3-17 流しそうめん
夏祭りと花火大会の翌日。マキナの魔術のお陰で快晴となった七王子、不動台の空の下で、春晴家は流しそうめんのレーンをベランダから庭へとセッティングしていた
「にしても、よくこんな量の竹を用意できたね」
「取引先の社長から貰ったんだ。竹林持ってるんだとよ」
タイチがベランダから叫んだ。
「凄~。で、リビングでくたばってるみんな~、もうすぐできるよ、流しそうめん」
カナタの目線の先にいたのは、言葉の通り、薄着でリビングでぐったりしているセルアたち四人だった。
「熱゛い゛~……」
マキナが唸った。
「もう、なんでこんなにあっちい日に限ってエアコン壊れちまうんだよ……」
「それは俺も思ってる。けど~もうすぐ流しそうめんするから、服着てね~」
「海に行ったときの水着でいいんじゃないでしょうか────プールが出ていますし」
ラーシャが麦茶を飲みながら言った。
「「「「名案」」」」
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三週間ぶりに水着に身を包んだカナタ、セルア、ゴルダン、ラーシャの四人は、箸とめんつゆを手にして庭に集まった。
「よっしゃー、流すぞー。じゃあマキナ、頼んだ」
同じく水着を着たマキナは、タイチと共にベランダにいた。
「はーい。Aquae generatio/水を生み出す」
魔術で生み出された水はレーンを下り、下のプールに流れ着く。なんて節約なのだろう。
水が尽きる心配は必要ない。マキナが両手をつき出して生み出した水は、既にいくつものウォータータンクに貯められており、ホースに繋いで供給源を変更すればよいのだから。
早速そのことを終えたマキナは、急ぎ足で庭へ出た。
「全員揃ったから、父さん麺流して!」
「よしきた」
タイチが取り出したのは、カラフルなピストル型のアイテムだった。
「タイチさん、それなんなんですか?」
セルアが聞く。
「昨日ド○キで見つけた『全自動麺発射機』だ。『わんこそばを入れる時に便利』とは書いてあったけど、別にそうめんでもいいだろ」
発射口をレーンにぴったりつけ、トリガーを引く。すると、そうめんは空を切り、とてつもない速さで皆の前を通過して行った。そして、気付いた頃にはプールの中に浮いていた。
その光景に呆然とする中で、「すまん。これ使うのやめるわ」と、タイチが申し訳なさそうに言った。
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気を取りなおし、流しそうめんを始めてから少しが経った。
タイチが流したそうめんをカナタがキャッチし、わんこそばの要領ですする。
「なんか飽きてきたな」
箸と器を持ったまま、カナタはキッチンに入る。
「わさびはどこだっけな~ あった。初めてだけど合うっしょ」
そう言って、めんつゆの入った器に一絞り。庭に戻って、流されてきたそうめんをすする。
「ん……うん。いけるいける」
「どう~? 美味しい?」
「Aquae generatio/水を生み出す」の補充をして戻ってきたマキナが優しく尋ねる。
「美味しいよ~。『わさび』っていうこの世界の調味料混ぜてるから、辛旨い」
「へぇ~。入れてみよ」
マキナもカナタに倣い、わさびをめんつゆに入れてみることにした。
「ぶぇほっ、ごへっ……」
マキナのそんな苦しむ声が聞こえてきたのは、すぐ後のことだった。思わず箸を落としてしまい、空いた手で口を押さえて咳き込んでいる。
「さては入れすぎたね?」
「適量……わからなくて……」
まぁそうなるだろうなと、カナタは察しがついていたため、あらかじめコップに注いでおいた麦茶を手渡した。
「ありがとう」
彼女は一気に飲み干す。が、ツンとくる刺激は取れ切らない。
「めんつゆ、変えよっか」
「そうする……」
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そんなプチ騒動から一時間が経った。彼らのそうめんの消費スピードは、目に見えて落ちていた。
レーンを流れるそうめんを取って、つゆにつけて、すすってをしていたセルアも「ふぅ」と息を吐いた。
「僕、もうギブアップです。ありがとうございました」
その宣告に続いてラーシャも「あ、私もです」と、流しそうめんの船を降りた。
「ゴルマキカナ! あとどんくらいいけそうだ?!」
タイチがベランダから問いかける。
「俺はあと二、三でギブ」
「私も同じくらいかも!」
「オレはまだまだいけるぜ」
それを聞いて、タイチは足元のそうめんがまだ大量に入った、本日三つ目の大きなタッパー型ボウルと目を合わせた。
────まずいな。この感じだと七割方そうめんが残ってしまう! 冷蔵庫のスペースの関係で保存は無理! 捨てるのも無理!
とその時、彼の脳裏に江の島の海水浴場で聞こえてきたサユコとレイカの会話がフラッシュバックした。
『レイカちゃん、よく食べるのね』
『ええ。恥ずかしながら、幼いころから大食いなもので』
善は急げ。すぐさまカナタに依頼した。
「カナターっ! 月海さん連れてきてくれー!!」
「何故にー?」
「いーからいーから! ほらレッツゴー!」
カナタはお椀と箸を置いて、水着のままてくてくと向かいのJNIA邸を目指した。
着いたら真っ先に玄関チャイムを鳴らす。出てきたのは、運がいいことにレイカだった。
「こんにちは月海さん。お昼、食べました?」
「仕事続きでコーヒーとサラダチキンが今日の昼飯だ。悲しきかな」
「それなら、うちでそうめん食べません? 今なら流せます」
そう言われて、彼女は興味が湧いた。実のところ、レイカは育ちの関係で流しそうめんというものをしたことが無かった。
「そうか、参加させてもらおう」
レイカはダボっとした部屋着のまま、家を出た。鍵はかけなかった。家にマコトがいるのだろう。
────昼寝中だが、大丈夫だろう。
「連れてきたよ~」
「お誘いいただいて感謝します」
「お~う。じゃんじゃん食べて行ってください」
彼女のおかげで、茹でておいたそうめんはすべて無くなった。だが彼らが驚かされたのはレイカの胃袋の大きさだった。平らげておいて「もう無いんですか?」と言い出す始末。
「また来年もしますんで、その時はもっと用意しときます」
例に漏れずタイチがベランダから叫んだ。
「お気遣い感謝します。では、私はこれで」
そう言って、レイカは去っていった。
さて、この後に残ったことといえば、レーンの片付けとプールの片付け、使った食器の洗浄だ。
「さ、みんなでやろっ」
「だね」
満腹でリビングの大窓のサッシに腰かけていたセルアたちも食休みを切り上げ、片付けの手伝いを始めるのだった




