闇に沈む「椿」の花は、希望の光に焦がれて。 9
『死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええぇぇぇ!』
闇雲に腕を振り回すレックス。
普通なら大したことない攻撃だが、この大きさだ。
「ぐっ……!」
『オレ様の邪魔をする奴ら全て!すべて!すべてだあああああ!』
目には狂気、一撃には怒り。そして言葉には……忘我が宿る。
もはやこいつに、考える能力と言うのはないのだろうか。
「{マグナムブレード}!」
前方に剣閃を飛ばす。
ダメージを与えられているが、やはりまだトドメには至らない。
『死ね死ね死ね~~~!』
「{アッパーブレイク}!」
高速で移動し、アッパー。確実に腹部に命中するが……
『触るなゴミがあああああああああ!』
「!?」
レックスの裏拳を何とかジャンプでかわす。
「はぁっ!」
そのまま落下と同時にかかと落とし。それの矢継ぎ早にブーメランを投げ込む。
「よし……」
『き、貴様ら……王の体を……傷付けるなあああぁぁぁ!』
瘴気ブレス。
「くっ……!」
高く跳びあがってかわすツバキ。しかし……
『このハエが!邪魔なんだよおおお!』
「!?」
そこへ丸太の様な右腕が襲い掛かる。
「きゃああ!」
ツバキは避けられるはずもなく、そのまま地面に叩きつけられた。
「ツバキ!」
「ううっ……ぐっ……!」
ツバキはギリギリ、HP1で踏みとどまっている。
「{不屈の闘志}か……」
不屈の闘志 自動スキル
【どんな攻撃を受けても、1日1度だけ戦闘不能にならずに踏みとどまる。
レベル1でHP1、レベル2で最大HPの半分、レベルMAXでHPMAXで復活。
プレイヤーキルには効果がない。発動回数が一定以上でレベルアップ】
プレイヤーキルには効果がない。
つまり、もはやこのゲームから、レックスはプレイヤーとして認知されていない……?
「た、タイガ……さん……!」
おびただしい傷。意識を保つのも辛そうだ。
『はははははははは!どうした!?もう終わりか!?』
「うっ……くっ……」
「待ってろ、今回復してやる。{ライフドロップ}!」
ライフドロップをかけるが……
「はぁっ……はぁっ……」
あまり回復しない。……実用にはレベルが足りないようだ……
『哀れな奴め……あの二つのゴミが泣いているぞぉ?」
右手人差し指を、ツバキに差す。
「あの二つの……ゴミ……?」
まさか。と言った顔をするツバキ。
『死んだ奴をゴミ扱いして何が悪い!?』
「!?」
そして再び、右手に魔力が収束し始める……
『さっきも言った通り……オレ様以外のあらゆるものはすべてゴミだあああああああああ!!』
「ツバキ!」
「……」
5本の指から、一斉にシャドウレーザーが撃ち放たれる。
そして、砂ぼこりが晴れる。
そこに、ツバキの姿はなかった。
『ははははははは……あはははははははは!!
見たか!あのゴミの顔を!希望から絶望に落ち、再び希望を得たと思ったら、
三度絶望に落ちるあの顔をなああああああ!』
「……」
『そんなに悔しいか?悲しいか?ならツバキと同じ道を辿らせてやる。
感謝しろ!歓喜しろ!そして……絶望しろおおおおお!』
そのまま右手が迫ってきて……
「……あぁ、感謝するし、歓喜してやるさ」
ズウン……!
『は……ははははははは……!はははははははは!!』
地面にめり込む右腕を見ながら、けたたましく笑うレックス。
そこに俺の姿はない……
『やはりゴミはゴミだあ!オレ様に……かなうはずがないんだああああ!
はははははははは!あ~~~っはははははははぁ~~~~~!』
部屋の中で、まるで山彦のように笑い声が反響する。
そして……
「……絶望するのは……お前の方だけどな」
『……はっ?』
「{パワースラッシュ}!」
パワースラッシュがレックスの埋まりっぱなしの右手を攻撃。
『がぎゃあああああああああ!』
たまらず手のひらを高く上げ、左手で押さえるレックス。
「……さすがに、やばかったな」
俺は体を起こし、再び長剣を構えた。
『き、き、貴様ぁ!?何故死なん!?何故……!?』
「……」
『そうだ……貴様こそ改造を使っているだろう!?そうでないとあり得ん!
この改造魔め!王の前に姿を現すな!不敬だぞ!?』
「かもな?」
あえて煽りつつ、俺は長剣を向ける。
「でもな、それをブーメランって言うんだぜ?{魔王様}」
『黙れ黙れ黙れ黙れぇ!{自分が強くなるために}改造しているオレ様と、
{他人を蹴落とそうとして}改造している貴様と、どちらが正しいかは火を見るよりも明らかだ!
言葉を取り繕って、自分の正当性を主張するなあああああ!』
もはや言っていることが無茶苦茶だ。
それほどまでにこいつは……自分のやる事に、責任を持てないのだろう。
同じこのゲームをプレイしているプレイヤーとして、恥と言える存在。
……なら、負けてやる道理もない。俺はブラックソウルを唱える。
『うおらあああああ!死ねえええええぇぇぇ!』
もはや自暴自棄になっているのか、闇雲に腕を振り回すだけのレックス。
当然。当たるはずもない。
だが、ダークネスビットやシャドウレーザーなど……
スキルの使いようによっては、こんな攻撃をしなくてもいいはず。
「なるほどな……」
俺はある結論に至った。
『死ね死ね死ね死ね死ね~~~~~~~!』
「もうお前、残りSPがないんだな?
