オールオッケー!
「大丈夫、千愛姫ちゃん?」
リリアーヌ様の声に眼を開けたら、そこは…
草原が広がる世界だった。
肌に触れる少しチクリとした草に、いつの間にか、私は草原に寝かされていたことに気が付き、ゆっくり起き上がると、そこは周囲360度地平線が見える草原だった。
「…すごい。」
思わず出た声に、リリアーヌ様は頷きながら
「でしょう?ここは緑と水に恵まれた世界なの。その頂点にいるのが…」と言って、リリアーヌ様が眼を向けた先には、遠くを見ている後姿のあの男がいる。
「竜が…この世界の頂点なんだ。」
「う~ん、どう説明したらいいのかな、正確に言うと竜を祖先に持つ人間が、この世界を治めているの。」
「じゃぁ…あいつみたいに、竜と人間の二つの姿を持っているんだ。」
「う~ん、それもちょっと違うの。この世界に住む人間は、竜の姿は持っていないのよ。でも時折…生まれるのよ。王家に…。」
「ぁ、あの男…王家の人間?」
「えぇ…でもエリックが、竜になれるの知っているのは、エリックの亡くなった両親とたぶん私だけだったと思うわ。」
「えっ?…どうして?」
私の問いに答えたのは…あいつだった。
「竜の血が表に出るものは…凶暴だと言われている。殺戮を繰り返す化け物だとな。もし竜の姿を持つ者だと知られれば、封印の槍で一生檻の中か…赤ん坊の頃に殺されるかだ。」
確かにあの大きさは迫力があって、怖かったけど…。
今の姿のこいつより、竜の姿のほうが…私としては好みだったけどな。まぁ…職業柄ってのもあるかな。
でも…
竜になるのは…本人が願ったことじゃないのに、封印の槍で一生檻の中か…赤ん坊の頃に殺されるか、だなんて…
ほんの少しだけど…ほんとに、ほんの少しだけどあいつが可哀想に思えて、その運命に腹が立つ。
「バカみたいだね。大きいから凶暴と決め付けるなんてナンセンス!」
「うんうん、そう…バカみたいなのよ。」
私とリリアーヌ様のやり取りを聞いていたあいつは私達を見て
「いや…別にいいさ。あの姿を見て怖がらない人間なんて、早々いるとは思えない。だから用心していたつもりだった、だが…4日前、気づかれたんだ。いや罠に嵌ったんだ。」
あの…います。…私は好きなんだけどなぁ~。
そんなことを思っていたら、リリアーヌ様が不思議な事を言われた。
「朔の日だったの?」
朔って…月が 太陽と同じ方向にある為に、 太陽の明るさに隠れ、 月が見えない状態のことだよね。
つまり…真っ暗な夜ってことか…でもそれはどういう意味?
きょとんとして聞いている私に
「エリックは…月に一度の朔の日に、意識することなく竜になってしまうの。」
「えっ?」
「だから、幼い頃から体が弱いと言って、あまり外に出なかったんだ。朔の時だけ、外に出ないというのは不自然だろう。」
確かにそうだ。あの大きな体になってしまうし…あぁっ!
「だ、だから!あの処刑場に?」
「あぁ…朔の時はいつもあそこにいたんだ。処刑場のあんな奥まで入ってくる者はいなかったからな。だが朔の日に…わざわざ神殿の奥に置いてある封印の槍を持って、あの処刑場の奥までやってきたのは、俺が竜の姿でいることを知っていたからだとしか思えない。そして…利用された。」
「ロード殺しの犯人にね。」
あいつは地平線を見つめながら…
「あの地平線の向こうに、王宮があるんだ。わずか4日ほどだったが、もう王宮には帰ることできない。ここで、このまま朽ち果てて行くのかと思ったら…寂しかった。」
あいつはゆっくりと振り向き
「諦めが早いとお前なら、そう言って怒りそうだが…封印の槍で人の姿に戻れなくなり、魔法も使えない、体も動けない。ましてや封印の槍を抜くことが出来るのは、異世界の女だけ…そう思うだけで目の前が真っ暗だった。なぜなら、4000年近く異世界から女どころか、男も来ていないんだ。」
あいつはそう言って……私を見た。
「だが…お前が来た。それも女神を連れて…。頼む、力を貸してくれ。ロードを、兄を殺した奴を捕まえたいんだ。」
「いいわ!!」
でもそう言ったのは…私ではない…リリアーヌ様。
あいつは私を見て話していたのに…なんで?!リリアーヌ様!
リリアーヌ様はあいつの話が、余程心に響いたのだろう、鼻を啜りながら
「任せて、千愛姫ちゃんはこの女神リリアーヌが、体が弱いエリックの為に連れてきた異世界の医者ということで、オールオッケー!」
そう言って、リリアーヌ様は眼をキラキラさせ
「やるわよ!千愛姫ちゃん!犯人を捕まえるわよ!」
いや…助けないとは言わないよ、あいつが…あのちょっと上から目線の奴が、【頼む】って言ってんだもん。
でも…あの一応、私にも聞いてよ。リリアーヌ様~
…なにがオールオッケーよ(涙)
まだこの世界の事だって、わかんないのに…どうなるの~!