3-16 夜空で蕾は弾けた
お知らせ:一人称「オレ」は、今回からゴルダンです。
マキナが射的で一発当ててから一時間弱。各々、食べたり飲んだり遊んだりで楽しい時間を過ごした。
さて、もうすぐ花火大会が、商店街から約一・五キロ離れた川で行われる。祭り会場にいた人たちも、それに向けて大移動を始めていた。
しかしカナタは、商店街の一角にある三角公園のベンチでうずくまっていた。隣ではタイチが背中をさすっている。
「うぅ……食いすぎた……」
「ったく。何だ? 焼きそば、唐揚げ棒、肉巻きおにぎり、かき氷、たこ焼き、トルネードポテトにケバブサンド。お前のそのほっそい体のどこにそんなキャパがあんだよ」
ゴルダンが水を買って戻ってきた。
「カナタ、大丈夫か?」
「なんとか」
カナタは受け取った水を、とりあえず喉に流し込む。
「――――はあ。花火、時間大丈夫かな」
「セルアとサユコさんたちは、そろそろ到着する頃か」
「えーと今七時半だから……走ったら間に合う」
「無理。歩くのはできても走れない……」
「しゃーねぇ。タクるか。移動すんぞ」
「うん……」
「立てるか?」
「ありがとゴルダン」
なんとか立ち上がったカナタと、それに付き添うタイチとゴルダン。三人も花火大会の会場に向けて移動を始めた。
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「あ゛ー。報告書がまとまらん……」
夏祭りを楽しんでいる人がいる傍ら、仕事に励む人もいた。それが、月海レイカという女だった。
春晴家の向かいに借りている一軒家で、必死にパソコンと向き合う。
「お疲れ様」
マコトは、彼女の机にコーヒーの入ったマグカップを優しく置いた。
「助かる」
「なぁ、花火行かないか?」
「馬鹿言え。私はまだ仕事がある。しかも期限が近い」
「お前にしては珍しいな。仕事がたまってるなんて。嵐が吹いて中止になるんじゃないか? 花火大会」
「なわけ……」
その時、二人のスマホが同時に震えた。何事かと思い開くと、バナー通知で『七王子市で局地的なゲリラ豪雨が発生』とあった。
「ほら、お前がそんなことを言うから」
「これは俺のせいじゃないだろう」
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時を同じくして、花火大会の会場。
突然の豪雨に驚いた人々は、近くにあった大きな橋の下で身を寄せあっていた。
「せまい~……」
いや、この場合だとすし詰めと言う方が正しい。
「奥に詰めてくださーい」
「もう下がれねぇって!」
スタッフの呼び掛けに、そう返事が返ってくる始末。橋の下は既に満員。周りには他の雨避けスポットもない。雨具も持っていない人は、もうどうしようもないのか。
そこでだ。
「僕たち出ます! 代わりに誰か入れてあげてください!」
比較的前の方にいたセルアが、人をかき分けて進みながら叫んだ。彼の後ろには、マキナとラーシャも着いてきていた。
三人と入れ替わるようにして入ったのは、小さな子供を二人連れた家族だった。
――――これでいい。
その時だ。通行止めエリアギリギリのところに、タクシーが停車した。
降りてきたのはカナタたちだった。
すぐにセルアたちを見つけたカナタは、折りたたみ傘を開いて駆け寄った。
「雨すごいね」
「ああ。これは中止かもな……花火」
「いや、私に一つ策がある」
「なになに?」
「魔法で、天気を変える」
「マジか。『天気の子』じゃん」
「でもそれって、魔力の使用量がかなり高い技ですよね。大丈夫なんですか?」
「スポーツドリンクを適宜補給してくれたら、何とか……かな」
「よし、じゃあやろう」
「っつーことは、どこか人目につかないところに行かねぇとな。また釘原さんに怒られちまう」
「あ、高い場所じゃないとダメだからね」
「近くにあって人目につかなくて、尚且つ高い場所と言えば……あそこかな」
カナタが指差した先にあったのは、パチンコ屋の立体駐車場だった。
「行こう」
「「うん」」
「おう」
「はい」
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「うわ~。こりゃ出られそうにないね」
花火大会の会場に程近いカフェに、チハヤとカエデはいた。
「どうする? ツレ呼んで、バイクで家まで送ってもらおうか?」
「そうしよっかなー。どうせ中止だろうし」
「――――ねえ。あれチハヤちゃんの幼馴染みの子じゃない?」
「えっ?」
カエデが指差し、チハヤが振り向いた方には、堤防の上を走るカナタたち五人の姿があった。
「ほんとだ。雨なのによく走るね。後ろにいる人たちは誰だろ」
「見た感じ中高生じゃないっぽいけど」
その時、店内の電気が一斉に消えた。
「わっ、停電!?」
「……帰ろう、チハヤちゃん」
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「不法侵入なんて、初めてだわ。」
「その『初めて』も、無いのが一番なんだけどね」
「それはそうよ」
「もうすぐ屋上だ。みんな、準備はいいか?」
「スポーツドリンクは準備オッケーです」
「傘持ちはオレだな」
「じゃあ、行こう」
五人は雨が激しく打ち付ける屋上に足を踏み入れた。
横殴りの雨に立ち向かうように歩み、やっとこさ最上部に到達した。
「始めよう」
ゴルダンが傘でマキナの体を雨から守り、残りの三人がスポーツドリンクのキャップを開けて待機。完璧な陣形。
そして、マキナは大きく息を吸い、杖を天に向けて構える。
「Caelum serenum/晴れろ」
その声から二秒後、空には満点の星空が輝いた。
「よっしゃ成功!」
と同時に、マキナは気を失い、体は後ろに崩れるようにして倒れた。それをゴルダンが受け止め、残りの三人で口にスポーツドリンクを注ぎ込む。
むせた彼女は、目をゆっくりと開けた。
「できた?」
「大っ成功! ありがとう!」
「良かった……」
「折角ですし、ここで見ていきましょうか」
「そうしようか」
意図せず不法侵入は継続となり、打ち上げられるであろう花火を待つ。
「花火玉が濡れた」ということは、ここでは考えないこととしたい。
三分も経てば、花火大会再開のアナウンスが入った。そこからさらに二分後には、ドン、ヒュ~、と言う音が近くの空に響き、バン、と、夜空を彩った。
それを、壁にもたれかかって見る。
しきりに花火は打ち上げられる。
赤、青、黄、緑、オレンジ、ピンク。スタンダードな形から、ハート、スマイルといったユニークな形まで。
「綺麗……」
「ノスタルジー感じるなぁ」
「俺たちの国にも持ち込むか」
美しい光と炎の花に目を輝かせる一同。それぞれ思うことはある。
しかし、心の底から思っていた事は、皆同じだった。
また、みんなでこの景色が見たい。