特技をいじっちまった以上、ステータスまでいじっては怪しまれる。
だからこそ、もう唱えられる魔法も、使えるスキルもないってことか。
姑息な手段しか考えそうにないお前に、ピッタリの状態だな」
そうなれば、話は早い。
「ここだっ!」
ブーメランを投げつける。しかし、見当違いの場所に。
『ふははははははは!どこを狙っているんだ!?』
「後でわかるぜ」
『その{後}も来ないんだがなあああ!』
さらに腕を何度も振る。
「ぐっ……!」
破片が飛び散り、そのひとつひとつが俺に襲い掛かる。
いわゆる衝撃波のためダメージこそ低いものの、連続してくると厄介。
『死ねえええ!死んでしまえええ!』
なおも狂気を持って殴り続けるレックス。
「(まだだ……まだ時間を稼がねぇと……){ダークネスビット}!」
ダークネスビットを召喚。
「{マグナムブレード}!」
さらにクールタイムが終わったばかりのマグナムブレードを放つ。
威力は低い。そして……まったくひるまないレックス。
『効くわけがないだろうがあああああ!』
「!?」
そしてレックスの右腕が、ついに俺を殴り飛ばした。
「がはっ……!」
壁に埋まる俺の体。
『ふふふ、どうだ?痛いか?苦しいか?』
「……」
俺は顔を下に向ける。
『安心しろ。貴様もあのゴミのように……跡形もなく消してやる!
死ねえええええぇぇぇ!』
金切り声が轟き、握り拳を伸ばした瞬間だった。
「……行け!ツバキ!」
『!?』
「はあああああ!」
ツバキが手に持ったオーキュペテーを、レックスの背中に突き刺す。
『ぐわああああ!?き、貴様ぁ……!なぜ、生きている……!?』
「さぁな……天才なんだろ?当ててみろよ」
それに合わせ、俺も埋まった壁から抜け出す。しかも、容易に。
『な、なんだ……!?なんだ貴様らぁ!?改造に手を染めて楽しいかぁ!?
そう言ったことをしていいのは……オレ様だけだああああ!』
「あ~、悪いな。チートにはチート級で対応しようと思っただけなんだ。
お前ごときに全力で強運引いちまってよ」
突き刺さった背中のオーキュペテーに、ツバキは……
「{旋風拳}!」
旋風拳をオーキュペテーに放ち、力を込める……!
「ぐうううぅぅぅ……!うううぅぅぅ……!」
『い、痛い!?痛い!?や、やめろ!やめてくれ!?
オレ様は王だぞ!?オレ様はこの世界を牛耳る存在だぞ!?
そんなオレ様に……貴様らの様な凡人が、歯向かっていい道理など……生まれ……!』
「いっけえええええええ!!」
そして旋風拳の衝撃は、ついにレックスの背中を突き破り、
「さっき、言ってたよな、お前」
『あっ……ああぁ……や、やめてくれ!許してくれ……!
そ、そうだ!お前たちの事はオレ様が強くしてやる!
改造か!?改造した力が欲しいんだな!?な!?な!?
ツバキ!お前とも仲良くしてやるから!な!な!?』
「そんな寒い{魔王ごっこ遊び}は……」
『じゃ、じゃあオレ様の右腕として……』
「1人でさみしく……やってやがれ~!」
そして俺がデストレイルを放つ。
『あああぎゃあああああああ!?』
そしてレックスの体が、光に包まれた。
「……」
――あなたがたを信じたって……もう……遅いかもしれないのに……!
――遅くねぇ。俺たちがついてる
「……」
ツバキは、目を閉じて感傷に浸っていた。
「ツバキ……?」
「……ごめんなさい。何もないです」
光が晴れた先に、すでにボロボロのレックスがいた。
そのレックスは、悪魔の力を何も持っていない、ただの1人の男だった。
「な、な、何故だ……何故、改造まで使ったんだぞ……!?何故オレ様が負ける……?
そ、そうだ、お前たちこそ改造プレイヤーだ!オレ様は悪くない!」
レックスは大慌てで端末を操作する。
「早く来い!早くこの改造プレイヤーをつまみ出せ!早く!」
と、声を上げると……
「!?」
ツバキと同じ装備をした、フルフェイスの二人組……
「……」「……」
「よ、よく来たぞ!さすがお前らは{使える}な!
こいつらは改造プレイヤーだ!オレ様の目の前から早く消せ!」
そのまま二人組は歩いてきた後、
「……」
首の後ろのボタンを押し、フルフェイスの仮面を取る。
「……!!!」
その顔に、レックスは顔を真っ青にした。
「ここまでだよ。レックス」
「ここまでだよ。キングオブ陰キャ」
……ポラリスと、ディアナだった。
決着のはずなのですが、文字数的には少なくなってしまいました……
ツバキ長編自体はもう少しだけ続きます。




