乗って、三階の一角にある教室に入った。


「みなさんお静かに。転校生を紹介します」


「春晴マキナです。今日から、よろしくお願いします!」


 マキナは勢いよく頭を下げた。


 彼女の姿に覚えがある者が、クラスの中に一人いた。


「えーとじゃあ、小鳥遊くんの隣が空いてるから、そこに座って頂戴」


「はーい」


 マキナは、一番後ろの席に座る。鞄から筆箱を出していると、隣の彼に話しかけられた。


「あの、俺のこと、覚えてる?」


「え? あー! 転けそうになった時に、助けてくれた人よね? 名前は確か……」


「小鳥遊キイチです。喜ぶに一と書いて、喜一(キイチ)


「キイチくん。これからよろしくね」


「……よろしく」


 キイチは彼女の顔から少し目線を逸らして、そう返した。


「小鳥遊さん」


 不意に、担任の占部に呼ばれたキイチは、ピクッと肩を震わせて前を向き直した。


「休憩時間を中心に、春晴さんに校内を案内してあげてください」


「お、俺がですか?」


「ええ。お願いします」


「まじかぁ……」


「よろしくねっ」



 **********



 柳葉高校は昼休みになった。


 マキナは、キイチの案内で食堂に来ていた。


「ここが食堂で、隣が購買。基本人が並ぶから、早めが正義です」


「へぇ~」


「一番人気は日替わり定食。次いでラーメン、カレー、たまにデザートが出ます」


「へぇ~」


 食堂で日替わり定食を食べた二人は、校内ツアーを続行する。


「ここは図書館。堅い本ばっかりだから、俺はちょっと苦手。自習室も併設してあるから、勉強するにはもってこいです」


「へぇ~」


「ここは理科室で、その反対側が美術室。さらにその隣が音楽室。さらにその反対側が第二理科室・・・」


「へぇ~」




「最後にここが……屋上」


「ん~……開放感があるわね」


「だろっ? でも今日は珍しいな。普段なら、もっとたくさん人がいるのに」


「そうなんだ。――――折角だし、景色見ていかない? ほら、綺麗よ」


「…………だな」


 二人は端のフェンスに指を置いて、七王子市街地を望む。


「あそこが七王子駅よね?」


「そうだ」


「意外と離れてるのね」

 ――――『volatus intermediarius/媒介飛行』で大体五分ってところかしら。


「な、なぁ」


「――――なに? って……大丈夫? 顔、赤いよ?」


「き、気にしないでくれ。それより、君に言いたいことがある」


「だから、どうしたの? 言ってみて」


「お、俺、初めて会った時からずっと君のことが・・・


 その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


「……私のことが?」


「――――なんでもない」


「えっ!? もー教えてよ」


「ごめん。またいつか!」


「待ってるからね?!」


 駆け足で、二人は教室に戻っていった。



 **********



 五時間目、六時間目、七時間目も終えて、ついに下校の時間になった。


「はぁーっ。勉強、楽しかった」


「それは……良かった」


 屋上での一件以降、キイチの態度はどこかよそよそしい。


「そうだ。春晴さんは、部活何にする?」


「ブカツ……部活……」

 ――――カナタから聞いたやつね。スポーツだったり、もの作ったりってやつ。


「まだ決めきれないなぁ。キイチは何なの?」


「俺は陸上。ただ……」


 その時。二人の背後から「オイ」と、がなる声が聞こえた。


 振り返って居たのは、三人組の不良だった。見た目的には「やりらふぃー」や「DQN」という言葉が似合う。


「これはこれはキイっちゃん、そいつは彼女か?」


「彼女……じゃないです。転校生で、たまたま案内任されただけで……」


「あー。今日二年来たって子ね」


 マキナはキイチに耳打ちする。


「ねぇ。この人たち、誰?」


「陸上部の先輩なんだけど、俺をいじめてくるんだ」


「そんな。ひどい奴はどこにでもいるものね」


「おーぃ。何ボソボソ内緒話してんだよ」

「ほんっとにかわいいね」

「キミ、名前は?」


「春晴マキナよ」


「答えなくていいよ!」


「マキナちゃんか。かわいー名前だね。どう? そんなツマラナイのとつるむのはやめてさ、俺らと遊ぼうよ」


「いや、私普通に帰りたいんで」


「えーいいじゃん。遊ぼうよ」


 リーダー格とみられる不良がマキナの腕に向かって手を伸ばす。しかし、それはキイチによって阻止された。腕を掴んで止めたのだ。


「春晴さんに触るな」


「テメェ、小鳥遊のクセに生意気だぞ」


 リーダーの不良は、キイチの胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「やめっ」


「痛い目みないとわかんねえのか? あ?」


「ごっ、ごめんな・・・」

 ――――ここで引き下がったら、またいじめられる。それに、春晴さんの前でそんな、情けない姿は……見せたくない!


「離せ、よっ!」


 キイチは、リーダーの不良を突き飛ばして脱出した。


「ってめぇ! 痛ぇじゃねえか!」


 彼は拳を構えてこちらに殴りかかってきた。

 キイチは目をつぶり、歯を食い縛ってその時を待つ。


 拳がすぐそこまで迫った時、


「cadere/転べ」


 その声が、静かに空気中に響いた。


 それと同時に、リーダーの不良がすっ転んだ。


「何しやがった!?」


「えっ、俺は何にも」


「許さねぇ」

「小鳥遊のクセに生意気な!」


 続いて後ろの二人も殴りかかってきた。

 しかしそれも「cadere/転べ」の一声で阻止された。


「またやりやがって……!」


 三人は揃ってキイチを睨む。だが、どうも彼は何が起こったか分からなさそうな顔をしていた。


 その時、キイチの後ろからただならぬオーラが発せられていることに、不良の三人は気づいた。

 そのオーラが、春晴マキナという可愛らしい少女から発せられているものだと気付くのに、時間は必要なかった。


「なっ、なんだ?」

「なんかやべえぞ」

「と……とりあえず逃げろ!」


 三人は蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。


「覚えてやがれー!」


 そう捨て台詞を吐かれた頃には、彼らは既に小さくなっていた。


「やった……」


 キイチは後ろを振り向く。


「さっきの、春晴さんが?」


 そう聞かれたマキナは、何ともどうとも言えぬので「しー」と、申し訳なさそうに微笑んだ。


「私、決めたわ。陸上部に入る」


「えっ、ほんと?」


「ほんと。私がキイチを守ってあげないと」


「そんなに情け……ないか、俺。言っておくけど、入部する以上は本気でやってもらわないと」


「当たり前よ!」



 **********



 同じ頃、家で勉強していたカナタは、一瞬の悪寒に体を震わせた。


「なんか今、大事な人が取られるみたいな感じがした」

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