2-5 オーディション
オーディションの日の4日前である日曜日の朝、カナタはカナメに「役者をやるなら」と見るのを勧められた5人組ヒーロー「ゴニンジャー」のアニメを見ていた。アニメと言っても前半のドラマパートがアニメーションであって、後半の戦闘シーンは実写の、いわゆる「特撮モノ」である。
「そこまでだ!邪悪軍団!いくぞ!」
「「「「「変身!!!!!」」」」」
熱血的な若い男の掛け声で5人が一斉にポーズをとって変身した。彼らは左から緑、青、赤、黄、桃の近未来風スーツを身にまとい、整列した。
「ゴニンレッド!」「ゴニンブルー!」「ゴニンイエロー!」「ゴニングリーン!」「ゴニンピンク!」
「我ら、5人そろって!」
「「「「「ゴニンジャー!!!!!」」」」」
かっこいい掛け声とともにレッドを最前にポーズをとった。
数多くの戦闘員を倒して最後には必殺技でボス怪人を倒す、といったお約束の内容が、5年周期で世代交代を繰り返しつつも、ニ十年近く放送され続けている。
**********
授業も終わり、部活動の時間になった。演劇部の部室では部長のカナメと副部長の女子、阿武隈ヒサエと演劇部の顧問がそれぞれ椅子に座って審査員をしていた。
「範囲は悪役とヒーローでそれぞれ2ページ目と5ページ目の名乗り口上とセリフをどこかから一つ。じゃあスタート!」
最初にオーディションを受けたのは台本が配られたときにカナメに質問した男子生徒だ。
「清い流れよ世界を潤せ!ブルーヒーロー!」
「いいね、キマってる」
「もっと頭を冷やせ。このままでは敵の思う壺、だ」
彼は役になりきって「フッ」と決めて見せた。
「ありがとう。次の人!」
男子生徒が横に捌けると、次は女子生徒がオーディションを受けた。
彼らのオーディションを見ながらカナタは自分の前に並ぶ金髪の男子生徒に闘志を燃やしていた。
(荒牧スバル、齢13歳にしてバラエティやドラマに引っ張りだこ、さらには来年の映画に主演することも決まっている。まさに今をきらめくスーパー子役! 撮影の都合で髪染めだって許可されてるベリベリ特別な男!)
カナタはスバルのことを良く思っているのと同時にライバル的な存在でもある。主役として舞台に立ってみたいカナタVS圧倒的な実力を持つスバル、という風な構図が1年生のころから続いている。
「よーいスタート」
カナメの手をたたく音と同時に、スバルがオーディションを始めた。
(僕が目指すのはもちろん主役のレッド!)
「燃え上れファイア! レッドヒーロー!」
「やっぱ本職は違うね」
「熱い力で、世界を、みんなを救って見せる!」
スバルはグッと拳を握って、まるで雄叫びを上げるかのように顔を上げた。
「迫力すごっ、次ー」
勢いよくお辞儀をしたスバルが横に捌けると、次はカナタが入った。
「レッド、行きます!」
「どうぞ!」
「燃え上がれファイア!レッドヒーロー!」「熱い力で、世界を、みんなを救って見せる!」
「いいね!次」
これまでの人々と同じように横に捌けたカナタは、スバルに話しかけられた。
「カナタの演技、とても迫真でよかったよ。絶対いつか僕のレベルに到達できる。これは断言できるね」
「そんなことないよ。ちょっと声裏返っちゃったし。君ならこんな些細なミスしないだろ? 本当、唯一無二の才能だよ」
「いや、素質だけはマジであるし、そもそも自分を卑下する必要なんてない。カナタにはカナタの演技の良さがある。それにみんな最初は初心者、失敗はだれもがするさ」
「だな。そう言ってもらえてありがてえっす」
**********
30分後。全員のオーディションと三人の審査が終わり、結果発表の時間がやってきた。
ピンク、グリーン、イエロー、ブルー、怪人と続々発表され、残すところレッドヒーロー役のみになった。
「そして、主演レッドヒーロー役に抜擢されたのは…ドゥルルルルルルウルル、デン!」
選ばれたのは、プロの役者でもある荒巻スバルだった
二人は壁に寄っかかって座っていた。
「クッソー、今回ばっかりはいけると思ったんだけどなー」
「残念。次の挑戦をお待ちしております」
「煽ってる?」
「煽ってない」
「まあでも、来年の「七王子市民文化コンクール」の主役は俺だからな」
カナタは自分の親指で自分の顔を差しながら言った。
ちなみに、七王子市民文化コンクールとは、毎年二月に開催される市が主催の演劇、書道、絵画、写真、楽器の演奏、歌といったものの出来を競うコンクールであり、カナタ達の通う七王子西中学校からも複数の文化部が参加している。
「お。じゃあ僕も負けないように頑張るぞ!」
そう意気込むスバルの元にカナメが来た。
「スバル君、改めて主役抜擢おめでとう」
「ありがとうございます。選ばれたからには全力でやり切って見せます!」
「それで、カナタ君は今回何やるの? 戦闘員?」
カナメが聞く
「俺は音響にまわるつもりです」
「それならあそこ」
カナメは部室の隅に置かれた机を指さした。
「あそこに裏方の人が集まってるから、そこで話を聞いておいで」
「はーいわかりました」
そう言ってカナタは立ち上がった。
「スバル、頑張れよ」
カナタはグッと親指を立て、スバルを励ますと、机の方に歩いて行った。




